宿にもスパイ
宿にもスパイ
宿の部屋にはリリーさんのもう一つのアバターであるクロームを置いてきた。
なにせ安い宿だ、泥棒もだがどんな奴が俺達2人がいない間に部屋へと訪れるかわからない、案の定彼らの手下が2名俺達の部屋へと合鍵を使用して入って来た。
「ガチャ」
「荷物を調べろ」
「全部か?」
「ああ、それらしきもの以外は触るな」
どうやらUSBを探しているのか、タブレットもUSBも異空間に収納済みだが、それは俺の荷物のみ、メアリーさんの分までは隠していなかったりする。
「有ったぞ」
「よし」
「なんだ?」
「足が…」
「ドアが開かない」
「うわっ!」
リリーさんは荷物を守るべく敵を無力化する、コソ泥かそれともスパイかわからないが、この部屋に入った者は逃がさない。
【宗助様、コソ泥を捕まえました】
【そのままロボ化して安全設定して置いて、食事が住んだら取り調べをしよう】
【かしこまりました】
一連の行動を見ると追われているターゲットはかなりあちらの国にとってまずい情報を持って逃げていると言ってよさそうだ。
確かにメアリーさん一人では危険な任務であり俺以外の同行者、例えばモリソン氏だったとしても簡単にこなせる任務だとは到底思えない。
敵の工作員から逃げながら要救助者の保護という、2つの仕事を同時進行でこなすのは最低5人以上のチームで請け負う物では無いのだろうか。
宿の手前で光学迷彩を解きフロントで挨拶をすると、対応した店主がギョッとする。
「ニェ…」
俺の手が店主の胸元を掴む。
「あなたも仲間なの?」ポーランド語で
「ち 違う」
「金を掴まされたのね」
「そうだ…」
「じゃあこれから起きる事は秘密よ」
俺が掴んでいる胸元ではなく宿屋の店主にメアリーさんの人差し指が伸びる、その細い指が店主のおでこに触れた次の瞬間から彼の顔に変化が訪れる。
「は~い@;:りました~きも:、:;いい~」何を言っているのか分からない
どうやらこれがメアリーさんの能力の様だ、確かに幸福の中で身ぐるみをはがされてそれを映像や画像で撮られたりしたら、男なら立ち直れない可能性が高い。
俺も能力が無かったらこうなっていたと思うと恐ろしい。
「今のが、能力?」
「宗助にだけよ、本当は見せたくないの」
なるほど彼女の記憶からは見た事が有る映像だが、目の前で見るのとはわけが違う。
ある意味記憶操作ともいえなくないが、幸せな気分にさせて置いてエネルギーを奪うのだ。
やられると数時間は役に立たなくなる、気力も失うのだから恐れられるわけだ。
「アルファナイン?」
「それはコードネームでーす」
「アルファが初期ナンバー?」
「よくわかりましたねーその通りでーす」
今の諜報部員はイプシロンの10番台(100年で次のギリシャ数字)、既にアルファを冠するスパイは彼女一人しか残っていないらしい。




