おねえさま、みぃつけた
ホラー、だよなぁ?
気がつくと、大広間から誰もいなくなっていました。
残されたのは、多くの葡萄酒と、主菜である肉料理。
つい先ほどまで、僕とお姉さまの誕生日会、そしてついでとばかりにお姉さまの婚約発表があるため、両親の知り合いの王侯貴族が多く集まってたというのに……誰も、いない。
いったい何が起こったのでしょう。
まさかみなさん、僕だけを置いて別の部屋へと移動したのでしょうか。
「ひっ」
その時でした。
僕に似た声――双子の姉であるメアお姉さまの声が、大広間の出入り口の方から聞こえてきました。
僕は反射的に、声の聞こえた方へと振り向きました。
すると目に映ったのは、ドアの隙間に一瞬だけ映った……お姉さまのドレス。
ああ、お姉さま。
なぜ、僕がいるのにお逃げになるのですか?
もしかして、昔のように……僕とかくれんぼをしてくださるのですか?
「フフフ……それなら絶対、見つけてあげますからねお姉さま♪」
僕はそう言うと、口元にかかった葡萄酒を拭い、お姉さまを捜すべく屋敷の中を歩き始めた。
そもそも、我に返る前に何があったのかを……改めて思い返しながら。
◇
――セフィロード侯爵の双子の娘は正反対。
――双子の姉の方は目を見張るほど美しく、文武両道で、愛想も良く活動的。
――だが妹の方は、幸か不幸か姉と容姿は同じであるが、学園での成績は全て中の下。さらには無愛想で内向的。
そう言われ続けて……早十余年。
確かにお姉さまは、僕から見ても凄いと思う。
妹として、ずっと……お姉さまを見続けてきたんですもの。
陰でひそひそとそう言ってきた他の王侯貴族の方々よりも……それは、一番よく分かっている。
でも僕は、だからってお姉さまに劣等感をあまり感じた事はなかった。
だってお姉さまは、周囲が言うように性格が正反対の僕にさえも、裏表がない笑顔を向けて。小さい頃は一緒に、たとえ場所はどこであろうと、どんな遊びだろうと、遊んでくれて。そして現在は、成績が上がらず、周囲からお姉さまと比較され馬鹿にされた僕を気遣い、熱心に勉強を教えてくださるのだから。
劣等感を感じる以上に。
僕はお姉さまからいろいろなモノを貰っているのだから。
むしろ僕は、お姉さまが大好きです。
たとえ、周囲がどれだけ僕を馬鹿にしても……お姉さまさえいれば怖くない。
そう、思えるくらいに。
…
だけど、ある年。
僕達の誕生日前に事件は起こりました。
お姉さまが、僕に泣きながらこう言ってきたのです。
「私の婚約者のね、ロッソ様がね……近頃、平民の子と遊び歩いているの」
ロッソ様。
最近決まったお姉さまの婚約者にして、ここアークスマード王国の第三王子。
と言っても、彼自身は王位継承には何の興味もない……というか、継承権争いに巻き込まれたくないらしく、第一・第二王子の争いの火種が来る前にと、継承権を放棄した上で、逃げるように我が家へと婿入りすべくお姉さまと婚約した殿方で。
不敬を承知で言えば、女好きとして……悪い意味で有名な方。
そんな彼が、平民と遊び歩いている……学園で噂の、特待生として入学してきた平民の娘の事でしょうか。
お姉さまと同じく、成績優秀な娘。
そしてなぜか学内の有力貴族や王族の殿方に……婚約者の有無関係なく近づいているという……学内の輪を乱す問題児。
あぁ、なるほど。
ロッソ様が惹かれるのも納得ですね。
「私は、婚約者として注意したのに……ロッソ様はそれを聞き入れてくれなくて」
聴いているだけで、胸糞が悪くなる。
そして同時に……そんなあの男の素行のために涙を流すお姉さまを見ているだけで、胸が痛くなります。
婚約者の有無関係なく、貴族や王族の令息に近づく平民にもイライラしますが。
ただでさえお姉さまを取られてイライラしているのに。お姉さまという婚約者がいるというのに遠慮なく平民に近づこうとするあの男にも……それ以上にイライラして堪らない。
「ミア、そんな顔しないで」
すると、お姉さまは僕に微笑みながらそう言いました。
僕としたことが。無愛想にも拘わらず顔に出ていたみたいです。
