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カミカゼ  作者: 笹倉亜里沙
プロローグ
8/9

物語のはじまり

朝が来た。これから俺の話は始まるのだろうか。それとも、続いていくのだろうか。……どちらでも、構わない。昨夜の内に揖宿には話を付けておいた。彼女は「……ふは、やっぱり馬鹿なんですねえ。一度逃げておいて、怖いくせに戻ってくるなんて。いかにもバカがやりそうな事ですよ」と少しだけ寂しそうにつぶやいていた。どうしてそんな顔をしたのかは分からないが、関係の無い事だ。


昨夜、そう。昨夜。静香さんに不意打ちでキスを喰らった。お蔭で意識が軽く飛んでしまって、戻すのに時間が掛かってしまった。まさかいきなりそんな事をしてくるとは思わないだろ……。



「すーすのきさんっ」


「っ」



息を呑む。間違いない、この声は静香さんのものだ。俺の部屋を軽快にノックしている。あいつの心臓は化け物か!? 昨日の今日だというのにまるでその音からは気まずさを感じられない。こっちは起きたばかりで棚に入れてある着替えをすませてないんだ。


急いで着替える。



「朝食の時間ですよ。おきてくださ……」



丁度上着を脱ぎ、上半身が裸だった。




「――――っッッっッ!??! あ、あ……う」




彼女は一瞬で顔を赤くし、透き通った金色の髪をぶんぶんと左右に揺らす。その後にこっちの姿をおずおずと覗く。いや、なんでだよ。時間が延びる度に更に赤みが増していっているのが分かる。その視線からは羞恥と好奇心が入り混じっていた。



「とりあえず扉を閉めてくれ……」


「あ、あッ! すいません」



おずおずとドアを閉める彼女を他所に俺はさっさと着替えてしまう。……先に下から着替えていて正解だったかもしれない。



「あ……」



振り返った時の彼女は残念そうに、顔をシュンとさせてしまう。



「いや、キャラ違いすぎるだろ。昨日の午前中までのしっかり者っぽいのはどうしたんだ」


「だって、隠す必要が無いんですから」



そう言う静香さんはほんのり頬を染めて柔らかく笑う。クソ、やりずれえ。好感度最大っていうのもこっちにダメージが入る。大体俺のどこを好きになったんだ。記憶を失う前の俺が羨ましい。きっとドッキリ素敵なイベントがあったに違いない。



或いは、これがもしかしたら記憶を奪ったかもしれない彼女の作戦なのかもしれないが。


どちらにせよ美少女に言い寄られて悪い気がしないのが悲しい所だ。ましてや加えて可愛いというのはつらい。補正値が入る。


ええい! 濡れた瞳で俺を見ないでくれ! そうじゃないかもしれないけど! 



「と、とりあえず! 朝飯を食べに行こう。揖宿の奴もそこで説明するって言ってましたし」


「……はい」



嬉しそうに返事しないでくれ! 








昨日よりは少しだけ静かな朝食を食べ終えた俺達を待っていたのは、欠伸をしながら入って来た揖宿だ。



「ルール説明っている? 」



滅茶苦茶面倒臭そうだ。何故か目の下には隈が出来ている。



「昨日徹夜でゲームしすぎちゃってさ。ボク、とっても眠いのよ」



ふわぁあ。と気だるげに呟いた。



「いるに決まっているじゃない! 私たちの命が掛かってるのよ! 」



椅子から立ち上がり噛みついたのは……。そうだ。レーヴェだったか? 揖宿の機械的で気味の悪い銀色の髪とは対照的な、赤の髪が攻撃的に空を切る。



「……昨日、ボクを殺しに来た人がそれ言います? 」


「……っ」


「理不尽でしょうね。ですけど、ボク昨日の朝言いましたよね。諸君らの了承は当に得ているんですよ。なのに納得がいかず短絡的な行動に出るキミの為に、諸君らが苦労する事は見こさなかったんですかねえ。もしボクを殺しても元のセカイに、戻れなかったらどうするつもりだったんだか」



そこまで言われると、レーヴェは悔しそうに唇を噛み黙って座った。



昨日、俺が部屋に籠っている間そんな事があったのか。……いや、周囲の様子を見る限り彼女の単独行動だったのだろう。その証拠に弥生と呼ばれていた水色の髪の少女がレーヴェに話しかけている。



