ワシントンの夜
ワシントンの夜
はっきり言うと自衛隊の幹部2名と参与はジャクリーン大統領が来た時点で委縮してしまい。
俺と大統領の会話を黙って聞くしかなすすべがなかった。
まあ間に口をはさんだとしても交渉の当事者は宗助と大統領なのでできることなどないのだが。
それでも岩田さんの顔には口惜しさが少しにじみ出ていた、三田さんは逆に俺を見て感心しているようだ。
大統領との1ラウンド目が終わりレストランを出るとあてがわれたホテルの部屋へと戻る。
だが俺の部屋には今日本側の3人が詰めかけていた。
「どういうこと?というか確かにパスワードは考えていなかったことだ」岩田
「そうしないと犯罪者に渡ったら大変でしょう、それにアプリを手に入れてお金を払わない人がいた場合の切り札は用意しておくのが普通です」
「でもあの姉弟を何故疑うのか不思議だが」
「多分山カンですよ、どこかにほころびを見つけて自分達に優位に持っていこうと言う考えでしょう」
「そうすると明日も同じように彼女がカマを掛けてくると言う事なの?」三田
「それもあり得ますが今度は人数も増えると思うので、気を付けないと自衛隊の今後の活動に釘を刺される可能性はあり得ますね」
「アメリカ軍の活動費をよこせとか」参与
「過去にそういう大統領もいましたからね」
「一応人口子宮に関してはアプリではなくデータなので、そのデータを利用して実際にメカニカルユータラス(人口子宮)を作れるかはわかりませんが、うまく行けば医療革命にもつながりますから、大統領は必至になるはずです」
「それにしても君は本当に高校生なのか?」参与
「違ったらどうします?」
「違うのか!」
「あはは」
「いや…」
「冗談ですってば」三田
冗談だったのだが参与は少し本気にしたようだ、外見もロボ化したとはいえ普通の高校生と言えばだれもが信じるだろう。
中身はAIで武装した科学の申し子と言えなくもないのだが、宗助一人で大統領に相対するならその方が楽と言える、高校生と侮って楽勝と考えてくれればそんな相手に煮え湯を飲ませることぐらい今の宗助には簡単なことだ。
だが明日はデータと引き換えに政治的取引も含まれて行く、宗助はデータの持ち主ではあるが交渉の半分には自衛隊と言う組織がかかわっている。
組織と言うのは個人的な感情や都合では簡単にことを運ぶことはできない、うまくやらなければ宗助は良くても自衛隊にとってマイナスをつかまされることになるかもしれない。
明日は団体戦と言う事になっているのだ、しかも4人共に高学歴とはいえまだ若く世の中の仕組みの裏に何が潜んでいるのかまでは分かってはいない。
大統領には一応、良い思いをしてもらう事にはなるが、それがこちらの利益にもならなければ交渉とは言えない。
「それで明日の事ですよね」宗助
「ああ、今日の出来事で俺は軽い気持ち来てしまった事を悔やんだよ」岩田
「そうなんですか?」
「いや遊びに来たとまではたるんでいないが、大統領の威圧に押されてしまったのが悔しくてね」
「彼女SVRみたいですね」
「え?」
「サバイバー、要するに宇宙人の子孫です」
「それ本当なの?」
「だって彼女が来た時と去った時の感じ分かったでしょう」
「来た時はそれほど感じ無かったが去った時はどっと疲れたよ」
「私も」
「ああ、何か重い空気がすっとなくなるような感じがした」参与
「いわゆるプレッシャーと言うやつですけど、多分…威圧能力とでもいうのかもしれません」
ディべートに特化した能力とでもいえばいいのか相手を威圧して頭の働きを阻害する。
弁護士や代議士にとってはピッタリな能力だ、その能力を利用して大統領選を勝ち抜いてきたのだろう。
宗助でなければ委縮して反論もできず次の一手を考えることもできなくなっていただろう。
彼女の力は交渉ごとに使われればこちらにとってかなり分が悪いと言える。
「それでどう対応したらいいんだ?」
「多分こちらの提案に対して必ず相手は粗を突いたり交渉の優位性を確保する為、過去の自衛隊との決め事などを引き合いに出してくる可能性が高いですね」
「なるほど、というか過去の?」
