第9話:新たな神
ジョシュアSide
バッカスの体が貫かれ、口から血が噴き出す。
「ぐふっ!」
裂け目からバッカスを指した張本人が出てくる。
(なんじゃあれは!?)
ダイムでもない、そもそも人でもない白い怪物が這い出てきた。
一番最初に動いたのはキーラだった。
彼女はバッカスが刺されてすぐから動き出しており、怪物のすぐ横まで迫っていた。
「竜王破爪撃」
彼女の腕が闘気を帯び、一回り大きく見える。
表情は怒りに満ちており、力いっぱいの一撃が放たれる。
怪物の顔面をキッチリとらえ、凄まじい衝撃音が響く。
しかし、怪物はそれを軽く手で止め、びくともしなかった。
「!?」
「ぬるいなぁ。」
そうつぶやく怪物の声はダイムの面影がほんのりと残っていた。
(あれはダイムなのか・・・次元の狭間で一体何があったんじゃ。)
こちらが声を発する前に、怪物が動く。
顔の近くにいるキーラのことを、爪で突き刺したバッカスごと薙ぎ払った。
衝撃波が起こり、周りの瓦礫とバッカス、キーラはまとめて吹き飛ばされる。
その腕の動きは目で追うのがギリギリなほど、高速だった。
2人は飛ばされた先で壁に激突した。
「バッカス!キーラ!」
思わず2人の名前を叫んだ。
ゆっくりとキーラが立ち上がるのが見える。
どうやら死んではいないようだった。
「・・・あなたはいったい何者ですか?」
ローエンがと問いかける。
怪物はゆらりと裂け目から体を表す。
人間の形を保っておらず、膨れ上がった上半身に魔族のような角や尻尾、羽を備えている。
バッカスを貫いた爪は鋭く、そして長くて立派であった。
「・・・神だ。」
「どういうことです?」
「俺が新たな次元を制する神だ!」
「なんじゃと!?」
「あなたはダイムなのですか?それともバロム、あなたなのですか?」
『残念ながらそのどちらでもないが、そのどちらでもある』
「!?」
その声の主は目の前の怪物からではなかった。
いや、正確には怪物の方からはしたが、その口から発せられていたわけではなかった。
右腕の鈍く輝く金属の手甲に口と目がついていた。
目は一つしかなく、充血している。
口も決してきれいとは言い難く、ひん曲がっている。
「それは・・・全知の指輪ですか。」
『ご明察。』
そう答えたときには、怪物はローエンの目の前まで移動していた。
「我らは一つになったのだ。」
怪物がそういうとともに、ローエンに向けて突きを繰り出した。
先ほど同様ぎりぎり目で追えるが、とてもじゃないが体が反応できる速度ではない。
それはローエンにとっても同じで、彼の肩口に爪が突き刺さる。
「ぐぅっ!」
怪物はローエンを突き刺したまま、壁に向かって突進し彼を叩きつけた。
壁を砕きながローエンは吹き飛ばされていき、地面に倒れ込んだ音がする。。
崩れた砂ぼこりでローエンの姿がほとんど見えないが、地面に倒れたまま動かないようだ。
(こやつら・・・3人が一体化したということか。)
元々ぎりぎり勝てたほど強大な相手だったのが、一体化したことでより力を増していた。
勝てるビジョンは全く見えなかった。
しかし、わしはひるまなかった。
「久々に死地に降り立っておるの。」
「随分と余裕だなジョシュア=バーネット!」
ダイムが今度はジョシュアに狙いを定めて近づく。
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ジョシュア=バーネットは元騎士団長である。
彼は史上最も長い期間騎士団長を務めた男だ。
若くしてその頭角を現し、20代のころから騎士団長になっていた。
当時の騎士団長は王国にとって最後の盾である。
現代のリンドベル姉弟のような能力は希少で、もちろん彼が若い頃はまだ2人とも生まれてもいなかった。
なので、王を守る最後の砦として騎士団長は存在していたのだ。
先々代王の時代、世はまだ戦乱が残っていた。
帝国や他の小国、族との争いに王が出ることは少なくなかった。
闘気溢れる猛将、先々代王は先陣を切って戦場に立っていた。
ペンタクルス王国は強国であったが、決してすべての戦に勝てたわけではない。
苦戦や惨敗もあった。
だが、どれほど大敗しようと、死地に追い込まれようとも、王の首はとられなかった。
猛将を守る鉄壁、大きな盾をとメイスがトレードマークの男はどれほどの傷を受けようとも倒れなかった。
男の防御、忍耐はいつしか逸話となり、そして戦乱のない世では忘れかけられていた。
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「闘気活性・・・”金剛の鎧”!」
ジョシュアの体が金色に光り輝く。
(見切れないのなら、最初から回避は捨てる!)
