第11話:敵の正体
ジムSide
アークさんの話は衝撃の連続だった。
元四冥魔将というのに始まり、勇者から生き延びていたこと・・・上げたらきりがない。
ただ、引っかかることもあったのだ。
「それなりに僕も知識はあるつもりです。ガイアパレスなんて街、聞いたことないです。」
別にここまで来てアークさんのことを疑っているわけではなかった。
それでも、どの文書でも見たことのない単語だったので、嘘の可能性が頭によぎった。
「無理もないよ。ガイアパレスができて間もなかったのもあったけど、魔族だけじゃなくて人間も大勢死んだ戦争だった。王国は隠したんだよ。全てを隠すことはできないから、魔族との戦争があったという事実は残してね。」
「情報統制ってことですか?」
「そうだね。みんな王国の方針に従ったということさ。・・・ラナ=ジルコニアが生きていたら、きっと反抗して真実を載せた本を出版していただろうね。」
「そ、そんな人だったんですか?」
「彼女ならやっていたよ。間違いなくね。」
少し寂しい気持ちだった。
おそらく人魔戦争以外にも、ラナ=ジルコニアの死後に作られた文章では同じことが起きている可能性がある。
その事実が悲しかったのだ。
「さあ、時間を食ってしまったね。レイアを探しに行こう!」
アークさんが私たちを促す。
「この事実を話したということは・・・アークさんはここから出たらレンさんに殺されるんですか?」
「え!?」
「・・・そうなるだろうね。でも、こうするしかなかったよ。おそらく僕がアークのままじゃ、助けることができないと思う。」
アークさんが遠くを見つめる。
「・・・彼は強い。」
「!?わかるんですか?」
「地下に入ってから、魔族特有の魔力を3つ探知している。ここが一番大きいところだった。残り2つは・・・おそらく同じ部屋だね。」
「じゃあ行こう!」
「1つはレイアだけどもう1つは・・・」
アークさんの表情が険しい。
「そんなにですか?」
「悪いが部屋に入ったら、君たち2人はレイアを助けることに専念してくれないか。・・・僕が相手する。」
アークさんの真剣な表情が、この後の強敵との戦いを予感させた。
「わかりました。じゃあ行きましょう!」
「ああ、行こう!」
「行こう!」
アークさんに連れられて、廊下を進んでいく。
アークさんが魔族の魔力を感知している部屋の前にやってきた。
「当然だが、向こうも気づいてるからね。・・・いくよ。」
そういって部屋の扉を開けて中に入っていった。
「これはこれは予想外の人物だったな。よく来たね3人とも。」
「なっ!?」
僕はそこで待っていた人物に驚愕した。
「やはりお前だったのか、クレイ=スローン。」
「名前を知っていてくれてうれしいよ、アーク=バトン。」
二人の間に微妙な空気が流れるのを感じる。
2人は知り合いだったということか?
それにアークさんが検知していた魔力・・・クレイ=スローンは魔族ってことなのか?
僕の頭に一気に疑問が沸き上がる。
「レイアちゃん!」
「2人・・・とも・・・」
横にはレイアが台に縛り付けられていた。
何本も管が通っており、血を抜かれたのだと想像できる。
サクラがレイアの元へ駆け出す。
「サクラ待て!」
僕も慌てて後ろを追う。
「そんな簡単にさせるわけなかろう。」
クレイがこちらに手を向けて魔法を放とうと動作したその時、アークさんが一気に距離を詰めてクレイの手をはじく。
「それはこちらのセリフだ。ー焼き尽くせー”黒炎”」
「これは!?」
アークさんの両手から黒い炎が噴き出し、クレイに襲い掛かる。
「ぐあああぁぁぁ!」
クレイが叫びながら転げ落ちていく。
その隙に僕たち2人はレイアの側までやってきた。
「今助けるぞレイア。」
「2人とも・・・ごめん・・・私・・・」
「何を謝ってるんだ。気づかなかったのは君だけの責任じゃない。」
「違う・・・私・・・2人をだましてた・・・私・・・人間じゃない・・・」
レイアは大泣きしながら、自分が魔族とのハーフであることをカミングアウトしてきた。
僕たち2人を裏切っていたと、自責の念でいっぱいになっていたようだった。
(本当に君ってやつは・・・)
きっとこのとき僕だけじゃない、おそらくサクラの反応も決まっていただろう。
「ああ、知ってるよ。それがどうかしたのかい?」
「・・・へ?」
「例えそうだったとしても・・・君は君だろう?なら、別にいいじゃないか。」
「え?・・・え?」
「レイアちゃん!・・・これからも、何があっても友達だよ!約束したじゃん!」
「!?」
レイアは目に涙をいっぱい貯めて押し黙った。
僕たち2人のことを真剣に見ている。
僕とサクラは普段一緒に過ごしているときと同じように、優しく笑いかけた。
「さあ帰ろう。みんな待ってる。」
僕とサクラがレイアの拘束を解き始めたとき、後ろから爆発的に魔力が膨れ上がるのを感じた。
急いで振り返ると、アークさんから受けた黒い炎が消え、全身真っ黒になったクレイが空き瓶を片手に立っている。
(あれは・・・デーモンポーションか。)
「そんな簡単に逃がすわけないだろ!お前たち・・・改良型の力をとくと見るがいい!」
クレイの体がどんどん膨張していく。
ただ、カインの時と同様、通常のデーモンポーションとはわけが違うようだった。
むしろそれ以上だった。
クレイの体は肥大しきって、醜い肉塊のようになっていた。
「改良型に体が耐えられていないようだね。いくら魔力があっても、それじゃあ戦えないだろう。」
「・・・ソレハドウカナ。ー焼キ尽クセー”黒炎”」
「なっ!?ー焼き尽くせー”黒炎”」
クレイの目の前に魔法陣が急に浮かび上がったかと思ったら、先ほどのアークさんと同じ黒い炎が襲い掛かる。
アークさんも同じ技で返し、お互いに相殺される。
「体ハ醜イガ魔力ハ十分ダ。・・・久シブリダナ~ダビド。」
「・・・久しぶりだなバロム。」
勝者が歴史を作る、ということでガイアパレスがい亜マンで出てこなかった理由を出させていただきました。
ここまでの間王国のゴア王をいい王として描いてきておいてこれかよ!と思われるかもしれませんが、実はこの話が出てきてから1回も王国の王がゴア王だったとは書いていません。
ゴア王が就任してからの期間も実は出てきていません。
あったのはジムが学校に行く直前の改革時には即位していたという情報だけです。
ということで、一応設定上はゴア王の前王の時代です。
なので、少々厳しい政策が行われていたということに・・・してください。
今回のラストで察する方もいるかと思いますが、アークが察知していたのはバロムの魔力です。
クレイ自身は魔族ではありません。
デーモンポーションを使用していく中で、バロムの魔力を吸収し、バロムにかなり精神支配され始めているからという設定です。
クレイとアークが出会った最初のあの瞬間、お互いにダビドとバロムとして話しています。
クレイは自覚はありませんが、もう相当バロムとして動いています。
その辺は12話で具体化されてきますので、少しお待ちください。
レイアに関してあっさりだな~と感じられるかもしれませんが、まだレイアはアークが自分の父親だと知りませんので。
もう1イベントありますので、お待ちください。
その時は久々にレイア視点で書かせていただきます。
今回も読んでくださった方々ありがとうございました。




