個性豊かな四天王
魔王の軍勢には強者ばかり集まっている。
しかし、その中でも飛び抜けた実力者が存在する。
代表的なのは四天王と呼ばれる魔王直属の四人の魔族。
炎王と呼ばれる男。ディアブロ。
その二つ名の通り炎を巧みに操り、基本的に肉弾戦で敵を葬る。
熱血だが、意外にクレバーな一面も(アルナ調べ)
雷王と呼ばれる女。スピカ。
これも二つ名の通り雷を操り、身に纏い、武器として、様々な方法で敵を葬る。魔王に言い寄る雌(アルナ調べ)
鉄王と呼ばれる男。ドラル。
これは、鉄壁を自慢とする戦い方で、基本は防御中心だが、それが転じて攻撃となることも。基本的に無口(アルナ調べ)
呪王と呼ばれる幼女。シオン。
呪術、魔法を中心とした戦法。一対一ではそこそこな実力だが、大軍戦では絶大な力を誇る。魔王に言い寄る雌(アルナ調べ)
この四人が四天王と呼ばれる魔王直属の部下であり、魔物達を率いることのできる高位の魔族である。
この四人は魔王に少なからず好意を抱いているので、反逆の心配はないが、この四人だけでも世界を獲れる戦力である。
そんな四人はーー。
「魔王様って、ぶっちゃけどう思うよ。俺は熱い男だと思うぜっ!」
「素敵な方よ、アンタと違ってね」
「…………………」
「シオンわぁ、シヴァ様の事、大好きだよぉ」
上からディアブロ、スピカ、ドラル、シオンである。
現在は定期的に行われる四天王会議の真っ只中である。
「給金も高いし、器もデカイし、良い男だなっ!」
「顔も、性格もオーラも完璧よね」
「………………」
「シヴァ様ってみんなに優しいしぃ、強いしぃ、完璧だよねぇ」
同期の仕事仲間が集まって上司の愚痴を言っているかと思いきや社長を誉め殺しというよくわからないことをしていた。
「でも、最近は、勇者も多くて魔王様もお疲れだそうよ」
「俺たちも何人相手にしたかわからないくらいだぜっ!」
「……」
「本当にねぇ、疲れちゃうよぉ」
「アタシと、ディアブロはともかく、アンタたちは戦ってないでしょ!」
それぞれの能力的に、対人が得意かどうかが分かれるので仕方がないことなのだ。総合的には四天王に差はない。
「シオンもぉ、魔王様に近づく勇者にぃ、呪いをかけてるんだよぉ〜」
「…………」
「そうだったわね。ドラルは魔王城を壊されないように強化してるんだったわ。それにしても、シオンは相変わらずの戦い方ね」
「しょうがないんだよぉ〜。シオンは呪術とか魔法がメインだからぁ、シヴァ様みたいな障壁がない限りはぁ、前衛がいないと戦えないんだよぉ〜」
四天王は、ディアブロ、スピカは前衛型、ドラルが中衛、シオンが後衛といった中々バランスのとれた四人になっているのだ。
「まあ、仕方ないわね。でも、四天王のアタシたちよりも、魔王様の方が圧倒的に多く勇者の相手をしてるわよね」
「俺たちはちゃんとオフがあるけど、魔王様は年中無休って話だぜっ!」
「………………」
「シヴァ様もぉ、大変なんだねぇ。今度は手伝ってあげよぉ〜」
「アタシたち四人よりも、一人で多く捌いてるんだから疲れるのも当然よね」
うんうんと、頷く四人。
四人ともシヴァが働きすぎという認識のようだ。
「シオンたちでぇ、何かしてあげられないかなぁ?」
「そうしたいけど、基本はあの側近がなんとかしちゃうぜっ?」
「そうね、アルナは有能だから、アタシたちの出る幕がないのよね」
「……………」
アルナの評価も悪いものではなく、四天王四人からもかなりの高評価だ。
「やっぱりアタシたちが出来るのはより多く勇者を屠ることだけよね」
「俺たちも魔王様に負けてられないぜっ!」
「………………」
「やっぱそうだよねぇ」
四人とも意見は一致。
特に揉めることはなく会議は落ち着く。
そんな会議中の四人がいる部屋に入ってくる人影が一つ。
「自分たちの仕事に関しての会議をするとは、中々良いことをするじゃないないか。四天王の皆さん」
「げっ、あ、アルナ」
「げっ、とは失礼ですねスピカさん」
「なんでアンタがここに?」
「マスターは現在戦闘中なので、後片付けの準備を」
「アンタは手伝わないの?」
「マスターが一人でやるとおっしゃったので」
「アルナは忠実だよねぇ」
「ええ、マスターのためならばなんだってするつもりです」
「相変わらず愛が重いねぇ」
「そんなんじゃ、魔王様に愛想尽かされるわよ」
「それでしたら死ぬだけです。マスターに捨てられることは死と同義ですから」
「女って恐ろしいぜっ!?」
「…………」
「やっぱ、ドラルもそう思うよなっ!」
女性陣の(主にアルナ)の狂愛じみた愛にドン引きの男性陣。
ちなみに四天王はドラルが喋らなくても何を思っているかだいたいわかるのである。
四天王の女性陣とアルナは仲が良いのか、悪いのかわからないと、シヴァは困っていたりする。
「魔王様ほどのイイ男に俺も早くなりたいぜっ!」
「「アンタじゃ(あなたでは)無理よ(無理です)」」
「で、でも近づくくらいならっ…」
「「不可能(です)!!」」
「二人ともなんか俺に対して当たり強くないかっ!?」
