ぐだぐだ魔王
書いてしまった。
もう一本書きたい作品あるのに…
ま、いいや!
楽しんでいってください。
魔王。
それは世界を恐怖に包み、全て自分の欲望のままに行動する。
悪の象徴。憎しみの矛先。
幾千幾万の魔物を使役し反抗する人間、獣人、エルフを力で押さえつける。
それを討伐するため派遣される勇者。
地方から、小さな子供、はたまた異世界から。様々なところから勇者の素質を持った者を招集し派遣する。
しかし、この世界における魔王と呼ばれる存在は最強と言っても過言ではなかった。
人間側は何人もの勇者や軍隊を派遣したが、一人として帰ってくることはなかった。
そんな最強の魔王はーーー
「もう勇者とかめんどくさい〜!魔王城捨てて隠居したい〜!」
どこか残念であった。
残念魔王。名前はシヴァ。
しかし、黒髪蒼目の超絶イケメンなのでまだ魔王としての体裁を保っていられる感じだ。
「マスター、そう言われましてもマスターには魔王として君臨してもらわなければ、人間どもが再び戦争を始めてしまうではないですか」
「いいだろ?俺は関係ない!」
「この魔王城さえも人間は自らのものにしようとしてしまいますよ?」
「むむむ、俺の所有物を好き勝手されるのは嫌だな…」
「そうでしょう。私もマスターを支えますので頑張ってください」
魔王がなぜか側近に魔王を続けろと言われるようなシュールな状況。
だが、この側近も一切の汚れもない白髪、整った顔、抜群のプロポーション、天使のような笑顔と非の打ち所がないので、イケメンと美人ということで絵にはなる。
笑顔を絶やさない側近(魔王がいる時限定)。名前はアルナ。
「わかった。頑張る」
「その意気です!マスター」
そして簡単に説得されるシヴァ。
魔王を恐れている者が見れば卒倒してしまうような光景だ。
「でも、面倒じゃないか?昨日も勇者来たし。今年だけでも何人目だ?」
「今年が始まり八ヶ月、その間に魔王城に来た勇者は三百を越えます」
「多いっ!多いよ!三百?どんだけ勇者いるんだよ!そのうち城に勇者の軍勢総勢千人とか来そうだよ!」
「一度は計画されたようですが不可能と判断されたようです」
「計画されたのかよっ!」
ゼーゼーと息を荒くすシヴァ。
魔王と呼ばれる存在もなかなかに苦労しているようだ。
だが、勇者千人にも劣らない魔物の軍勢を部下に持っている事に魔王は気が付いていないようだ。
「どーしよう。俺殺されるのかな?嫌だよ?彼女いない歴=年齢のまま死ぬとか絶対嫌だよ?」
「マスター、マスターには戦闘時に常時展開される絶対無敵の障壁があるじゃないですか。……あと恋人には私が、なんて…」
「ばっか、お前、勇者の聖剣ナメんなよ!?アレすげーんだぞ。一振りで竜種を屠るんだぞ」
アルナの言葉を遮るように聖剣の怖さを語るシヴァ。
アルナは肩をガクリと落としながらも応答する。
「マスターはその竜種を指先一つで塵に出来るじゃないですか」
呆れたように口にするアルナ。
シヴァはどこかネガティヴなようだ。
「勇者ってさぁー、何かこう、覚醒するんだよ。土壇場で。俺が追い詰めた!ってなった瞬間に力が解放されたりして、いつも怖いんだよ」
「その勇者にとって希望であった覚醒を何事もなかったかのようにぶち壊しているマスターが言いますか…」
「アレは魔王としてクールにならなきゃって思って頑張ってるの。内心ヒヤヒヤなんだよ」
はあ、となんとなく頷いておくアルナ。
もはや愚痴を聞かされるだけのお仕事と化しているのには薄々勘付いているアルナだった。
「毎回私が相手をすると言っているのに、マスターが私は危ないから下がってろって言うからじゃないですか」
「だってさ、アルナも女じゃん?見た目だって凄い可愛いし美人じゃん?魔王城のアイドルじゃん?傷なんて付けたらお前のファンクラブ達に殺されるじゃん?」
「ふぁ、ファンクラブ!?そんなものあるんですか?」
「知らなかったの?ずいぶん前からあるぞ。ちなみに俺が会長だ!他のメンバーには隠してるけど」
「ま、マスターが作ったんですか!?」
尊敬しているシヴァが自分のファンクラブを立ち上げたなど反応に困ることをいきなりカミングアウトされ狼狽えている。
当然と言えば当然ではあるが。
「おう、ちなみに現在は千人以上が加入してるぞ」
「一つの組織並みにでかいじゃないですか!?」
「それだけアルナが人気って事だろ」
(ファンクラブとか別にいらないけど…マスターが立ち上げたと言うのなら…ん?マスターが私に魅力を感じてファンクラブを作った?それはそれで…)
なにやらトリップしているアルナをなにが起こっているのか全くわからないような顔をしているシヴァが見ている。
