第12話:万全を期すもの
帝国の本丸、城下町の入り口には馬鹿でかい門がある。
それこそ帝国の権威を示すかのように、威圧的で攻撃的な装飾が施されている。
私たち4人は必要以上に顔を隠さずここを通る。
怪しまれないこと、それが今最優先だった。
私たち4人が選ばれたのは、顔を見られても怪しまれないという前提がある。
だから、必要以上にこそこそしないことが重要だった。
「でかーい!けど、ちょっと怖いね。」
「確かに。ものすごいけどね。」
「帝国らしいといえばらしいな。」
私たちは小声で好き勝手意見を言っていた。
「こら。あんまり帝国を下げるような発言はしないでおきな。怪しまれるよ。」
「「はーい。」」
(ついついリラックスしすぎた。)
少し反省した。
戦争中の敵国に潜入する、でも怪しまれないように振舞う、実際にはかなり難しいことを要求されている。
普段通りに振舞う。
でも、緊張感は持っておく。
この後戦うことよりも、私にとっては今が一番難しい気がした。
豪勢な門だったが、特に門番が止めている様子などはなかった。
ただ、入ってくるものをよく観察している、そんな感じがした。
「音や匂い、目線の動きとかで見られているんだよ。目に見えている門番が全部じゃない。」
キーラさんが説明してくれた。
王都の入り口に比べて、見かけ以上に厳重な警備だったようだ。
(門を守るだけに相当人が使われてるってことだよね?)
私には少し過剰にも思えた。
私たちは無事に門をくぐることが出来た。
門をくぐると、城下の町並みは王国のものとは違えど非常に美しかった。
王国が白を基調にシンプルなすっきりした建物が多かったが、帝国はレンガ建築で曲線を帯びた建物が多かった。
門の威圧感からは想像の出来ないかわいい街だった。
「すごーい!」
「なんか、とってもかわいいね!」
「家の作り方が違うだけで、こんなに雰囲気が変わるのか・・・」
「これはドワーフたちの影響さ。彼らだから、こうやって曲線の建物が作れるのさ。」
キーラさんの説明に納得する。
街を歩いていくと、いい匂いが立ち込める店、見たことない服が置いてある店、何が置いてあるのかわからない店、どれも目移りしてしまう。
(こんな形では来たくなかったな。)
戦争が終わったとにでも、ゆっくりと来たいと思える街だった。
「少しお店によろう。」
キーラさんの提案で、1軒の食事処に入った。
「いいんですか?こんな時間使って?」
「腹が減っては戦はできない!だろ?」
「賛成ー!」
「・・・いきなり城までまっすぐ行くと、かえって怪しまれるよ。」
「「!?」」
キーラさんの一言にハッとする。
結構大雑把な雰囲気があったが、実際に世界を旅してきた中で身に着けた考えなのだろう。
一緒に来てくれた安心感がさらに増していた。
料理を食べているときに、先ほどから疑問に思っていたことをぶつけてみた。
「ドワーフやリザードマンの奴隷って聞いてたからどんなかと思いましたが・・・普通に皆さん生活されているように見えます。」
街に入ってからお店を営んでいたり、普通に歩いている人ばかりだった。
現にこのお店の店員さんはリザードマンだった。
「表面的にはね。」
「・・・待遇が違うということですか?」
ジムの質問にキーラさんが静かに頷く。
「かけられている税金、城下に住むための条件、給料までもが違うんだよ。破ると破った人間も一緒に裁かれる。だから、みんな従ってるのさ。」
キーラさんの瞳には悔しさがにじんでいた。
話を聞いていると、帝国の人がみんなドワーフやリザードマンが嫌いとかではないらしい。
国のルールに従わないといけないから、それが主だった理由のようだった。
私たちが作戦を成功させることで、何か変わるかもしれない。
不確かな展望だが、作戦への思いは一層強くなった。
「さあ、そろそろ城の近くに行くとしよう。ガイアたちが騒ぎを起こし始めたら、一気に行くよ。」
私たちは腹ごしらえをし、静かに開始の合図を待っていた。
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ハヌSide
「・・・強い・・・気を付けるように言わないと・・・」
黒く長い髪の少女が城の窓辺に立って呟いた。
長い髪の影響で目が隠れてしまっており、表情はいまいちわからない。
小柄なことも相まって、知らぬ人が見たら子供と見まごうことだろう。
実際帝国の人間も、最初多くの人が勘違いをしていた。
彼女の名前はハヌ=ラチェット、早熟の天才魔術師として一時期名を馳せたが、幼い見た目とは裏腹に、危険な人体実験などが問題視され国外追放となっていた。
ノーフェイスと行動を共にしている中、圧倒的資金と実験用の検体を提供してくれることから帝国へと移ってきた。
そして、デーモンポーションの生み出したのである。
