第六部「その想いを伝えるのは誰か」
千鶴視点。第四部の続きです。
はぁ…………。
どうしよう…………。
命ちゃんに想いを伝えられない…………。
早く言わないと、命ちゃんに彼氏なんてできたら…………。
……………………嫌だ! それは絶対に阻止しないとっ!
…………でも、もし告白して嫌われたら…………「お友達でいよう」って言われたら、それはそれで嫌だよ…………。
私は、そんな平凡な関係じゃなくて、もっと刺激的で、情熱的な……………………。
「おはよう、千鶴」
「うえぇっ!? み、命ちゃん…………! 風邪、治ったの?」
「うん、千鶴の作ってくれた千羽鶴のおかげで、思ったよりも早く良くなったよ」
「そ、そっか…………よかったね」
び、びっくりしたぁぁ〜〜。
机に突っ伏してたから、全然気づかなかった…………。
ん?
「そうだ千鶴、休んでた分のノート見せてほしいんだけど…………千鶴?」
あれって、もしかして…………。
「千鶴、どうかしたの?」
「えっ!? あ、ノート…………いいよいいよ、はい」
「ありがとう、すぐ返すよ」
「う、うん……………………」
……………………偶然鞄からチラッと見えただけだけど、あのピンク色の封筒って、まさか………………………………。
ラブレ…………いやいや、考えちゃだめ。
命ちゃんがもらうなんて、そんなまさか……………………。
ありえるよね?
だって命ちゃん、可愛いし。
周りからはちょっと、ちょこっとだけ、裏の顔が怖そうとか、ヤクザと繋がってそうって理由で少し疎遠気味だけど…………可愛いし。
可愛いし。
可愛いし。
可愛いし。
男の子や女の子が寄ってくる可能性はゼロじゃない……………………!
………………………………確かめなきゃ。
本当にその類の代物なのか。そして誰から来たのか。
「あ、千鶴。今日の放課後、ちょっと相談…………に乗ってくれないかな?」
「…………えっ? あ、うん……………………」
これは……………………本当に、私にとってとってもまずい状況なのかも………………………………。
◇
…………やばい。
授業なんにも頭に入って来なかったよ。
明日命ちゃんにノート見せてもらおう…………。
お昼食べたっけ?
…………あ、命ちゃんと食べたじゃん。
…………今韻を踏んだような気がする。
気のせいかな。
…………もう放課後だよ。
夕日がちょっと綺麗だよ。
結局あの手紙が誰からのものかちっともわからなかったよ。
誰だ、私から命ちゃんを奪おうとしているのは。
…………命ちゃん、まだ私のものじゃないじゃん…………。
先約、とにかく先約を入れないと。
でも、あの「相談」っていうのがもし恋の悩みだったら…………。
私、教室の窓から飛び降りるかも。
もしくはその相手を窓から突き落とすかも。
そしたら、命ちゃん口封じしなきゃ。
そして私も死のう。
…………もうブラックな方向にしか考えられないよ…………。
「…………千鶴、お待たせ。ごめんね、掃除当番が長引いちゃって」
「あ……………………うん、気にしないで…………」
…………私は、どうなってしまうんだろう…………?
「実は、ちょっと見てほしい物があって…………これなんだけど…………」
…………今朝の手紙だ…………。
命ちゃん、すっごく顔が赤くなってる。
…………覚悟を決めよう。
たとえ誰からのラブレターだとしても。
たとえ誰へのラブレターだとしても。
私は、命ちゃんの幸せを願うよ。
友達として。
…………友達、か…………。
…………嫌だなあ…………。
…………手紙開けよう…………。
『桐代千鶴さんへ。
好きです。
付き合ってください。
植薙命』
…………あ、後者だった。
そっか。命ちゃん、私が知らないところで誰かを好きになってたんだね…………。
好きなるって、いいことだと思うよ。
けど同時に、とても切ないことだと思う。
今、私の恋が終わりを告げたよ。
相手は誰だろ…………。
…………桐代千鶴さんか…………。
女の子みたいな名前だなあ…………。
たしか、私達のクラスにそんな名前の人がいたような…………。
もしかして、命ちゃんも私と同じ体質だったのかも。
いいなあ、命ちゃんに好かれて。羨ましいな。
「ど、どう…………?」
…………答えなきゃ。
「…………うん、ストレートでいいと思うよ」
「じゃなくて、返事の方…………」
「やだなあ命ちゃん、渡す相手に聞く前に私に聞くなんて慌て過ぎだよ。私は『桐代千鶴さん』じゃな…………い…………」
…………桐代千鶴?
…………それ、私じゃない?
…………あ、同姓同名の人か。
…………聞いたこと無いなあ。
「千鶴? ねえ大丈夫?千鶴?」
…………なんか、命ちゃんが私の肩を掴んで揺らしてる…………。
ほら、私、手紙にオッケー出したよ? 早く渡しに行きなよ。
もう私は、これ以上貴女に近づくことはできないんだから。
「千鶴!」
「え? …………あれ?」
命ちゃん…………なんでまだ私のところにいるの?
もう、私は要らないはずなのに…………。
「千鶴、さっきから少しずつ白眼になってたけど…………?」
「え…………あ…………私…………命ちゃんにフられて…………」
「振った? 私が?」
「えっと…………ごめん。ちょっと頭の整理が追いつかなくて…………」
頭が、うまく回らない。
頭が痛くて。胸も、苦しい。
「…………じゃあ、頭じゃないなら…………伝わる?」
「…………え?」
私が頭を抱えていると、
命ちゃんはゆっくりと近づいてきて、
その火照った体で、
私を、
正面から抱きしめた。
「…………あ…………」
「恥ずかしいけど、もう一度。もう一度だけ、言うよ…………」
『好き』
…………抱きしめられているから、表情は分からないけれど。
私には、その一言だけで、その吐息だけで。
十分だった。
どうも、壊れ始めたラジオです。
今回は百合ムード全開です。
実は、最初の段階ではもう少し暗い雰囲気での告白でしたが、書いているうちに萌え路線に走りました。後悔はしていません。
次回は命視点の予定です。
また次のお話でみなさんとお会い出来るのを楽しみにしております。
それでは。