逃走劇
逃走劇
敵の数は全部で11人、待ち伏せていた敵はロケット砲まで用意していた、待ち伏せ計画はかなり前からされていたようだ。
追手の乗る車は2台、そこから出て来た工作員は5名。
追手の車は急にスピードを落とす、それを見て追うのをあきらめたと思いたいが、ここまで逃げてきたUKのスパイである女性は数メートル走って急に車を止める。
コードナンバーイプシロン033(本名マリーナ・コンラッド)と同行しているのはRU科学技術アカデミーで教鞭をとっていたオルジェ・イワンコフの長女ナターシャ・イワンコフ。
既に教授はスパイ容疑でRUへと連行されているようだ、そして彼の妻は事故死と言う事にされている。
「何かまずいわ、降りて!」
先ほどまでしつこく追って来た敵の工作員が乗る車、それが2台とも車速を落としみるみる小さくなって行く。
だが国境線から10k近くまで追って来て諦める事などありえない。
「早く!」
「バタン」
車から降り2人が雪の中を走り始めると、今まで乗っていた車が爆発した。
「ドドーン」
「キャー」
思わず叫び声をあげるナターシャ、とっさに口を押えるマリーナ。
「ダメよ!」
「ウ…」
車の中には武器もお金もあったのだが、とっさの事で置き忘れてしまった。
そして教授から頼まれていた書類も今の爆発で吹き飛び、そして燃えてしまっているかもしれない。
だがこの場にとどまっていても助かる可能性は低いと言って良い、それならば少しでも生き残る事を考える方が得策だ。
「ハアハア」
「止まらないで、あそこに隠れて」
建物の影へと隠れる2人、そして懐から拳銃を取り出すとこちらへとやって来る一人目を待ち伏せする。
「パン パン」
「チュイン」
「後ろ?」
こちらが銃を出し構えた所で後ろから拳銃の発射音、雪の中なので音は少し拡散して聞こえるがどう考えても背後からの音だ。
雪の中まさか追い抜かれたとは考えられない、ならば他にも自分達を待ち構えていた工作員がいたのだと考えるしかない。
それは自分達が逃げられない状況に陥ったと言う事、絶体絶命だとマリーナは悟った。
(後ろからも…)
「ピポプ…」
「アルファナイン ヘルプ!」
今回の逃亡劇に参加しているUKスパイはそう多くない、本来ならばこんな危険な橋を渡ることなどあまりないはずなのだが、その判断を下すのは自分ではなくUKの諜報部だ。
RUの情報提供者である教授がどんな秘密を握っているのかはわからないが、今は教授の家族を西側へと逃がすのが先決だ。
20日前、教授の家族に襲い掛かった悲劇、事故とは言うが実は2台の車に追われ逃走の果てに教授らが乗った車はトラックに突っ込まれて大破したと言うのが実状だ。
そこに迎えに行くことになっていたUKのエージェントであるイプシロン033が向かっていた。
UKのエージェントであり工作員のマリーナは予知能力を持っていた、それほど優秀ではないが5分から1時間先に起こる危険を察知する。
その能力を頼りに要救助者が陥るであろう未来の情報を入手し、先回りすることに成功していた。
それが今から20日前の出来事…
「大丈夫か?」
「私は構わなくて良い、娘を 娘を頼む」
トラックに突っ込まれて前席はグシャリと潰れ、運転席にいた教授はエアバックのおかげで上半身は何とか動いていたが、下半身は挟まれており助け出すのは困難だった。
助手席にいたはずの奥様は既に息をしていなかったが、後部座席にいたナターシャは気絶しているだけで何とかかすり傷ぐらいで済んでいた。
「カバンも 頼 む …」
2人共捕まるわけにはいかない、そうなれば拷問の果てに情報を奪われ2人共に消されてしまう事になるだろう。
だがどちらかが亡命することができるのならば、殺されずに生き延びる可能性が見えて来る。
マリーナは後席にいた娘を抱きかかえ自分が乗って来た車の後部座席に乗せるとすぐに来た道を引き返す。
一応事故と言う事で救急車は呼んでおいたが、その前に追ってきた敵の工作員が見つけて処理をしてしまうだろう。
早くRUから脱出しなければ教授の情報どころか自分も娘もスパイ容疑で捕まってしまう。
そこからはRU国内をまずは北へと移動した、途中からはベラルーシを経由しリトアニアへ逃げ込もうとしたが、そこにも敵の工作員が沢山待っていると知り。
ベラルーシの国内を車を捨て徒歩で西へと移動、途中で再度車を手に入れポーランドへと向かう二人。
用意したパスポートを使い国境を越えたまではうまくいったが、まさかこちら側ですでに包囲されていたとは思ってもみなかった。




