リーさんを探しに
リーさんを探しに
父親の暴言に嫌気をさしたのか教授の執務室から外に出ると中庭みたいな場所へと出てきた。
広い構内の結構端にある建物だが、広すぎて普通の人ならすぐに迷子になるだろう。
構内の地図も少なく一応は道の曲がり角に案内板もあるのだが。
日本のように数か国の言葉で書かれてはおらず、中国語が理解できなければこの大学に留学するのは難しいと言える。
「ここにいた」
「私の事、嫌いになりましたか?」
「なんで嫌いになると?」
「私はもう25歳を過ぎました、来月になれば26歳になります」
「そうなんだ」
「本当ならすでに婚約者がいて結婚の話が出てもおかしくない歳なのです」
「それは君の家の決め事なのかな?」
「一族の掟とも言えます」
「ならなんで君のパパは眼鏡にかなうやつを連れて来いなんて言ったんだ?」
「私の能力を試すためです」
「父親の眼鏡にかなう人間を連れてこなければ一族の恥ってやつか、前時代的な考え方だな」
「ソウスケ私の夫になってくれませんか?」
「それは無理だよ、僕はまだ学生であり後3年以上大学に通わなければならないし」
「はあ そうよね、ごめんなさい無理を言って」
【父親の考えを変えてしまえば、丸っと問題は解決するんだがな】
【それはできますが、危ない橋だと思われます】
【なんで?】
【リー様の父上は何らかの能力があると感じます】
【超能力者だって?俺には分からなかったけど】
【宗助様とはタイプが違いますが、人を服従させる能力があるのでは?】
【どうやって】
【それは分かりません】
「ここにいたのか」
「とりあえずお前の連れてきた彼は認めてやろう」
「え?」
「君、娘をよろしく頼むよ」
「ギュ」
【精神侵略を感知しました、対抗処置としてこちらも精神侵略を開始します】
【OK】
(なんだ、こいつ手が離れない)
「力くらべですか?」
「ぐぬぬ」
【侵入阻止完了、すぐ攻略開始できます】
【スキルROBO 倫理環境整備、悪癖排除、後は任せた】
【かしこまりました3・2・1】
(力が抜ける)
まさか接触型の精神侵略攻撃を受けるとは思わなかったが、前にリーさんを調べた時には父親からの精神誘導らしき跡が無かった。
もしかしたら彼にはそこまで強引に家族を支配する意志は無いのだろう、だが娘と付き合う男をそのまま放って置くことなどはできないとでも思ったのか。
宗助に対して無意識に能力を発動させたのかもしれない。。
「バタン」
「おっと」
「お父様!」
この国の上層部にいる人間は幼いころから帝王学のようなものを徹底的に叩き込まれる。
弱い部分は全部排除され、人間を2つに分類するよう教育されるらしい。
敵と味方、もしくは同等か下か、人はすべからく支配者と労働者に分かれていると。
為政者たちは自分の子供や孫にそう教え込む。
自分の娘であっても同じこと、父と同じ地位に登れなければ、その支配からは逃れられない。
取り敢えずリーさんの父上には俺の事を良い奴だという感情を植え付けさせてもらうことにした。
そうすれば面倒な攻撃を受けることもリーさんが悩むことも少なくなるだろう。
【接触タイプの精神侵略能力者か、無自覚っぽいな】
【さすがです、宗助様には勝てなかったようですね】
【勝ち負けはあまり気にしてないんだが…】
「ん・・ここは」
「お父様大丈夫ですか?」
(そういえば娘の彼氏とか、なかなかいい奴だな)
「ああ、疲れがたまっていたのかもしれんな」
「お仕事大変そうですね」
「気にいったよ、娘の見る目に間違いは無かったようだ」
「え」
「彼に嫌われないように、な」
「分かったわ パパ」
【ん なんかまずくないか?】
【結果はどうしてもこうなります】
【確かにこれは仕方ないことか…でもこれで中国の上層部のうち一人は味方につけたようなもの】
【あと4人います】
【それはまた後で考えよう】
「今度うちにも寄ると良い、君なら歓迎するよ」
「ありがとうございます」
理学部の駐車スペースに停めてあったCMVを起動させ、秘書らしき人物と乗り込んだリーさんの父上。
スキルROBOで植え込んだのは宗助に対する好感度UPと倫理環境整備スキル。
脳内の汚れや害をなす思考を綺麗に掃除してくれる、これにより間違った考え方や、ため込んだストレスがなくなり正しい物事の判断ができるようになる。
そしてさらにもう一つのスキル(性格修正の種)を植え込んだ、この場合父親の悪癖である人を試す性質や全てを自分の支配下に置きたがる癖などを自然に修正することができる。
なぜ相手の悪癖を丸ごと消してしまわないのか、それは悪癖自体がその人間の基本となっている場合があるからに他ならない。
それを丸ごと消してしまうと無気力な廃人になってしまう可能性もあり得る。
いくら宗助でもリーさんの父親を廃人にするわけにはいかないし、できればうまくこの国をより良い国にしてもらう役割を担ってほしい。
【これでリーさんに面倒な命令もしてこないようになるかな】
【そうなると宗助様も年貢の納め時となりますが】
【なんでそうなる?】
【性質がよりマイルドになり、リー様が宗助様と親しくなるためのハードルが低くなります】
【たしかに…】
【もう遅いです】
【うーん】
「どうしましたか?」
「なんでもない」
「それじゃカク教授に挨拶してからコウ教授とお話ししましょう」
どうやら今日は大学で一夜を明かすことになりそうだが、その間に日本では着々と亡命者の進路決定が進んでいた。




