表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
36/38

35話:師匠、売られる

 顔を見合わせて涙を拭ったヘンゼルとグレーテルは、手を握り合ってようやくゴーレムの残骸から降りて来た。

 目の前に来たところで指を構えたのを見たヘンゼルが動こうとしたが、遅い。


「こんなこと仕出かした罰で、お前ら当分魔法禁止」


 指を鳴らして魔力の流れを抑制すると、ヘンゼルが食ってかかった。


「こんな所で魔法封じるとか、俺たちに死ねってことか!」

「んなわけないだろ。危ないってわかってるなら離れるな」

「はい!」


 なんでかグレーテルが速攻俺の腕に抱きついて来た。

 ちょっと鼻啜ってる音するから、振りほどくのも違う気がする。


「…………あとで説教するからな」

「はい…………」


 うーん、グレーテルは相変わらず素直だ。


「悪かったよ、何も言わずに出てって」

「…………え? ヘンゼル何処か打ったか?」

「ひとがたまに…………! くそ!」


 食ってかかろうとしたヘンゼルは、へそを曲げてそっぽを向いてしまった。

 え? 本当に大丈夫か? 変なもの食ったりしたのか?


 俺がヘンゼルの顔をを覗き込もうとすると、ダルフが呆れたような声をあげた。


「おーい、シューランが撤収していいかってよ」


 ダルフが復讐の果たされた兵士たちを避けて近づく。

 ちなみに魔術師長たちは健在だが、俺の魔術防壁に背中をぴったりつけて震えてた。

 本当に実戦経験ないのに、どうして最前線に立とうと思ったんだか。そんなに体面が大事か? こんな醜態晒してまで。


「おう、もう鎧全部からだろ? さっさと持って帰れ。いっそ邪魔だ」

「ご主人さまぁ、さすがにこの数を私一人じゃ無理です」

「だったらこいつ使え。で、お前も手伝え」


 俺はシューランに屍霊王の掌を投げ渡し、鼠にした屍霊王もついでに投げる。


『貴様、わしを雑に扱いすぎだ』


 なんか鼠のほうは上手くシューランに着地して、俺のほうに跳んで戻って来た。

 無駄に綺麗に身を返して捻りまで入れて着地してんじゃねぇよ。


 ヘンゼルとグレーテルは大技を決めて胸を張る鼠より、下手したてに出てるシューランに目を疑ってる。


「戻れよ、お前」

『まだ見届けるべきことはあると判断した。シューランよ、術は与えた。鎧を指揮して城へと戻れ』

「はい、仰せのままに。…………あの、使い魔契約、ちゃんと破棄してくださいね?」

「俺がこの国出たらな」


 鎧に指示を出すシューランのため、俺は隆起させていた地面の傾斜を元に戻して道を開ける。

 足元の揺れで正気づいたのか、魔術師長が唾を飛ばして叫んだ。


「く、国を出るだと!? これだけのことをしておいて、逃げる気か!」

「逆になんで残ると思ってるんですか? これだけの面倒ごとを起こしたからこそ、見捨てるに決まってるでしょ」

「なな、なんだと? クヴェル、貴様、何を考えている?」


 それぐらい想像できてほしいもんだが、使い魔経由で聞こえる国王の声も理解してないようだ。

 なんかちょっと目を放したら、ダルフが魔術師長指して、ヘンゼルとグレーテルに俺の元上司だと教えてる。途端に、二人の青い瞳が剣呑になった。

 こら、ダルフ! 子供にそんな顔させるな!

 だがこの反応、ヘンゼルとグレーテルの復讐に横やり入れた形だし、消化不良かもしれないな。大凡のことを説明しておこう。


「まず、あなた方宮廷魔術師はこれから、お偉方に睨まれながら俺の残した魔術防壁の再起動に追われることになるでしょう。が、王都を守るべき魔法が俺の手で作られたとわかった今、代わる魔法的防御を開発するよう無茶ぶりが来るのは必至」


 俺の予測に魔術師長たちの顔から表情が抜け始めた。理解を放棄するには早いって。


「他に引き受ける物好きもいないでしょうから、そう簡単に逃げられませんよ」


 すっごく面倒で俺も嫌だからこそ、復讐にこの手を考えたんだし。頑張れ!

