気に入られてしまった
気に入られてしまった
時間帯が少し早かったのか、エミリアちゃんの登校時間にはちょうど良かったみたいだが。
その時間帯はややピーク時ということもあり込み合っていた。
『発車しま~す』
「シュー」
「ガタン」
なぜか俺の目の前にリーさんがいる、そしてなぜか後ろに百合ちゃん。
アイリーン兄弟は少し離れた場所で向き合っている、間にはおじさん数人が入っているため。
何があっても様子は見えない。
しかもエミリアちゃんの目の前に父がいる。
「日本の電車は正確だけど、こういうところは良くないですね…」
「そうですね」
【宗ちゃん】
【どうした?】
【痴漢かも…】
【百合ちゃんの方?】
【ううん、違うわ、目の前よ】
目の前にいるリーさんの顔がゆがむ、何かをよけるようなしぐさ。
そのたびに俺の方へと体を寄せてくるので、後ろで見ていた百合ちゃんは少し怒り気味。
そしてなぜそんな行動をとるのかと、俺の後ろから見ていた百合ちゃんが俺より早く気が付いた。
よく見ると顔一つ低いおじさんというにはまだ若そうな男性がリーさんの真後ろにへばりついている。
耐えられなくなったリーさんが小声で助けを求めてきた。
(た たすけて)
(わかった)
さすがのリーさんもこの状態では身をよじることぐらいしかできそうもない。
彼女のお尻には痴漢の手がうごめいている。
だが、この状態を回避するのはなかなか難しい。
(僕につかまって)
(はい)
彼女の細い腕が俺の背中へと徐々に回っていく、できるだけ密着してから体の周りに重力制御装置を使用して一瞬斥力を発生させる、同時に回転すれば楽に体を入れ替えられる。
ここでは仮想転移装置は使えない、曲線や直線が細かくまじりあった座標を計算する間に彼女を助けることができなくなる。
ならばどうするか?
「よいしょ!」
「クルン」
【スキルロボ】
【痴漢歴1年、佐藤公人27歳 公務員か…】
【粛清しますか?】
【データ改ざんで二度と痴漢ができないようにやっちゃって】
【かしこまりました】
「うわ!」
体を入れ替えたと同時に俺の真後ろになった痴漢男にスキルロボで一瞬眠ってもらう。
そして瞬時にデータを抜き取り改ざんして元に戻すと…
そりゃびっくりするだろう目の前が一瞬暗くなったと思ったらいつの間にか俺の背中が見えており。
そして俺のお尻を執拗に撫でている、そして自分の股間をあてがっているのだ。
「そういう趣味か?佐藤公人」
「え!」
「ププ」百合奈
名前を呼んでやった、少し小声だが周りの数人には聞こえるような音量だ。
満員電車での痴漢証明は難しい、ほとんどの場合その行為を見ていた友人や男性が味方にいることで立件が可能となる場合が多い、女の子一人で痴漢を警察へ突き出すのは難しいだろう。
ちょうど駅に到着したところで痴漢はあわてて走り去っていった。
「もう大丈夫ですが」
「え?」
なぜか俺に抱き着いたまま離れないリーさん。
CNの中枢を担う権力者のご令嬢、昨晩調べたときに分かった事、彼女 CNでは電車になど乗ったことがないらしい。
移動は飛行機か車か、タクシーもめったに使わない。
日本では電車で通うのが当たり前だが、いつもはこの時間の電車など乗ったことはない。
それは座れないからと、日本の込み合う電車などに乗る勇気がなかったからだ。
「ごめんなさい」
「謝らなくてもよいですが、僕も男の子なので」
(へ~お父様とはまた違う感じなのね、好きになりそう)
「あ そうなんだ、私はあなたのような人、好きですよ」
「ありがとうございます」
「うふふ」
【宗ちゃん】
【仕方ないと思うのだが】
【あとで私も】
【私も何?】
【もう】
たまたま百合ちゃんの後ろは女性であり、エミリアちゃんの近くには学生が多かった。
大人の女性がこんな時顔を真っ赤にするのは、なかなか新鮮だったりする。
だがこれは少しやりすぎだったようだ。




