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22話:復讐鬼、違いを見せつける

「嘘だ! それを作ったのは王宮魔術師長だ!」


 刺客がなんか勝手に怒り出した。


「表向きはそうなってるが、俺が作ってからそのまんま改良もなしってことは、あの人結局これの理屈わからなかったってことだろ?」


 見た感じ、俺が作った奴とは違う。

 つまり、後から誰かが作ったもんだ。

 後から作られてはいるんだけど、俺が作った時とまんま同じ。魔術回路とか丸々複写しただけだろうな。


「俺が追放された後に作られたんだろ、このマジックアイテム? じゃ、なんで製作者権限が俺のままなんだよ?」


 というか、製作者権限が俺にあること自体おかしいだろ?

 刺客も答えられずに黙る。


「おーい、なんで表向きは作った奴がお前じゃないんだ、クヴェル?」


 暗器の仕込み針で遊びつつ、ダルフが聞いて来た。


「簡単に言うと、魔術師長が部下の功績横取りしてたから」

「お前、横取りされたにしても雑な盗り方されるなよ」

「いや、最初は訴えようと思ったんだが、周りに止められた。権力とか派閥とかの抗争に発展するから、一回だけ目を瞑れって」


 まぁ、どうせ魔術師長の座を奪うつもりでいたし、周りは事実知ってたし、あの時はいいかと思ったんだよ。後で脅しの材料にでもしようかなって。


「それにこれ劣化版だし」

「劣化版? わざわざ性能低いの作ったのか?」

「こっちのほうが使い勝手はいいんだ。誰でも使えるし、数さえ揃えればいいから、魔石も小さい物で済む」

「じゃ、お前が本気で作ったやつは?」

「抗魔の腕輪だな。使用者に合った魔石と、それなりの大きさが必要だ。封縛のために出る結界の形も使用者ごとにまちまちで汎用性は低いし、作った後の微調整も必要だったしな」


 懐かしいな。今じゃ薔薇の女帝と呼ばれる大魔女が色々注文つけて俺に作らせた。

 抗魔の腕輪って名前もダサいとか言って、なんかキラキラしい名前つけてたっけ。覚えてないけど。


「なんだかなぁ。お前本当に宮仕えなんて合わないことするだけ無駄だったんじゃねぇか」

「うるさいな。やってみなきゃわからないことってあるだろ。あの時は宮仕えってのは周りとどれだけ歩調を合わせつつ、出し抜けるかだって言われて、そんなもんかと思ったんだよ」

「その後追放されてるんじゃ、お前が出し抜かれただけだったな」


 わかってるよ、そんなこと。

 実際、俺を宥めてた同僚たちは、冤罪をかけられた時に偽証しやがったし。


「しっかし、劣化版なのに解明できずに丸々写すって、この国の宮廷魔術師は質が低いのか?」

「特に高いとは思わないが、低いわけでもない。ただ、実戦で作った俺の魔法理論と、すこぶる相性が悪かった」

「そうなのか? お前が宮廷魔術師になってからほとんど接点なかったが、お前が魔法使うことに苦戦してるなんて聞かなかったぞ?」

「俺からすれば、お偉い先生について学ぶだけの座学至上主義な詰め込み魔法理論なんて、ただの暗記だ」


 俺が問題なんじゃねぇよ。頭が固い癖にそのことを絶対認めずに、俺のやり方否定からしか入れなかった魔術師長が色んな意味で頭悪かったんだよ。


 で、ちらっと刺客たち見ると、何人かが目で合図送り合ってる。

 顔の動きだけで意思疎通できるってすごいな。

 で、残りは俺の話に唖然としてた。

 こいつらなら行けそうだな。


「じゃ、後は楽にしてろ」


 俺は懐から乾燥して繊維質まで見える肉の塊を一人に押しつけた。


「何してんだ、クヴェル? それ、屍霊王の手の残りだろ?」

「屍霊王の手!?」


 おい、ダルフ。余計なこと言うな。他の奴らが身を引いて逃げようとしてるじゃねぇか。

 ちなみに手を押しつけた奴は焦点の合わない目でぼうっとしてる。


「屍霊王っていうか、屍霊術師ってのは思いや精神を操ることに長けてるんだよ。で、屍霊王はその頂点と言ってもいい。俺は屍霊術使えないが、こういう触媒があれば屍霊王の権能として屍霊術を使える」

