第24話:友達のために
「え?」
私は彼女が言って言葉の意味がすぐに理解できなかった。
「だってあり得ないだろ。デーモンポーション飲まずにその回復力!そもそも最初から変だった。それになんだその見た目は!」
「・・・なにを言ってるの?」
私は混乱していた。
(私が魔族ってどういうこと?回復力がすごい?見た目?いったい何のこと?)
私は無我夢中で戦っていたため、彼女の言葉の意味がさっぱりだった。
混乱していると、彼女はその隙を見逃さなかった。
「隙あり!”封雷呪牢”!」
彼女がそう唱えると、私の周りに雷の鎖が表れて体に巻き付いていく。
私が動揺さえしていなければ、おそらくたやすく弾くことが出来ただろう。
しかし、今は反応が明らかに遅かった。
私はいとも簡単に縛り上げられ身動き一つできない状態にされてしまった。
鎖の締め付けはとても強く、窒息しそうに苦しい。
「ぐうう・・・こんな・・・もの・・・」
力を入れるがびくともしない。
鎖を体を縛り上げるときに私の体をねじり上げており、力が入らないようになっていた。
「はあ・・・はあ・・・うまくいったな。これで勝負ありだな。」
そう言って彼女は両手を天に掲げる。
水が次々に生み出されて生き、彼女の上部で何かに変形していく。
「”水魔召喚 クラーケン”」
大きな水は巨大なイカの形へと姿を変えていく。
元々の水も魔力を秘めていたが、形が形成されると一気に魔力が膨れ上がる。
恐らくこの怪物自体が持つ魔力が表れたのだろう。
「お前のことは調べさせてもらうよ。死んだ後にね。悪いが回復はできないぞ。さぁやるよ!」
彼女がそう合図すると怪物が一気に魔力を溜め始める。
彼女一人の時にとは比べ物にならない魔力量が怪物の口元に集中する。
あまりの魔力量と凝縮された度合いの強さから口元の球体は黒く、深い深い色になっている。
(あんなの食らったら・・・)
想像するだけで恐怖する。
でも、諦めないと決めた。
最後まであがいて見せると。
私は全力で鎖を引き千切りにかかる。
「だあああぁぁぁ!」
鎖がぎちぎちを音を立てて軋む。
「無駄なんだよお!撃てぇ!」
黒い球がはじけて、凄まじい速度で水が迫ってくる。
私は死を覚悟した。
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サクラSide
私は目が覚めたとき、目の前の光景が信じられなかった。
レイアが相手を圧倒していた。
一瞬うれしかった。
でも、彼女の様子をみて愕然とした。
目が赤く光り、纏っている魔力が変容していた。
王城で戦ったベックやデーモンポーションから感じたあの禍々しい魔力をまとっている。
そして何より・・・背中にはうっすらと羽のようなものが見えていた。
気絶していたから見間違えただけだと自分に言い聞かせた。
でも、何度見ても、目をこすってもそれは変わらなかった。
(レイアちゃん・・・それはいったいなに?)
私は混乱していた。
そうやって悩んでいる間にも2人の戦いはどんどん激化していく。
ハヌの攻撃を真正面から受けて、ダメージを追っても彼女はすぐに回復していた。
そのあまりにも異様な光景に、私は少し怖くなっていた。
私がそんな気持ちになっているとき、ハヌから思わぬ一言が聞こえた。
「・・・お前・・・まさか魔族なのか?」
私の中で何かがつながった。
今のレイアの変容の仕方、魔力の質や回復力、それはデーモンポーションを使ったときに酷似していた。
彼女がデーモンポーションを飲むとはにわかに信じがたかったし、その後のハヌの発言からもただデーモンポーションを使っただけとはわけが違うようだった。
レイアが魔族である、全く予想もしなかった事実に私は動揺していた。
魔族は500年前、魔王が打ち滅ぼされたときにほとんど全滅している。
一部残ったものもいたようだが、その後私が小さい頃に起こった人魔戦争にて打倒されているはずだった。
人魔戦争は私が物心ついたときにあったため、魔族のことは否応なしに教えられていた。
残忍で、獰猛で、人間を憎んでいると。
再び魔族が反映するために、人間を滅ぼそうとした、人魔戦争もそれが原因だっといわれている。
実際に魔族を見たことはなかったけど、恐ろしくて怖い種族なんだと子供ながらに認識していた。
自分の一番の友達だと思っていたレイアが魔族かもしれない。
その事実は私にとってはあまりにも衝撃だった。
もしかしたらレイアは人間を憎んでいたのか?
私たちのことも殺したいと思っているのか?
不安な妄想が脳裏によぎる。
(でも・・・私にはレイアちゃんがそんなこと思っていたなんて信じられないよ!)
レイアと過ごした日々を思い出す。
彼女の笑ってる姿、悲しんでいる姿、怒っている姿・・・どれも取り繕っているようには見えなかった。
きっとレイア自身も知らなかったのではないか?
