第3話 夢の続きを!
モンスターたちの襲撃を退け、魔王を目指す旅を始め次の街を目指していた。
「重い・・・一体こんな荷物何に必要なんだよ」
「文句を言わないで自分の仕事をしてください」
「はいはい」
俺は、もう駄目なのかもしれない。
キーナちゃんと話すのは嫌いではないが、やはり勇者に関しては文句しか出てこない。
勇者というのは人々の尊敬を集めるような人物になるのではと真剣に考えてしまう。
「そろそろ次の街が見えてくるころだな。みんな勇者である俺の仲間らしくしっかりしておけよー」
「「はーーい」」
そんな勇者たちの姿を見ながら俺はため息をつきながら呆れていた。
「さてここはどんな街なのかねぇー。せいぜい楽しませてもらうとしよう」
「ちょっとー荷物持ち遅いわよー!早くしてよ!」
「ホント使えないんだから!」
「みんな!そんなこと言わないの!」
「おい。荷物持ち・・・早くしろ・・・殺すぞ?」
俺の頬を変な汗が伝う。本気でやりかねないという恐怖がよぎった。
「は、はい!申し訳ありません!」
反射的に謝ってしまうが今回は謝ることは正解だろう・・・でも死んだら夢から覚めるんじゃ!いっそのこと死んでみるか!なんか反論すれば・・・
「でも・・・」
すると、俺の口をアイスちゃんが慌ててふさぐ。
「だめ。殺されちゃう」
勇者は俺とアイスちゃんの姿を見ながら鼻で笑う。
くやしい。それに腹が立つ。でも、そう簡単に死んでみようなんて夢の中でも思っちゃいけないよな。
「今は我慢して」
アイスちゃんはそう言って一緒に荷車を押してくれる。
「街に着いたら何か奢るよ」
「私も手伝います」
「キーナちゃん・・・ありがとう」
俺はマリンダさんの方を見る。
マリンダさんは俺の視線に気が付いたのか微笑みガッツポーズをしてくれた。
さっきも一人かばってくれたしやっぱり優しい!
そんなことをしている間に次の街が見えてきた。
「あれがカイロンか」
「確か中継ぎ貿易で栄えた街だったわよね?」
「その割には活気がないような気も・・・」
「ここっていつも人通りが多い街道のはず」
「そうなの?」
「はい。ですが・・・確かに誰とも出会ってないですね」
勇者は舌打ちをする。
「どうせ魔物が何かが出始めて大変です~助けてくださ~いとか言われるパターンだろ?めんどくせぇー」
勇者がめんどくさがってるよ・・・何のための勇者だよ!
そして、街の入り口まで着くと入り口は固く閉ざされていた。
「誰か開けろ!俺は勇者だぞ!」
「勇者様になんと無礼な!早く門を開けなさい!」
すると入り口の門がゆっくりと開き始め、武装した兵士たちが姿を現し、勇者のもとへ駆け寄る。
「本物の勇者様でありますか!」
「ああ。わかったら道を開けろ」
「勇者様が来てくれたぞ!」
「これで俺たちも助かる!」
喜ぶ人たちの中をゆっくりと進んでいく。進んでいった先に頭を下げて俺たちを出迎える人影があった。
「お前は?」
「私は、この街の代官をやらせていただいております。ハスと申します。この度は・・」
「堅苦しい挨拶はやめろ。俺は疲れているんだ」
「はい!すぐに宿の準備を!」
そのあと俺は宿に案内され、勇者たちは代官の屋敷へと案内された。
「何で俺だけ宿で荷物番なんだよ。今頃うまいもん食ってんだろうなー」
一人荷車の横に座りうなだれていると、一人の子どもが近づいてくる。
「どうしたー?少年。俺に何か用か」
「おじさんは勇者様の仲間?」
「おじ・・・まぁいいや。仲間か・・・多分仲間になるんだろうな」
「どんなことしてるの?」
「えっと・・・荷物持ち・・・」
「おじさん下っ端?」
「下っ端って・・・でもその通りだな・・・」
子どもに下っ端とか言われると割とへこむ。本当のことではあるんだけど。
「勇者様は僕たちのこと助けてくれるの?」
子どもの問いに俺は答える事をためらったが子どもの顔を見て答えた。
「ああ。助けてくれるさ」
子どもの頭を撫でると、子どもは嬉しそうに走ってどこかへ行ってしまった。
「その勇者様たちは今はいったい何をしていらっしゃるのか」
「あの・・・もしよろしければ貴方様も街の方でも見て回られてはいかがでしょうか?」
小太りの男が恐る恐る話しかけてきたので、顔を見上げるとそれは宿屋の主人であった。
「ああ。どうもお世話になります」
「滅相もございません!こちらこそ我が宿を勇者様方に使っていただき光栄です」
「自分なんてしょせんは荷物持ちですから」
その時腹の虫が鳴り何も口にしていなったことを思い出した。
「そういえば何も食べていなかった・・・いやーお恥ずかしい・・・」