「メアお姉さま。ぼ、僕はただ……」
「心配してくれて、ありがとう。私はミアが心配してくれるだけで……もう大丈夫だから」
泣き言から一転、お姉さまは微笑むばかり。
そう言われてしまうと、僕はこれ以上何も言えません。
…
そして迎えた、僕とお姉さまの誕生日。
さらに言えば、お姉さまの婚約発表の日。
専属メイドに手伝ってもらい。
姉妹それぞれ、色違いのドレスを身に着ける。
そこからは、自分の好みで装飾品を選び、身に着ける作業にそれぞれ移る。
全てお姉さまと同じでは、さすがに面白みがない……とお父様に言われたから。
そして僕は、何をつけようかと思ったその時……一つの腕輪の存在を思い出す。
お父様の領地の発展のために、他の領地や外国の事情を調べるべく、敢えて爵位を国に返上し平民へと婿入り(貴族の仕事が性に合わなかったという噂もあるが)して諸国漫遊しているという叔父様が、遠い南国で見つけたお土産である……赤い宝石がついた銀色の腕輪。
くださった去年の誕生日以来、つける機会がなかったので、押し入れの奥に保管したままのそれを……良い機会だし、今回はつけてみてもいいかもしれない。
そう思った僕は、メイドにその腕輪を持ってきてもらい、腕につけて――。
――そしてここで記憶は途切れた。
◇
そこから先の、記憶がない。
あの後、何が起こって来賓のみなさんは突然いなくなってしまったのでしょう。それも、葡萄酒や主菜である肉料理はそのままで。
…………しかし、それは些細な問題。
来賓のみなさんの行方は非常に気になってはいますが、それ以上に。そのおかげで今、僕はお姉さまを独占できている。
あの女たらしのロッソ様……腐っても王族である男の隣に立つに相応しい淑女になるために、今までずっとずっと……頑張ってきたお姉さまが、昔のように、僕と遊んでくださる。
とてもとても、嬉しい。
年齢なんて関係ありません。
それ以上に僕達には、何もかもから解放された環境が必要なのです。
邪魔する人は……絶対に、死んでも許さな――。
――しかし、良いところで。
再び、僕の意識は……。
※
大広間で見たモノは、いったい何だったんだろう。
両親の部屋の隅で……体を震わせつつ私は考えた。
□
私と、妹のミアの誕生日会。
私とロッソ様の婚約発表会も兼ねた、その宴の会場となった大広間には、両親や執事やメイド、さらには多くの来賓がいた。
お父様の親友や、王族との結婚を見せびらかすためだけに呼んだお父様の政敵、お父様の上司にしてこの国の重鎮である存在などの……様々な方が。
彼らが全員集まると、お父様主催の宴が始まり、来賓のみなさんにミアと一緒に生誕を祝福され、さらにはロッソ様との婚約を発表された。婚約発表の方が、来賓のみなさんには受けがいいのか。それとも、私とは正反対な性格というだけで未だに邪険にされているのか。ミアの方へと視線を向ける方は、ほとんどいなかった。
私の胸中は、ミアに対する申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
でもだからと言って今の私には、今この場でミアを慰める余裕はない。矢継ぎ早に王侯貴族の方々から話しかけられる。長女として。そしてこの家に婿入りする王族ロッソ様の未来の妻として無視するワケにはいかない。
大丈夫。
私はこれまで頑張ってきた。
私とミアが生まれ、そしてその数年後に……生まれるハズであった、次期当主となるハズの弟が流産し、さらに半年後、お母様の胎内に腫瘍がある事が発覚して、手術して、もう二度と妊娠できない事が判明して。それで養子をとるべきか否かの決断を迫られたけれど。その直後に、ロッソ様が私の家に婿入りすると言ってくださって。それ以来私は……今まで以上に努力に努力を重ねてきた。愛想だって嫌々良くした。周りの期待に応える事ができなかったミアの分まで、努力した。我が家のやり方に順応できないかもしれないロッソ様を支えられるように。……みんなで一緒に、幸せになれるように。
だから、今回も、大丈夫。
