布団の中
布団の中
「何が?」
「ううん なんでもないおやすみなさい」
というより一緒のベッドなんてさすがに恥ずかしすぎる、できれば先に寝て欲しい。
こうしている間も彼女の横に入っても良いものなのか。
【リリー】
【どうしました?】
【こういうときに17歳の少年はどうしたら良いと思う?】
【宗助様79%の割合で木下様は宗助様を受け入れます、これはS○Xを受け入れたと言う事ではなく軽い接触を受け入れたと言う事です、試しにやってみますか?】
【いや それは…】
【宗助様知識だけでは補えない事もあります、経験も必要です、木下様は受け入れてくださると信じますが】
【有難う、分かったよ】
【まずは彼女が眠ったかどうか確かめよう】
あれから10分以上が過ぎ彼女の体を覆う布団はゆっくりと上下するぐらいで大きな変化は無い。
狸寝入りしていた場合、まだ俺は布団の中には入れない気がする。
【呼吸数お呼び心拍数の測定、睡眠値・ノンレム、レム睡眠の確認】
【測定完了木の下様は現在軽い睡眠状態です】
【そうか…】
俺は意を決して布団の端から自分の体を徐々に入れていく、その中はいつも一人で寝るときとは違い、最初から体温に近い暖かさが包み込んでくる。
【大丈夫そうだな】
「ありがとう」
(うっ!)
寝ているといったリリーはこの時嘘を付いていた、人工知能とは言え俺の脳みそと直結している為、俺の心の代弁者でもある。
良い事と悪いことを判別する為には意思を決定する2つの心がバランスを取ら無ければならない、今の状態は俺の心がニュートラルでリリーがそのつど良い方向を選択してくれていたのだが、今回は悪い方の選択を進めてきたのだ。
悪い方と言ってもこれは俺の心の願望だろう、好意のある女性に触れてみたいと思うのはこの年頃ならば当然持っている欲望だ。
下手をするとその先へと経験をしていく子も居るのだから。
「寝ていたんじゃないの?」
「少しね」
そう言うと彼女の横に顔を反対にむけて寝ていた俺の背中に暖かいものが押し当てられてくる。
それは彼女の手であり顔でありそして体のどこか、それを確認する為の俺のセンサーはこの時オーバーフロー状態に陥った。
「あったかい」
「そ そうだね、生きているからね」
「ごめんね、お邪魔だったよね」
「いやそんな事考えている余裕が今の俺には無いみたいだ」
「面白い事言うのね宗助君」
「お 面白い?」
「だって、こんな風にしたの君でしょ」
「いや強いて言えば俺の母だし」
「いい人よねお母さん、私にはあまり母の記憶が無いからうらやましい、私も宗助君のお母さんのような母が居たら…」
「ごめん、思い出させちゃったみたいだね」
「ううん 私の母は私が生まれて直ぐに亡くなったの、癌で」
「…」
掛ける言葉も無い、テレビや新聞ではそう言う話を人事のように聞いていたが、目の前にそんな不幸を背負って生きている人がいるなんて考えた事すらなかった。
「だから私 生きたい両親の分まで」
その瞬間俺は寝返りを打つと彼女の顔を自分の胸に引き込んだ、そして優しく頭をなでる。
そのぬくもりは今まで感じたことの無かったものだ。
「分かった僕が手伝うよ、任せて」
「あ り が と…」泣く
最後は言葉にならない声が布団の中から漏れ彼女はその後声を殺しながら俺の胸に抱かれ泣き続けた、その後数分が経ちいつの間にか彼女は泣きつかれ安心したのか眠りについていた。
だが俺は彼女を抱きしめたまま凍りついた、この後どうすれば良いのかと。
一応寝る事はできたが、それは半分だけで誰かを抱きしめながらと言うシチュエーションが自分にどういうマイナスやプラスのエネルギーを与えるのかが未知数の為、体もそうだが脳内ストレージも再起動やエラーの嵐、動こうにも一々確かめるような形。
そして俺は半ば諦めた、この体と心を制御するのを、制御と言っても何もしない事にしただけで、欲望に任せたわけじゃない。




