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21話:復讐鬼、暗殺者を送られる

 結局、屍霊王の城に五日滞在した俺は、ダルフだけを伴って霊場を離れることにした。

 別行動を命じた時、シューランは泣いて喜んだ。

 いや、本当に比喩じゃなくて泣きやがった。


「ちゃんとやれよ? 感覚共有で手抜くか、しくじったらわかるんだからな?」

「はいー! もちろんです、ご主人さま!」


 んで、俺とダルフを見送る今は滅茶苦茶上機嫌だ。

 なんか理由つけて戻って、もう一度泣かせてやろうか?


「ご主人さまが屍霊王さまからの賜名に恥じぬ行いをなさる限りは、私以外の配下もご協力いたしますし。大丈夫です!」


 妙な理由で屍霊王の手下が協力的なのも、助かるんだか気分が悪いんだか。

 それもこれもあの首なし! 勝手に変な賜名押しつけやがって!

 俺が賜名の増えた手を握り込むと、ダルフが目の上に手を翳して空を見上げた。


「おい、クヴェル。あの鳥、お前の使い魔じゃないか?」

「あぁ、ヘンゼルとグレーテルの様子を偵察させてたんだが、そろそろばれそうだったから一旦退かせたんだ。ついでだしこのまま連れて行くか」

「そう言えばこの五日、暇があると覗き見しまくってたな」


 変な言い方するな。偵察だ、偵察。

 もちろんあいつらの健康状態も気になったんだが、どうして軍が敗れるなんて状態になったかが知りたかった。

 本当に俺、基礎くらいしか教えてない。俺の使ってた魔法を盗み見て覚えたにしても、日常生活の補助になる魔法しか使ってなかったんだよ。


「それで? 弟子どもはどれだけ強くなってた?」

「強さは、まぁ…………お前一人でも大丈夫そうだ。実戦経験の差はそう簡単に埋まらんさ。ただ、俺が教えてない魔法を使いまくってた」

「お前みたいに自作のとんでも魔法か?」


 おい、そのまたやらかしやがったみたいな顔やめろ。


「そうじゃない。あいつらは基本的に魔女狩りのあった地域を移動してる。つまり、もともといた魔法使いが放置せざるをえなかった魔法の研究成果を幾つも手に入れることになったみたいだ」


 魔力操作を重点的にやってたせいで、ヘンゼルとグレーテルは術式を理解さえすれば魔法を発動させることができた。

 そして相手は数でものをいう軍だ。

 ちょっと扱いがお粗末でも、攻撃魔法を数打ちゃ当たる。

 そうして軍相手に乱打して慣れれば、時間と共に上達していったようだ。


「子供二人と舐めてかかって初戦で惨敗。その上俺の名前使って復讐謳ったもんだから、指揮官が委縮して用兵が上手くいかなかったって言うのが真相みたいだな」

「確かに、戦争ってのは勢いに乗ったほうが勝つからな」

「結界も自分たちで張れるから、寝首をかかれる心配もない」

「このまま、国が指咥えて見てると思うのか?」

「はは、あいつらが何処まで計算してたかは知らないがな、王都のほうじゃ俺に恨まれてると思ってる奴らが大量発生してるらしい」


 五匹作った使い魔は、元が屍霊王であるため、ただの泥人形で作った使い魔より融通が利く。

 俺の名前に反応して情報収集をするよう使い魔を放ったら、俺を指す隠語まで覚えて情報収集を行って来た。


「なるほど。前線は委縮して王都のほうじゃ保身に回って腰が重い、か。まともな将軍いなさそうだな」

「それだ。俺たちが国にいた頃にはまだまともな判断できる人たちがいたはずだ。だからあの王子も、先代の国王陛下周辺が王都を空ける隙を突いて俺を追放したんだし」

「うーん、俺が国に戻った時には後継者争い秒読みで、さっさと国出たからな。あの後勢力図が大きく変わったってことはあるだろうな」


 俺を追放した王子は唯一の直系男子だった。そいつが不祥事起こしたなら、傍系がワンチャンあると夢見て争ったか。

 俺を取り立ててくれた先代国王には悪いが、晩節汚す結果にしかならなかったな。血の濃さじゃなく才能で後継者を選ぶべきだったんだ。


 霊場の湿地帯を抜け、俺は一度方角を確認する。

 ある方向を見ると、ダルフが何げない風を装って言った。


「…………行かないのか? 領主館」

「行かねぇよ。国家転覆容疑かかってる奴が、今さら行っても迷惑かけるだけだ」

「俺がお前を捜索するために国を出る時、国境まで追っかけて来て心配してたぞ、ヴァッサーラントの嬢ちゃん」

「嘘だぁ」

「おいおい」


 いや、なんで俺が呆れられてんだよ?

 ダルフ、嘘吐くならもっとしおらしい相手を選べよ。

 よりによってあの元義妹はない!


