実践
実践
宗助がスキルを付与するためには一度猛君をROBO化してデータを全部見なければいけない。
どんなスキルでも付与することが可能と言うわけではない、スキルを付与することで元々あった大事なデータに悪影響が出てしまう場合もあるからだ。
「手を出してくれるかな」
「手ですか?」
(毛が…恥ずかしいんだけどな)
「こうですか?」
これから冬になるので長袖のジャケットはさほど問題は無いが、夏場は大変だったのではなかろうか。
恥ずかしそうに差し出された手の甲にはどう考えても尋常ではないほどの体毛が見える。
その手は毛深いというより類人猿の手ではないかと思うぐらいに毛深く、そして爪もかなり鋭かった。
「今から僕の力で君の能力を読み取るから、静かに落ち着いて目を閉じて」
「はい」
【スキルROBO】
彼の脳内にあるデータは一部を除いてほぼ普通と言って良い、特殊なのは2つのファイルに分けられる。
一つは獣化能力(狼)遺伝子のどこが獣化に適していたのかまでは分からないが。
一度獣化してしまうとほぼ一日中変身したままになってしまうらしい。
これでは学校に行けなくなってしまうのも仕方がない。
「おにい、どんな感じ?」
「今彼のデータを調べてる」
【人化のスキルと競合するデメリットは無さそうです、あるのは時間制限だけの様です】
【そのぐらいなら付与しても大丈夫そうだな】
獣人化は変身に対しての起動条件が欲情となっている、さすがにこの年代だけあって変身してしまうのは仕方がない。
その代わり丸一日狼人間になったままとは、多分今のままだとほぼずっと変身は解けないと言って良い。
人化のスキルを付与して強制的に獣人化を制御したとして、その後彼がどうなるのかはやってみなければわからないが。
【付与した場合融合する可能性は?】
【30%です】
【同じ変身能力同士は融合しやすい】
融合とは同じような変身応力がいくつもある場合、時間制限やエネルギー消費と言った部分でお互いに競合することで他の条件を別な条件へと変化させることを言う。
元々超能力には使用条件や使用回数などと言った後発的な努力によってバージョンアップがあると考えられる。
宗助もそうやってスキルロボで、様々な変化をもたらす仮想機器を作り出してきたのだから。
ちなみに能力はデータとして保持する分には発動しないよう鍵(封印)を掛けることが可能。
まあそんな便利な能力を持つのは今の所、宗助とラケイスに限られているが。
ラケイスも100以上のスキル持ちだ、それぞれの能力が干渉しないようにできる力。
それを可能にするスキルが封印能力であり、自動発動的な能力といったそのままでは不都合な力には鍵をかけておかないとまともに生活などできなくなってしまう。
【案ずるより産むがやすしか…】
【大丈夫ですよ、もしダメな場合は封印することも可能ですし】
【でもその場合野生の勘から派生した読心の力も封印になってしまうんじゃないか?】
【それは後で彼に聞いて判断すればよろしいのでは?】
【確かにそうだな…】
【よし付与開始!】
【対象、保坂猛、付与能力人化スキル…】
取り敢えず付与して様子を見るしかない、制御できるようになればそれでよし。
ダメならば封印してしまえばよいだけだ。
【完了です】
【では封印解除】
「うーん」
「覚めたかな」
「どう?」愛菜
「その前にハンバーガーを食べてみて」
「はい」
彼の獣人化は外見の見た目にとどまっているのが救いだ、中には骨格や大きさまで変化する場合もあり得る。
「食べました」
「心の中で念じて、人になりたいって」
「はい」
(人になりたい!)
「シュシュシュ」
面白いことに毛や爪が見る見るうちに無くなっていく、消し去るわけではなくまるで時間が逆戻りするように皮膚の中へと戻っていくようだ。
「手が、やった俺の顔は?」
サングラスとマスクを取り愛菜の方を向くと、そこにはかわいらしい顔をした男の子がいた。
「うん元に戻ってるよ、よかったね」
「ありがとう、アイに相談して良かった!」
「その代わりこれからは常に何かを食べておかないといけないよ」
「そうなんですか?」
「始めにハンバーガー食べて500kカロリー、要するに人化の能力を発現させるのに必要なエネルギーな」
「それでか」
「そのままだと2時間で元に戻る」
「どうすれば?」
「2時間おきにおにぎり1個か健康バー1本、要するに200kカロリーを消費するってことな」
「食べ置きは?」
「そこんとこは自分で研究するしかないよ」
「そうですね色々やってみます」
「良かったね」
「ああこれでようやく学校に行けるよ」
どうやらうまくいったようだ、だが安心するのはまだ早い。
宗助のように超能力を制御できるような力は無いのだから、できれば自分の力で獣化を制御できるように努力した方が良い。
もし彼が競技の最中に獣化したのなら、当然だが今のままではエネルギーを消費する人化のスキルを使用することになる。
競技中に食事をしても構わない一部のスポーツならよいのだが。
ちなみにサッカーの最中に取れるのは水と栄養食ぐらい、ガッツり食べる人など見たことが無い。
チームメイトにそれを容認してもらわなければならないのだ、運動の最中という事はせっかく手に入れたエネルギーもあっという間に減ってしまうのだからね。