 ツヴェルクのように失態を犯してさっさと引っ込ませるより、長く続く重労働のほうが復讐には向いている気がする。

 しっかり今まで他人から成果を奪って楽して来たつけを払ってもらおう。


「それに、抗魔の指輪に代わる魔法兵器開発も命じられるでしょうね。なんせ、反逆者の俺が作って製作者権限握ってるんですから。危なくて使えないと判断されるでしょう」

「おま、それ、しぃ!」


 おいおい、ツヴェルクから聞いてただろうに、誰にも報告してなかったのかよ?

 その上で俺の前で抗魔の指輪使うって…………あ、俺が味方側だと高を括ってたわけか。

 あれか? 弟子の素行不良に反省して出頭してきたとでも思われてたのか?

 国王への非礼も、下手に出て余計に立場を悪くすることを懸念した虚勢、と。

 この仮定が当たってたら、呆れるくらい自分に都合よく考えることしかできない頭だな。


「そ、損害の、そうだ、この損害の補償は貴様の責任だぞ!」

「備品を壊したと言われれば、まぁ、損害は出ていますが」

「備品!? 兵士をこれだけ殺しておいて!」

「本気で戦争するなら、この程度で済めば安いものですよ。それに、彼らは死んでいません」

「へ…………?」


 魔術師長が間抜けな声を上げると、ヘンゼルとグレーテルも俺の袖を引っ張って来た。


「どういうことだ? どう見ても死んでるだろ?」

「お師匠さま、あの人たち動きませんよ?」

「まぁ、鎧同士でぶつかり合ったら怪我くらいはするさ」


 が、事実倒れてる奴ら死んでない。

 骨折れたり心に傷を負ったりはしてるが、鎧たちに持たせていたのは屍霊王の秘蔵品である呪いの武器だ。

 扱う者の恨み辛みを注いで精神に傷をつける剣や、刺す度に臨死体験を強要する槍など。悪霊たちには言ってないから、報復を果たしたと思って逝ったことだろう。


「軍事行動を起こした際、最も負担になる攻撃は何かわかるか?」

「大量に兵士を殺されることじゃないのか?」

「逆だ、ヘンゼル。戦力にもならに負傷兵ばかり増やされて生き残らされることだ」


 俺の指摘に少し軍事のわかる者たちが、倒れている者たちを改めて見た。

 将軍のエマインを始め、この軍を率いた上層部がほとんど倒れ伏したまま動かない。

 王都前に展開していた軍の中央部、三分の一がほぼ壊滅している。残った一兵卒も乱戦の余波で怪我人ばかり。


 ダルフは生存を確かめるように、足元のエマインを軽く蹴る。

 首を斬られたようにしか見えなかったエマインは、痙攣してまだ息があることを物語った。


「傷痍兵への給付だけでも頭が痛かろうよ。今は気を失っているが、死にかけた兵士たちは恐慌状態に陥る可能性も高い。恐怖は伝染し、軍は機能不全に陥るのが現状確定だ」


 戦場を渡り歩いたからこそ現実味を持って語るダルフ。

 魔術師長は震える指を俺に突きつけるも、言葉が続かないようだ。


「色々言いたいことはありますが、確かに正規の手段を取らずに復讐に走った俺にも責められる点はあるでしょう」


 非を認めてみせると、途端に魔術師長は喜色を露わにする。

 追い詰めるとここまで操りやすくなるとわかってたら、王宮にいる間に…………いや、今はもうどうでもいいか。


「ですから、俺の財産から払っておいてください。あるはずですよね? 俺の屋敷から持ち出した金品やもろもろの研究、試験品の数々が」

「あんな難解なもの、あってもガラクタ同然だ!」


 冤罪で人から奪っておいてその言い方はないだろう。


「理論もまともに書き起こさず、設計図も定規なしに描きおって! 試験品もまず稼働させるための呪文を設定していない時点で、貴様以外に扱えるものか!」