『こいつは硬ぇぞ!だが、命を削った守りだ。』
「では力で削り切ればいいんだな。」
「やってみるがいい、化け物よ。」
お互いがにやりと笑いながら見つめあう。
一瞬の静寂ののち、ダイムの猛攻が始まる。
ただただ、鋭い爪による連撃。
ジョシュアが動く隙を一切与えない、まさしく猛攻であった。
少しずつ、血しぶきが飛ぶのが見える。
金剛の鎧は確かに防御力を極限まで高めてくれる技である。
ただ、自らの命を防御に変換する技である。
鎧が削れること、それはすなわちジョシュア自身の命が削れることを意味していた。
体へのダメージは少しずつ、だが確実に表れていく。
血しぶきが一際大きく飛んだとき、ダイムが攻撃の手を止めた。
彼の目の前には体がボロボロになっている老人が立っていた。
指輪の力でダイムには鎧の耐久が見て取れる。
闘気が付きかけており、次の1撃で倒せることを確信していた。
「ギリギリ立ってはいるか。」
ダイムがそうつぶやいてジョシュアに一歩踏みよったその時、目の前の老人が地面を蹴って飛びかかる。
ジョシュアはダイムの見立ての通り、立っているのもぎりぎりの状態であった。
しかし、彼の培ってきた忍耐による、まさに根性の一手が放たれた。
「”復讐の破槌”」
両手で握られたメイスがカッと光りながら突き出される。
予見していなかったダイムにメイスが鋭く突き刺さり、体を貫通する。
「ぐうぅ・・・貴様!!」
「見えすぎて慢心したな愚か者。」
ダイムがすぐにジョシュアを突っぱねる。
ジョシュアはメイスごと跳ね飛ばされる。
体を貫かれたダメージに一瞬よろけたその瞬間、空から2つの影が飛来する。
「旋風切二連!」
「黒炎斬!」
レイアとダビドの斬撃がダイムを切りつける。
今回の話はかなり書き直しました。
流れは決めていたんですが、一つ一つの表現であったり、セリフとか、この話としての区切りにかなり悩みました。
今は納得してこうにしていますが、正解だったのかはわかりません。
すこしでも読んでくださってる方々に伝わっていれば幸いです。
まず、異能の神はダイムに成り代わりました。
だから何だって部分は特段出すつもりはないんですが、次元コントロールが出来るよになったとおもっていただけたらいいです。
魔法として。
出す予定ではいますが、がっつり出すかといえばそうではないです。
あくまでもサラリです。
ジョシュアの過去設定みたいなのは元々出すつもりなかったんですが、出したほうが少し説得力があるのかなと思いたしました。
何も説明なしでこれやらせると、なんでそんなタフなの?って話になるかなと。
いや、これ足してもなってるかもしれませんが・・・
一応そういう戦い方、生き方をしてきた人だということで。
その為の大盾を愛用する防御の人だったという感じです。
ダイムに再戦するために番外編で鍛錬を続けているともしましたしね。
おじいちゃんキャラってやっぱり強くないと・・・ね。
”復讐の破槌”は名前で察していただける方もいると思いますが、いわゆる受けたダメージ分威力が上がるやつです。
だから貫けたと思ってください。
今回も読んでくださってありがとうございました!




