ロンドンの朝
ロンドンの朝
ロンドンの朝、霧 いや朝靄 と言った方が良いかもしれない。
テムズ川から立ち上る湯気が町の中に漂う、俺はメアリーさんのロボ化を解いてホテルへ行く準備を始める。
「ん~あれ?私…」
「メアリーさんおはよう」
「グッモーニンソウスケ」
「よく眠れましたか?」
「ええ おかげさまで」
「何か?」
自分の状態を確かめて、俺の眼を見て不思議そうにする。
「男性と一緒にいて襲われなかったのは初めてだわ」
「そいつはどうも」
「ああ そうよね すぐにホテルへ戻りましょう」
「了解」
メアリーさんは、一応自分の服装をチェックするが、少し残念そうな顔をしていた。
まるで俺が何かするのを期待していたのかそれとも、自分の読みが当たらなかったのが不思議だったのか、どちらにしても彼女は今までに無かった事尽くしで、俺への対応を別な方向へとシフとする。
(初めてだわ、こんなこと…悔しいと言うより、こんな紳士がいるなんて…)
支払いはメアリーさんに任せて外に出ると独特な空気が流れている、霧のロンドンとはよく言ったものだ。
近くを川が流れていてそこに生活用水が流れ出る為、特に冬場は霧が出やすい。
緯度は北海道より上の為、冬の温度差が厳しいことによる風物詩。
「昨晩はごめんなさいね、寝てしまって」
「いいえ、気にしていないですよ」
何故かまた俺の腕を取り柔らかい胸を腕に押し付けて来る、昨晩少し記憶をいじった時にリリーさんが何かしたのだろうか?
【私は言われた事しかしておりませんが】
【いや、ごめんそうじゃないけど…これは?】
【多分記憶改竄から後でお話してさらに興味を持たれたのでは?】
【いやいやあの会話からどうしてまた…】
【こちらの女性は好奇心旺盛でバイタリティ溢れる方が多いのではないかと思われます】
【そ それだけで?】
【はい】
ロンドンの町を2人は駅へと歩いて行く、横にいる女性は何故か嬉しそうだ。
そういえば昨日の彼女との会話を思い出す、考えたらかなり自分の情報をバラしてしまったような気がする。
もしかしたらその中に彼女の知りたかった一番重要な情報が有ったのかもしれない。
こちらも彼女の情報全て抜き取ったので、一応ギブアンドテイクとしてはかなりこちらが得してはいるのだが。
駅のターミナルからタクシーに乗り込み数キロ離れたホテルまで移動する、フロントの待合には昨夜に見た男の姿は無く、待機していたリリーさんから報告が。
【RUのスパイは逃げてしまったようです】
【マジで?】
【はい、やり過ぎたかもしれないです】
【いや、そのぐらいはしておかないと悪いことを辞めないだろう、できれば普通の仕事に転職してくれれば良いと思うよ】
俺は一度トイレへと行き、リリーさんを回収。
そして鍵を受け取り自分の部屋へ、メアリーさんも自室へと戻ると荷物を確かめフロントの待合で落ち合う。
「確かスパイに見張られていたはずだわよね」
「あ~、彼らは腹でも下したのでは?」
昨晩のうちに俺達に逃げられ、そしていくら待っていても現れなかったのだ。
その上トイレでは散々な目にあい、自室で下着を着替えると、そこからは怖くなりひきこもるほかできなくなっていた。
ちなみにリリーさんの目を通して仮想カメラとマイクを仕掛けた際に、呪いの言葉も聞かせてあげた。
(悪い子はいねが~)もちろんロシア語バージョンで
彼らはその後、他のメンバーに連絡をするも、他のメンバー達はモリソン氏の尾行や他のSVR達の動向を探るため動いており、人員は割けないと言う指令をもらっていた。
結果として拉致監禁作戦は失敗し、今後の情報戦は別な方法で動くと言う形になったようだ。
「プルルルリー」
どうやらメアリーさんにかかって来た電話はモリソンさんからの様だ。
昨日迎えに行くと言われたが、その予定は変更になり。
まずはメアリーさんと一緒に大臣の一人が待つ事務所へと移動することになった。
「さ 行きましょう」
ホテルの前からタクシーに乗り込むと、本日の予定は昨日とは違う政府の建物に置いての会議だという…
日本の建物とは違い同じような作りが多く見分けがつきにくいが、やはりそこも古い建物の様だ。
「こっちよ」
石作りの建物に入るとゲートが有り受付にはガードマンが2名、そこでメアリーさんは通行パスを提示して俺の事を説明する。
本日の来客名簿を見てOKが出ると、そこからはエレベーターに乗り3階へ。
「ついてきて」
エレベーターのドアが開くとそこはフロア丸ごと事務所と言った雰囲気。
30人ぐらいが仕事をしている政府の事務所、オープンスペースに机がいくつもあるが一人用のスペースは割と広そうだ。
俺にはそこが何の事務所かは分からなかったが、交わされる言葉から察するに政府の貿易関係を扱う部署だと思われる。
所々、言葉の端々に原油やガスなどエネルギー関係の単語が出てきていたからだ。
「ちょっとここで待っていて」
そう言うとメアリーさんは少し離れたブースへと歩いて行き、そこにいる男性と話し出す。