うん。粗相は一切していない。
今回も、私は乗り越えられる…………その時まで、そう思っていた。
ロッソ様が。
私の妹に言い寄っているのを見るまでは。
その瞬間。
私の中で何かが壊れた気がした。
ロッソ様の悪癖は知っている。
そのせいでロッソ様と口論になった事もある。
つい最近だって、喧嘩した。
学園で最近、問題となっている平民の娘。
ロッソ様が彼女と、私と一緒にいる時間以上の時間一緒にいる事が原因で。
しかしロッソ様は、私の注意を聞いてくれなかった。
それどころか彼女を庇った。私に敵意を込めた目を向けてきた。
でも、私は挫けなかった。
私が今以上に頑張りさえすれば。私がどれだけ彼の事を思っているかを、行動で示せれば、きっと彼は私に振り向いてくれる……ずっとそう思ってた。
けど……それは違った。
ミアに言い寄っているのを見て……気づいてしまった。
ロッソ様は私を見てなどいなかった。
私の気持ちを、一切理解してくださろうとしなかった。
彼の目に、私は。
きっと隙のない、可愛げのない女に映った事だろう。
対して噂の平民の娘と、ミアは、私と比べると欠点だらけで、ついつい助けたくなってしまうような……面白みがある女性だ。
それじゃあ…………………………私が、今までしてきた事って?
今まで自分がしてきた事が。
みんなの幸せのために頑張ってしてきた事が。
全て裏目に出ていた事を知って……思わず倒れそうになった。
「ッ!? メアお嬢様!!」
するとすぐに、近くにいた私の専属メイドが体を支えてくれた。おかげで私は体を床に打ちつける事はなかったけど……もう、立つ気さえ起きなかった。
「…………ご、め……もう、私……」
「ッ! サリー、メアを部屋に運んであげなさい」
「ッ! は、はい旦那様!」
サリー、に……。
私を、支えてくれたメイドに……お父様が指示を出す。
そう、ね……もう、私に……この場にいる、気力は……ないから……ちょうど、いいかもしれない……。
そして私はサリーによって大広間から連れ出され、自室に運ばれようとした……その時だった。
突如、宴の会場であった大広間から悲鳴が上がった。
それも一つじゃない。まるで合唱であるかのように多種多様な悲鳴が、時間差で私達がいる……自室がある二階へと続く階段の踊り場まで聞こえてきた。
「ッ!? いったい何が? ……メアお嬢様、そこを動かないでください。ですが一分経っても私が戻らない場合は……すぐに玄関からお逃げになってください」
その悲鳴を不審がったサリーが、私を階段の踊り場へと座らせ、そしてスカートの中に隠し持っていた短剣を手に大広間へと、慎重に、ゆっくりと進んでいった。
さすがは、お父様が見つけてきた逸材。この国の諜報機関に配属されていた元諜報員。敵に足にケガを負わされ、それが原因で素早く移動できなくなり、退職する事になったらしいが、だからと言って戦えなくなったワケではない。
…
サリーが大広間へと、こっそり入り込んでから一分。
彼女は戻ってこなかった。
まさか、サリーまで“何か”に巻き込まれたの?
い、いったい大広間で……何が起こったの?
ロッソ様がミアに詰め寄った事、そして大広間で起こった“何か”……予想外の事が連続して起きて。混乱のあまり、私はその時……サリーの指示の事をすっかり頭から消し去っていた。
それよりも、家族は、サリーはどうなってしまったのか。
どうしても気になってしまって。
私は、震える体を必死に押さえつけて。
そして、大広間へとなんとか近づいて……ドアを開けて…………驚愕した。
大広間はほとんど赤く染まり、鉄臭いニオイを放っていた。
卓上には、宴で出された高級料理と共に、血みどろになった王侯貴族の方々――ロッソ様までも――がのっていた。
全員、青い顔をしている。
一人も……ピクリとも動かない。
よく見れば、全員が、体のどこかを刺されたり、斬られたりしている。
服に穴や裂け目があり、そして、目で見える限りでだが……そこから血が流れているように見える。
い、いったい何があったっていうの!?