「どうして、話してくれなかったんですか」


「……、放っておいて。貴方には関係ないじゃない」



突き放すかのような言葉に、弥生は少なからずショックを受けたようだ。言った本人であるレーヴェも気まずそうに顔を逸らす。



「レーヴェちゃん。言い過ぎです」



静香さんがフォローに入ったが、レーヴェは悲しい表情はしたまま謝る事は無かった。



「そんな事どうでもいいんですけど。あの、諸君らさ。自分の人生とかどう思ってんのさ。何ですかねえ。満場一致で参加って。アホ? リスクとリターン考えてますかー? 」



その言葉に各々が違った反応を示す。弥生とレーヴェは表情を暗くさせ、フィオと呼ばれたエルフの少女はニヤリと笑い、静香さんは強い視線で揖宿を見つめ、親近感を覚えた佐伯は何とも言えなさ気に黄色の髪を触っている。ただ、軍帽少女である白石だけは無表情で揖宿を見ていた。




紅愛……。


お前は、何を考えているんだ?


お前は何に怯えて、何に壊されたんだ。


どうして、この戦いに参加するんだ。


聞きたい事は山ほどあった。昨夜の内に訪れても彼女はどこにもいなかった。けれども彼女はここにいる。




そんな俺達を他所に、揖宿は続けた。



「はぁぁあ。メンドクさ。やるからには説明させて頂きますよ。ルールは簡単。前に言った通り、諸君らにはここじゃないセカイに飛んでもらって人生を賭けて戦って貰います。敗北条件は自身のカミカゼが破壊される事、ただ一つそれだけです」


「待って。私達殺し合いをさせられるんじゃないの? 何でそれがそんなかみかぜ? だか何だかを破壊されるって話になってるのよ」


「それにのう。餓死とかでも十分負ける条件とかにはならないのかの。別に殺す必要はないのではないか? 」


「あー、それについての説明とかさ、まとめてやりますから。カミカゼとはこの戦いそのものの名称でもありますが、諸君ら唯一の能力とアイテムも指します。……有り体に言うと、ボクが諸君らそれぞれにアイテムを出現させるから。それ壊されたら負けって事ね」


「それに私達を賭けるっていうの? アイテムただ一つだけの為に……? 」


「くひ、くははははははははッ! 呑気だなぁ。ねえ、諸君らって悪徳業者とかに騙される奴だよね? 言葉尻を言う訳でも言質を取ったはったの話じゃないけどさ。――――そのアイテムは諸君らの人生そのものを武器にしたアイテムだよ。諸君らが自身に思い起こす最大の出来事や事件……。まあなんでもいいんですけど。それを再現するアイテム。それを使って戦って貰うんだ。そしてここからが本題。そのアイテムは使えば使うほど自分の人生を"消費"するんだ。この意味、分かる? 」



揖宿は愉快で痛快で堪らないと言わんばかりに笑う。



「く、ひ、ヒヒヒヒッ!! アイテムの破壊は他者自分の人生の"破壊"。つまり歴史から思い出から存在から完全に消し去られるのさ。誰からも思い出されず、諸君らの行動は無かったことにされ、諸君らの残した存在は全てにおいて露と消える! だって、そうでしょう? 人生を奪うってそういう事なんだから! 奪われた側は何が残されたのかなんて分からないし、知る必要すらない。だから安心して、壊されたら消えていいですよ」


「……な」


「簡潔に言うと、君たちは自分の人生を使って、相手の人生を滅茶苦茶に壊して下さいって事さ」



「そんなの、おかしいじゃないッ!! 」



レーヴェが怒りを抑えきれないと言わんばかりに揖宿に掴みかかる。



「だってだぁってえ、聞かれなかったんですもんねえ。わざわざ自分から言う義務なんて、無いですしぃ! アハ、あははハハハハハハハ! だからこの手をどけろよ」


「あっ! 」


「レーヴェさん!」



持ち上げる形で掴んでいたレーヴェの腕は、容易く払われる。彼女はそのまま床を軽く転がった。



「大丈夫ですか! 」



静香さんが駆け寄る。その後に遅れて車椅子に乗っていた弥生が近寄っていた。



そんな彼女らを他所に揖宿は続ける。



「……あぁそうそう、弥生ちゃん。キミはボクがどういった人生を辿ったか言っちゃったし。しかもその身体でハンデありまくりだからさ。ボクからプレゼントをあげる。不公平、だもんねえ」



その嗤いは下種そのものだった。人の不幸を笑い喜び慈しむ。屑の本懐。弥生は涙を瞳に貯め揖宿を睨みつけていた。



「それとさ。やめるのは自由だけど、もう参加しなおすのは無理だからね。ボクちゃんと昨日言ったし。昨日の内に変えてきた煤野木君、ラッキーだったねえ」



嬉しくないラッキーだ。



「……一つ聞きたいのじゃが。その飛ばされるセカイとは、どのようなセカイなのじゃ? 儂からすればこのセカイも十分奇妙なのじゃが……。もっとヤバい所にでも行かされるのかの? 」