「そいつゾンビにでもするのか?」

「するか! 単にこいつの記憶読み取って、情報吸ってるだけだよ」


 って言ったら、目で話し合ってた奴らが逃げようとする。


「お前らが兄弟っていう水より濃い縁で結ばれてる奴らで良かった。手間が省ける」


 俺は屍霊王の手に囚われた一人を基点に、その場の全員に情報を吸い出す魔法をかけた。

 全員が死んだように目を見開いて動かなくなると、今度はダルフが身を引く。


「やっぱ俺、魔法嫌い」

「奇遇だな。俺も脳みそ筋肉な奴の腕力至上主義が嫌いだ」

「誰のことだ?」

「お前だ!」


 とぼけるダルフに突っ込んで、俺は情報の吸い出しを終える。

 正気に戻った刺客たちは、自分が盗られた情報をわかっているらしく、渋い顔をして顔を見合わせた。

 もう逃げることの無意味を悟ったようだ。


「さて、やっぱり冒険者組合経由で俺が入国したことは知られていたらしい」


 で、一緒に入国した犬野郎ことフンボルトは、速攻隣国に帰ったから無事。

 こいつらフンボルトから直接俺の現状を聞き出すよう命じられたようだ。が、フンボルトにはすぐこの国を離れるよう言っておいたし、難は逃れていた。


「俺たちを見つけたのは、近くに俺の元の養子先があったから、網を張っていた、と」

「ってことは、俺たち上手くかかったわけだな。まぁ、霊場の外に窺ってる奴らがいるってのは、屍霊たちにもろバレだったけど」


 ダルフの言葉で、刺客は盛大に顔を顰めた。最初から俺たちが情報収集のためにわざと姿を現したことに気づいたようだ。


「で、この刺客兄弟は、誰の回し者だ?」

「所属としてはちゃんと国だな。ただ、動かしたのは魔術師長だ」


 昔の上司、今もまだ魔術師長してるらしい。

 叙勲されて貴族の仲間入りするみたいなこと言ってたのに、俺がいなくなってから目ぼしい成果もあげられずにいるそうだ。

 ただ、偽証した同僚たちは順調に出世して、実入りのいい地位についているらしい。

 将来的には王家の指南役になりそうな奴も出てる。

 で、部下から追い抜かれそうな状況で、さらに俺の入国に焦って刺客を走らせた、と。


「まだ発見の報は入れてない。で、王宮だと大人しくしてたから、俺は魔法さえ封じれば簡単に殺せると思われてた、と」

「おいおい。どういう理屈だ? 屍霊王、竜王、巨人、古代の自律兵器なんて、これだけの相手を敵に回して五体満足で生きてる時点で並じゃないだろ?」


 そうだなぁ。

 屍霊王の城に到達する前に、聖女の神官軍団ほぼ全滅したしな。

 他の奴らも基本的に人間の住めない場所に住んでたから、行くだけでひと苦労だった。


 で、刺客たち見ると困惑してた。


「ついていっただけの、魔法使いでしょう?」

「そりゃ、旅をする体力という点なら…………」

「少し心得がある程度なら、さして問題ではない、はず」


 うん、基本的に実際行ったことない奴らだと、わかんないよな。少しの体力や心得なんかで、生き残れる場所じゃないんだってこと。

 霊場だって対策してないと、一歩踏み込んだ途端に屍霊系の魔物に魂引っこ抜かれるとんでもフィールドだ。


「ま、基本的に俺が主力で戦ったとは思われてねぇんだよ。説明しても、自分の手柄を誇張してるとか言われたから、なんかもう説明するのも面倒になってな」

「お前、舐められてたんだなぁ」

「おう。平民って時点で話したこともない奴らが舐めてかかって来たぞ」

「その覇気なさそうな見た目もだよな。俺も最初、なんだこの枝野郎って思った」

「一回黙れ、ダルフ」


 冒険者してた時なら、お前みたいに舐めてかかる奴はぶっ飛ばして力量差教えて終わりだったんだよ。

 けどな、色んな養子先回って教養ってもんを身に着けた俺は、王宮でそんなことする愚は理解してた。だから大人しくしてたんだ。


「そう言えば、今の国王は何してた? お前の報復怖がって籠ってるのか?」

「逆だな。というか、俺を侮っていた筆頭が今の国王だ。さっさと見つけて殺せと、喚いているらしい」

「クヴェルの殺し方知ってるなら、教えてほしい奴らいるだろうな」


 ダルフの言葉に使い魔の鼠が獣らしからぬ動きで頷いた。

 おい、お前屍霊王だろ。

 勝手に見てるな。


「で、この刺客どうする? もう用はないんだろ?」


 ダルフの言葉に鼠が期待したように後ろ足で立つ。

 生き胆食って使い魔の体を強化し、俺の支配から脱出しようとでも思ってんだろ。

 別に殺さないからな、こいつら。


「さて、お前らには二つの選択肢をやる。どっちか選べ」

『また強制二択か』

「鼠のふりもまともにできないなら、煎じて洗脳薬にした上にこの国にばら撒いて、便所から回収する以外に復活できないようにするぞ」

『悪魔の所業!? いや、チュ、チュー』


 邪魔するな。喋る鼠に刺客どもの視線が釘付けじゃねぇか。


「ごほん。いいか? 別に殺すつもりはない。お前らを撒くなんてこっちは簡単だ。次の刺客が来たらまた情報を吸い出せばいい」


 まぁ、こいつら戻っても捕まって情報盗られましたなんて言えるわけないだろうし。

 言えても逃げられましただ。それも駄目なら見つかりませんでしたってなるが、まぁ、無能の言い訳だな。


「ただ、相手があの魔術師長ってのは同情してやろう」


 生きて返してもどうなるかわかっているとそれとなく言っておく。

 わかった上で二択を迫る俺に、刺客たちは鈍くないらしく次の言葉を待った。


「武器っていうのは、持ち手を選べないのが最大の欠点だな」


 ダルフが借りパク国宝を撫でて言った。

 まぁ、本来の持ち主の国王が、その戦斧を扱いきれるとは思えないな。

 とは言えなんで今言ったんだよ? いや、考えてみれば暗殺者もそうか。

 武器のような生業で、使われる側だから主人は選べない。傭兵のように選ぶ権利なんて与えられてない。

 使えなくなったら破棄されるだけ…………。

 よし、ダルフの例えを採用しよう。


「俺が見るに、お前たちの切れ味は悪くない。だが、使い手の使い方も悪ければ手入れも悪い。このままじゃ、使う人間のヘマで刃こぼれしてポイ。もしくは、ただ錆びて朽ちて行くだけだろうな」


 察しのいい奴は今ので二択目を察したみたいだ。

 うん、悪くないな。


「こんなことを武器に聞く変わり者は、俺だけだろう。だから一度しか言わない。お前らは、馬鹿に使われる鈍らで終わるつもりか? それとも、自分で力の使いどころを決める人間になってみるか?」


 って聞いたら、なんか察してたっぽい奴まで驚いた顔をした。

 あれ? 例えが悪かったかな?


基本隔日更新、全三十七話予定

次回:復讐鬼、生贄を手に入れる

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