USAへ
USAへ
アメリカへ旅立つ日がやって来た、木曜日の夕方学校が終わるとすぐに帰宅しデイバックを背負うと電話が入った。
「宗ちゃん電話よ」母
「はい」
【岩田さんから】
受話器を受け取ると本日これからの予定を話してくれた。
まずは自衛隊の軽装甲車で赤坂本部へ行き、そこからヘリで羽田へと移動。
羽田にはすでに政府専用機(予定)が用意されており、そこからカリフォルニアへと移動する。
その後LAからワシントンへと移動すると言う予定。
『やはりワシントンで接見ですか?』
『ああそうなる』
大統領はやはり忙しいらしく当日はワシントンにて公務中という。
木曜日の夕方羽田から出る専用機には岩田さんそれに内閣官房室参与の内海さんも参加する。
そしてやはり三田さんも同行することになっている。
電話を終えるとそのまま家を後にする、デイバックには着替えを二日分入れてある。
そして普段着とノートPC、他にはスマホと先週取得したパスポートを入れて玄関までやって来る。
「着いたら連絡してね」
【脳内通信って海外でもつかえるの?】
「ああ分かった必ず連絡するよ」
【分からない、一度やってみるよその方が連絡を取りやすいからね】
「気を付けてね、行ってらっしゃい」
「宗ちゃん行ってらっしゃい」ゆりな
「おにいお土産よろしく~」
「ああ、あんまり期待すんなよ」
「えへへ~行ってらっしゃい」
「行ってらっしゃい」朱里
「同じく行ってらっしゃい」平太
《いない間は母に任せてあるから言う事を聞いておとなしくしていてくれればいい》
《分かりましたご主人様》
「行ってきます」
この日父は少し残業でまだ帰ってきていないが、リリーさんを司令塔として残しルミナスとアーバンを交代させ俺はデイバッグにルミナスを詰め込むことにした。
海外旅行にフィギュアを持っていくのに少し抵抗はあるが、何かの時に使えると考え大きな50センチのリリーより少し小さいルミナスを同行させることにした。
【ルミナス少し窮屈だけど我慢してくれ】
【ご主人様大丈夫ですよ狭いところと暗いところは慣れていますから】
そういえばアニメの中でルミナスの生活の中では押し入れの中が多く登場する。
最初にアニメで登場するときも押し入れに隠れて居たり、学校では掃除用具のロッカーに閉じ込められていたりと言うシチュエーションがやたらと多い、性格自体はその名の通り太陽のような明るい子という設定だ。
【分かった向こうに着いたら出してあげるからね】
【ご主人様~大好きです~】
【はいはい】
エレベーターで1階まで下りエントランスから外を見るとすでに陸自の軽装甲車が1台道路に停まっていた。
高月さんは車の外で待っており、軽く挨拶をするとまるで執事のように軽装甲車のドアを開け俺に対して車に乗るように促す。
元々彼女はいつも俺の尾行を任されているので、USA行きに同行しないのは多分呂方家の見張りをするように命令されたためではと推測する。
リリーの話でもCN系のスパイの動向を自衛隊も把握している為、その対応が主な役割ではとの事だ。
軽装甲車に乗り込むとすぐに発車し後部座席に乗り込んだ高月さんが持っていたファイルを俺に渡してくれた。
そこには今回のアメリカでの日程やその内容などが書かれていた。
「日本時間で書かれておりますので、あちらでは時間を照らし合わせて使っていただく形になります、それと私は呂方家のご家族をお守りする任務を仰せつかりましたので今回は同行できません、誠に残念です」
「やはり、もしかして行きたかったですか?」
「当然です」
いつものクールビューティーな顔から怒気が少し漏れてくる、俺としては何とも言えないがもしかしたら自分だけ外された感が彼女にはあるのではないだろうか。
車は何度か通った道をまずは赤坂方面へと進んで行く、行先は陸上自衛隊本部。
陸上自衛隊本部ビルの上にはヘリポートが有り、そこから羽田へと移動する。
最初軍用機で行くのかなと思っていたが、結局普通のLA行きの便で行く事になっていた。
LA到着後はアメリカの国内線に乗り継ぐと言う形らしい。