ま、まさか……賊がこの屋敷に侵入したとでも!?
恐ろしい想像が私の中を駆け巡り、血の気が引いた。
だ、だとしたら私は早く……サリーの言う通り逃げなければならない。
で、でもミアは!? お父様とお母様は!? サリーを始めとする、この屋敷を守ってくださっている使用人のみんなは!?
大切なみんなの安否が気になってしまい、そこから動け、な……い……?
そこで私は、信じられないモノを見た。
視線の先は、大広間の片隅へと向けている。
そして、そこには……食事用のナイフを。
血で赤く染まったドレスを身に着け。同じく血で染まったナイフを手にした……私の妹がいた。
ワケが分からなくて。
頭が真っ白になって。
思わず「ひっ」と、息を大きく吸って……声を出してしまった。
もしや、ミアに……ナイフを握り締めたまま、大広間の片隅に立っている、見るからに異常な状況下にある彼女に聞こえてしまったのではないか――その可能性に思い至った私は、反射的に、逃げ出していた。
怖かった。
いったい何が起こったのか。
そしてなぜこうなったのか。
ワケが分からなくて。ロッソ様の真意を察した時以上に私は悲しくなって。さらにはそれ以上に……ミアが怖くなって。
玄関から逃げればいいのに。
逃げる事に夢中で、屋敷の構造を頭から消し去っていて……うっかり二階へ。鍵をかけられる、二階の部屋の一つ……お父様とお母様の部屋へ逃げ込んでしまい、そして――。
□
――私は、絶対に見つからない場所に隠れた。
今までミアと、何度も屋敷の中でかくれんぼをしたけど……今まで一度も彼女に見つかった事がない場所に。
だから今回も、彼女には見つからない自信がある。
大丈夫。彼女はきっと、諦めて家の外へと出ていく。
それを窓から確認し次第、私もすぐに家の外へ逃げる。
そして、この国の騎士団に……ミアを止めてくれるように頼むのだ。
そうすれば、全部解決する。
うん、大丈夫……今度も絶対大丈夫。
何が起こったのか分からないけど……お父様と、お母様は……死んで、しまったけれど……でも、また……私と、ミアは……やり直す事がd――
「――おねえさま、みぃつけた♡」
しかし、私の希望は。
ミアに見つけられた事で……粉々に砕け散った。
※
「おねえさま、こんな所に……今までも隠れていたんですね。わたし、全然気づきませんでした♡」
明かりが消えた、お父様とお母様の部屋。
その部屋の片隅の……床全体を覆う絨毯の裏側。
そこにおねえさまは隠れていた。
なるほど。確かにこの部屋を暗くしたままだと、パッと見ただけでは、部屋の片隅の絨毯がちょっと盛り上がっていても気づきません。
さすがはおねえさま。
もしも、おねえさまの心臓の鼓動が聞こえなければ。
そのまま、今までのように、この部屋を無視していたかもしれません。
「…………あ、なた……だれ?」
わたしがおねえさまの事を、改めて尊敬したその時。
おねえさまはわたしを見て、本気で怯えながら……そんな疑問を口にした。
ああ、そういえば。
入れ替わったままだったっけ。
「ミアですよ? おねえさまの妹にして、正反対の性格で有名な……あなたの本当の妹の方のミアです」
「な、何を言って!?」
「………………実はわたしは、つい先ほどまで、わたしの守護霊であった、わたし達の弟となるハズだった子に体を預けて眠っていたんです」
「……………ぇ……?」
「あの子が、流産してしまった時からですね。わたしは、あの子の幽霊に話しかけられたんです。『生きたかった。お姉さま達と、一緒に生きたかった』と。わたしには痛いほど、あの子の気持ちが分かりました。だってわたしも、おねえさまが大好きなのですから。何を犠牲にしてでも、護りたいくらい大好きだから……そしてそんな可愛い弟の願いを、姉として叶えないワケにはいかない。だからわたしは宴が始まる前まで、守護霊でもあったわたし達の弟に体を貸していたんです。ですがその弟君がつけた、この……外れなくなった腕輪」
