首相官邸
首相官邸
タクシーに20分ぐらい乗ると柵に囲まれた建物が見えて来た、入口には警官が常駐している。
バッキンガム宮殿ならば衛兵だがここは違うようだ。
「着いたぞ、ここだ」
「宗助 気を付けてね」
「え?」
「ここから先はSVRの巣窟よ」
タクシーを降りたと同時にメアリーさんが俺に耳打ちして来た。
何故メアリーさんが教えてくれたのかは分からない、それって裏切り行為なのでは?と心配したが。
彼女にとってはそのぐらい些細な事だと考えているようだ。
そういう行為自体が彼女の鹵獲戦法の可能性も有るのだが、いったい何を考えているのか。
「さあここが首相官邸だ、我らの仲間が待っている」
正門の入口から少し歩くと建物の扉が音もなく「ス…」と開いた。
中からは背の高い男性が2名出てきて扉の両側に立ち俺達を向かい入れる。
どうやら警備を兼ねた首相のボディガード、と言った風だが…俺はROBOレベルを最大の10に引き上げた。
「ウェルカ~ム!」
無骨なイギリス人が野太い声を出す、どこかの映画のワンシーンを思い出すがすぐに浮かんでこない。
ドアが開けられ中に入ると一瞬目を疑った。
「ここは?」
「やあようこそ、私が首相のポール・アーロンだ、よろしく な!」
歳は50代と聞いていたがそれよりは10歳くらい若い、そしてその姿が俺の脳をバグらせる。
「君も何か飲むと良い」
そこはビーチ、いやプールサイド、一瞬後ろを振り返るとドアの周りには別の建物かと思わせるような壁や樹木が。
首相はタオルを首にかけもちろん水着の上からアロハシャツを着ている、他の人たちも全員水着やアロハシャツだ。
【宗助様精神干渉能力です、脳内に少し侵入されました】
【解除できそうか?】
【汚染レベルは2です、すぐに対応開始します】
【精神汚染解除20・40・80%…解除完了しました】
先ほどまで見えていたロケーションが数秒で全部入れ替わる。
飲み物を差し出していた女性の服が一瞬でビキニの水着からスーツへと入れ替わる。
「あ~ 解除されたか…せっかくバケーションにセッティングしておいたのに…」
「あなたの能力?」
「そうだよ、精神思考操作能力だ、だが速攻で解除されるとはね~」
「完全記憶で対抗できますから」
「あーそういう事なのか、覚えておくよ」
「それじゃついてきてくれ」
首相の後をついて行くと1階玄関のホールから2階への階段を上って行く。
2階の最初の部屋へと差し掛かるとその部屋の中から異様なエネルギーが発せられていた。
「5人」
「よくわかるね、では紹介しよう」
扉を開けて中へ入ると、男女4人が椅子に腰掛け、一人は窓際に立ちその背景に溶け込んでいる、いわゆる光学迷彩もしくは擬態能力。
「連れて来たよ、君達も挨拶しなさい」
「俺はカミュ・サザーランドだUKサバイバー」
「私はサンドラ・ジェファーソン、同じくUKサバイバー」
「僕はリンド・ハッテンバーグ、よろしく」
「同じくモリソン・S・ウィリアム、ようやくここまで来たね」
「私はダイアナ・ローランド、もしかしてもう…ばれている?」
「その姿になるのに服は着ている感じですか?」
「え!チョト 聞いてないわよ」
「夜なら分からないと思いますがこの明るい照明の元ではすぐばれますよ」
どうやら擬態能力は素っ裸になるのが条件の様子、ダイアナは擬態したまま別室へと移動した。
(すぐばれるなんて…)
「それでは集まった事だし今後の会議を始めよう」
「その前にミスター宗助、聞いておきたいことがある」
「僕に 何ですか?」
「君はどこまで我々に協力できるのか?それを最初に聞いておきたい」
「基本的にはアメリカや日本政府に対してと同じ対応です、差別があるとすれば僕が日本人だからという所でしょうか…」
「仲間と言うより隣人だな」
「それは仕方のない事でしょう、世界中のSVRを仲間にすることが難しいのと同じ事です」
「それでアメリカに出したデータは同じように我々にも提供してもらえるのかね?」
「それは無理です、既にアメリカと契約しており、他の国と二重に契約はできません」
「そうか 残念だ」
多分、人口子宮のデータも欲しいのだろう、この話はUSA側から漏れたのだろうか。
「だが、君は他にも隠しているよね」
「ご想像にお任せします」
「どうだね 新たに我々とも別な情報で契約を結ぶ気は無いかね」
「それは、私にどのような恩恵がありますか?」
「そうだな、まずは王様との謁見それに爵位と城を提供しよう」
「首相!」
「彼をSVRとして認めるのは時期尚早です!」
「彼を認めていないのはこの国のコモン達だけだ、我々は違う!宇宙船の撃退は彼の力が大きい、我々の力でもせいぜい被害を少なくすることしかできなかったのだからな」
コモンとは一般人の略だ、宗助は宇宙船を撃退した事実を公にはしていない。
だがSVRや各国の上層部の中ではすでに、宗助が宇宙戦艦を撃退したと言う事実が広まりつつある。
宗助がイギリス在住だったなら、すぐに勲章と爵位が授与されただろう。
「勲章と爵位は辞退します」
「え?何 言っているのだ?」
「それって大々的に公表されますよね」
「そうなるな」
「僕にとっては何のメリットも無いでしょう」
「いや一応 金一封も土地や城の譲渡も有るのだが」
「そうすると僕がここに住まないといけなくなるのでしょう」
「そうなるな」
「協力はしますが仲間になるとは言っていません」
「欲のない奴だな 君は」
「いいえすでにアプリだけで100万ユーロ近い利益が出ています」
(いや~アメリカで契約したらひと月で50万ドルとか、通帳見てビックリだ)
「アメリカ経由でこちらにもそのアプリは有償で提供しますので、僕には勲章や爵位は無意味です」
「ジャパンの高校生は皆こうなのか?」
「いいえ彼だけだと思いますよ」モリソン
「あ~ 僕を取り込もうとしているのは分かりますが、超能力は使わない方が良いですよ」
「シット もうばれたのか」ジョン・リドナー
「完敗だな」
「いやー俺の能力がばれるなんて初めてだよ」
「後から入ってきて気付かないとでも?」
この部屋には先に5人いて宗助と大臣そして首相とメアリーさんが入室して9人のはずだったが、いつの間にか死角になっている壁際にもう一人。
ダイアナさんが着替えに行き戻る際に便乗して入室した人物がいた。
多分音は大臣が能力で消し、本人の能力で極力俺に認識させないように移動したのだろう。
だが紫外線だけでなく遠赤外線スコープも使える宗助に対しそういうごまかしは通用しない。
「隠匿か認識疎外の能力かな?それと 接触タイプの行動阻害能力かな…」
「そこまでわかるのか?」
「隠匿はすぐわかりますが認識疎外は僕でなければ分からないでしょう」
「驚いたよ、俺はジョン・リドナーもちろんSVRだ」
「さて、それでは探り合いは終わりにして正式な協力関係を築くための話し合いに入ろう」
勿論ここは首相官邸と言うだけでは無くSVRの本部みたいなものだ。
建物の中にはこの部屋に現在10人いるが、他の部屋にも数人のエージェントやSVRがざっと数えても全部で30人近く、不測の事態に備えるために待機している。




