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人魚姫は嫌いです。  作者: みや
4/5

人魚の歌

マリスのお話から所変わり、人魚姫してんです


――おとぎ話では、人魚姫と王子様は結ばれない。



実際に私のご先祖様の一人も結ばれなかった。



人魚が、人間や、陸に興味を持つだなんて馬鹿げてる。


みんなそう思っている。




でも、私は違う。






海の中の世界はつまらない。


毎日お魚とにらめっこして、泳いで、勉強して、歌を歌ったりして。



人魚は人間みたいに争いはしない。


もちろん、喧嘩くらいはするけれど。



でも、争いは決してしない。



人魚は小さいころから、人間が如何に恐ろしい生き物かを教わる。


人間とは醜く、貪欲で、争い、壊しあう。




でも本当はそれだけじゃないということを、私は知っているの。




海の上へは行ってはいけない。



これは掟。



けれどそれを破って、私は小さいころによく海の上へと行った。






……



胸を高鳴らせながら海面へと向かう。


陸へ近づくと、どこからか幽かに音が聴こえてくる。



それは確かに歌だったけれど……途切れ途切れに口ずさんでいる、その歌は。


綺麗な歌で……けれどそれは水っぽく、どこか物悲しく聴こえた。



声のする方を見ると、一人の少年がそこに座っていた。


岬の上で、ひとり、海を眺めている彼を。



彼は声も出さずに、ただ涙を流していた。





綺麗だと思った。




しゃんと背を伸ばし、空を見上げて。


陶器のような白い頬を伝って流れ落ちる涙は、玉の真珠よりも美しい宝石。



そこにある何よりも綺麗で、幻想的なその存在は、あれほど醜い生き物だと教わってきた人間だった。



彼は涙を流しながら、歌を、歌っていた。



海面へ向かう時などとは比べ物にならないくらい、私の胸は高鳴っていた。




歌になりきれていない歌。


すごく、悲しい歌。



私はどうしても、我慢ができなかった。




「♪~♪~」



悲しい歌は嫌い。


悲しい歌を歌う人は寂しい人だと、お母様が言っていたもの。



「っ……だれ?」



私の歌を聴いて、彼は周りを見回した。



「♪~~」




見つかるといけない。


歌が終わると、私は激しくなる心臓を抑えて海の底へと戻った。






それからも私は、何度か岬へ行った。


彼はあれ以来泣いていなかったけれど、いつも寂しそうな顔で海を見ていた。




あの時以来、彼は歌を歌わなくなった。


寂しい歌だったけれど、綺麗な声だったのに。



「♪~♪~」


また歌ってほしくてつい私は歌ってしまった。



彼は最初驚いたようだったけれど、今度は落ち着いた様子で海を見つめていた。




歌が終わって、私は思わず聞いてしまっていた。


「どうしてあなたは、そんなに寂しそうな顔をしているの?」



はっとして私は、急いで海の中へ隠れた。


人間に姿を見られてはいけない、これは絶対に破ってはいけない掟。



「きみは誰?すごく、素敵な歌だね」




私は岩陰から隠れて話した。


「ありがとう、それにごめんなさい。驚かすつもりはなかったの」


「平気だよ……君は?」



「私は……ごめんなさい、言えないわ」


「……そっか」



それから少しずつだけれど、私たちは話した。


彼が悲しんでいる理由は、教えてはくれなかったけれど。




彼は、すごく優しかった。






「王子、どこにいらっしゃるのです、王子ー!」


岬の後ろのほうから、馬のひづめの音と共に人の声も聞こえてくる。



「……最後に、きみの名前だけ教えて欲しいな」


「私はララ、あなたは?」


「僕は……」




「王子!ここにいらっしゃいましたか」





「……ごめん、もう行かなきゃ」


そう言って、彼は去っていってしまった。




それからしばらく、彼が岬に現れることはなかった。




けれど、ひとつ分かったことがあった。


彼は王子様だということ。





彼とは少ししか話せなかったけれど、それでもこの胸の高鳴りで確かに分かる。



私はきっと、彼に恋をしたのだと。




彼と話をしたその日から、たとえ彼が居なくても……

いや、いつか逢えたらという淡い期待を抱いて、海の上へ行くのが私の日常になっていた。




いつものように海の上へ行くと、岬のほうで人間の声がした。


私は咄嗟に岩陰に身を潜める。



「王子様、あんたは邪魔な存在だ。あんたがいると、みんなが不幸になるんです」


「……僕は」




王子と聞こえて覗いてみると、そこにはあの彼がいた。



「あんたも国が大事なのなら、さっさと殺されてください」


その上、よく見ると彼の目の前にいる男の手には鈍く光る鉛色のナイフが握られている。



次の瞬間、彼は王子をナイフで刺し、そのまま海へと突き落とした。




あぁ、危ないっ!!



そう思った瞬間に、彼は海へと落ちる。



助けなきゃ、助けなきゃ!!


私は急いで岬の下まで泳ぐ。




碧い海の中で、彼はその美しい髪を揺らして、腹の刺し傷から赤い糸を引きながら海の底へと沈んでいこうとする。



痛々しい傷を負っているのに、その顔は眠っているかのように穏やかで、まるで母親に抱かれる稚児のように安らいでいて。




けれど、それが私には怖くて……手を伸ばし、背中からそっと抱き止める。



そのまま彼を抱いたまま、水面へ、海上へ――陸へ。


「しっかりして……大丈夫、お願い……目を開けて」



「…………っ……っごほっごほ、げほ……きみ、っは……」


彼は真っ青な顔になっていたけれど、どうにか意識を取り戻してくれた。



「あぁ、良かった……」



けれど視線を腹に移すと、あの男に刺された傷口からはまだ血が止まらず流れている。


「傷が……まだ血が出ているわ……」



「そっか……きみ、が、ごっほ……っあの、歌を……歌って、くれてた……だね」


「だめ、喋っちゃだめよ……」



「ぁ……にん、ぎょさ……か……初めて、みたよ……」



彼は、痛くて苦しいはずなのに、笑っていて。






「……きれい、だ……」



「っ……!」




微笑んだ顔は力なく、儚く、今にも崩れてしまいそうなくらい脆く。


その言葉と微笑みに、頭が真っ白になる。

心臓を掴まれた様に息苦しくなる。



彼の美しい瞳が閉じるのも嫌で、伸ばされた手をしっかりと握る。


けれど、彼の体からはどんどん力が抜けていく。




どうしよう……どうすればいいの……




私がパニックを起こしていると、浜辺から人間たちの声が聞こえてきた。


「王子!!王子はどこですか!?」


「王子ー!!」


「ご無事ですかー!」



どうやら城の兵士が来たらしい。


彼らに見つけてもらえば、きっとこの人は大丈夫。




行かなきゃ……でも。



「大丈夫、だよ……姿……見られちゃ、っいけないんだろ……早く、海へ……」


私は彼の言葉に頷いて、海の中へと戻った。







あれから、五年が経った。


私は、二度と彼を岬で見ることはなかった。

続いてミルズ視点へ行きます


コロコロ変わりますが、ご了承ください

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