第20話:キーラの戦う理由
行く当てのなかった私は2人の旅についていくことにした。
2人もそれを勧めてくれており、私としてはまさに渡りに船だった。
子供の適応能力とはすごいもので、私は2人と旅をしているうちに両親を失った悲しみから立ち直っていた。
「キーラ!レン!そろそろ訓練やめて食事にしましょう!」
「「はーい!」」
2人の名前はレン=スレインとダリア=ルータムというらしい。
旅先で結構声を掛けられるところから、かなり有名人なようだった。
特にダリアさんはサインをねだられることも珍しくなかった。
また、子供の私から見ても2人は明らかに強かった。
そもそも野盗に出会わないように過ごしているのだが、それでも避けられないときがある。
そんな時でも、私をかばいながらあっという間に制圧してしまう。
その姿をかっこいいと感じ、私は強いあこがれを抱いていた。
なので、私の口から「戦い方を教えてほしい」と口にするのは、割とすぐのことだった。
稽古をつけてくれたのはレンさんの方だった。
レンさんは剣を使ってるのに、私のようなリザードマンの戦い方を熟知していた。
元々の種族的な身体能力の高さも相まって、私はめきめきと力をつけていくことになる。
今日の食事はドラゴン肉を使ったシチューだった。
いや、正確には今日もドラゴン肉だった。
共に旅をするようになったある日を境に、2人はドラゴン討伐を頻繁に行うようになった。
さすがに連日のドラゴン肉に私は飽きてきていた。
「今日もドラゴン肉なの?」
「ドラゴンを倒したからね。」
「別のお肉は食べないの?」
「ドラゴンを倒さなかったら食べるよ。」
「うそだ!最近わざとドラゴンばっかり倒してる!」
私は頬を膨らませながら言った。
「・・・そろそろ教えてあげてもいいんじゃない?」
「う~ん・・・まあそうかもな。」
「??」
ダリアさんの一言から、最近のドラゴン狩りについて理由を教えてもらえることになった。
やはり意味があったらしい。
「キーラ、たぶん君は今までリザードマンは魔法に弱い種族だって習ってきているだろ?」
「うん、みんなだから魔法は使えないんだって言ってた。」
「半分正解なんだけど・・・実はリザードマンの魔法耐性を上げることはできるんだ。」
「魔法耐性?」
「魔法を受けても効かなくなる力のことだよ。魔法に弱い種族だから耐性もないし、使うこともできない。それは正しいんだ。でも、あることをすることで、魔法に強くなることは出来るんだよ。」
「・・・・・・それがドラゴンなの?」
「大正解!リザードマンはドラゴンの肉や血を取り込むことで、その魔法耐性の高さを引き継ぐことが出来るんだ。まあそのまんまってわけにはいかないけどね。でも、数を食べることで、ドラゴン以上にもなれるはずなんだ。」
リザードマンの仲間と住んでいたときには聞いたことのない話だった。
奴隷区にも知識が豊富なリザードマンは何人もいた。
それでも皆一様に、リザードマンは魔法に弱いと思っていた。
(今レンさんのした話が本当なら、どうしてだれもそうしなかったのだろう?
もししていたら、帝国から逃げるとき、もっと逃げられたのではないだろうか?)
私の中で疑問はどんどん膨らんでいった。
そのことを察知してか、レンさんはさらに説明してくれる。
「たぶん周りの誰も知らなかっただろ?無理もないさ。この知識は帝国の外でしか得ることが出来ないんだ。帝国の中の書物からはこの記述が消されているんだ。リザードマンの国が帝国に負けた、200年以上も昔にね。」
「え・・・な、なんで!?」
「当時の帝国はリザードマンたちの反乱を恐れていたんだよ。だから、なんとか力を弱めたかったのさ。魔法に弱いという弱点を克服させないように徹底していたんだよ。」
「・・・そんな・・・」
私はしばし言葉を失っていた。
私にはどうしようもないことだったが、それでも自分たちが置かれていた状況に絶望した。
自分の種族がそこまで迫害を受けていたのだと、子供ながらに実感する出来事だった。
「・・・・・・今なんで私に食べさせてるの?」
「キーラ、君はもう帝国の外にいる。これから先外で生きていくことになる。今は私たちと一緒に暮らしているけど、いつか一人で旅をすることがきっとある。」
「え!?やだ!私2人とずっと一緒にいる!」
「ハッハッハ、それはうれしい申し出だな。でも、大きくなってからも同じかはわからないぞ。外の世界は魔法であふれてる。克服しておくことは、きっと君の役に立つ。だから、ドラゴンの肉をたくさん食べてもらってるのさ。」
いつかあたしが1人で旅をする、そんなこと当時は全くイメージできなかった。
2人のことが大好きだったし、ずっと一緒にいるつもりだったから。
だから、ドラゴンの肉なんて必要なかった。
そう言いたかった。
でも・・・2人のことは何よりも信頼していた。
その2人が私のために必要だといってくれたことを無下にする気持ちもなかった。