そう言いながらわたしは、おねえさまへと、弟君がつけてしまった、叔父様がお土産としてくださった……錆びついているのか、もう留め具が動かなくなっている腕輪を見せた。
「どうもこれは、霊的存在との繋がりを遮断する……一種の結界を展開する術式が込められた魔道具のようですね。もしかすると、除霊した後につけるモノだったのかもしれません。そして、そのせいで……弟君との繋がりが……幸いにも、この腕輪が経年劣化していたのでしょう。時々で、済んでいますが……どうも、繋がりが断たれてしまって……それで、そのまま宴に参加して……その間に、弟君に体を貸していた間の記憶が脳裏を過って…………………………あの女たらしが私に触れた瞬間に、虫唾が走って――」
「――邪魔するみんな共々、勢い余ってころしちゃった★」
※
私の妹は……私の、目の前で、饒舌に喋りながら、邪悪な笑みを浮かべる、彼女は……いったい何を言っているのか。
その、内容は、かろうじてだけど、理解できる……けど同時に、それを理解したくない、私がいた。
お母様が、私達の弟となるハズだった子を流産してから、私が……今までずっと接してきたのが、実はミアに取り憑いた弟の幽霊で……。それで、お父様とお母様と、サリーを始めとする使用人達、そしてロッソ様と、来賓である王侯貴族の方々を殺したのは……今、目の前にいる……本当のミアで……。
「そ、んなの……信じられる、ワケ……」
「別にいいよ、信じてもらえなくても★」
しかし、私のその思いを。
ミアは、あっさりと一蹴した。
「もう……わたし達は自由なんです。わたしが、わたし達の全ての枷をぶっ殺したのです。だからもう、おねえさまは……あんな女たらしのゲス野郎なんかのために勉強などをしなくてもいいんです。これからは、わたしと、弟君の三人で……いつまでも仲良く、ずっっっっと……一緒に暮らしましょう♡」
そして、ミアに手を差し出されて……。
その瞬間。
私は今日最高の怖気を抱いた。
この国の重要人物達を、ミアが殺害してしまった今。
この国は、もう国として成り立たなくなっていくだろう。
もしかすると近い内に、隣国の介入があるかもしれない。
この国の領土を奪おうと、侵略しようと考える国も動くだろう。
そうなれば、この国には必ず戦争が起こる。
その前に、私達は……生き残りたいならばこの国を脱出しなければいけない。
だけど、それはすなわち……ミアと……この“大量殺人鬼”と一緒に暮らす事を意味していて。
今のところ、私への殺意はないけれど。
いつ、どんなキッカケで私を殺すか分からない。
でも、それが怖いからと言って……騎士団に突き出すのは得策ではない。
もしも突き出せば、その瞬間に……おそらくミアは抵抗して、多くの被害が騎士団に出るだろう。いや、それ以前に隣国がその時に動いていればミアに構っている暇はない。それにこの国から脱出する場合……今の状態のミアほど頼もしい者は、いない。
そう思うと……私は、とても彼女を、騎士団に引き渡せなかった。
罪には、罰なのに。
ミアに、罪を償わせたい……その思い以上に……ミアが、とても恐ろしく、得体が知れないモノに見えて……とても、怖くて……私が、本来ならば果たさねばならない、貴族としての責務を果たせなくて……。
……………………弱い私は、おずおずと、ミアの手を取った。
「フフフフ。これから愉しくなりますね、おねえさま♡」
そして、私は。
私の知らない“何か”へと変容した妹と一緒に。
新たな世界へと旅立つ事になった。
隠れ場所:漫画『ロケットマン』参照(ぇ
ミアという名前には『私のモノ』という意味があるそうですね(ぇ