 おう、言いたい放題の割に、色々手を出したのがわかる罵り文句だな。

 俺の研究自分のものにしようとして、結局理解できなくて直し込んでるのは、ツヴェルクから奪った情報で知ってんだよ。

 夜中に魔術師長の執務室にも侵入したし、何を取って置いてるかは把握してる。ま、誰もあんたが有効活用できるとは思ってないさ。


「だったら、あなたの手にあってもしょうがないので競売にかければいい。少なくとも、その抗魔の指輪の大本である抗魔の腕輪の設計図なら、薔薇の女帝が大枚叩いても欲しがりますから」

「我が国の機密を、あんな外道の魔女に売れるか!?」


 俺の呪いの師匠になんてこと言うんだ。

 性格は悪いが呪いに注ぐ情熱と偏執は俺を軽く凌駕するんだぞ。

 少なくとも、魔法を極めようとする姿勢は魔術師長より上だ。


 なんて考えてたら、強めに腕を引かれた。


「あんな方に、お師匠さまは使われていたんですか?」


 何が我が国だよって思ったのは俺だけじゃないらしい。グレーテルが唇突き出して不服そうに言った。

 各国代表たちも白けた顔してる。


 中には俺の研究を競売にって、目を光らせてるのもいるけど。

 何年も前の研究だから、俺としてはあんまり価値感じない。それでも欲しがる奴はやっぱり欲しがるみたいだ。

 研究や設計図って言っても、走り書き程度だし、何処まで役に立つかは知らないが。


「クヴェル! お前には国家転覆容疑がかかってるのだ! 大人しく捕まれ!」

「苦し紛れにもほどがあるでしょ。そこまで言うなら、捕まえてみてくださいよ。ただし、本気で捕まえようとするなら、俺も本気でこの国灰にしますよ?」


 魔力に少しの火の属性を加えて周囲に放出する。

 ざっと王都と同じ広さに熱波が走った。俺は今の一瞬で、王都を燃やし尽くせると示したようなものだ。

 魔術師長に知らせるだけのつもりが、各国代表の中の魔法使いたちが腰を抜かしてしまった。顔見知りの神官は顎が外れたようになってる。まぁ、屍霊王倒した時よりは強くなってるよ、俺。


『クヴェルよ、犬しか持ち上げられぬ者に竜の重さは計れぬという諺を知っておるか? あの魔術師長はその類であろう?』

「あぁ、うん。そうだな。何したかわかってねぇな」


 うーん、ここで相手にしてるのも時間の無駄か。

 俺はまだ身の振り方を決めてないダルフに視線を向けた。


「お、そうだな。お前の弟子も直接見れたし、ここらが引き時だろう」


 ダルフはヘンゼルとグレーテルの頭を一回ずつ叩いて笑った。

 二人は、困ったようにダルフを見上げる。

 まぁ、いきなり俺と一緒に現れただけの知らない奴だしな。

 怯えられる外見の自覚がないのか、ダルフは気にせず声をかけた。


「また会うことがあったら、お前たちが家出した後のこいつの情けない話聞かせてやるよ」

「「え!?」」

「ダルフ、てめぇ!」


 咄嗟に放った俺の呪いを避けて、ダルフはさっさと魔術防壁のほうに走る。

 しょうがないから消してやると、一回ダルフは俺に嫌な笑みを向けて、各国代表へと走った。

 何する気だ?


「おーい、俺の身を保証して国許に連れて出してくれる奴いたら、クヴェルが十五個目の賜名押しつけられた時の笑える話教えてやるぜぇ!」

「十五個目!?」

「いつ!?」

「誰が与えた!?」


 あいつ、俺を売りやがった!

 そして各国代表してる奴らがホイホイ釣れるな!

 おい、ダルフ! 吟遊詩人騎士だけはやめろ!


隔日更新、全三十七話予定

次回:師匠、謝罪を要求する

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