私は納得し、その日から強くなるための食事としてドラゴンの肉を好んで食べるように努力した。
結果的にそれは2人のもとを旅立って、1人旅をするようになってからも意識して続けるようになっていた。
のちにわかったことだが、リザードマンの魔法耐性について書かれている本など、私も色々見て回ったが帝国の外にも存在しなかった。
あったのは王国を訪れた際に見つけた1冊「著:ラナ=ジルコニア」のものだけだった。
現代においては相当希少な知識だったのだ。
時は流れて私が15歳になったとき、人魔戦争が起きることになった。
2人は王国からの依頼で戦争に参加することになっていた。
私もついていくといったが、2人から猛反対を受け断念した。
戦争の間、私はエールラインに身を寄せることになる。
そこでアイシャを含む新しい人々と出会い、まだまだ自分の知らない世界があると知った。
それを見てみたい気持ちが大きくなり、戦争終結とともに2人のもとを去ることにしたのだ。
「キーラとも随分長く一緒にいたから、寂しくなるわね。」
「ダリアさん、本当にお世話になりました。」
「もうお前には教えられることは全部教えたつもりだよ。どこに出しても恥ずかしくない、自慢の弟子だな。」
「師匠・・・本当に私を救ってくれて、ここまで育ててくださり、ありがとうございました。」
「君はもう私の娘の1人みたいなものだ。またいつでも遊びに来なさい。」
「バッカスさんも短い間でしたがありがとうございました。」
こうして私は1人で世界中を旅することになった。
賞金稼ぎのキーラの名は瞬く間に世界に広まっていった。
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キーラSide
「これで俺がランキング3位だぜ!」
ブリッツは土埃舞う中で高らかに笑っていた。
炎雷破光線を受けてキーラが無事なはずがない。
もちろんあの様子では避けるのも無理だったであろう。
圧倒的な力を手に入れたことに酔いしれていた。
「さて、それじゃあ他の侵入者もぶち殺しに行きますか。」
そうブリッツが言ったその瞬間、ブシャ!っと音とともにブリッツの体は腕で貫かれていた。
「は・・・え・・・ごふっ・・・」
「・・・油断しすぎだ。」
キーラの腕がブリッツの胸を心臓もろとも完全に貫いている。
ブリッツはもはやしゃべれる状態ではなく、ただただ口からも胸からも血を流して・・・静かに絶命した。
もし彼が油断せずにいたらよけられたかもしれない。
もし彼が戦うことだけにこだわらず、様々な文献を読んでいたら知っていたかもしれない。
だが、そのいずれも彼はしていなかった。
それは彼の性格そのものを物語っていた。
ブリッツから腕を引き抜き、その場に立ち尽くす。
(本当にぎりぎりだった・・・)
キーラにとって自分の魔法耐性で耐えられるかどうか賭けだった。
小さい頃からの積み重ねが彼女を救ったのだ。
ほっと一息ついたとき、崩れた城門から大勢の人の気配を感じ取った。
匂いからジャックだとわかる。
安堵の気持ちから体の力が一気に抜けて、その場に仰向けに倒れ込む。
(悪いな3人とも。ちょっと手助けにはいけそうにないや・・・)
戦いに勝利こそしたものの、満身創痍だった。
頭の中で昔レンに言われた言葉を思い出す。
「強くなったら、帝国に復讐したいと思うか?」
たった1度だけ修行中にレンから聞かれた質問、その時はわからないと答えていた。
ブリッツを倒し、反乱軍が勝ちそうになった今、自分の考えに確信が持てるようになった。
(今ならはっきりわかる・・・私はやっぱり復讐なんてがらじゃないや。・・・妹弟子を助けるため、それだけが理由だな。)
キーラの笑顔は晴れやかだった。
少々ねじ込んだ感じになってしまったでしょうか?
ブリッツとの決着があっさりだと感じる方がいるかもしれませんが、個人的に決着後相手はもう死んでいますし、キーラ自身も満身創痍ですから、あっさりするものなんじゃないかな?と思っています。
一応予定通りの話はかけたと自負しています。
リザードマンとドラゴン、同じ爬虫類、トカゲみたいな感じってところからとっている、個人的には好きな設定なんですが・・・
同じ気持ちを感じでいただけると嬉しいです。
今回明確に書きましたが、キーラはレイアの姉弟子になります。
それっぽいところは出していたつもりなので、予想はたやすかったと思います。
スレインはわざと名乗っていません。
これについてはどこかでかきたいですが、今のところ番外編行きですかね。
キーラは人魔戦争直後まで一緒だったので、レイアを引き取ったことを認識していたということになります。
レイア自身は当時の戦争の記憶は非常にあいまいです。
理由は戦争時の体験になるわけですが、この辺りは第4章のメインテーマになるのでここでの言及は避けます。
その時を楽しみにしておいてください。
今回も読んでくださった方々ありがとうございました。