LA到着は日本時間で翌朝6時だが向こうではまだ同日午後2時という形。
赤坂本部に着くとすぐに岩田さんと挨拶し、ビルの屋上にあるヘリポートへと移動する。
「時間通りだね」岩田
「はい」
「それではこれで」高月
「ご苦労様」
同行するのは俺と岩田一等陸尉そして三田三等陸尉、そして内海参与の4人だが向こうでは2名の通訳兼コーディネーターと合流する予定らしい。
ヘリに乗り込むと座席に座りシートベルトを締めて、俺はデイバックを抱える形で座る。
目の前には岩田陸尉が向かい会って座り、俺の隣に三田さんが腰掛けている。
「緊張しない?」三田
「あ~少し」
「ヘリは10分ぐらいで乗り継ぐから」
「この音はいつ乗ってもなれないな」岩田
ヘリコプターのあの音は乗った人にしかわからない、確かに搭乗してしまえばさほど音は大きくないのだが。
外にいるとその音はバタバタとかなりの雑音と風になって耳を刺激する。
それに伴ってお話しするときは大きな声を出さないといけなくなるのだ。
空港脇にあるヘリポートに着陸するとそこにはすでに小型のバスが待っており乗り継いで空港内へと移動する。
その間約5分、空港のロビーに着くとすぐに三田さんがフロントで手続きを始める。
民間の旅客機は発着場が沢山あるので間違うととんでもないことになる、今回乗る便は歩いても5分ぐらいと言った所だ。
「はいパスポートと旅券ね、なくさないように」
「それではこちらです」
第2ターミナルの一番手前まで行くと搭乗ゲートが見えて来る、その飛行機はツインエンジンの100人乗りLA直行便、はじめは自衛隊の輸送機か政府専用機を利用することも検討されたが、大事にするのは返ってマイナスになると言う話から民間のジェット機を利用することになったと言う。
搭乗ゲートから通路を進み飛行機に乗り込むとチケットには窓際の席の番号が書かれていた。
「手荷物は上部のトランクに入れてね」三田
俺の席は右の窓際、どうやら座席はエコノミーらしい。
まあビジネスやファーストクラスに最初から乗るのは普通に旅客機に乗った時落差が激しいのであまりお勧めできないから構わないが。
今回は自前の渡米では無いのでお国から出る予算からすれば仕方のないところなのかもしれない。
帰りはエアフォース1に乗ってみたい気もするが、それには大統領が日本へ来るための理由が必要になるので、この時期にそれは無いだろう。
俺はデイバックからタブレットだけ取り出し頭上のトランクへと預けた。
ルミナスを出すのは向こうへ着いてからになるが、彼女とは10時間の間話し相手になってもらうつもりだ。
【宗助様もしかして私初めて飛行機に乗ったロボ化されたフィギュアと言う事では?】
【ああそうなるね】
【ワクワクします】
【本当は空を飛んで付いてきてもらおうと思っていたんだけど、外は万が一と言う事もあるからね】
【そうでしたか、ご心配頂きありがとうございます】
【まあこの飛行機が墜落するなんてことになれば、活躍する場面もないとは言えないけど、多分そういうことは無いと思うし】
【そうなんですね】
【日本とアメリカの航路はもしかしたら一番安全だと思うよ】
「シートベルトを締めてください」CA
少しのアナウンスが入り救命用具の使い方をレクチャーされると、ゆっくりと機体は滑走路へと動き出した。
最初の細かい揺れが終わるとジェットエンジンの音が徐々に大きくなって行く。
機体が斜めになり少しGを感じるとすでに車輪は地面からは離れていた。
「本機はカリフォルニア州ロサンゼルス空港までの直行便です、約10時間の空の旅をご堪能下さい」機長
中央のモニターにシートベルト解除のサインが出て、ようやく椅子から解放されるが特に何かしようとは思わないのでタブレットを起動させると、最初にニュースを表示させる。
実はこの行為自体はカモフラージュで、情報はクラウドやネットから直接脳内の保管庫に取り入れ精査する。
勿論そこにはリリーさんもかかわっており、今回はそこにルミナスも参加している。
リリーさん以外のフィギュアはそれぞれに電子頭脳が設定してあるため彼女らは単独で思考を行っているが。
