第10話:帝国の良心
目を覚ますと、そこは見たことのない天井だった。
「あれ・・・私・・・」
「気が付いたんだね!」
「ずいぶんとよく眠れたようだな。」
聞きなれた声がする。
ゆっくりと体を起こすとジムにサクラが部屋にはいた。
部屋は樹皮がむき出しになっている部屋で、形はどこかいびつだった。
(ここって・・・エールライン?)
自分が何をしていたのか思い出すため、頭をフル回転させる。
ガチャリと扉が開いて、バッカスさん、キーラさんが入ってきた。
「無事目が覚めたようだね。」
「レイアもお疲れ様!祝福は・・・クリアできたか?」
「あっ!?」
ここで全てを思い出した。
エールラインに来た理由、エルフの祝福を受けたこと、そして師匠の技を決めたこと・・・
「はい。勝ちました。」
すっきりとした顔で答える。
「ならOKだね。3人ともよくやったよ!」
キーラさんの言葉に状況を理解する。
(サクラとジムもクリアできたんだ・・・)
「2人とも大丈夫だったんだね。」
「もちろん!」
「当然だろう・・・といいたいところだけど、本当に手強かった。いまだに何で勝てたのか不思議なぐらいだよ。」
ジムにしては珍しく弱気な一言だった。
(2人ともどうやって勝ったんだろう・・・)
気になったので色々聞きたかった。
しかし、今の状況がそうはさせてくれない。
「起き上がってすぐで悪いけど、さっそく次の目的地に行くよ!」
「次って・・・もしかして?」
「私たちの目的、帝国に乗り込むよ!」
「!?」
「でも、ここから帝国までは王国にいたときよりも遠いですよ?バッカスさんに頼めといわれてますが・・・」
ジムがそういいながらバッカスさんに視線を向ける。
確かにエールラインへは完全に遠回りになる旅路だったので、そのまま行くと時間がかかってしまう。
ジョシュアさんたちの戦闘に合わせて我々も動かないと、どこかでばれてしまう。
「それなら任せなさい。君たちに光魔法のすごさを見せてあげよう。準備が出来たら来なさい。」
そう言ってバッカスさんは部屋から出て行った。
「光魔法でいけるんですか?」
「私も光魔法なんて全然知らないからわかんないや・・・」
サクラは魔法に相当詳しいが、それでも知らないということは相当珍しいか、失われてしまった魔法の可能性がある。
「ローエンが言ってたろ、現世で最高の光魔法使いだって。今やあの人にしか使えない魔法があるんだよ。」
キーラさんは自信満々で笑いかけてくる。
まるで自分のことのように嬉しそうだった。
「さあ、レイアも身支度して!すぐに行くよ!」
「はい!」
私は急いで体を起こして、準備をした。
バッカスさんの後に続いていくと、広いバルコニーに出た。
バッカスさんの家は高い場所にあるので、エールラインが一望できた。
「すっごーい!」
「きれい・・・」
「これは見事だね。」
下から見ていたエールラインとは違い、上から見ると様々な明かりや木々に施された飾り付けがキラキラ光っていた。
エルフの人々のにこやかな表情や笑い声が聞こえて、柔らかい光に包まれている様子はどこか幻想的だった。
「私はこの国が大好きだよ。だからこそ、なんとしても守りたいと思ってる。」
バッカスさんが景色を眺めながら私たちに語り掛けてくる。
「これが私が協力する一番の理由だよ。そのためには、できる協力は惜しまないさ。」
そう言ってバッカスさんがバルコニーの中心を開けるように促す。
広く空いたバルコニーの中央に向けて、詠唱を始めた。
「ー光となりて道を開かんー"光輝門路"」
光りの渦が地面に描かれる。
渦の中から、白い扉がせり上がってきた。
簡素な扉だったが、凛とした高貴な雰囲気が漂っている。
「光魔法でも最上位の魔法だ。自分が一度通ったことがある扉とこの扉をつなげることが出来る。今や私以外に使えるものがいないがね。」
「すごい・・・」
「光魔法ってめちゃくちゃ便利だったんですね!」
「使えるものが少なくてよかったと思うよ。」
ジムの意見に同意する。
こんな魔法を使える人が多かったら、世界のバランスはそれこそ崩壊していただろう。
バッカスさんのような心優しい人の手にあるのが、安心できる。
「じゃあ3人とも、出発するよ!」
「帝国のすぐそばの村につないである。4人とも・・・死ぬんじゃないぞ。」
