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自分至上主義の元聖女

「ですから、神の名のもとにエミィと結婚しませんか?」


「何の脈絡もなくてわけわかんねぇ!」


 シヴァの自室。

 自らをエミィと呼ぶ修道服を着た水色の髪と紅い眼を持つ少女がシヴァのベッドの上でゴロゴロしながらそう口にした。


 少女の名はエーミル・ドミナンテ。

 世界的に有名な聖女だった少女である。


「ほら、私って、聖女やめたじゃないですか」


「聖女ってそんな軽く辞められるもんだったんだな」


「ああ、元々私、神とか信じてなかったんで割と簡単に」


「神も信じてなかったのにお前は聖女を名乗ったのか!?」


 聖女というのは、一柱の神を信仰することで、神から恩恵を授かり、それを人々のために役立たせる存在のことを言う。


 つまり、神から力を授からなければ、聖女にはなれないのだがーー、


「私の力、生まれつきなんですよ」


 生まれつき、何事に対しても恐ろしいほどの才能を発揮したのがこの少女。

 神を信仰などしていなくとも、生まれつき所持していた能力で適当に人助けをしていたら、勝手に聖女だなんだと持ち上げられたのだ。


「神からすっげぇ愛されてんじゃん!」


「別に、愛されたくて愛されたわけじゃないんですよ。私が愛されたいのは、シヴァだけなんです!それは神に誓います」


「お前、いま巷で裏切りの聖女として名を馳せてるの知ってる?」


「裏切り?ああ、どうせそこらのバカ達が神の意思に背いて魔王側についたーとか言ってるんですよね。ほっといて構いませんよ」


「軽っ!いや、エーミル、お前人間だろ?人間に追われる側なのはよろしくないんじゃ?」


「なーに言ってるんですか。私はこれからはシヴァと生きていくと決めたんです。ですから人間なんて私は眼中にありませんよ。今は数いる恋敵と戦うので夢中なんです。魔王だから仕方がないといえばそれまでなんですが、どうしてあんなハーレム要員がたくさんいるんですか!」


