番外編6:スレインを名乗るとき
キーラSide
これは帝国が滅びるほんの少し前の出来事。
私は砂漠のとある国を旅していた。
久しぶりにある人と待ち合わせをしているからだ。
「お、いたいた!キーラ、久しぶりだな!」
「レンさん!!」
「お、おいおい。」
私は久々の再会があまりにも嬉しくて、レンさんに抱き着いた。
困惑させてしまったようだが、本当に久々だったのだから仕方ない。
(もう5年以上会っていなかった気がする・・・)
レンさんは年齢こそそこそこ言っているはずだが、すごく若々しく見える。
恐らくダリアさんの影響だろう。
私はあたりを見回す。
「あれ?今日はダリアさんは一緒じゃないの?」
「ああ、ちょっとね。この国にはいるんだが、別の用事を済ませているよ。」
「ふ~ん・・・そうなんだ。」
私は会えない悲しさと、レンさんと2人っきりでうれしい気持ちとで複雑だった。
ただ、勝っていたのはうれしい気持ちだ。
これまでの旅で話したいことはたくさんあった。
「あのねレンさん!私色々旅したんだよ!」
「だろうね。お前の名前は本当にいたるところで聞くからね。立派になっておれも鼻が高いよ。」
レンさんが誇らしそうに笑う。
この人に出会わなかったら・・・おそらく私はもう生きていなかっただろう。
そういう意味ではどれだけ感謝しても足りなかった。
レンさんと話すとついつい昔を思い出して話方が幼くなってしまう。
あんまり子供に見られたくなかったので、少し嫌だった。
「ちゃんと鍛錬は続けているか?」
「もちろん!なんてったってランキング3位だからね!」
「そうだな~本当にすごいことだよ。こりゃもう俺じゃあ太刀打ちできないな。」
(そんなことない。)
私は心の中でだけそうつぶやいた。
確かに私はランキングで3位になった。
レンさんは12位、ダリアさんでも7位だ。
世間はみんな私の方が強いと思っている。
でも、私には全くその実感がなかった。
それは小さい頃から2人の戦い方を見ていたからもある。
2人が本気で戦っているところを、私はこれまで1度も見たことなかったのだ。
いつも誰が相手でも、2人は圧倒的だった。
そして、それは相手が弱かったからじゃない。
今自分が強くなってから対峙してわかる。
(・・・全く読めない。隙がなさすぎる。)
先ほどからレンさんにもし攻撃するなら、そう考えてみていた。
しかし、どこから攻撃しても、私には攻撃を入れられるビジョンが見えなかった。
「・・・どうした?」
「いや、何でもないですよ。」
私があまりにもまじまじと観察するので、怪訝な顔をされてしまった。
(今はレンさんとの時間を楽しもう!)
私は気持ちを切り替えて、これまでの旅で起こったいろんな出来事を話した。
レンさんはにこにこしながら「うんうん」と相槌を打ち、時には一緒に笑ってくれた。
楽しい時間はあっという間で、気づけば辺りは日が落ちて薄暗くなっていた。
するとレンさんが真面目な顔で切り出した。
「今日会う約束をしたのは、お前に頼みがあったからなんだ。」
「・・・わかってますよ。それぐらい。」
「純粋に会うためだけの約束じゃなくてすまない。」
「私は!会えただけで満足ですよ。」
申し訳ないなんて思ってほしくなかった。
どんな理由であろうと、自分を頼ってくれることがうれしかった。
「そういってくれると、助かるよ。」
そう言ってレンさんは今回の訪問の理由を教えてくれた。
近々帝国と王国で戦争があること、そして帝国への潜入メンバーに私が選定されることを聞いた。
「・・・それを受けてほしいってことですか?」
正直レンさんから出なければ絶対に受けない話だった。
私はこれまでどこの組織にも属さないでやってきていた。
それは私のポリシーだ。
奴隷として迫害されてきたからこそ、公平に分け隔てなく行動するためのことだった。
「端的に言えばそうなんだが、王国のためにじゃない。」
「じゃあ、なんでですか?」
「・・・妹弟子を、レイアを守ってやってほしい。」
「!?」
レイアのことは知っている。
何せ人魔戦争後2人のもとを離れるとき、その場にいたのだから。
まだまだ幼い子供であり、戦争のショックでろくにしゃべれないような子だった。
師匠の弟子になって、その後レイア=スレインと名乗るようになったのは風の噂で知っていた。
一瞬レンさんが守ればいいのでは?と思った。
しかし、すぐにその考えを改める。
それが出来るならわざわざこうやって頼みにこない。
レンさんは私がフリーでやっている理由をきっと理解している。
昔からそういう面はものすごく察しががいいからだ。
理解したうえで私にしか頼めないのだろう。