「例えばイージス艦や空母、そしてF38などの戦略兵器の購入に関してやRUに流された機器類の情報漏洩条約に関する穴を突いてくるかと思います」
「な なんと」参与
「過去のニュースを紐解けば何がどうなってどういう取引をしているのかはすべてわかりますよ」
「敵わないな君には」岩田
「そんな 僕はまだ高校生なんですから、大人の皆さんが自信をもってこの戦いに勝利すると言う志を持たないと、彼らは今までそうやって自分達に優位にことを進めて来たんですよ、日本もいつまでも言いなりではいけません、戦後110年が経ちいつまでも負けだけを背負う必要はありませんよ」
「呂方君、僕は君に任せたい」参与
「へ?何言ってるんですか?」三田
「いやその案は結構いけるんじゃないか…」岩田
「岩田さんまで…」三田
「もしかして逆を狙ってます?」
「あ 分かった?」
「大人が3人誰がリーダーか、すぐにわかりますよね」
「そう、そして中盤までは俺か参与が話を進めて、そして肝心な所で呂方君にびしっと締めてもらう」
「相手がうまく行っていると思っていたら実は主導権は一番若い宗助君だったと言う形ですか?」三田
「そういう事」
「でもいいんですか?もしかしたら自衛隊の今後にもかかわる事ですよ」
「そんなことは分かっている、だが宇宙人は確実にまたやって来る国同士や軍同士の優劣などどうでもいいんだ、問題はやるのかやらないのか・だよ」岩田
「それほんとに考えてます?上の人に言ったら減棒ものですよ」
「それでも俺は地球の事を考えるとそう思うのだが?」
「大丈夫ですよ、多分向こうにも熱い人はいますから」
「は~…」
チームジャパンの会合はため息ばかりが多くなる、訴訟の国アメリカで契約ごとの優位性を考えると、こちら側が得するようにできるとは思えない。
問題なのは日本側が相手の雰囲気にのまれて不利な条件で契約を結んでしまう事だ。
出来れば良い条件でうまくアメリカ側との交渉を終えることを期待したいのだが。
「でも宗助君、君の持つデータをどう使うのかは君の自由だが、それでアメリカが引くとは思えないんだけどね」
「簡単ですよ、これまでのデータをRUにもCNにも流すと言えばどうです?」
「そんなことできるのか?」参与
「すでに僕の事を嗅ぎ付けて家族を探っていますから、アポイント取るのは簡単ですよ」
「本当か?」
「あ~そのようですね」岩田
「貴重なデータを一番先にアメリカへ開示するんですから、文句など言われたら即会談は中止すればいいし」
「そ それはそれでまずいと思うのだが…」
「過去に良くRUやCNが使った手ですよ、使わないのは日本だけですよね」
高校生にそういわれてオジサン2名はやや苦笑いをする、日本は相手の顔を見すぎるきらいがある。
まずはしっかりこちらの要求を通す事、そして対価を要求する。
その約束を守れなければ当然のことながら3つの情報は今後他の国にも流すことを伝えなければ、こちらが4人だからと言え舐められてはいけない。
「分かった宗助君に任せよう」岩田
「良いのか?」参与
「この場には総理も事務次官もいないのだから、我々だけの力でことに当たるしかないでしょう、向こうはそれを知っていて丸め込もうと言う可能性が高いのだし」岩田
「そうですよ、まずは僕を甘く見ていることを後悔してもらいましょう」
(あはは…汗)大人3人
そう言ってにっこり微笑むと3人共少し引きつった顔をしたが、アメリカ人ならこんな時逆に鼓舞する言葉で飾るのが普通だ。
「わかった」参与
「分かったわ呂方君に合わせるようにすればいいのね」三田
事前の打ち合わせはこのぐらいで良いだろう、これ以上話し合ってもいい作戦は思い浮かばない。
明日は向こうも専門家が数人参加すると思うが、問題は俺が持つデータをどのぐらい評価してくれるかにもよる。
惑星間転移装置に関しては実際に作れることも使えることも立証されているが、ハッキングアプリに関しては限定的な状況でなければ宇宙戦艦の情報を得られるところまで行かない。
人工子宮に関していえば、まだ地球の科学力で作れるともいえないのだ。
まずはデータを見てもらい専門家の話を聞くところから始まるだろう。
そこから先は彼らの判断にもよるのだから。




