木下家
木下家
食事が済み俺と木下さんは昨日話した通り彼女の着替えその他を手に入れるため、借金取りがいるであろう彼女の家へ向かうことにした。
やはり彼女の家は同じ市内であり内のマンションから1kという距離に住んでいることが分かった。
「それじゃカギは一応あるんだね」
「うん、カギとスマホだけは持ってきた」
「そうすると勉強道具一式と着替えだな」
「そうちゃん、これ」
「母さん」
「昨日買っておいたのよ」
そこには旅行バッグが2つそれもかなり大きい、そしてデイバッグも。
「これ使っちゃっていいの?」
「いいわよそのために用意したんだから」
もともとは買い物用に買ったものではあるが、LLサイズの旅行鞄2個はかなりの容量を詰め込める、さらにデイバッグもあれば彼女の着物をすべて入れ込むことができるだろう。
「ありがとう、それじゃ行こうか」
そういうと俺と木下さんはそれぞれに旅行鞄とデイバックを背負い、まるでこれから2人で旅行へ行くような格好でマンションを出ることになった。
「やはり少し細工をしておいたほうがいいかな」
【宗助様、ここから認識疎外機能は使用されたほうがよろしいかと思います】
【そうだよな了解、俺と木下さんに認識疎外機能発動】
【3・2・1認識疎外機能発動しました】
約1kの道のりだが車や歩く人のいない道路を検索しながら、進むこと15分。
彼女の住んでいるのは一軒家だが、そこにはやはり借金取りの姿が。
家の前の通りから少し離れた軒の影で一度作戦を練ることにした。
認識疎外機能を発動しているので2人の姿は全くと言っていいほど彼らには分からないはずなのだが、音は当然聞こえるし家のドアなども開けば気付かれてしまう。
「それじゃ作戦を練ろう、まずは家の前までは見張りのすきを狙って玄関まで行くこと」
「このまま行って大丈夫なの?」
「一応認識疎外のマジックを使うから大丈夫だよ、でもタイミングは必要かな」
見たところ見張りは1名、だが赤外線探知機能を使用して索敵してみると家の中にもう一人いることがわかる。
完全に不法侵入なのだが…
ならばとる道は一つ、おまわりさんにご登場願おう。
「今から警察を呼んで不法侵入者を取り締まってもらうことにしよう」
これで中にいる奴は逃げ出す可能性もあるが、家からは邪魔者が排除できる。
スマホから木下さんに連絡してもらう、女性の声のほうが警察も取り合ってくれやすい。
数分後パトカーと警察官が2名やってくる、だが外で見張りをしていた男の連絡により家の中にいた仲間は難を逃れ彼女の家から遠ざかる。
そのすきを見計らって、当初玄関からカギで入るはずのところ借金取りが外へ出た時使用した窓を使い中へと入ることにした。
そしてその隙に認識疎外機能を解き、中から彼女に警察の対応をしてもらう。
「木下さん木下さん警察です」
「はい、ああありがとうございます」
「不審者の顔は見ましたか?」
「黒っぽい服を着て、サングラスをかけていました」
木下さんが玄関を開け警察に事の顛末を説明する。
その間俺は彼女の机から勉強道具一式をリュックに詰め、さらに彼女の部屋のタンスから、彼女の服をどんどんバッグに詰めていく。
どうやら警察官はこのあたり一帯をすぐに見回ってくれるらしい、そうなれば彼らも相手をするのを避けるため一度事務所へと戻る可能性が高い。
「はいお願いします」
「では本官はこの辺りを見回りますのでしっかりカギを掛けておいてください」
そこへ自転車のおまわりさんもやってきて、結果的に借金取りはその日一日、木下家に近づくことができなくなった。
「やりましたね呂方くん」
「まあこのぐらいはね」
「でもなんで私たちが入る時、気づかなかったのかな?」
「だからタイミングが必要だって言ったでしょ」
「でもささっきマジックって言ってたよね」
光学迷彩も認識疎外もロボ機能の一つだが、これらは少し違う光学迷彩は光の屈折を利用した視覚疎外だが、認識疎外は自分たちの姿を薄い靄で覆いそこに人はいるが誰だかわからないようにする機能だ。
「少しね、例えばこんな具合」
そう言って少し機能を作動する。
「え?」
「どうわからなくなったでしょ」
言葉を発するとすぐに姿がはっきりとする。
「どうやったの?」
「秘密」
「え~けち~」
「あはは」
それからは必要な荷物を全てカバンに詰め込むと、認識疎外機能を使い開けられていた窓から俺たち2人は彼女の家を後にした。
もちろん家から数百メートル離れて、警察官もいない場所を探しながら歩き帰路に就いた。
「こんなにうまくいくなんて、呂方君ありがとう」
「大したことは無いよ」
「でもこれでお父さんの遺品も持ってこれたし」
「お葬式はまだなんだよね」
「うん、遺体は今安置場にあるからそこにも連絡しないといけない」
「そうすると今日はそれらへの連絡を済ませちゃおう」
「でもどうしよう、葬式をすれば必ず借金取りが来るよね」
「だからその時ちゃんと弁護士をつけてもらうようにするよ」
「そんな事まで頼んじゃって良いの?」
「またそれを聞くんだね、困っている人がいて助けることができるんだから、そうするだけでしょ」
「呂方君ずるいな~」
「なにが?」
「何でもない」
マンションに戻ると、母はすでに弁護士事務所へと連絡をしていてくれて、その日打合せをすることになった。




