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画竜点睛を欠いたメイド長

 魔王城で働く魔族、魔物の数は数千という数だ。

 それだけの数の働く人がいながら、裏で支える人間がいないわけがない。


 数千人分も働く職場の掃除、食事は当然追いつかないほどのものになる。

 それら全てを捌く、超人集団が魔王城にはいる。


 魔王城には泣く子も黙るメイド部隊が存在していた。


 メイド部隊は有能である。

 シヴァと、シヴァの側近であるアルナを除けば魔王城で最も有能であると思われるのが、メイド部隊である。


 そのメイドたちの仕事は様々である。


 かなりの大きさを誇る魔王城の掃除。

 素早く、だが丁寧に。

 どんなに細かいところだろうがチリ一つ残さずに完璧に掃除する。


 数千という魔物の食事を作る。

 中には住み込みで働く魔物も存在する。

 朝から晩まで、魔物たちに飽きられる事なく、毎日健康的かつ美味しい料理を振る舞わなければならない。


 食材、衣類など必要な物資の買い出し。

 メイド部隊は全員が限りなく人に近い種族か、人間によって構成されている。

 故に人からも恐れられることなく街へ赴くことができる。

 だが、必要な物資の量は半端ではない。

 メイドたちはそれをどう運搬しているのか、それはメイドのみぞ知ると言ったところだ。


 魔王シヴァの行う政策への献身的なサポート。

 アルナや魔物たちだけではなくメイドたちもシヴァを支えているのだ。

 勇者の通る道の整備、罠の点検等明らかにメイドの仕事ではないものもある。


 このように魔王城で働くメイドたちは有能、いや、超有能なのである。


 そして、そのメイド部隊を束ねるメイドの中のメイド、メイドの長。

 メイド長は人間である。

 だが、メイド長は他の他種族のメイドよりも有能なのである。


 メイド長はどこぞのPA○長のような時間を止めるようなチート級の能力を持っている訳ではない。


 ただ、圧倒的な勘。

 相手が何を求めているかを顔色と勘だけで理解する。

 それと、広い魔王城を一瞬で行き来する瞬間移動を駆使し、メイドとして働いているのだ。


「で、メイド長、ルティアのアプローチが激しいんだが…」


「殺しましょう」


「いやいやいや!待て待て!殺すな!」


 そのメイド長も魔王であるシヴァの前では一人の女であることがシヴァは少し悩んでいた。

 アルナもアルナでシヴァに手を出す女が多く困っているようだった。


「ではどのような処分を…」


「そんな物騒な方向から離れろ!」


 シヴァの事となると突拍子もない行動を取ってしまうアルナ。

 愛故の行動なのだが、シヴァは困っているようである。


「ではどのようにすればーー」


 アルナの言葉を遮るようにシヴァの自室の戸は開かれる。


「先程、ご注文になられました物をお届けにあがりました」


 入ってきたのは今の今まで話題になっていたメイド長、ルティアである。

 その手には首輪のようなものが手に握られている。


「え、あれ?俺なんか頼んだっけ?」


「先程順従な部下が多くて頼もしいとの事でしたので、ルティアは犬のようにシヴァ様に仕えようと首輪をシヴァ様に付けていただこうかと」


「どうしてそうなった!?」


「やはり、殺されたいようですね。許可をマスター」


 シヴァが特に意味もなく発した言葉はルティアには捻れて伝わり、シヴァを困らせているようである。

 だが、普段の仕事は完璧、何かやらかしてしまっても後始末も完璧と文句は言えないので質がわるい。


「あら、アルナ様ではありませんか。いらっしゃったのですね。視界に入りませんでした」


「ふっ、ルティア。あなたは最近調子に乗っているようですね。躾けてあげます」


「人間だからといって嘗めていると痛い目を見ますよ?」


 一触即発な雰囲気。

 二人の間ではバチバチという効果音がつきそうなほど視線をぶつけ合っている。


「お、落ち着け。お前らがここで喧嘩なんてするとこの城が傾く!」


 アルナは物理的に、ルティアは経済的にこの城をぶち壊せるほどの力を持っている。

