第15話:勇者故
転生を繰り返していると、うれしい知らせを耳にすることがあった。
魔族と人間が一緒になって街を作ってるというではないか。
しかし、その噂を耳にしてほどなく、その街は戦火に飲み込まれていった。
大規模な戦闘が行われたガイアパレスにて、俺は一人の人物に出会った。
1匹の魔族が人間の死体を抱え、子供を連れている。
ボロボロで隠せていないその魔力のおかげで、俺はすぐに状況を理解することが出来た。
(人と魔族の子供だと・・・)
自分が描くどの種族も幸せである世界、未来の形をその子に見た気がした。
その思いが俺に剣を振らずに対話を促した。
「その子は・・・お前の娘か?」
俺のその一言から、魔族と俺は対話をすすめる。
向こうも何とか娘を守りたい一心の対応、お互いの思いは同じだったのだ。
誰にもばれないように、俺は子供を保護した。
俺とダリアは子供を持たなかった。
転生で何度も生まれ変わる身である、死ぬという概念がない。
なので、年を取った時自分の子供に対してどう接するかというのが問題だった。
真実を打ち明けるのか、死ぬという偽装をするのか。
どちらの場合も簡単に考えられることではなく、俺は足が重かった。
ダリアはそれを理解してくれていた。
そんな我々にとってレイアは奇跡の出会いだった。
あれだけ避けていた子供だったが、欲しくないわけではなく、俺もダリアもレイアのことを溺愛した。
本当の我が子のように全力で育てた。
(死ぬときは適当に旅の途中で死んだことにすればいい。)
将来の不安など忘れ、3人での時間を謳歌した。
レイアは立派に成長した。
もう一人前といっても差し支えない。
俺とダリアは一つ大きな仕事をやり遂げたのだ。
彼女が独り立ちするのはうれしさもあったが、寂しさも大きかった。
時を同じくして、魔族の活動が活発になっているとバッカスから便りがある。
俺とダリアはレイアを送り出したのち、魔族の活動について調査を始めた。
人魔戦争の後に生きている魔族がいたことにも驚きだったが、皆一様に隠れて生活していた。
問題を起こすような気配はなかったが、話を聞いて回るうちに不穏な影の存在を感じることが出来た。
魔族の間でも事件があったのだ。
行方不明になる魔族や正気を失い犯罪に走る魔族を調べていく中で、デーモンポーションの存在を知る。
王都の襲撃でどうにか現物を手に入れ調べると、そこには驚愕の事実があった。
(500年前のリックに似ている。)
そこからは調査も加速していったが、周りの状況も劇的に変化していった。
レイアたちの活躍は耳にしていたが、その度に何かが迫ってきている胸騒ぎがあった。
あの子が自分たちが追っている核心に肉薄している気がする。
そんな思いから、キーラやバッカス、レイアの父親の力も借りながら、俺たちは彼女のことを守っていった。
そして、1人の騎士が行方不明になる。
手分けして捜索するが一向に手掛かりはなかった。
俺とダリアだからこそ気づける何かがあるんじゃないか、そう思うと調査に終わりはなかった。
異変を感じたのはそんな時だった。
(この凄まじいまでの魔力は・・・魔王に匹敵するぞ。)
俺とダリアは顔を見合わせ一斉にその魔力の元へと駆けていった。
(もし魔王が復活していたとしたら・・・)
そう考えると、自分がここまで生きてきた意味があるような気がした。
今の世界でも魔王に勝てるレベルまで強い者はいない。
倒すとしたらそれは自分以外にありえなかった。
気配に近づくにつれ、見知った者たちの気配や他の魔族の存在も感じていく。
大きな脅威に皆で立ち向かっているようだった。
(この世界が大好きだ。それを仇名すものは全力で止める。)
迫る脅威の強さは尋常ではなかった。
とてもじゃないが誰も勝てないような力を持っている。
勝てるとしたら、それはこの世にただ一人しかいない。
自分が今日この日まで生きてくることが出来た理由、この逃れられぬ運命から逃げる気はなかった。
目の前で俺たちの弟子が、娘がボロボロになりながらも立派に立ち向かっている。
なんとも立派な子に成長してくれた。
その喜びをかみしめ、久しぶりに力を解放した。
「冥剣ー次元斬ー」
切り裂かれた異次元の狭間に眼前へ広がる魔力の塊が吸い込まれていく。
かつて魔王が愛用した技であり、我々も幾度となく苦しめられた。
問答無用で相手を無力化する絶技、何度も転生でき、成長率というギフトがある俺だからこそものにできた技だった。
対峙する怪物が驚き目を見開いている。
魔力の雰囲気からそれがダイムの成れの果てであり、全知の指輪と同化していることが見て取れた。
かつて親友であったリックがそうであったように、力を求めすぎた余り、囚われていったのだろう。
「500年経ってもやっぱりこうなるのか。・・・もともと自分が蒔いた種だ。全てを終わらせよう。」
俺がデータスフィアを作らなければ、俺が自分のことにかまけてないで残されたもののことを考えていたら、きっとこうはならなかったであろう。
自分の我がままによって作り出されてしまったこの惨状を自ら終わらせるべく、剣に再び力を込める。
(俺にダイムを裁く資格があるかはわからない。だが、自分が守るべきものを守る。・・・俺は勇者だから。)
お久しぶりです。
大変お待たせしました。
もうびっくりする程の仕事の忙しさでして・・・
今まで昼休みに書いていたんですが、寝る時間になっていました。
ある程度この話は書いた状態で放置していました。
なんとか完結させたい、その一心で再び時間を作って筆をとっています。
今更新できることに喜びをかみしめながら。
回想編終了です。
予定よりも大幅に長くなりましたが、書きたいなと思っていたことは出し切れたと思います。
転生ものの勇者って結構万能な人間になりますよね。
自分もそういう展開が大好きです。
なので、おおともももちろんそうしました。
でも、なんでもかんでもうまくいくなんていうのもないのがまた人生で・・・
もし自分が転生して、何もかもを手に入れることが出来たら、きっとこんな風になるんじゃないかなって思い、人物像を考えていました。
ある種自己満足でいろいろやると思うんですよ。
それがうまくいけばいいですが、きっとうまくいかない側面もあって。
それがこうやって問題としてあらわれてくることも大いにあると思います。
その雰囲気が描けていたら幸いです。
勇者おおともは設定から予想できるかたも多いと思いますが、作中最強です。
それも現世では圧倒的に。
もういよいよこの戦いも幕です。
最後びしっと決めてもらいましょう。
今回も読んでくださった方々ありがとうございました。




