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カミカゼ  作者: 笹倉亜里沙
プロローグ
5/9

日常と破滅のはじまり

帰ったら清書します

現れたのは二人の少女だった。手前の少女は車椅子に乗っており、淡い水色の髪に合った白と青色のウェディングドレスのような服を着ている。しかも彼女自身の肌は全体的に薄く、触れば消えてしまいそうな儚い雰囲気が漂っていた。


「煩い」


その車椅子を押す彼女は反対に、激情を表すかのように輝く赤の髪を靡かし塵芥でも見るかのように目を細めていた。


手前の少女とは違い黒と赤の入り乱れる派手な衣装で、金色の装飾が更に際立たせていた。更にその威圧感からは一握りの人物にしか出せないような物を感じ取れる。


けれど、そんな少女にも車椅子の少女は物怖じせずに告げた。


「レーヴェちゃん。仮にも王族の方がそのような口調をなさってはいけません」


「……え? 弥生。怒る所そこなのかしら? それにちゃん付けはやめてって」


「レーヴェちゃん」


「わ、悪かったわ。だからそのちゃん付け……」


「嫌です。やめません」


一瞬前の射殺さんばかりの眼光はどこへ行ったやら、王族と呼ばれた少女は自身が押している車椅子の少女に逆に押されていた。


ああ、なんとなく次のパターンは読めてきたぞ。


「私達もやりませんか? 」


「やりません」


「そんなぁ……」


静香さんは若干しょげていた。







「ふん、庶民の食事にしては相変わらず美味しいじゃない」


「素直じゃないんですから。レーヴェちゃん」


未だじゃれているエルフっ娘と軍帽少女の反対側に座って食事をしている二人。弥生は車椅子に乗ったままなのだが、どうにも隣のレーヴェは弥生が食いづらそうにしているのが気になるらしく、ちょくちょくと手助けをしたりしていた。


その優しさに気が付いている弥生は柔らかな笑みを零して、レーヴェは居心地悪そうに顔を反らしている。


なんだろうこの悪くない感じは。眼福というか。


「いいです。本当に」


隣で俺と同じように食事を取る静香さんはものすごく顔が溶けていた。頭から魂が抜けているようにも見える。


「隣、座らせて貰おうかな」


全員分出したからだろうか。佐伯が自分の分の皿を手に持ちながら、よっこいしょ、と可愛らしい声とは裏腹の言葉を出して俺の隣に腰かける。


彼女は小麦のように柔らかく綺麗な黄色の髪を可愛らしくまとめ上げる様に赤のリボンで結んでいた。


奇抜な服装をしているこのメンツの中では常識的な、膝まで伸びる白と黒のワンピースを着ている。襟元や様々な所にフリルが縫られており、ゴシック寄りになっている。


比較的親近感を抱いた俺は、少しだけ砕けた口調で話す。


「すまん。先に食べてしまって。美味しかった」


「―――――」


少しだけ驚いた表情して、その後に顔を軽く歪ませて涙を流した。


えっ!?


「あはは、いや、違うんだ。嬉しくて。ありがとう、煤野木は優しいな」


向日葵が咲いたように朗らかに彼女は笑う。思わず一瞬だけ見惚れてしまった。


って、違う。そんな事より聞かなければならない事がある。



「あの二人、止めなくていいのか? 」


「え? あぁ。フィオと白石? 彼女達は放っておいていいよ。いつもの事だから」


どっちがフィオでどっちが白石なのかは分からないが、あのエルフ娘と軍帽少女の名前が分かった。


「というか、エルフって……」


「ファンタジーセカイからやってきたなんて、一年経った今でも信じられないですよね」


気付けば、静香さんも話に入ってきていた。


「うん。魔法も何もかも使えないみたいだけど。流石にあのエルフ耳だけは私達と違うんだなって思う」


ねー。って言いながら静香さんはいそいそと立ち上がり、おもむろにエルフ娘へと近づき。思い切り抱き着いた。


「ぎゃああああああああああああああ」


「んーっ。可愛いですね。本当にぃフィオちゃんは」


あっちがフィオか。


「めきめき、メキメキ言ってるそれ人形相手にやってほしいのじゃああああああああ」


あははは。


笑う。それにつられて食卓の空気が朗らかになっていく。俺が覚えていないだけの朝の風景。







「―――あぁ、まるで書き捨てられる小説みたいなダラダラ感だねぇ。ラブラブどきどき共同生活。食事は無限に沸くし、これといった危険も無い日常の一ページ。そーいうのってなかなか作者の力がいるよねえ。下手なら読者も飽きるし作者も飽きるってヤツ? ボクは好きだけどさぁ」







それはそこにいた。まるでいるのが当たり前かのように。空いている椅子に座り残った食事を食べていた。


「こんにちは。諸君」


銀。という言葉はそれを指すのだろう。少女は合成着色のようにこの世界に不釣り合いな程透き通った銀髪を靡かしながら嗤う。彼女は端が所々千切れては空に消えている黒のマントだけを着ていた。まるでそれ以外ナニも必要ないかのように。


