第17話:友人殺し
呼び出す魔族はバロムという元四冥魔将の1人だ。
魔王を除けば間違いなく一番強い魔族の一角だった。
しかし、黄泉の鈴は魂を呼び対話するだけのもので、それ以上のことはできない。
そこで私は、強化ポーションを何度も使う過程で使えるようになった闇魔法に目を付けた。
色々実験していく中で、魂を別の肉体に憑依させなり変わらせる魔法を見つけ出したのだ。
すぐに私はバロムが依り代となれる魔族の体を用意した。
殺さないように全身を拘束し、首を切り落とした。
首を落としておかないと、バロムになり変わった後、この程度の拘束軽く吹き飛ばされてしまうからである。
ただ、落とすだけだと死んでしまうので、ある技を使用することにした。
冥剣ー次元斬、かつて魔王が愛用していた技である。
切ったものを次元の狭間に送ることができる不思議な技だった。
私は魔王討伐ののち、修行を重ねこの技を体得していた。
首から上を次元の狭間に飛ばすことで、体は復活させるが身動きはできない状態を作り出したのだ。
準備が整ったので、私は黄泉の鈴を使ってバロムを呼び出した。
「ー我、対話を望む。呼び起こさん亡者となりし・・・「バロム」ー」
鈴の音に応えてバロムが呼び起こされる。
私はすぐに魂をとらえる魔法を唱える。
「ー贄にてその魂を留めよ。ー”魂捕縛”」
「ん?貴様よく見るとあの時の勇者一向にいた」
バロムはそこまで言いかけて依り代へと飛ばされていく。
「な、なんだこれはああぁぁ!?」
バロムの魂が依り代に入ると、瞬く間に依り代は生前のバロムの体へと変化していった。
しかし、首から上がないためしゃべりもしなければ動きもしなかった。
私の実験は成功だった。
その後私はバロムの血を使って新しい強化ポーションを作り出した。
打つ前からわかる禍々しさから、その効果の高さがうかがえた。
私は迷うことなくそれを自分に打ち込んだ。
「こ、これは!?ぐぬぬ・・・凄まじいパワーだ!」
結果は予想以上だった。
バロムから得られた力はすさまじく、2倍近く強くなったといっても差し支えないほどだった。
撃ち込んだ直後は体への負担が大きく、思わずうなってしまった。
(この力があれば、もはや私にかなうものなど誰もいない! )
私は完全に自分が手に入れた力に酔いしれていた。
思えばこのころから、私はおおともとただ戦いたい、強くなりたいという気持ちから、おおともへの憎しみや憎悪に代わっていったように思う。
ラナの言った通り、自我が支配され始めていたのだろう。
そんなことは言い訳に過ぎないが、私は私でなくなりつつあったのだ。
無意識のうちに。
証拠を消すため黄泉の鈴を壊し、研究所には隠蔽魔法をかけた。
黄泉の鈴は魂を同時に複数は呼び出せない。
私がバロムを呼び出し、現世にとどめている以上、使えない状態なのだ。
それがバレないために、私は国宝クラスのアーティファクトを躊躇なく破壊した。
これで万が一見つかっても、バレることはないはずだった。
バロムの力を手に入れて劇的に強くなった私は、おおともの行方を捜した。
おおともは魔王討伐後、各地に散った魔族の処理や世話になった町々へのお礼や墓参りに世界中を旅していた。
共にはダリアという魔王討伐の旅で出会ったエルフの娘を連れている。
娘は私たちが命を救ってやってからずいぶんと懐かれてしまい、おおともが一番面倒を見ていた。
それゆえに、最後の最後まで共に旅をすると言ってきかなかったのだ。
おおともも最後には根負けして、連れていくことになっていた。
鍛えたのでダリアもそこそこ強いが、正直今の私には敵ではないと思えた。
そんなおおともを探している折に、私に声をかけてくるものがあった。
アイネスというドワーフだ。
彼女は魔王討伐のPTの1人でドワーフらしく豪快な性格の女だった。
短髪で男顔負けの肉体をしており、斧やこん棒を好んで使用していた。
純粋な戦闘技術も高く、魔法がない条件ならばおそらく私の次に強かったであろう。
性格的な面もあり、私やラナとは仲が良かった。
魔王討伐後は国で後進の育成に励んでいたようだが、たまに王都にやってきて声をかけてくれる奴だった。
彼女に呼び出されたのは、あたりがすっかり静まり返った夜だった。
「久々なのにこんな時間にすまないねリック。」
