久しぶりのイリア
久しぶりのイリア
ここはギロッポン(六本木)から徒歩数分の場所にあるおしゃれなカフェ。
その向かいには有名なブティックが何軒か見える。
「ピンポーン」
「いらっしゃいませ」
「待ち合わせなんだけど」
「ハイこちらへどうぞ」
おしゃれな店内、環境音楽のような音が流れコーヒーの香りが漂っている。
店の中に入っていくとテーブルの上にタブレットPCを置き、盛んに指を動かしているイリアさんが見えた。
周りには女性客の姿が多いが、その中でもイリアさんはさすがに目立っていた。
「あ、ここよ」
「お久しぶりです」
俺が返事をすると一斉に周りのお客たちが俺を見る。
「目立ちますね」
「美男美女だからね」
「自画自賛ですか」
「違ったかしら」
「否定はしないです」
(一応面倒だから話を合わせておこう)
「向かいに座って」
「企画書ですか?」
「男性化粧品なんて初めてだからね」
「そういえばそうでしたね」
「貴方を起用することに決めたから」
「僕の同意を取らずにですか?」
「おばあ様に言われたのよ、宗助ちゃんは押しに弱いから何とかなるわよって」
「それはどういう意味で?」
「仕事でってことよね」
(そういうことではないと思うのだが)
「そんなに難しい事頼まないわ、少しポーズを取ってくれれば済むことだし」
「撮影はいつ頃?」
「決まれば明日にでも」
(さすが直ぐやる課)
「ところでアイリーンとエミリアを起用したコマーシャル見ましたよ」
「どうだった?」
「かわいさが出ていて若い女の子は欲しがるでしょうね」
「でしょでしょ」
「それじゃお話はこれで」
「え、もう帰るの?」
「仕事の話は終わったのでは?」
「目の前にこんな良い女がいるのに、寂しいこと言わないでよ」
何が言いたいのかは大体わかる、多分この場所は詩音さんに見張られているはずなのだ。
松田財閥の力を持ってすれば孫を見張ることなどたやすい、変な虫がつかないようにいつも目を光らせていたりするのはソウスケも知っている。
だが相手が宗助となれば詩音さんも大賛成でくっつけたいと思っていたりする、あっという間に話が終了し何もなければ後で何を言われるのかは想像がつく。
「何か欲しい物はない?」
「特にないですよ」
(残念、でもそこは分かっていることよ)
「そうなの?それじゃあ私の買い物に付き合ってもらえないかしら」
(そう来たか)
確かに周りにはそういう店もいくつかあるし、有名な宝石店まであるのだから男性を伴って入りたいとでも思っているのだろう。
別にそんなことはどうでもいいのだが、あまり松田財閥を邪険に扱っても良いことなど無いと分かっている。
いくらお金には困っていなくとも、普段の生活には金以外に必要なこともたくさんあるのだ。
「分かりました、でも1時間ですよ」
「やった」
嬉しそうに喜ぶイリアさん、27歳独身仕事が恋人である残念な人。
カフェの清算を済ませると、先に立って歩き始める。
「最近どう?」
「普通ですよ」
「つまらない答えね」
「イリアさんこそ仕事ばかりでどうですか?」
「旅行に行きたい!」
「ついに我慢できなくなった感じですか?」
「そろそろやばいのよ、息抜きしたいでも仕事が…」
「どこかに行けば?」
「宗助君は?」
「宇宙旅行で忙しいので」
「ねえ、連れて行って」
「やめた方が良いですよ」
「なんで?」
「現実を知ると今の仕事があほらしくなりますから」
「どういう意味?」
惑星RIZのメディカルポッドを知れば化粧や整形などと言う物がいかに無駄かということがわかる。
地球ではそれが唯一の手段だとしても宇宙では機械一つで体の何処でも、好きなように安全に美しく丈夫に変えることが可能なのだ。
行けば絶対手に入れたいと思うだろう、そういった器械が山ほどあったりするのだから。
まあライズ族達の生活は現在、地球の様式によって少し変化しているから、イリアさんを連れていくと面白い化学変化が生まれそうな気もしなくはない。
だが下手に彼女をたきつけて自分自身の首を絞めることになるのはできるだけ避けたい。
「それじゃこの店に入りましょう」
そういうと俺の腕を取り体を寄せて来る。
いやいや別に恋人でも何でもないのだが、それは勘違いされてしまうだろう。
【88%です】リリー
【おれはそういうつもりないから】
【年上の女性はお嫌いですか?】
【そうじゃなくて、普通に恋愛したいだけだよ】
【データではこちらの女性とのお付き合いも普通の範囲に入りますが】
【そうか 確かにね…】
そこから1時間買い物に付き合う羽目になり、お礼として高価な時計をプレゼントされた。




