尾行再び
尾行再び
CNやUSAの尾行は収まっていたが、今度はNADLの調査官が呂方家の調査に乗り出した。
まあ当然と言えば当然の事だろう、彼らの精神誘導や超能力攻撃に全く動じない能力者。
しかもそれが一気に3人も現れたのだから、それにこの3人が一緒に生活していると聞けば調査をしない訳がない。
事前の調査は既に終わっているのだが、そこからさらに詳しく調査するのがNADLの今後の方針。
理事である松田晃(松田財閥【松田竜太郎】の次男)の命令でこの任に赴いているのは、先にパーティに来ていた史倶間悠ともう一人は初根久実、この2人はコンビではないが組まされることが多い。
何故なら志倶間の言動について行けないと、クレームを出す調査官が多いためだ。
そんな人間が何故重宝されるかと言うと、確かに口は悪いが彼はB級超能力者の一人でありエクシーダーでもあるからだ。
「マジで何もない」シグマ
「あんた一体何を期待してるわけ?」
「学校と言えばいじめにガクランそして番長だろ!」
「あんた何時の人ヨ」
「令和の人だがなにか?」
西暦2051年現在シグマは28歳でありもちろん独身だが、地方で暴れている所を松田晃によって研究所(NADL)に連れて来られた一人。
普段は研究所の雑用や運転手を任されているが、そんな仕事で我慢できる奴ではなく、こういう面倒ごとには捨て駒のように使われている人物でもある。
同行している初根久実はシグマに対してため口を利いているが、過去にハツネの超能力である精神操作でしこたま恥ずかしい過去を作らされて頭が上がらなかったりする。
それでも言葉使いは変わらないのだから、研究所でもすでに諦めていたりする。
「あの車は?」
「USAじゃない?」
「あっちは?」
「警察かな…」
この時期は既にCNの調査員は父親の方に目を向けており宗助の方は現在2カ国の護衛だけになっている。
高校3年の冬、期末試験も終わりあと少しで冬休みと言う頃。
授業が終わるとほとんどの学生が予備校や塾へと向かう為、いつもとは違うグループで足早に下校する。
宗助と百合奈そして委員長は同じ時間で帰るのだが、米田と東山そして金山はまだ学校にいて進路の相談や補習授業を受けていたりする。
「そうチャン今日も行くでしょ」
「ああ」
「いいなー」委員長
「何が?」百合奈
「もう公開しちゃえば」
「何をよ!」
「何でもない」
言いたいことは分かる、傍から見ると勉強と称してデートしている様にしか見えない。
まあ勉強はしっかりしているので文句言われる筋合いはないが、委員長にはどうしても2人の関係がうらやましく見えているようだ。
「委員長の方ははかどっているの?」
「何とかね、でも今はどの教授に着くか迷っているわ」
目指す大学には現在2名の教授が覇権を争っているらしい、共に法学部の教授で一人は国際法に精通しもう一人は民法に特化している。
日本の国内で弁護士や検事、になるのなら民法に精通した教授に師事した方が良さそうだが。
外国へ行ってさらに知識を得ようとするのなら国際法や企業の法律に詳しい教授に指示した方が良いと言う事になる。
「宗助君は?」
「俺は麻生准教授、いや今は教授になったのかな、その人につく予定だけど」
「例のアプリ関係で?」
「いや麻生教授は宇宙線やブラックホールの研究をしているらしい、AIや機械工学の方は竹嶋実方教授に師事しようと思っているんだ」
「ふーん」
「じゃあこの辺で、またね~」
「バイバイ」
委員長は駅の反対のホームへと階段を下りて行く。
【ヤコブ族って私達と全然違うって聞いたけど】
【身長4メートル、女性でも3メートル以上あるよ】
【記録動画で見たけど見ちゃったんだね】
【仕方ないよ、生体兵器であるガイアギアには裸じゃないとエネルギーをうまく交換できないらしいから】
【そうなんだ】
電車の中、脳内通信でそんな事をやり取りしていると横からどこかで見た事が有る男性が話しかける。
「君達あついねー」
「?」
今時オールバックにスタジャンと言う外見、そして髪の毛に塗っているのか何かの甘たるい匂いが鼻を突く。
「どこかで会いました?」
「あちゃーもう忘れられたとかショックだぜ」
「この匂い先日のパーティ?」
「さすが女子は違うよね~」
「臭かったから覚えていただけです」
「ショックだぜ」
「なんの用ですか?」
「決まってんだろ、護衛だよ護衛」
いやいやどう見てもいやがらせだろう、と言ってしまうと終わりなので。
どうやら護衛と言うのは建前でNADLへの勧誘と言うのが本音と言った所。
だがその件は保留しているとはいえやんわりと拒否したはずなのだが、まあ あそこの理事長やお偉いさんはそんな事知らんと言うかもしれない人達で構成されているので、一度断った所で退くことはなさそうだ。
「そんでこれからどこに?」
「予備校ですが」
「まだ勉強すんの?」
「僕たち高校3年ですから」
「大学に行くって事?」
「それ以外に予備校へ行く理由は無いと思います」
勿論シグマは高校をお情けで卒業できたと言うぐらい勉強してこなかった、高校3年間は地元のチンピラとケンカばかりしていたと言う根っからの不良だ。
大学とか予備校とかには一切興味が無い彼にとっては宗助のような真面目な学生の気持ちなど分からないだろう。
「もしかして予備校迄来るんですか?」
「外までは行くぜ」
「お好きにどうぞ」
「そっけねーな…」
駅に着き宗助と百合奈が下車すると、5メートル後ろをシグマが周りの学生や会社員と一緒についてくる。
目立つことこの上ない、本来ならば電車にさえ乗るような人種では無いのがすぐにわかる。
改札でつまずいたりして、外部カメラを見ていた宗助は少し吹き出しそうになるが。
【あまり気にしなくていいんじゃないかな】
【そうかもね】
NADLの尾行、多分車の方は初根が運転して木下・呂方家の近くへ先回りするのだろう。
まあいつかは彼らの方へ出向かなければならない時も来るが、今はあまり関わらない方が面倒事も少なくて済む。
それがどの団体だろうが関われば関わるほど自分の自由が無くなり、おいそれと惑星RIZに行くこともできなくなってしまう。