仮にも魔王城の魔王の間で起こっている出来事である。
「それは置いといて、勇者たちを食い止める方法はないだろうか?」
「それならばマスターが仕込んでいる村娘の誘拐とか、なぜかこの城にたどり着くのには洞窟をくぐり抜けなければいけないとか、明らかに不自然な足止めがあるじゃないですか」
「アレ、村娘に結構高い金払って誘拐されてもらってるんだぞ」
「そうなんですか!?一度見ましたが、アレ演技なんですか。迫真の演技ですね」
こんなんでも、魔王である。
ちなみに村娘は魔族と言って見た目はほぼ人間に近い魔物である。
「あれじゃあダメなんだ!やっぱり勇者はそんな障害越えて来るんだ」
「では、この前実験されたサキュバスでの色仕掛けで足止めなどはどうだったのしょう?」
「ああ、頼んだサキュバスが人間嫌いで断られた」
「ええ!?マスターの命令でもですか?」
魔物界において魔王の命令は何よりも重要なことである。
それこそ命令に反すれば死刑となる程の。
それを承知で断ったとなるとよっぽどの事なのだ。
「女の子が泣いて土下座までするんだ可哀想だろ?」
「それはただの人選ミスなんじゃないですか?それで、マスターの命令を断ったのですから、それなりの対価を差し出したのでしょう?」
「うん、その娘のファーストキスをもらった」
「は?」
アルナの笑顔が固まった。
「も、もう一度お願いできますか?」
「その娘のファーストキスをもらった」
「そのサキュバス、殺しに行ってきます」
突然アルナの目のハイライトが消える。
だが、笑顔のまま。
そして、シヴァでもゾクッとくるような殺気をガンガン放っている。
(これはマジだ)
シヴァが頭で理解するが早いか、すぐに止めに入る。
「待て待て、行くな」
「止めないでください。そのサキュバスを殺して私も死にます!」
「やめろ!これは命令だぞ!」
シヴァは普段はあまりアルナには使わない命令まで使って止めにかかる。
これは下手をすればサキュバスの一族の存亡がかかっているのだ。
「私も全裸で泣いて土下座するので命令無視を許してください!」
「全裸って何!?俺、一回もそんな事させた覚えないけど!?」
普段はボケキャラなシヴァなのだが、アルナが暴走した時は主にシヴァがツッコミとなる。
「別にいいだろ?キスくらい」
「よくありません!私だって、マスターとキスだなんて片手で数えられるくらいしかしたことないのに」
「とにかく落ち着け、な?」
どうにかアルナを抑えようとするシヴァ。
その甲斐あってかアルナから発されている殺気が消えた。
「むう、じゃあ今、私にキスをーー」
「大変です魔王様!勇者が城に侵入しました!」
アルナの言葉を遮るように、バタンと大きな音を立てて部屋にリザードマンが入ってきた。
再びアルナから殺気が放たれるが、シヴァがなんとか抑える。
「え、えっと、魔王様。いかがいたしましょう?」
アルナの殺気に怯えながらも自分の仕事を遂行するリザードマン。
(給料、上げてあげよう)
シヴァはその仕事熱心な姿に心を打たれた。
「直接ここに通していいよ、四天王は今日はオフだし」
「了解しました」
「いつも通り、戦いが終わったらメイド達に片付けを頼むから」
「手配しておきます」
「よろしく」
リザードマンは敬礼をすると部屋から出て行く。
シヴァがアルナに目をやると不貞腐れているアルナがいる。
「アルナ、怒るなよ」
「怒ってません」
「怒ってるだろ?」
「怒ってませんてば」
「怒ってるじゃん」
「魔王!今日こそお前を倒し世界に平和を取り戻してやる!」
「怒ってないですってば」
「だから怒ってるだろ」
勢いよく部屋に勇者が入ってきたが、そっちのけでラブコメのような事を繰り広げている魔王とその側近。
その光景に勇者も唖然。
「ま、魔王!覚悟しろ!」
「怒ってないです!」
「いーや、それは怒ってる顔だね」
「いつもこんな顔ですよ!」
無視。
清々しいまでに無視。
勇者、今までで一番の屈辱であった。
「く、くらえ、聖剣解放!」
ズガアァン!と大きな破壊音を生み出す聖剣の光。
「こ、これで世界は平和にーー」
「「ん?なんだ勇者か」」
先ほどの聖剣解放は勇者にとって最大の一撃だった。
その技が、魔王に自分の存在を認識させるだけの技だということがたった今証明されてしまった。
竜だろうが一撃で屠れる力を持っているのに。
「ま、魔王!俺は諦めないーー」
「うるさいです」
アルナが蹴りを勇者の頭に叩き込む。
すると勇者の頭から赤い花が咲いた。
「怒ってるだろ?」
「怒ってないです!」
再び不毛な言い合いの繰り返し。
これが、この魔王城での日常である。
もう一本執筆中の新作があり、そちらの方がメインなので投稿は遅れます。