見た瞬間に分かった。




―――これは、この"セカイ"に不釣り合いなモノだ。




「ボクがこの世界の管理者の揖宿っていうんだ。初めましてとは言わないよ、もう会ってるしね」


「なっ」


その言葉に皆が息を呑んだのが分かる。それもそのはずだ。覚えていない俺とは違い、皆には帰る場所がある。決してこの"セカイ"の住人ではないのだ。そしてそれに憤るのも、また当たり前だ。




「貴方、私達をこのセカイに閉じ込めて何がしたいのよッ」



最初に喰いかかったのはレーヴェだったが、少女は眉を軽く動かすぐらいで興味無さげに続けた。


「さぁてそろそろやっと進められちゃうよ。本当は進めたくはないんだけどさ」


「このッ」


無視した揖宿に、レーヴェは話は終わっていないと二の次を告げようとした。


「……あのさぁ。諸君は戻りたいんだろう、元のセカイに。ボクの機嫌を損ねてもいいのかい? いいや違うね、君たちはボクに頼るしかないのさ。―――だから、黙って聞けよ。聞くだけならタダなんだしさ」


「くっ……」


荒廃した、まるで何も見たくないと言わんばかりの強烈な視線と口調だった。



「えーっと、もう、面倒くさいのは無いのかな? じゃあ続けるよ」


黙るしかなかった。



「まず初めに、君たちにはこの檻のような"セカイ"。……まあ、ホームでも拠点でも何でもいいけどさ。そことは違う"セカイ"で人生をかけて戦って貰いまーす。そこで負ければ」


ぽりぽりとニヒルな笑みを浮かべながら、少女は嗤う。くひひ、と。



「――二度と元の世界には帰れないですねえ」



まともじゃなかった。俺が味わった中でも、特に。


意味の分からない記憶や、消えた過去や、セカイに閉じ込められた事や、いろいろなセカイの住人よりも遥かに。



おかしな話だった。



「因みに、この……戦いには最初に参加するしない選べますのでご自由ですよ。参加しなければ諸君が望んだこのセカイで一生平和に暮らせますしね」


その言葉に、白石という軍帽少女が反応した。


「この"セカイ"にはあなたが閉じ込めたのでは無いのですか? 」


「いいえ、この"セカイ"には貴方達が望んで来たんですよ? ボクと会ってね」


「そんな訳が無いわ! 私にはやらないといけない事があるのに……」


レーヴェが端正な表情を崩しながら噛みつく。けれど最初に言われた事が効いていたのか、語尾が小さくなっていた。



「……それなら、ここに来る前の記憶が曖昧なのは」


「想像に任せるよ。ボクからは何も言わないさ。けど、諸君には元のセカイでやり残した事。"やらなければならない"事がある筈だよね。その女の子みたいにさ」


こんなの、詐欺と同じじゃないのか。選択肢を与えるようで、与えてない。


「何故、一年経ったこの時期にやってきたんだ? 初めからやっていれば良かったじゃないか」


「諸君が仲良くなったからだよ」


何の事無く告げる。


「恋人でも、親友でも、家族でも、義姉妹でも、何でもいいんだけどさ。なかなか簡単に壊れないような絆が欲しかったのさ」


くひ、と揖宿は嗤う。最悪の回答だった。要は、仲良くなったから戦い合わせに来ました。と言っているようなものだ。


「………貴方は、人を、何だと……」


弥生が絶句しながら呟く。その両目に涙を貯めながら。憎々し気に揖宿を捉えて。



「戦える訳がないじゃないですか……」



揖宿は弥生の言葉に目を見開いた後に、意地の悪い笑みを零した。


「そりゃとんだ言い訳だよ弥生ちゃん。だって、キミは元の世界で大量虐殺をしているじゃないか」



……え?



「な、…………なんで」


弥生は狼狽していた。まるで、その言葉が真実だと指し示すかのように。



「宗教を絶対とする"セカイ"でキミは事実上宗教国家を破壊しようとしている。そんなキミが仲良くなった人と戦えないだってぇ? 冗談は止して欲しいなぁ」


「………私はッ」


「―――まぁ、それを言ったらここにいる人たち全員似たようなモノだしねぇ」




その言葉に、誰もが固まった。


そして、無意識にお互いを見てしまった。





「なるべくして、集まったって所だよ。集めた訳じゃないよ、集まったんだ。諸君らは」



揖宿は感慨深げに呟く。




「……さてと。諸君の返答は今夜までだ。ボクはこの屋敷の一番奥の図書室にいるから。いつでも来てくれていいからね」



ばぁい。と終始おちゃらけた態度で揖宿は出ていった。




残された空気は朝らしく澄んでいて、重苦しかった。


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