夢のようなハナシ
今回短いです
「ひどいです。煤野木さん」
俺の隣で柔らかな笑みを浮かべる女性は、先程下着を見てしまった人。―――静香さんというらしい。ドアの掛札から名前を見ただけなので、苗字なのか名前なのかは分からない。
あの後とりあえず不本意ながら目撃してしまった俺は謝るべく待っていたのだ。すると数分もしない内にしっかりとした姿の彼女が出てきた。
シャツ一枚下着一枚だった服装は淡い水色のブラウスと桜を連想させるようなひらひらとしたピンクのスカートになっており、彼女の醸し出す柔らかな雰囲気とマッチしていて更に魅力を引き立てていた。
そんな彼女の持ち上がっていた金色の髪は綺麗に梳かれており、頭の頂点には左右一つずつ束ねられたお団子が可愛らしく主張している。寝ぼけまなこだった瞳はジト目へと変わっていた。が、彼女はその目を続ける事も無くと表情を変える。
「煤野木さんも朝食に呼ばれたんですよね? 」
「はい」
「なら、一緒にいきませんか? 」
この建物の事を知らない俺からしたらかなり有難い申し出だった。それに、良い物を見せて貰ったお詫びをしなければならない。
そうして、俺は彼女に歩みを合わせる形で散策することになった。
切り出したのは静香さんからだった。
「まさか二回も下着姿を見られるとは思っていませんでした」
「……………」
二回も?
………二回も???
一回目はさっきだとして、俺の記憶にない間にあの姿に酷似したものを見たのか?? むっちりぼいーんと出た窮屈そうな下着姿を?? 羨ましすぎる。何故忘れてしまったんだ。一生付きまとうミスなのではないか。
「これではお嫁にいけませんね。煤野木さんが貰って頂けますか? 」
「貰えるものなら、貰っておきたい」
「ふふふ。ありがとうございます」
くすくすと小さな花を咲かせたように笑う彼女の顔を見ながら、やはり思う。まったくこの人物にも記憶がない。むしろ初対面といった方がしっくりくる。けれど軍帽少女や静香さんは記憶に無いだけで、俺を知っているらしい。
本当は、
本当は。俺は寝ている最中に頭を強打して記憶が飛んでしまったのではないのか。それで微かに覚えているのは荒唐無稽な夢の……。
『神様ぁ……ッ! こんなの、こんなのぉっ、あんまりだよっ。こんなお別れなんてっ。もう会えないなんてっ。いやだぁ、いやだよぉ、いやなんだ。いやなんだぁ……ッ 』
……………。
「どうかしましたか。煤野木さん」
「え? 」
気が付けば縁側と呼ばれる庭へと出れる廊下で静香さんは立ち止まって、心配そうにこちらの顔を伺っていた。外から差し漏れる光が彼女の表情に影を作っている。
「難しい顔をしていらっしゃいますよ」
「え、ああ。今朝見た夢があまりにもリアルだったんで。ははは……」
時間を経る事にぼんやりと薄れていくあの出来事。誰かを救わなければならないという決意だけが胸を焦がす。……一体誰を?
「――昔の事を思い出していたのですか? 」
「……昔? 」
「丁度、一年が経ちますね」
眩しそうに外を見上げる。
「私達がそれぞれ違うセカイからこのセカイに、閉じ込められて」