「では、お食事を持ってまいりますね」
「な、なんか申し訳ない・・・」
宿屋の主人は急いで宿の中へと向かって行った。
そんな宿屋の主人の背中を見送り、再び一人になった俺は少し疲れたと感じそっと目を閉じた。
「起きて」
俺を揺すりながら声をかけ起こしてくる感情のないようなトーンの声。でも、その声はなんか悪くない。正直ちょっと安心してしまう。
「アイスちゃん・・・どうしたの?」
あなたも連れてこいと頼まれたと言い、俺の腕をつかみ代官の屋敷へと歩き始めた。
「勇者様。この度は我々の街へとおいでくださりまことにありがとうございます」
代官は深々と勇者たちに頭を下げると、男たちに命じて貢物を運ばせる。
勇者一行は運ばれてくる貢物を見ながら思わずに笑みがこぼれていた。
「おう。さまざまな場所を見て回るのも勇者の役目だからな」
「勇者様。これらの品々は我々の気持ちにございます。どうかお納めくださいませ」
「うむ。ありがたくいただいておこう」
勇者の言葉を聞き、代官をはじめとした人たちは胸をなでおろしていた。
そこで代官がおそるおそる口を開いた。
「失礼を承知で申し上げます。どうか我々の願いをお聞きどけいただけないでしょうか・・・」
「願い?まぁいい言ってみろ」
代官は口を開き、街で起こっていることを話しはじめた。
勇者は代官の話を聞きながら顔をゆがめた。
「その話が本当なら大変だぞ・・・」
「ど、どうするの・・・勇者様?」
「少し考えさせてくれ」
「何卒・・・何卒・・・」
俺は、代官たちと勇者を交互に見ながら思わず口を出そうとしてしまう。
「だめ。口出しをする権利はあなたにはない」
「俺はまだ何も・・・」
するとアイスちゃんの肘が俺を襲った。そして、意識が遠のいていった・・・
これは本当に夢なのか?それとも現実なのか?お前には区別はつくまい。
「どういうことだ!」
突然の言葉に慌てて跳ね起きる。
起きるとそこは見慣れた部屋だった。
「俺の部屋か・・・今何時だ?」
時計を手に取り時間を確認する。
時間は、午後の1時30分。布団にもぐりこんだ時間を思い出す。
「30分しか寝てないのか・・・」
布団の上に上半身を起こし、部屋を見渡してため息をついた。
ふとキーナちゃんのことを思い出した。
「キーナちゃん大丈夫なのかな・・・ケガは完全に治ってなかったよな・・・」
キーナちゃんは、治癒魔法をかけて自分でケガを治していたけど大丈夫なのか心配だ。誰か他に魔法が使える奴ぐらい居ただろうに何で誰もしてあげなかったんだろうな。
とりあえず起き上がり冷蔵庫の中を覗き中を見る。
「そういえば何も買ってなかったな・・・。何か買いに行くか」
何か食べる物でも買おうかと思い着替えて外へ出る。
「さて、コンビニにでもいくかなー」
近くのコンビニを目指して歩き出す。すると、休日にまで見たくない人物を見つけてしまった。
「あれは・・・何で部長がこんな所に居るんだよ・・・」
見つけてしまった人物とは、職場の上司である部長であった。
部長は、女性でありながら自分とほとんど変わらない歳で部長という地位にまで出世を果たしている。正直できる女という言葉がふさわしいのではないかと思う。
少し不本意ではあるが美人だとは思う。知らない人間が見ても間違いなく美人と言うだろう。しかし、性格はお世辞にも良いとは言えない。少なくとも俺はそう思っている。表情も少なく笑うことは無い。職場では、鋼鉄の女や女王様、冷帝などさまざまな呼び名で呼ばれている。
「見つからないうちにさっさと逃げよう」
その場を立ち去ろうとすると部長と目が合ってしまった。案外距離は離れていると思ったが意外と目って合うんだな・・・。部長は驚いたような表情をしたかと思うとこちらへと歩いて来る。
「よし。逃げよう」
身の危険を感じた俺は、部長に気づかなかったふりをして足早にその場から立ち去ろうとするが、部長と目が合ってしまう。
部長は慌てて俺の方に走ってくる。そんな部長に対して俺は、人混みに紛れるように逃げ回る。
追ってくる部長から逃げようと、謝りながら人混みをかき分けていく。せっかくの休日にわざわざ会社の人間に会いたくないしない話したくはない・・・そんな思いでただ逃げていく。正直に言うと明日会社でどんなことを言われるのか不安ではあるが・・・。せっかくの休日は堪能したい!久しぶりの休みなんだ!
そんなことを考えながらも自宅に到着する。コンビニに行くことができず肩を落とすが、気を取り直して布団に滑り込んだ。さて・・・寝よう!神様!また夢の続きを見させてください!