グロドノへ
グロドノへ
ヴャウィストクの町から先の行動は、朝8時までに連絡がない場合。
そこから電車でグロドノへと移動する、昨晩から降り続いた雪は既に50センチほど積もっているが、どうやら電車はゆっくりだが動いているようだ。
「電車は止まっていないようでーす」
「でも便数は少ないね」
連絡がない場合は次のグロドノまで行けと言う事だが、そこまで行くには途中に国境がある。
当然のことながらその手前の町であるグジニツァで降りて内通者、要救助者の情報を持つ協力者の連絡を待つ予定だ。
電車は一時間に1本から2本、雪が降り積もればさらに減る可能性があるが、この雪だと車の方が時間がかかると言う。
数少ない電車に乗り込み数時間、落ち合う予定の駅で降りると一度駅舎の外へと出る。
「ここからは?」
「もう少ししたら連絡が来ます」
この町からグロドノへと至るには国境で入国審査を受ける必要がある、問題なのは俺たち二人が国境でどういう扱いを受けるかだが…
「ドドン!」
道の向こうから何かの爆発音、そして黒い煙が立ち上る。
その数秒後にメアリーさんのスマホにテレホンコールが。
「プルルル」
「…」
「アルファナイン!ヘルプ!」
駅舎の外、バスやタクシーが待つ道路の脇には少なくはない人が往来している。
観光と言うよりこれから仕事へと行くのかそれとも買い出しに行くのか、俺達みたいな旅行者はそれほど多くはない。
爆発音を聞いて誰もが過去の歴史から戦争を思い浮かべ速足で避難行動をとる。
「ワー」
「なんだ?」
爆発音も煙も俺たち2人がこれから進もうとしている方向からだ、しかもほぼ同時にかかってきた電話の意味が何を示すのかくらい俺にでも分かる。
「もしかして…」
「遅かった…」
「いやまだあきらめないで」
メアリーさんの手を引いてトイレがある方へと逃げるふりをする、そして建物の影に隠れるふりをして光学迷彩を発動。
【光学迷彩発動、メアリーさんも含めて】
【かしこまりました】
「宗助、何をするのですか?」
「目をつむってて」
「ハイ」
何をするのかって?空を飛んで煙が立ち上る方向へと様子を見に行くのさ。
その前に荷物は全部ストレージへと入れて置くのを忘れない。
(ついでにメアリーさんのキャリーカーも)
周りに気取られないように音は出さないように、まずは重力魔法で4分の1まで重量を下げ。
そしてエアサイクロンエンジンを展開、メアリーさんを抱きしめたまま空へと飛び立つ。
約1k先へと移動すると、先ほどの電話の相手であろう、俺達が落ち合う予定のエージェントと思しき人物が家の影に隠れている姿が。
「パン パン」銃声
「あなたは逃げて!」
「でも…」
「駅まで行けば仲間がいるはず」
対象者は2名、どちらも女性に見える、雪が降る中ではフードのせいで顔まではっきりとは見えない。
どうやら彼女らは建物の影に隠れて敵の動きを探っている様子、上から見ると敵の工作員は5人以上いるように見える。
遠赤外線レーダーを使用して包囲して来る敵の工作員を割り出す。
黒い煙の元は彼女らが乗って来たと思われる乗用車が燃えているのが原因だ、その壊れ方を見ると待ち伏せされたのか、それとも車から撃ち込まれたのか。
ロケット砲かそれとも小型のミサイルを撃ち込まれたのか、国境警備隊ならばそんな過激な攻撃はしないはず、どうやら要救助者は待ち伏せされたと見て間違いはないだろう。
(とりあえず敵を減らすか)
俺はメアリーさんを抱いたまま、リリーさんに命令を出す、逃げている2名に一番近い敵から殲滅してくれと。
【あいつからやろう】
【かしこまりました】
勿論俺も参加する、雪の降る空はかなりの寒さだと言いたいが、ロボスキルのおかげで温度は分かっても寒さは気にしないで済む。
メアリーさんにもロボ化を適用したので、光学迷彩を発動していなければ綺麗な人形を抱きかかえた東洋人の少年が空を飛んでいると言う風に見える事だろう。
形勢逆転と行こうじゃないか。