「はい!」
こうして私たちは帝国に向けて出発した。
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モルトSide
白髪のキリっとした美男子で帝国の騎士団長 モルト=スローンは現在の状況を嘆いていた。
(いまだにドワーフやリザードマンたちの境遇は改善されていないどころか、ここ数年は悪化すらしている。反乱軍も力をつけているこのタイミングで王国など攻めている場合なのか・・・)
皇帝から戦争の話を聞かされた。
既に10万にもなる軍勢が王国にむけて出発するという。
ペンタクルス王国はゴア王の統治になってからいい噂ばかりだ。
そんなところを攻めることが本当に正しいことなのか、モルト自身ふに落ちないままだった。
「父上、本当に王国を攻めることが正しいのですか?先に国内を安定させるべきではないのですか?」
「まだ言っておるのかモルトよ。くどいぞ。陛下と私の決定だ。王国を攻めるのは今だ。」
「しかし・・・」
「くどい!いつまでもしつこいやつだ。お前のようなやつが軍に帯同すると士気にかかわる。お前は帝都に残って反省しておれ。」
「父上!」
彼の提案は父クレイ=スローンには全く相手にされなかった。
(どうして・・・戦うしかすべはないのか・・・)
モルトは幼少より英才教育を施されてきた。
父親が軍の大臣職であることも相まって、何不自由ない生活であった。
そして、幼き彼は心優しき青年だった。
小さい頃から帝国の負の部分に向き合っていた。
その結果、ドワーフやリザードマンの奴隷たちの現状を嘆いていた。
同じ帝国民であるはずなのに、多くの権利をはく奪され、迫害されているものがいる。
自分の生まれた国だからこそ、もっと良くしたい一心だった。
ただ、いくら大臣の息子とはいえ、帝国は完全な実力主義だった。
幼い彼の意見など誰も聞いてくれはしない。
(自分も上を目指さなくては・・・)
意識の高かったモルトはめきめきと頭角を現していった。
若くして騎士団長の地位はもちろん、勉学も同年代ではかなう者はいなかった。
それでも帝国内ではまだまだ若造。
それに奴隷の境遇改善など、賛同してくれるんのは帝国には少なかった。
戦場に行けないとなった彼は地下牢に向かった。
薄汚く、まったく掃除されていない地下牢はほとんど人間以外の者のための場所だった。
彼は一つの牢屋の前に立ち止まった。
そこには体中にあざがある、小さいドワーフの少女がいた。
先日盗みを働いて捕まったと報告書に書かれていた。
しかし、彼はそれが濡れ衣であると知っていた。
ドワーフやリザードマンの多くは罪を平気で着せられている。
その現状もまた、彼の心を痛めていた。
「こんなことしかしてやれなくて、すまない。」
懐に忍ばせていたパンをいくつか出して置いた。
少女は手を伸ばし、一心不乱にパンを食べ始める。
(やはり食事も与えられていないか・・・)
地下牢に収容されたものを何とかしたい、そう思い彼はいつも必死だった。
無実の証明や牢屋での待遇の確認を欠かさない。
元々牢屋に入れてしまえば後は放っておくことが多かったので、モルトの行動は咎められることはあまりなかった。
毎回とは言わないが、救えたものもいる。
「どうすればこの国は幸せになるのだ・・・」
彼の眼にはうっすらと涙がにじんでいた。
レイアたちのところは完全に幕間的な感じですね。
いよいよ帝国に潜入させていきます!
ここから登場人物どんどん出てきますので、しっかりと描写してついてきていただけるように頑張ります。
帝国サイドはようやくモルトを登場させることが出来ました。
帝国の圧政に一人立ち向かっている、心優しき騎士です。
一応明確にはこの場で出てきていませんが、彼の行動を見ている人はいます。
行動に移せているのが彼しかいないということです。
実際に行動に移すと、自分の立場が危うくなったりとかありますしね。
モルトが優秀で、若くして高い地位にいるからできることだと思ってください。
出来るだけこの物語の中で敵以外死人は出したくないと思っています。
個人的に味方系の人が死ぬの本当にしんどくて・・・
ドキドキ感は少ないですが、安心して見られると思ってください。
今回も読んでくださった方々ありがとうございました。




