帰国の便
帰国の便
メアリーさんと俺はモリソンさんにお別れし本日帰国の便に乗る。
チケットはメアリーさんが2人分スマホで購入し、カウンターでチケットを受け取る。
搭乗時刻までは後2時間あるらしい。
「ジャパンは久しぶりだわ」
「前はいつ頃来たのですか?」
「う~ん、一番最近は10年ぐらい前かな~」
「メアリーさんは日本へ来るとして、どこかに身を寄せるんですか?」
「もちろん宗助と一緒よ!」
「え~ホテルを予約しないんですか?」
「何で?」
「なんで って…」
「チケット代は出すんだから宗助の家に泊めてくれてもいいんじゃない?」
「チケットは国が出すんでしょ!」
「そうだけど…ダメ?」
そう言いながら済まなさそうな目で見つめて来る。
まるで駄々子のように少しかがんで下から見つめる目線、当然のことながらわざとそうしているのが見え見えだ。
「まさかこうなるとは…」
「良いじゃない、おとなしくしているから~」
「一応母に聞いてみますよ」
できる事なら日本に帰った後は関わりたくないが、どうやらそれは彼女の請け負った仕事からはできない相談らしい。
逆にある程度の距離をキープするなら、俺が知りたい事にも少しは協力してくれそうだ。
『もしもし』
『はい、宗ちゃん?』
『母さん問題が起こった』
『どうしたの?』
『一人家に泊めないといけなくなった』
『良いわよ、朱里と平太の部屋が空いているから』
『どんな人?』
『こんな人』
そう言ってスマホのカメラをメアリーに向けると、この時とばかり愛想よく英語で話し出す。
『マイネームイズメアリーエドモンドナイストゥーミーチュー…』
気さくなお姉さんを演じ切り母のご機嫌を取る。
だが母はカメラに映るメアリーさんの行動を見逃さなかった。
【宗ちゃんこの人宗ちゃんの事大好きみたいね】
【あ やっぱり…】
【どうやらメアリーさんに気に入られちゃったみたいなんだよね】
【Hはしてないのよね】
【してねーから!】
【別に怒らなくてもいいじゃない!】
【俺だって苦労しているんだから】
【あら別に経験しても怒らないわよ】
【またそう言う事いうんだ…】
【そうね、心配だけどあまり遅いのもね~】
【経験者は語るってやつ?】
【そうそうって別に私は早かったわけじゃないわよ、ふ 普通かな】
【あまり聞きたくないかな、そんな話】
【そう?パパとの話聞きたくない?】
【聞きたくない!】
【つまんないの~】
【あ 話終わったみたい】
『サンキュー』
メアリーさんは終始俺に顔を近づけてしっかり手を握っている、百合ちゃんやアイリーンに見られたら絶対怒り出すだろう。
多分日本にいる間、仮想の恋人でも演じるつもりなのだろう、本人はそう言うシチュエ―ションに浸っている可能性が高い。
まあ彼女の能力である魅了による意識操作もそしてエネルギードレインもできないのだから。
彼女にとってパッシブで作動するエネルギードレイン、普段ならこんなに人に身を寄せる行為はしない人なのかもしれない。
いつもなら躊躇する行為を気軽にできる相手を見つけたと言う所なのだろう。
『分かったわ、部屋掃除しておくから頑張ってね』
『別に頑張らないから、百合ちゃんには内密にしておいて』
『良いわよ~その代わり言い訳考えておいた方が良いかもね~』
『は~ … 考えておくよ、じゃまた後で』
空港の待合所に座り搭乗時間を待つことになった、時刻は現地時間の午後5時。
握った手をいつまでも離すことなく、今は目を閉じて俺の肩に頭を乗せていたりする。
【メアリー嬢の恋愛度数が上がっています80%です】
【マジか!なんで?40%にしたんだよな】
【燃え上がりやすいタイプなのかもしれません】
【それってタイプ1か?】
【タイプ一のひと目惚れプラス三番のシンデレラ症候群を同時に発症した模様です】
【抱きかかえて空に飛んだからか…】
【その後も襲わずに上着を掛けたりしたのがさらに好感度を上げてしまった模様です】
【道理でこちらを見る目がキラキラしているわけだ…】
【どうします?】
【もう少ししてまずいようならまた下げておこう】
【かしこまりました、残念です】
【なんだよ、残念って!】
午後5時になり搭乗ゲートが開き、俺達が日本行きの直行便へと乗り込んだ。
帰りは乗り換えも中継もしない、もし行きと同じような便にすればまた何があるか分かったものではない。