「安心していいですよ。キミの故郷ですし」



フィオの故郷……? 確か、魔法が使えるファンタジーのようなセカイだったか。



「な、なんじゃと! 儂の故郷じゃと!? 元のセカイには戻れないのではなかったのか! 」


「似せただけのセカイですよ。同一人物が出て同一の社会を辿ってて同一の環境ですがねえ。けど、確かに私が作るだけの人形みたいなものだけどさ」


「そんなもの、見分けがつかなければ本物のセカイと変わらぬではないか! 儂の家族が巻き込まれたらどうするのじゃ! 」


「さてね、偽物だの本物いった所でそんなものに意味がありますか? どっちだっていいんですよ。キミだってそうだろ。そうじゃないと言わせないぞ」


「うぬぬ……」


「はぁ。なんでこう聞けば聞くほど皆さん墓穴を掘っていくんですかねぇ。ふひ、ボクがわざと言ってるんだけどねえ。楽しいし。それにいいじゃないか。地の利があるっていうの強みだよ? 」



さっきハンデ云々言っていた奴のいう事じゃない。



「大丈夫だよ。彼女に関しては地の利を覆すほどの不都合があるからね。差し引きプラスマイナスゼロって所さ」



くすくす、と笑う。よほどこの状況が愉快らしい。



「質問よろしいでしょうか。つまり自身の死はカミカゼの破壊と同等なのですか? 」



「そうだよ。この戦いに参加している間お腹はすかないし単純な死はそのままカミカゼの破壊に繋がるからね。なんなら銃で本体を撃ち殺せばいい。本体が死ねばカミカゼは勝手に壊れるよ。もし本人が死ななくてもカミカゼが壊れれば消えてなくなるんだから、そっちの方がシンプルで分かりやすいだろう? 」



「俺も良いか」


「いいよん。キミで最後ね。後の質問は個人でしてきなよ」



おい。後付けルールやめろ。というか別のセカイにいったらそもそもお前に会えんのか? 聞きたいが堪える。こいつの気紛れで質問が終わらされてしまっては意味が無い。



「……この戦いは、最後の一人になるまで終わらないのか? 」




瞬間。間違いなく、空気が凍った。いや、揖宿のセカイが止まった。



そして動き出す。彼女は間違いなく今までで一番の狂気を携えて。



「プ、ぷあっはっはっははははははははは!! くひゃはははは、ふひぃっ、ふははっ。ちょ、嗤わせないでよ! 諸君ら、戦う為に希望してきたんだろ。他人を蹴落としてでも、自分こそは戻りたいから。……だったら、それが答えだろッ! 」




それが始まりだった。ふわりと、奇妙な感覚が身体を包む。




「雑で申し訳ないけどさ。物語の始まりって意外と適当なモンだろ。さっそく向こうのセカイで戦っておいで。カミカゼは諸君らが念じれば出て来るよ。……自分の人生がどれくらいあるか、とか使用方法とか能力とかは大体感覚で分かるから。ボクは変なルールで縛りはしないよ。存分に、潰しあっておいで」




このセカイで目覚める時のような視界の捻じれ方をして。ぶつりと潰された。

















どこかで機械音が響く。


どこかで繰り返される。


どこかで悲劇と喜劇が起こされる。



「…………煤野木が、呼んでる」













―――――――――――――――――――――――――――



名前:白石静香(しらいししずか)


身長:162cm


スリーサイズ:不明


元のセカイ:不明


カミカゼ:不明


カミカゼに参加する理由:不明


自身の事を名前以外一切語らない少女。

煤野木の事を好きだと猛烈にアピールするが、煤野木には適当にあしらわれている。しかし決して恥ずかしく脈が無い訳ではなく。むしろ下手に美少女な為にぞんざいになっているのだろう。

煤野木の事を好きが故に全てを知っているというが、本当の理由は未だ不明。

最初はバラバラだった少女たちを一人ひとりまとめあげた少女でもある。故にいろいろな事で頼られる事が多いが、そういった役割が無い時の彼女はずぼらそのもの。実は部屋が少し片付いていない(本人談)それが嘘か真はかは分からない。

軍人である白石とは苗字だが一緒だが、本人は偶然だと言っている。





これでプロローグは終わりです。

始まるまでに大分話が掛かってしまいました。……たぶん、掛かっていますよね?

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