なぜかディアブロにたいして当たりの強いアルナとスピカ。
原因はシヴァの事を比較対象に持ち出したからである。
二人にとってはシヴァは比べるのも烏滸がましいような事なのである。
「それは当然だよぉ。シヴァ様はかっこよくてぇ、無敵だからぁ、頂点に立ててるんだよぉ。つまりはディアブロごときじゃ足元にも及ばないんだよぉ〜」
「お前もなかなか辛辣だぜっ!?」
「…………」
「わ、分かってくれるか、ドラルっっ!」
ドラルは何も言っていないのだが、四天王内では意思疎通は出来る。
今はドラルが、ディアブロを励ましたようである。
「ドラルならぁ、魔王様の足元くらいなら辿り着けるかもねぇ」
「お前は俺の傷をえぐりに来るのかっ!」
「うるさいわよ、ディアブロ」
「俺に味方はいないのかっ!?」
「苦労してるなディアブロ」
己の味方がいない事に叫ぶディアブロに声をかける影が一つ。
その声は、現在この場にいる五人が誰よりも尊敬し、憧れている者の声であった。
「ま、魔王様っ!?」
「マスター、勇者は片付いたので?」
「ああ、結構あっけなかったぞ。片付けは、リザードマンに手配しておいた」
「も、申し訳ありませんマスター!本来ならば私がすぐにでもやらなければいけないことなのに」
「気にするな。たまには同僚と話の一つもするだろう」
度量の大きなところもシヴァが尊敬される理由の一つ。
実際、部下が粗相をしでかしても問題なく対処するのがこのハイスペック魔王なのだ。
「シヴァ様は働きすぎではないかという話がぁ、私たちの中で話題になったのですがぁ、そこのところどう思っているんですかぁ?」
「確かに疲れるけどな。魔王だから仕方がないんだよ。シオンもたくさん働いてるだろ?」
「シヴァ様ほどではないと思うんですけどぉ」
「俺は上司だからな。働かなきゃ部下に示しがつかないだろう?」
シヴァも本当は働きたくなどない。
だが、最近の魔族、魔物はしっかりと働くやつが多いのである。
ウカウカしていると魔王だけ働いていないなんて噂が立ちかねないので毎日必死になりながら働いていたりするのだ。
「お、俺も魔王様のように働けばっ!」
「あなたに出来ることなどあまりないでしょうに。ヤル気はあっても仕事がないのではどうにもなりませんよ」
「アルナ、ディアブロにも仕事回してあげなさい。…書類仕事とか面倒なの」
「書類仕事なら大した問題じゃないぜっ!」
スピカが、ディアブロに遠回しな嫌がらせをしようとしたのだが、ディアブロは言葉の節々にバカっぽさがあるだけで頭は悪くはないのである。
「じゃあシオンがぁ、文字を読めなくなる呪いを掛けてあげるよぉ」
「嫌がらせ以外の何物でもないぜっ!?」
「嫌がらせだもぉ〜ん」
「では私は魔王城の維持費の費用計算などのとんでもない桁の数字の計算の仕事を回してあげますよ」
「文字も読めないのにどうするんだっ!?」
四天王、弄られ担当ディアブロ。
そんな風に現在シヴァの中ではディアブロの位置付けがされた。
泣く子も黙るはずの四天王がこんなのでいいのだろうかと思ってしまうシヴァ。
しかし、シヴァも大概であるので口を出せない。
このメンツでシヴァが弄られることはありえないのだが、ディアブロがかわいそうになってきているので止めておくシヴァ。
「…………」
「ふむ、ドラルは計算得意なのか?」
「無口で聡明とは優秀ですね。あなたならマスターの秘書の座も狙えましたよ。私がいなければ、ですが」
無口故、空気になっているドラルだが、魔王であるシヴァは部下に対して気配りも忘れない。
ドラルの雰囲気から何が言いたいかを察することができるシヴァとアルナ。
この二人もまたこの魔王場内においてドラルと会話ができる数少ない者であった。
「シオンもぉ、計算得意ですよぉ」
「…………」
「中衛、後衛は頭脳派が多いのか?」
「呪いわぁ、知識が大事なんですよぉ〜」
「…………」
「必要な知識に趣味か。いい傾向じゃないか。ドラルは前衛職に興味を持って見てもいいぞ?きっとそこらの勇者よりも上手く立ち回ることができるだろう」
「………」
「マスター、ドラルは城の破壊を最低限に抑えてくれているのです。それだけでも大きな貢献ですので、このままでいてくれた方が助かります」
「本人もそこまでやりたそうでもないし、強制などしないさ」
「ディアブロはもっと励みなさい。強制よ、強制」
「なんで最終的に俺が弄られるんだっ!?」
四天王内では、どうあろうとオチ担当はディアブロになってしまうようだ。
「ディアブロ、今度酒でも飲みに行くか」
「魔王様っ!一生ついていくぜっ!」
さすがにかわいそうに思えてきたシヴァがフォローしておく。
優しい言葉にディアブロは涙ぐみ、永遠の忠誠を誓っている。
部下の愚痴を聞いたりしてやるのも上司の務めとシヴァは考えている。
部下がいてこそ会社は回るのだ。
魔王軍という一つの組織も同じく、人がいなければ機能しない。
それをよく理解しているシヴァはこのように部下と多くコミュニケーションをとっているのであった。




