リーさんの父上
リーさんの父上
この日は電子工学科の研究室を見て回り、明日は別の学科を見る予定。
興味のある研究には他の学生も身振り手振りで言葉を交わし、簡単な中国語ぐらいは分かるようになっていた。
「それでは今日の見学はここまで、明日は別の学部へ行き他の研究も見てみよう」高坂
「はい」
二日目は午後3時に切り上げ、後はホテルに戻って各自の研究をまとめる時間に使うことになった。
情報量が多すぎてまとめるのが難しいが、同じ研究を志す者達との交流はなかなか意義のあることだと思う。
「俺達はホテルに戻って少し外も見学するがロホウはどうする?」矢田部
「俺はリーさんに呼ばれている、コー教授も話したいって言ってたからもう少しここに残るよ」
「分かった」
「なんだロホウ来ないのか、じゃあ通訳頼めないな」
「アプリつかえば問題ないだろ」
「そうだな」
スマホがあればすぐに通訳が可能になる、宗助にはそのアプリが頭の中にあるというだけの違いだが。
どうやら他の学生はベジュンの町を見学する予定らしい。
「ソウスケ行きましょ」リー
(会わせたい人って、親?)
「…」
彼女の後についていくと、立ち入り禁止の札がかかった場所があった。
「ソウスケ何を見てるの?」
「この先は?」
「取り壊し予定の校舎ですね」
(上からはそう聞いたけど、そうとしか聞いてないし…)
(そういう触れ込みか…)
「なんか焦げ臭くない?」
「そうね、でも取り壊すってことだから実験で損傷した可能性もあるわよね」
リーさんは本当の事を知らないのだろう、この国ではすでに超能力の研究を進めているという事を。
「ついたわ」
「ここは?」
「理化学研究棟よ」
「なんでここに?」
「私の父が来ているから」
まさかここで紹介するとか辞めて欲しいのだが、どうやらリーさんは今日が大事な日だとでも言いたそうだ。
何も聞かずについてきたが、逃げるという選択肢はなさそうだ。
【まじかよ】
【宗助様何事も経験です】
理学部の研究棟そこにはリーさんの父である李宗完、この国の支配層TOP5に入る人物が待っているという。
この建物だけなぜか新しく、ここ数年以内に建てられたという事が分かる。
入口のエントランスはどこかのホテル並みに広く、中にいる学生の姿だけがここは大学なのだという事を思い起こさせる。
リーさんの後についていくとそこには2人の男性が話をしている最中だった。
「次の製品はこのパッケージを使用するんだな」
「そうだ、中には特殊なフレグランスと最新の機能を持たせたボトルが必要になる」
「なるほど、開発費用は?」
「こちらで全部持つ」
「分かった、出来たらすぐ知らせるとしよう」
「お父様」
「おー来たか我が娘」
「謝恩久しぶりだね」郭戒卦教授
「教授もお久しぶりです」
「そちらがそうか?」
「ええ私の愛しい方です」
「とうとう見つけてきたのか」
(なんだか話が早すぎないか?)
「見つけてきたら連れてこいとおっしゃられましたよね」
「確かに言ったが、本当にこの男で良いのか?」
「ええ」
「君、私の娘とどこまで行った?」
(日本人か、少し気に入らないが外見はよさそうだな)
「手を触れるところまでですかね」
(遠慮が無いというか、いいのかこれ?)
「なんだ、まだそんなところで足踏みをしてるのか、私の若いころは即日だったぞ」
「お父様、彼には他にも沢山女性がいます、私はその中のひとりですわ」
「なんだと!」
勝手に話を進めないで欲しいのだが、どうやらリーさんの父上は若いころかなり遊んでいたようだ。
「それで君は何人と経験したのだ?」
「いいえ経験はしていませんよ」
(マジで遠慮が無いな)
「何と、まさか童貞か?」
【リリーさんぶっ飛ばしていいかな】
【後が面倒になりますが、宗助様に同情します】
「ご想像にお任せします」
「うちの娘もまだ処女だ、よかったな」
「な なんてこと言うのよ、大嫌い!」
「パシン!」
(ナイスアクション、俺がやるところだった)
「あ」
「タタタ バタン!」
リーさんは父親の頬をひっぱたくと部屋の外へと出てしまった。
好きな人の目の前で経験したかどうかなどと言うことを家族に言われたら、いたたまれなくなるのは当たり前だが。
リーさんと付き合うとこの父親が問題になって来るのだという事だけはっきりと認識できた。
「いてて、本当のことを言ったまでなのだがな、男に好かれるのなら自分の良い部分は率先してアピールするのが当たり前だ」
「僕はそれが全て正しいとは思いませんが」
「君はそんなことだから経験できないでいるのだろう」
「それは人それぞれだと思います」
(なかなか言うな、わたしに反論する若者は久しぶりだ)
「李大人」
「あ すまんな 変なところを見られてしまったかワハハ」
「ロホウ君すまないね、シャオンを頼むよ」郭教授
(まったくこの男は自分の娘に容赦ないな)
はっきり言って厄介な大人ではないだろうか、まあそれでも生存競争の激しいこの国で子供を二人育て上げたのだ。
それは尊敬に値するが、リーさんがなぜ中国を離れ海外で行動しているのか。
この父親を見ているとなんとなくその理由が分かってきた。
口を開かなければ立派な大人にしか見えない父親、外見的にはナイスダンディと言っても過言ではないのだが。
ひとたび口を開けばずけずけと思ったことを口に出す、それを止める人間は殆どいなかったのだろう。