「なんだかんだ長い付き合いだからこそ、あいつのことは俺のほうが知ってる。心配なんてそんな殊勝なことする奴じゃないってな」

「えー? お前、あの嬢ちゃんと王都行ってからも仲良かったんだろ?」

「語弊がある。定期的に顔は合わせていたが、王都で活動する際の定宿代わりにされてただけだぞ?」


 ダルフは俺を残念そうに見て、わざとらしく溜め息を吐くと、元気づけるように肩を叩いて来た。

 普通に痛いし、意味がわからん。

 が、それを問い質す時間はないようだ。


「ダルフ」

「わかってるよ。お客さんがお出でなすったな」


 俺とダルフは背中合わせに立ち、辺りを見回す。

 場所は湿地帯を抜けた林。見晴らしが悪いわけじゃないが、障害物は多い。走って林を抜ければ開けた草原だが、走り抜けた途端、背中に隙ができるような地形だ。


 俺たちの動きに、一拍遅れて矢が八方から飛んで来た。

 ダルフは戦斧で矢を払い、俺は風で狙いを逸らす。


「ばれてんだよ。出て来い」


 ダルフの挑発に、黒衣を纏った八人の刺客が姿を現した。

 けど、鼠と鳥の使い魔から、後二人まだ伏せているという情報が来る。


「数でどうにかしようと思うなら、十倍は連れて来い!」


 雄々しく吠えたダルフは、囲んで襲いかかって来る八人の内、三人を戦斧の風圧だけで吹っ飛ばし、手近な一人を投げ、もう一人は蹴って、それぞれ一人ずつ刺客に当てる。

 つまり、今立っているのは俺の正面に残った一人だけだ。


「ば…………化け物…………!」


 俺を見て言うな。

 と思ったら、残った一人が片手を俺に向けて突き出した。

 使い魔情報によると、隠れた二人も同じことをしているようだ。


「起動! 封縛せよ!」


 呪文で効力を発揮するマジックアイテムをつけていたらしく、俺は三方から伸びる光の板に封じ込められる。

 三角柱の中に閉じ込められた形になった俺をチラ見するだけで、ダルフはまだ動く刺客を戦斧で殴って意識を飛ばす作業を続けていた。


「え?」


 俺が困ってないと見て作業を続行したダルフに、刺客のほうが戸惑った声を上げる。


「ったく、これで俺が捕まえられると思われてるなんて、舐められたもんだな」


 言って、俺は目の前の光の板をノックした。

 瞬間、三角柱を形作っていた三つの光の板は外向きに倒れて消失する。


「ば、馬鹿な!? 抗魔の指輪に囚われた魔法使いは、無力化するはず!」

「身体強化も強制的に剥がされるんじゃなかったのか!?」

「じ、事前に魔法を仕組んでいたんだろ! もう一度だ!」

「いや、結果は変わらねぇよ」


 もう一度三角柱に閉じ込められたから、もう一度ノック一つで消した。

 原理はわからないまでも、俺を捕まえられないとわかった刺客は、三人揃って逃げ出す。

 ちょっと悪足掻きはしたものの、判断は悪くない。

 相手が俺でなければな。


「事前に魔法を用意してたのは正解だ。ただし、俺に対してじゃないがな」


 刺客は合図も送らず三人一斉に三方向へと走り、俺を攪乱しようとした。

 が、すでに遅い。

 その場から動いた時点で、俺が仕掛けておいた捕縛の魔法が発動する。


「「「ぐは!?」」」


 足に巻きついた蔦に棘を刺され、刺客は三人ともその場に崩れ落ちた。


「毒か? こういう奴らって耐毒性あるんじゃねぇの?」

「そう思ったから、精気を吸う植物系の魔物を仕込んだ。屍霊王の城にいた奴」


 逃げるという消極的な行動に出た時点で、やる気ともいう精気はマイナス傾向だ。そこにさらに精気を吸う魔物に取り憑かれれば、逃げるという行動にもやる気が起きず、身体能力は半減する。


 俺はダルフと一緒に捕らえた刺客十人を並べて、覆面や黒衣をはぎ取って行く。

 そうして暗器や毒やマジックアイテムを押収した。


「で、さっきの光り出したのはこの指輪か? この光ってるのは魔石だな」

「あぁ、魔法使いを捕らえるための物で、同時に使う奴が増えるほど強固になる代物だ」

「じゃ、三つじゃ足りなかったわけか」

「いや、並の魔法使いなら三つで十分だ」

「だったらやっぱり、お前相手じゃ足りなかったんだろ」


 根本的にそうじゃないんだが、まぁ、いいか。


「さて、お前たちを送って来たのは…………」


 刺客は揃って口を引き結んだ。

 何も答えないという意思表示だろうが、俺には関係ない。


「ん? お前ら十人とも兄弟かよ!」

「「「「「「「「「「な!?」」」」」」」」」」


 俺は相手の情報を覗く魔法で、全員に血縁関係があることを確認した。


「へぇ? ここの二人とそっちの二人が同じ顔してるから双子かなんかだとは思ったが」


 ダルフは一目でわかる刺客の二組を指す。


「そっちのは双子だが、そこの二人は一番端の奴と合わせて三つ子だ。で、こっちの似てない二人も双子だな」


 年齢もわかるから兄弟の順番もわかる。

 そんな俺に、刺客たちは愕然とした表情を浮かべていた。


「しかも、こいつらまだ四人も下にいるな」

「あんた、あんた! 何者だ!?」

「おいおい、誰かも知らずに襲ったのかよ?」


 一番年下の刺客が叫ぶと、双子の片割れが食ってかかった。


「クヴェル=ヴァンデルだろ! 元宮廷魔術師の!」


 十代のこの刺客はどうやら、本当に知らないらしい。

 俺は抗魔の指輪十個の上に片手を翳した。


「製作者権限制御、全停止」


 今まで光っていた魔石が光を失い、マジックアイテムとして機能を停止したことを物語る。


「そんな…………。最も強力で実践的な対魔法使いに特化したアイテムだぞ?」

「そんな大層なもんじゃない。ヘンゼルとグレーテルも、理屈さえわかれば抜け出せるくらいだ」


 信じられない顔で刺客たちが俺を見上げた。

 あれ? もしかして全員知らずに使ってたのか。


「これ、俺が作ったマジックアイテムだぞ?」


 作った相手に効くわけないだろ。


隔日更新、全三十七話予定

次回:復讐鬼、違いを見せつける

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