ポーランド
ポーランド
ヒースロー空港からワルシャワフレデリック空港へ2時間、そこからは陸路で移動することになる。
現地の案内人にはヴァウィストクと言う町で落ち合う予定、連絡次第では変更もあり得るが俺達2人はそこで宿を取る。
「乗り換えです」
ワルシャワからは何度か電車を乗り換える、バスやタクシーではかなり距離があるし本日中に到着する可能性が低いからだ。
「メアリーさんは来た事が有るの?」
「何度かあります、痛い思いもしました」
東西冷戦時代に潜入捜査で送り込まれた美人スパイ、その美貌を利用して敵国の政府高官に取り入って情報を掴むのが主な仕事。
過去には、あわや人生終了かというような出来事が幾つもある。
中には睡眠薬を飲まされ極寒の荒野に置き去りとか、ナイフを突きつけられ身ぐるみをはがされ拷問を受けたりとか。
彼女の能力も接触しないと効果が無いらしく、相手が自分に触れていなければチャームの能力も使えない。
銃撃戦になればもちろん怪我をすることなど当たり前、うまい具合に逃げ果せたとしても足りなくなった生命力を補うには、他の動物かもしくは優しい誰かの助けが無いと怪我を直して生き残ることなどできはしない。
「ああ…それは大変だったね」
「宗助だけですよーお話しするのは~」
電車の中ではメアリーさんの昔話に花が咲く、日本語で話しているので他の乗客に内容を知られることはないだろう。
何度目かの電車の乗り継ぎを終えること数時間、ようやくヴィヴィストクへとたどり着く。
USBに有ったデータには明日の朝8時に駅のバス停で待つと書いてある、そこから後は指示待ちと書いてあった。
「今日の宿、交渉しに行きましょう」
「交渉?予約じゃないの?」
「この町で予約は難しいでーす」
要するに予約していても後から交渉を迫られると言う話、基本的には大きな有名ホテルでしか予約は受付していないのだ。
だがそこには必ずスパイや敵国の秘密機関が待ち構えているらしい。
面倒だが少しランクを落としたホテルの方が安全に泊まれると言う事。
「わかった、まかせるよ」
路地を少し入った所に宿が何軒か並んでいる、その中の一つに入って行くメアリーさん、俺は彼女に手を引かれて少し赤面するのだが。
当然のことのように彼女の左腕は俺の右腕をつかんで離さない、彼女は本当にデートか又は新婚旅行にでも来ているように見える。
【楽しそうですね】
【そうか?】
【メアリー様は終始ニコニコされておられますよ】
【そうなんだ、何の気兼ねもいらない異性だからね】
【それもあるのでしょうけど、違うみたいですよ、愛情が100%だと表情変化値に出ています】
【何それ?】
【顔の表情でどれだけ喜んでいるのかどれだけ悲しいのかを調べるアイテムです、最近そのアプリが公開されており、嘘発見器としても利用できるようです】
【もしかして?】
【すでに導入しております】
確かに嘘発見器の様なアプリの導入は必要不可欠だ、特に今の俺には敵と思われる能力者を事前に知る方法があれば好き嫌いの好みだけではなく、周りの人達から危険を遠ざける事に利用できる。
【以前は数少ない情報から表情の一部だけで判断しておりましたがアプリのおかげで正確さが向上いたしました】
【そうなんだ、それならOKだ】
【それでどうします宗助様】
【何もしないし】
【ファイト】
【…】
(俺の中に流れる血は父さん譲りだからね)
全部を拒否するわけではない、諦めて受け入れてしまえと言う心と、まだ早い後悔するぞと言う2つの心がいつも俺を悩ませる。
ビビリと言うのならその通り、俺はビビリであり臆病者だ。
だからと言って今更勇敢で好色な理想の男になろうとか思わないし思えない。