統括をリリーさんにしたため、リリーさんだけは俺の脳と本体の電子頭脳2か所を利用してデータのやり取りを行っている。
「どうだい気分は?」岩田
「不思議な気分ですよ、ヘリも飛行機も初めて乗ったので」
「そうなんだ…」
「おかしいですか?」
「いややけに落ち着いているから、もう何回も乗ったことが有るのかなと思っていたよ」
「恥ずかしながら今回が初めてです」
「まあ日本からUSAへの便は殆ど事故もなく安全だからね」
「そうなんですか…」
すでにデータを取得し安全なのは分かっているが、それでも過去にUSA で起きたテロを考えてみると100%の安全は無いと言える。
ロボ化した自分はそのような状況下でも無事に逃げる事は可能なのだが、まさか自分だけ助かろうなどとはもちろん考えてはいない。
もしこの飛行機が乗っ取られるなどと言う状況になれば、即ハイジャック犯は粛清されることになるだろう。
まあ自分がやっつけたとは絶対言えないとは思うけどね。
【宗助様お母さまから通信です】リリー
【あ ここでも脳内通信入るんだ】
【一応私の機能を使って通信範囲にブーストを使用しております】リリー
【そうなんだ有難う】
どうやらフィギュアを1体そばに置く事により通信範囲に拡張増幅効果が有るらしい、確かに前回硫黄島でリリーさんと行動した時、設定して有ったカメラの映像を母は見ていたのだから音声通信が届かない訳がない。
【宗ちゃん】
【母さん】
【どう飛行機の旅は】
【なんか複雑だよ】
【なんで?】
【生身でもUSAまで飛べちゃうからね】
【そうなの?】
【だってこないだも硫黄島まで行ったでしょ】
【あ!そうか】
【所で今度惑星リズへ行く日は決まった?】
【ああ~その話もあるのよね、その時に朱里たちも連れていけないかな?】
【と言う事は俺と母さんと朱里たちだけで旅行に行くと言う設定で時間を作らないかと言う事だね】
【そうなるわよね】
【愛菜と百合ちゃんと父さんはどうするの?】
【難しいかしら?】
【そうなると朱里たちを本来住んでいた家に送り届けると言う体で、作戦を練ることになる】
【そう、お別れになるのね】
【その感じだとまだお別れしたくないんじゃない?】
【なんか自分の子供に思えてきちゃうのよね】
【そうだね彼らの実年齢を知らなければ、自分の妹達で違和感ないからね】
【最初思っていたより従順だったのもあるわね】
【ああ知性が高い分物分かりが良いから】
【じゃあやっぱり朱里達を連れて行くのは諦めるわ、もう少しこの状況を楽しみたいから】
【分かった、そうなるとやはり土日を使用していくのが一番だな】
【愛菜の試合はもうないの?】
【確か来週は土日にクラブの試合が有るわ】
【それは俺も行かないといけないな】
【そうなるとその次の週ね】
いつの間にか12月の予定へとずれていく、師走とは言うがその時期には期末テストも有り。
さらに受験用の学力テストなども有ったりする、それらテストに関してはさほど心配しなくても良いのだが。
それにかかわる行動には注意しなければいけない、多分百合ちゃんは一緒に勉強したいと言うだろう。
【分かったそのあたりで考えておくけどあちらには33日後と言ってあるから、その日は一応土曜日なんだよね】
【時間は特に指定してないんでしょ】
【ああ、指定すると逆に面倒になるから】
【分かったわ】
地球時間と惑星リズの時間ははっきり言うとずれている、というか惑星リズは自転周期1日40時間計算なので俺の脳内データが自動的にはじき出して対応している。
20日(800時間)後は地球では33日後と言う事になる
母との会話は結局1時間を超えていた、すでに夜10時を超え周りの乗客は毛布を借りて就寝している人も出ている。
俺も手に持ったタブレットを小さなテーブルの上に置き、画面をクローズする。
「毛布をお持ちしました」CA
「ありがとうございます」
ニコっと微笑んでCAが去って行く、同じように他の乗客にも声がけしている。
確かに機内は乾燥しており気温はそれほど低くないのだが、寝るには毛布1枚は必要だろう。