彼女は帝国に住むようになってから、帝国の防衛にも力を貸していた。
自分の今の環境を守るため、彼女なりの自衛だった。
雇い主のクレイにすら言わずに、門に結界を施していた。
ただただ単純なもので、門をくぐる者の魔力量、闘気量の簡易的な測定をしていた。
ただし、毎回結果を見ているわけではない。
帝国にはブリッツを筆頭に強いものがいる。
楽に勝てるものはいちいち知らせる意味がなかったからだ。
今、その結界を恐ろしい闘気量を持つ者が通った。
単純な測定だが、ブリッツだった以上だ。
(・・・ブリッツに勝てる奴なんて、ほんのわずか・・・だったらこれは・・・)
ハヌ自身、だれが通ったのかおおよその予測は出来ていた。
恐らく彼女単独での来訪なら、ハヌもここまで気にも留めなかったであろう。
しかし、その強者と一緒に3つ、そこそこの強さを持ったものが通っていた。
(・・・キーラが一人で行動していない・・・)
感じた違和感をそのままにしない、それは彼女が優秀な研究者であるが故の行動である。
「・・・”音鳴”「謁見の間に来て。」」
彼女は無詠唱で風魔法を使い、伝言を飛ばす。
クレイとブリッツを謁見の間に呼び出した。
「何事だハヌ。ブリッツともども呼び出すとは。」
「お前俺の事嫌いじゃなかったのか?」
2人同時に呼び出すのは初めてのことだった。
ハヌは2人の反応など興味がないように続ける。
「・・・敵・・・一人は賞金稼ぎのキーラ、他に3人いる・・・」
「「!?」」
ハヌからの思わぬ報告に、2人は一気に真剣な顔つき変わる。
敵と決めつけるのは早計かもしれない、たが備えるのに越したことはなかった。
「キーラってあのリザードマンのか?」
「・・・そう・・・」
「それほどのカードを切ってくるとは・・・どこの差し金だ。」
「どこでもいいさ!あいつと直接やりあえるんだろ!・・・こりゃ~俄然楽しみになってきたぜ!」
「・・・今のままだとあんたは勝てない・・・」
「なんだと!?お前言わせておけば!」
「止めんか二人とも!!」
ハヌとブリッツは犬猿の仲だった。
研究者気質で細かくきっちりしているハヌに対して、ブリッツは強者との戦闘以外まるで興味のないぐーたら男である。
話せば毎度のごとく喧嘩だった。
それを飼いならせているのは、皇帝ではなくクレイ=スローンの力であった。
「全く、会うたび会うたびそんなんでよく疲れんな。」
「・・・疲れてる・・・」
「なら止めんか。ブリッツも今の実力ではキーラが上なのはランキングにも出ておろう。だが、今のお前なら勝てるだろ?」
そう言ってクレイは懐からデーモンポーションを取り出した。
「こいつはダイムに取っておきたかったんだけどな。しゃあねぇか。」
「・・・それを飲めば勝てる・・・キーラは任せた・・・」
「いわれなくてもな!で、お前はどうすんだ?」
「・・・私は残りの3人をやる・・・」
そう言ってハヌもデーモンポーションを見せた。
「殺すなよ。生け捕りにして首謀者を吐かせろ。」
「努力はするが、手が滑るかもしれないぜ~」
「・・・あんたに生け捕りは期待されてない・・・」
「なんだと!」
はぁ~とクレイは大きなため息をつく。
(まあ2人とも実力は申し分ないのだがな・・・)
とんでもないじゃじゃや馬2人に頭を悩ませながら、侵入者を迎え撃つ準備を始めた。
タイトル悩みましたね。
ちょうど半分ずつぐらい話書いているんですよ。
物語としてのウエイトで言えば、やや後半の帝国側だったのでそちらに合わせました。
奴隷の扱いについては非常に悩ましいところですが、イメージ的には帝国亡き後新しいスタートをこの国にはきってほしいです。
そうすると、奴隷になってる人たちへの接し方について、一般の人たちが現状を嘆いていないと、帝国がなくなった後ここはドワーフとリザードマンだけの国になってしまいます。
そうじゃないんですよね。
レイア、サクラ、ジムを3人組にしたように、やはり3はバランスを保つと思ってます。
帝国亡き後にはドワーフとリザードマン、そして人間の3種すべてが暮らしていてほしいんです。
なので、少し奴隷という表現ではありますが、表面的には悪く見えないような位置にしてあります。
惨状には繋がり辛いかもしれませんが、悲しみの多い物語ではないつもりで書いていますので。
後半に出したハヌという新キャラについて。
個人的に設定が気に入ってるキャラです。
見た目はいわゆるいもい感じですが、かなり切れ味の鋭い物言いをする子です。
ギャップの落差をめちゃくちゃ大きくしたかったんです。
個人的にも大人しそうな見た目で口悪いキャラって好きです。
祝福で強くなった3人の相手なので、ハヌ自体もかなり強いキャラとしています。
どう強いのか、それは戦闘を楽しみにしておいてください。
今回も読んでくださった方々ありがとうございました。