 シヴァはそんな状態になるのを防ごうと必死になり二人の間に割って入る。


「「ではこの女をどう排除しろと?」」


「排除するな!!」


 こんな時だけ息がピッタリな二人に、はぁとため息を漏らすシヴァ。


「では、どちらがマスターの嫁にふさわしいか勝負しましょう」


「ふふふ、ルティアに勝てると思ってるんですか?思い上がりも甚だしいですね」


 アルナの提案に毒を混ぜながらも承諾するルティア。

 シヴァそっちのけで話が進行しているか最早シヴァはツッコミをしない。


「嫁と言ったら家事ですね。先ずは炊事洗濯からでよろしいですね?判定はマスターに一任しましょう」


「メイド長の名は伊達ではないことをお見せしますよ」


 こうして二人の戦いは始まった。






 ♢


 《料理》

 お題:家庭的な夕飯


 アルナ、肉じゃが。


 ルティア、生姜焼き。


 判定:引き分け(シヴァにはどちらも美味しすぎて専門家のようには判定できず)


 《洗濯》

 洗濯物:血に濡れたシヴァのマント


 アルナ、血は完全に取れ、元どおりに。しかし、なぜかアイロンをかけたはずなのにシワあり。


 ルティア、血は完全に取れ、元どおりに。しかし、なぜか乾かしたはずなのに一部湿っている。


 判定:引き分け(怖くてシヴァは一部追求できず)


 《掃除》

 掃除場所:シヴァの部屋を半分ずつ


 アルナ、床や壁天井までもピカピカ。最早鏡。しかし、シヴァの隠していたエロ本が机の上に……


 ルティア、同じく床、壁、天井が鏡のように。しかし、(以下同文)


 判定:両者敗北(シヴァの隠していたものを見つけたため)


 《翌日の昼食の買い出し》

 条件:なるべく銀貨15枚に近づけること


 アルナ、必要最低限の物しか買わず、銀貨15枚ジャスト。


 ルティア、必要最低限の物しか買わず、銀貨15枚ジャスト。




 二人の戦いは均衡が崩れることはなく、圧倒的なまでの生活能力を遺憾なく発揮する。

 それにシヴァは恐ろしさを覚える。


「……なんなんだお前ら。完璧すぎだろ」


 完璧すぎる女は高嶺の花とすら見られかねない。

 今のアルナとルティアが正にそれである。


「マスター、それよりも部屋にあったあの本についてなのですが」


「シヴァ様、あのような本を買うくらいでしたら今夜からは私が夜伽のお相手をいたしますが」


 シヴァが今最も触れてくなかったところに容赦なく踏み込む二人。

 シヴァのライフはもうゼロに近かった。


「ルティア?あなたは何を言ってるのかわかってますか?あなたにマスターの夜のお相手など務まるわけがないでしょう。マスター、夜のお相手ならば私が」


「は?あなたのような万年発情女がシヴァ様のお相手?笑わせてくれますね」


 あん?と、お互い睨み合う二人。

 もうこの争いを止められるのはシヴァだけなのだが、今シヴァは精神的にダメージを受けているのでそれどころではなかった。


「ならマスターに聞いてみますか?あなたのような女が選ばれる事など天地がひっくり返ってもありえませんが」


「何を言ってるんですか。アルナが選ばれる方がマスターが誰かに敗北する確率と同じ確率でありえません」


「「さあ、どっちですか!!」」


 二人声を揃えてシヴァに詰め寄る。


「え、えと………」


 シヴァは考えていた。

 この状況を打開する方法を。


 そして見えた一筋の光。


「お、俺は肉体年齢十二歳以下の女以外には興味ないんだ!」


 シオンとの交流でシオンがシヴァを狙う女達の牽制のために、このような言葉を吹き込んでいた。

 そしてシヴァは今、その言葉がどのようなものかなんて考えもせずに口にしてしまった。


「「……えっ」」


「あっ」


 驚愕するアルナとルティア。

 自分の発した言葉を理解するシヴァ。


「ま、マスター。私はこれから若返りの薬を作るため旅に出ます」


「アルナ、私も行くわ」


 虚ろな目で退室しようとする二人。


「えっ、ちょっ、待って!ごめん嘘、嘘だからぁぁぁ!!!」


 魔王城で魔王の叫び声が響き渡った。





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