「気にするな。昔のよしみだよ。」
何気ない会話から始まったが、私は彼女にしては珍しい会い方だったので少し警戒していた。
「大したことじゃないんだが、少し気になる話を聞いてね。・・・リック、君は何か禁忌を犯していないかい?」
「急にどうしたんだい?」
「いや、少し噂話を来てね。君から放たれる魔力が怖いというものがいるんだよ。」
(少々大々的に行動しすぎたか・・・)
バロムの血を取り入れて以降、魔力が膨れ上がったのはいいが何もしないと禍々しい魔力が溢れてしまうようになった。
何とか人為的に制御するようにしていたのだが、魔力に敏感なものには違和感を感づかれていたようだ。
「あいにく私は魔法がからっきしだからね。直接確かめた方が早いと思ってね。確かに・・・こうして対峙すると君から放たれる気は依然の比ではないように思う。」
「・・・それでこんな夜中に呼び出したのかい?」
仮に彼女とここで戦闘になるとしても、今の私が負けることはないが誰かに見られていたら終わりである。
うかつには行動できないでいた。
そのために、情報を引き出す必要があった。
「それは本当にすまない。いや、正直に聞くには人払いしていた方がいいと思ってね。・・・実はマイナのように魔王と戦った時に呪いを受けていた、なんてことかもしれないと思ったんだよ。そんな話、もう20年もたった今あんまり人に聞かれたくないだろ?」
彼女はやれやれといった感じで笑いながら応える。
本当に気のいいやつである。
裏表がなく、打算的な部分がない。
そういうところが私もラナも好きだった。
だから、この言い方をしてきたということは・・・彼女は紛れもなく1人だった。
「君には隠し事はできないねアイネス。実はそうなんだよ。最近になってから体に異変を感じていてね。」
「やはりそうだったか!君の立場だとそれを打ち明けるのも簡単にはいかないよな。大丈夫だ、他言はしない。友人として当然だろ。」
彼女は任せておけ!といわんばかりの笑顔だった。
友人として、自分のことを全く疑っていない目だった。
アイネスは打算的ではないがバカではない。
おそらく下手な受け答えをすると追及してくるはずだった。
今や剣聖である私にこんな正面から疑問をぶつけてくるものなどいなかった。
故にアイネスは少々厄介だったのだ。
正直に異変があると答えたが故に生まれた隙、私はそれを見逃さなかった。
「ありがとう・・・アイネス。」
私は彼女からの返事を聞くことはなかった。
私が言葉を放ったのと同時に、私の剣が彼女の首をはねていた。
バロムによって強化された肉体から放たれる一撃は、彼女すらも反応できない速度になっていた。
(初めて本気で切ったが・・・ここまで強くなれているとは!)
友人を殺した私に最初に出て来た感情は、後悔でも謝罪でもなく、強くなった己に対する陶酔の気持ちだった。
私は彼女の死体をそっと研究所へと持ち帰って隠した。
やっぱり3話は日記編かかりますね。
全然収まらなかったです。
普通に長くなってしまいました・・・
面目ねぇ。
書き出すと面白くて止まらないんですよね。
難産に比べたらいいことなんでしょうけど、器用ではないな~と自分で思います。
今回はリックがどんどん闇落ちしていきます。
まあいうほどでもないと思う方もいるかもしれませんが、もともとすごくいい人だったんです。
ええ。
アイネスを殺すのは元から決めていました。
ただ、殺し方は変更しています。
元々はアイネスは真実を知って死んでもらう予定でした。
しかし、そんな簡単に打ち明けないでしょ!って思い、路線変更しました。
登場シーンの少ないキャラで、個人的にはとても申し訳ない役をさせていると思っています。
私に絵の才能があったら書いてあげるんですけどね・・・
ガイアにとても似ていたと思っていただけたら幸いです。
違うのは主に髪の長さで、短髪のムキムキドワーフって感じですね。
いよいよ次回リックはおおともと再開します。
リックVSおおともはもうどういう結論にするかは前から考えていて、決着のつけ方も決めてましたのでその通りに行きます。
自分が最初に構成していた通りで。
一つ言えることは、この戦いはそんなにメインじゃないってことですね。
今回も読んでくださった方々ありがとうございました。