それが自分の中での結論だった。
きっと彼女自身も困惑しているはずだ。
周りのみんなだって不安だけど、きっと一番不安なのはレイア自身なのだ。
自分はどうするべきなのか・・・レイアとの日々をさらに思い出していく。
一番最初に声をかけたのは自分からだった。
学校内でおろおろしている姿に思わず助け舟を出した。
彼女にはあまり友達がいないらしく、私たちは行動を共にするようになるのは自然なことだった。
でも、きっとそれも長くは続かないと思っていた。
何故なら私は友達が少なかった、正確にはみんな離れていったからだ。
元気づけよう、笑ってもらおう、そんな風に思った行動はいつも相手の気持ちを逆なでしていた。
きっとこの子もそうなると思った。
1年、2年と時がたち、それからもずっと私たちは一緒にいた。
彼女は私を嫌わなかった。
それどころか一緒に家に住むようになった。
兄弟が増えたみたいでうれしかった。
ずっと一緒にいたい大切な友達が私にもできたんだって思えた。
だから、ベック=ランドールと戦うときも、ハヌ=ラチェットと戦うときも私は前に出られた。
友達を守るためなら、私はどこまでも強くなれる気がした。
(レイアちゃんがもし魔族だったとしても・・・私にとっては大切な友達のままだよ。)
今までと変わらず、同じように接していこうと決めた。
ハヌが凄まじい魔法を放とうとしている。
レイアは鎖にとらわれており逃げられそうにない。
遠めに見ても直撃はまずい攻撃だった。
ジムの方を見ても反応はない。
助けられるのは自分だけ。
並の魔法じゃあれには意味がない。
自分の持てる最高の魔法を・・・自分が出せる最大のパワーを・・・
思いつくのはエルフの祝福での出来事だった。
・・・私の分身は氷魔法を使ってきた。
私が使えないはずの、バーバリア家の得意魔法だ。
どれだけ頑張っても自分には出せなかった。
姉や兄、両親も何度も何度も教えてくれたが、それでも発動させることが出来なかったのにだ。
キーラさんが説明してくれた、あの分身は祝福に入った時点での自分自身の完全なコピーだと。
(だったら・・・私だって必ず使えるはず!・・・ねぇマイナ様。私に友達を守る力を貸してください!)
サクラは自分の周りに、どこかあたたかい魔力を感じた気がした。
(今ならできる気がする・・・)
何度も家で教えられた、何度も物語で読んできた、マイナ=バーバリアが最も得意とした魔法を力いっぱい唱えた。
「ー時よ止まれ!ー”永劫凍結”!!」
反乱軍が一斉にカチドキを挙げる。
帝国兵が一斉に降伏する。
この反乱が成功したことが皆に知れ渡った。
皆の目にはっきりと見えたのだ。
帝国のシンボル、帝国城が氷漬けになったのだ。
まずはハヌ戦これにて決着です。
長かったですが、ここからはこの戦争の事後処理的な話を書いていくことになります。
最後の最後、これは当初から決めていましたがサクラの氷魔法の覚醒によって決着となります。
サクラが氷魔法を使えなかったのは、サクラ自身が必要に迫られていなかったからです。
当初設定(便利な言葉ですよね)として、サクラの先祖、魔王討伐PTとして構想しているマイナ=バーバーリアは当時の魔王戦で怪我を負っています。
一種の呪いで、魔法を封じ込められるものです。
それが最も得意な氷属性の魔法で、マイナは残りの生涯をかけて解呪に取り組みます。
結果、ある条件さえ満たせば発動できるようになりました。
発動条件は「大切な人を守ること。」
姉のリサは弟たちを守るため、兄のガンツは家族を守るためという理由で発言しています。
しかし、サクラは幼少期は末っ子で溺愛されていたこともあり守られる側でした。
その後も性格が悪く働いてしまい友達がいなかったので誰かのために力を使う機会がなかったのです。
その間氷属性を練習していましたがもちろん発現せず・・・
本人が諦めていたので、今度はレイアと知り合ってからも発言しなかったという形です。
サクラがエルフの祝福を受けたとき、自分にもやっぱり氷魔法が使えるはずだという気持ちの変化、そしてレイアを守りたい気持ち、この二つが重なったことで今回発現するに至ったという・・・作者の設定です。
この瞬間までの守るタイミングは?といわれると、そこまでサクラが頭まわっていなかったとしか言えないんですが・・・
後書でこうやって長々解説するの本来はダメですね。
書いていて自分で反省しました。
しかし、例えば番外編とかで書いてもここから先長いですよね。
そうするとなんで?ってもやもやがある状態なのは好ましくないなと・・・
なので、このタイミングで入れさせていただきました。
こういう設定解説みたいなのを入れなくて済むように、きちんと描き切るように注意します。
気を付けます。
今回も読んでくださった方々ありがとうございました。