 ぐっ、とシヴァは気にしているところを突かれたのでうめき声を漏らす。


「し、仕方ないだろ!こっちにはその気はなくても惚れられたんだよ!」


「うっわ、責任転嫁ですか。たらし込んどいて、好意持たれたら興味失せてポイですか最低ですね。我が信じる神の名のもとに罰しますよいいんですか?」


「いや、お前信じる神いねぇじゃん!」


「私の中では私こそが神なのです!それと同等なのがシヴァ!貴方ですよ。ですから私に好意を持たれたことを光栄に思ってくださいね」


 エーミルは所謂ナルシストであった。

 自分大好き、それ以外のものを基本的に見下している。

 だが、唯一自分と同格に見ているのがシヴァなのだ。


「と、いうわけで、シヴァ、いただきます」


 二人してベッドにかけていたのが仇となったか、エーミルは、流れるように隣に腰掛けていたシヴァを押し倒し、ベルトを外そうとーー、


「ふざけるな!」


 したところで、無数の縫い針がエーミルに飛来する。


「チッ」


 舌打ちをしながらエーミルは大きく飛び退く。


 縫い針を投げたのはアルナ。

 その手には破けたシヴァの魔王マントが握られている。


 どうやら仕事中にシヴァの貞操の危機を感じたらしく、急遽駆けつけたようだ。


「貴様、またしてもマスターに手を出そうとーー」


「うるさいわね。どうせお前もシヴァとヤってるんでしょ?神(私)が許します


「貴様のようないつ裏切るかも分からない人間をマスターに近づけること自体私はいやなんです!」


 二人ともかなり口調が乱暴になってきている。



 どうしてアルナはハーレム要員たちに食ってかかるのかシヴァは疑問を持っているのだが、このままでは魔王城が崩壊しかねないので止めなければいけない。


「さて、じゃあ、アルナ、神の名の下に命じます。死になさい『断罪アーメン』」


「やれやれ、これだからあなたは。『拒絶リフレクト』」


 互いに完全に戦闘モード。

 何やら必殺技のようなものまで発動させ始めた。


「【ひれ伏せろ】」


 ズン、と空気が重く、冷たく変質する。

 そして、シヴァの口から発された言葉に何らかの力があったのか二人は言葉の通りひれ伏す。


「………アルナ、退室しろ」


「…申し訳ございませんでした」


 一言謝罪をしてから退室するアルナ。

 そのしょぼんとした姿を見て後からフォローが必要だなと判断するシヴァだが、今はエーミルの方に対応すべきだと判断。


「あ、あはは。流石に凄いですねシヴァ。神もびっくりです」


「あんまり暴れてくれるなよ」


「ごめんなさい、久しぶりに愛しい人に会えたところに邪魔が入ったら、ね?」


「はぁ、これも俺が原因か」


「まあ、そうよね」


 そうなのだ、元を辿れば女癖の悪いシヴァが全ての元凶。

 それ故にシヴァは二人を強く叱ることができない。


「本音を言うと、シヴァを好きになってしまった私たち全員、別に自分一人が幸せになりたいわけじゃあないんですよ?神は平等主義者なんです。ハーレム許容できます」


「……そう言ってくれると助かるな」


「で、も!二人きりの時は神であろうと自分一人を愛して欲しいです」


 そっ、とエーミルはシヴァの肩に頭を乗せる。


「分かった」


 隣に座るエーミルの腰をグイっと引き寄せると、自らの膝の上にエーミルを乗せる。


「これでいいか?」


「はい、むしろこれ以上でもいいんですよ?神が許可します」


「部屋の外からアルナが殺気を漏らしてるからやめとくよ」


「全く、アルナはいつもそばに居られる分いいではないですか」


「エーミル、お前聖女辞めたのにまだ忙しいのか?」


 聖女、という肩書きを持つものは存外忙しい。

 各地の教会から呼び出され、その地で布教活動や、神の加護や恩恵などの力を行使。

 それが終わればまた別の地へ。


 一定の場に長い期間止まることがないので、自宅にすらもそうそう帰れはしない。


「そうなんですよ。エミィは働き過ぎだと思うんです。何ですか?裏切りの聖女だったら何が悪いんですか?助けるために各地を転々としたのに、今度は逃げるために転々としなければならないんですか?しかも逃げながらシヴァの為に色んな情報収集?何でこんなに私の人生波乱万丈なんですか?いい加減疲れますよ」


 エーミルの仕事は聖女として各地を転々としながら、その各地の情報をシヴァに流すことである。


 その情報を元に、シヴァが勇者や国王の暴挙、魔族領進行などに対応する。


 たとえエーミルが聖女を辞めたとしても仕事の量に大きな変わりはない。


「す、すまん」


「悪いと思ってるならそれなりの対応が欲しいです」


「どうすればいい?」


「諜報員の増加と諜報部隊の編成。それだけで私の仕事は大きく減るのでとりあえずはそんなところです」


 魔王軍の抱える諜報員の数はかなり少ない。

 数百人といったところだろうか。


 魔王城には基本的に二タイプの魔族がいる。

 戦闘系か、戦闘支援系のどちらかである。


 ゆえに諜報能力に長けた魔族があまり存在しない。

 エーミルの名は世界に知れ渡っていたので、世界各地で情報を聞くことができたが、今は裏切りの聖女。


 つまりエーミルが集めてくる情報の量と確実性が大きく変化するのだ。


 それを補うためにやはり諜報員の増加は今後の魔王軍としての課題であった。


「だがな、諜報能力に長けた奴がいなくてなぁ」


「集めてください」


「………了解。アルナや四天王に聞いてみる」


 このように、女とイチャつきながらもシヴァは少しずつ魔王軍の状況を改善しているのだった。

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