(だったら答えは決まってるよ。)
元より今日は何かを頼まれると思っていたし、レンさんからなのでOKというつもりだった。
私が恩を返せる方法はこんなぐらいしかなかったのだ。
「わかりました。受けますよ、その話。」
「・・・おれはずるいな。キーラが断りづらいことをわかってこうやって頼むんだから。」
「そうですね。レンさんはずるいですよ。でも・・・私はレンさんの頼みなら魔王だって倒しますよ!」
「おいおい・・・」
私は笑いながら答えた。
「一つだけ約束してください!」
「・・・なんだい?」
「その戦いが終わったら、今度は何の用事もなく会ってください。私に会うためだけに探してきてほしいです。」
「・・・わかった。約束するよ。だからキーラ・・・自分自身も死ぬんじゃないぞ。」
「ふふふ、私はレン=スレインの弟子でランキング3位ですよ?任せてください!」
「油断大敵、それだけは忘れるなよ。」
「はい!」
そういって私はもう一度レンさんに抱き着いた。
レンさんはまた慌てていたが、難しい頼みをした後だからか観念してされるがままだった。
任せてください、心の中でそうつぶやいた。
離れた後、私は後で自分で恥ずかしくなるような、いたずらな笑顔でレンさんを見送った。
レンさんと別れてしばらくして、私は大通りから外れて路地裏へと入る。
少し歩いてから立ち止まる。
「気を使ってくださってありがとうございます。」
「あら、そんなつもりはないわよ。本当に用事があっただけだから。」
振り返るととそこにはダリアさんが立っていた。
「ダリアさんもお久しぶりです。」
「ええ、久しぶりねキーラ・・・本当に大きくなったわね。」
ダリアさんが優しく微笑んでくれる。
私はゆっくりとダリアさんに近づき、抱きしめた。
ダリアさんも優しく抱きしめ返してくれる。
「嫌だったら断ってもいいのよ。」
「大丈夫です。・・・もう決めましたから。」
「必ず、生きて帰ってくるのよ。」
「・・・はい。」
ダリアさんの優しさに心がジーンとする。
やっぱり私は2人のことが大好きだった。
「お願いはてっきりキーラ=スレインって名乗らせてほしいとかいうのかと思ったわ。」
レイアさんの言葉にきっと顔を引き締める。
2人のことは大好きだけど、これは話が別だった。
「いいんです。それは今名乗ると違う意味になるので。」
「・・・なるほど。そういうことね。」
私はダリアさんから距離を取って指をさして宣言する。
「ダリアさん!私2人のことは大好きです。でも・・・絶対に諦めません!負けませんから!」
「ふふふ、望むところよ。」
ダリアさんは余裕たっぷりの笑顔だった。
そりゃそうだ、2人は私が知り合うよりも前からの知り合いだ。
ずっと共に行動をしている。
強敵なんてものじゃない。
でも、この戦いだけは絶対に諦めるつもりはなかった。
「じゃあ・・・また会いましょう!」
「ええ・・・元気でね。」
そう言って私はダリアさんの前から去っていった。
「モテる男はつらいわね。」
ダリアがキーラがいなくなった路地裏でいたずらぽく笑う。
「そう思うなら焚きつけないでくれよ。」
後ろからレンが表れて応える。
「キーラを泣かせたら承知しないわよ。まあ浮気も許さないけど。」
「おい、無茶いうなよ。」
「ふふふ、がんばれ~」
ダリアはこの状況を楽しんでさえいた。
またこんな会話が出来ることを心から願っていた。
キーラが無事に帰ってくることを、彼女はこれから祈り続けていく。
レイアがスレインを名乗っているのに、姉弟子であるキーラが名乗っていない理由として書かせていただきました。
キーラとレンは結構年が離れています。
イメージ的にはぎりぎり20歳離れていないぐらいです。
そんな年齢差ないな~って私も思うんですが、世の中にはそれ以上の年齢差のカップルや夫婦がいます。
0じゃないんですよね。
さらにキーラは小さい頃助けられて、その後世話されていく中で、そういう気持ちが大きくなったと思っていただけたら。
なかなか共感はできない部分だと思います。
現に私もそうです。
でも・・・よくある展開じゃないですか。
それは大好物です。
ここで初めてレンとダリアがそういう関係だと明言したかもしれません。
いや、普通に考えるとそうでしょって感じなんですが、一応作中でもある程度はっきりさせておきたいので。
これは番外編でしたが、きちんと本編でもこれは触れます。
今の予定は5章にて触れる予定でいます。
今回より詳しくね。
なので、そこまで待っていただけたらと思います。
今回も読んでくださった方々ありがとうございました。
次から第4章に入ります!
楽しんでいただけるように頑張ります!




