大陸間転送実験その1
大陸間転送実験その1
その日、どうしても抜けられない実験が行われる。
いよいよ地球での最長距離である大陸間転送実験、今回の実験によって日本からUSAへと転送されるのは生身の人間である。
既に必要な電力は確保されている、先月出来上がった超効率発電システム。
太陽光と特殊なガスを燃焼して発電するハイブリッドシステムは従来の可燃ガス燃焼方式の5分の1と言う低コストでありながら、CO2の発生は10分の1であり。
小型でありながら発電量は原子力発電システムで得られる発電量の倍と言うものだ。
「皆さま大変お待たせいたしました、これより大陸間転送実健を行います」
既に数回の転送実験は済んでおり、もちろん生体での実験である。
安全装置の稼働もすでに確認済み、電力量が足りないと転送しない仕組みになっている。
それが無いと場所を指定してもどこに飛ばされるかわからないという。
「このたび実験に参加してUSAへとビザなしで転送されるのはこちらの二名」
「宇宙防衛隊、二等陸曹 石神祐樹です」
「同じく宇宙防衛隊、三等陸曹 遠山賢吾です」
「実験は相互に行われます、午前と午後に分けて計4回」
「分けるのはどうしてでしょうか?」TK新聞社報道担当
「1回の転送実験でかかる電力は2つの町が1日で消費する電力量に相当します」
「それはどういうことでしょう」NET放送報道局
「新しく導入した発電システムでも1回転送すると、次の転送に必要な電力を溜めるために3時間以上の時間が必要となります」
「そんなので通常輸送に使えるのか?」
「まあまあ、まだ実験の段階ですここがスタートだと言って良いでしょう」
「要するにようやく自動車という物がこの世に出た時代のようなものか…」
「内燃機関の歴史を見れば、今回の転送実験自体が夢物語だったのです、それが現実化したのですから」
「自衛隊が参加するのはどうしてですか?」
「今回の実験が成功すれば彼ら宇宙防衛隊は宇宙人の住む星へと行くことになるからです」
「そういうことか、だが本当に何千光年も離れた星へ行けるのですか?」
「それは宇宙人の戦艦が我々のいる地球へ来たという事実が証明しています」
(そろそろ始めよう)
「ではそろそろ転送実験を始めます、皆様はこの場でお待ちください」
いつの間にか転送機械は2つに増えている、一つは発送側でありもう一つは受送側。
物体転送にはいくつかのルールがある。
同じ場所に2個所から同時には転送できないということと、同じく1か所から2か所以上へ同時に転送はできないという事。
同じ質量と同じ大きさが受送側でも設定されているので、その数値が違ってしまうと、荷物に欠損が生じてしまったり。
転送する物質によっては変質してしまう事もあり得る。
惑星RIZでは送る側と受け側に分けてはいなかったが、地球ではこちらの方が確実に転送できるという話だ。
今回の実験はUSA側と日本側で同時にモニタリングしており、最初の発送は日本側からUSAへ。
そしてUSA側から日本へと転送の実験が行われる。
USA側はMS工科大の研究員が参加している、アンジェラは向こうのモニターでデータを取る係だ。
多分リリアンかリオールズが転送されてくるかもしれない、自分たちの作成した転送装置を試さない研究者はいないだろう。
「宗助、久しぶりね」
「リーさん」
「聞いたわ、あなた能力者ですってね」
「その話は誰から?」
「それは秘密よ、それより紹介したい人がいるの」
「初めましてファンチョーコクです、中国の科学公司の責任者をしています、よろしく」
高そうなスーツを着ている割にはその笑みは柔らかそうだ、だがこの人物こそ日本においてESP部隊を操り情報戦を仕掛けている張本人、次期副総裁とも噂されている人物だ。
「こちらこそ初めまして、いつこちらに?」
「二日前かな、何度か日本へは来ているし、私は日本の大学に留学していたこともあるんだよ」
「そうなんですか」
【25歳から4年間KT大学院に在籍していたようです】
【そうするとまだ52歳か】
【CNの官僚出身者です、USAでは4年間大使の経験もあります】
【そうなんだ】
「宗助君だったね、君の意見を聞きたいのだが、この実験で本当に宇宙へ行けると思うかね」
「いけますよ、ここだけの話ですがUSAではもう10回以上成功させていると聞きます」
「10回?5回ぐらいと聞いているが」
「あのUSAが5回で成功だと言いますか?」
(あの発表は一部フェイクか、なるほど いやこの若者の話の方が嘘かも知れない)
「僕の話を疑っていますか?」
「少しね」
「今日の実験が全部成功すれば真実だとわかるでしょう」
「ええ、何度も成功していなければ人体実験をすることも無いですわ」リー
「その通りです、USA側では惑星の座標データも所持しているので、宇宙人とコンタクトを取ったというのもまるきり嘘だとはいえないと思います」
「そういえば君は事故や事件に巻き込まれることが多いようだね、いろいろとリー君から聞いているよ」
「えーとそれは?」
「それでは始めます、手元にあるゴーグルを装着してください」
「始まるみたいですよ」
「これです、着けましょう」
まあ疑うことは分かるが、日本人のビジネスマンを除く民間人はほぼ嘘などつかないと言って良い。
教育の違いだろうか、日本では嘘は泥棒の始まりと言うことわざがある。
他にも嘘をつけばどうなるのかと言うことわざや、昔話をたくさん聞いて育っていくのだ。
親も先生もその生き方を奨励するのだから、外の人間がそういう教育をどう思っているのかは知らないが日本人として誇れる部分ではないだろうか。




