第三部「桜・花・寂・寥」
命視点。第一部の続きです。
はっ!
ゆ、夢………………じゃない。私の手の中にさっきの変な道具があるし。ベルトはもうなくなってるけど。
あの場所は何だったんだろう。空が真っ白だったし、変身して暴れまわっても地面の花は全然平気だったし、なにより、あそこにいた千鶴は一体…………………。
「あの〜、そろそろ面会時間が…………」
「あ、すいません。今帰るので」
いけない。長くとどまり過ぎたみたい。
荷物をまとめて病室に入ってきた看護師さんに軽く会釈し、私は病院をあとにした。
◆
「ただいま」
「おかえりなさい命。千鶴ちゃんの様子、どうだった?」
「今日も起きなかったよ。でも大丈夫。いつかきっと、千鶴は目を覚ますから」
「そうよね。千鶴ちゃんは、あんたの大切な婚約者だものね」
「確かにそうだけど…………相変わらず、恥ずかしいことをしれっと言うよね、お母さん」
「だって、お父さんで学んだもの。もう慣れっこよ」
「ホモ・セクシュアルのお父さんと結婚して、さらには私まで産んじゃうお母さんの方がすごいと思うよ。色々と」
「好きっていう感情は、どんな壁も打ち破るのよ」
自慢げにウインクするお母さん。それ全然出来てないからね。言わないけど。
とりあえず、苦笑いで返そう。
「あはは…………ところで、当の本人は?」
「お父さんなら、恋人とご飯食べに行くって言ってたわよ。今日は帰れないんだって」
「…………やっぱり私、お父さんの子だ」
「なに言ってんの、お母さんの子でもあるわよ」
「う…………それは、そうだけど…………」
「うふふ。さ、夜ご飯食べちゃいなさい」
「はーい」
私の家族、植薙家はちょっと変わっている。
お父さんとお母さんは高校時代に出会った。お父さんにただならぬ魅力を感じたお母さんは、なんと入学早々告白。しかしお父さんは「俺は男しか愛せない。だから君の気持ちには応えられない」と言って断わったんだけど、それで余計に火が点いちゃったみたいで、そこからお母さんが猛アプローチ。しかも愛人でもいいから付き合ってほしいなんて言って。で、お父さんが折れた。でも、それで夫婦間が険悪ってわけでもなくて。結果的には、こんな風に綺麗に収まっている。二人とも器用過ぎる。しかもお父さんの恋人さんもこんな状況を知っていてお父さんと付き合っているんだから、その人の寛容さにはむしろ感心するよ。私は、この夫婦があってこそ生まれたんだと思う。まぁ私もお父さんと同じでその人個人が好きなだけだから、こうやってなんだかんだで納得してしまうし、お母さんとも一緒にいられるんだろうな。
「こら、考えながら食べない」
「あ、ごめんなさい」
◆
ふぅ、最近麺作りにハマってるからって、一週間連続でうどんは辛い。
今日はきつねうどん。昨日は冷やしうどん。一昨日は讃岐うどん。その前の日は鍋焼きうどん。
今何月だと思ってるの、6月だよって言ったことは今でも鮮明に覚えてる。
明日は何うどんなんだろう…………。と、自室のベッドでまどろんでいく私。
ガシャッ
ん?
何、ガシャッて。
起き上がって見回すと、勉強机の横の壁に掛けてあった額縁が床に落ちていた。
…………縁起悪いなあ。
その額縁に入れてあるのは、一枚の婚姻届。
うちのお父さんとお母さんのものじゃない。
そう、私と千鶴のもの。
私が夫で、千鶴が妻。別に男役だとか女役だとかそんなんじゃなくて、ただなんとなく。
それでも、私と千鶴の関係を顕著に示す大事なもの。愛の証。
唯一足りないのは、千鶴の押印。
千鶴は、これを押す直前に倒れた。
だから、この婚姻届は未完成。
二人で少しずつ書いてきたのに。
あんなに嬉しそうな瞳をしていたのに。
今は決して見ることが叶わない千鶴の笑顔。
会いたいよ、千鶴…………。
◆
「ふわぁぁぁぁ…………」
あのあと、泣き疲れて寝てしまったらしくて、今は妙に眠たい。
今朝洗面所で鏡を見たら、まだ目が充血していた。
やっぱり私はもう、千鶴がいないとダメみたいだ。
「そんな風に俯いてたら、帰ってくる人も帰ってこないわよー!」
そう言って、学校に向かう私の横をバイクで通り過ぎていくお母さん。それに言い返せない私。っていうか、あの深緑色のライダースーツ密着度高過ぎじゃない? 最近買ったって言ってたけど。職場の人驚かないのかな?
うちの両親は共働きで、お父さんが車、お母さんがバイクを使って出勤する。
前に一度、「うちってそんなにお金必要だったっけ?」と聞いたことがある。
『働くのが楽しいっていうのもあるけど、今はあんたと千鶴ちゃんの結婚式の費用を稼ぐために働いてるのよ』
と、お母さん。
『お父さんの彼氏と仕事が終わったあとにでかけやすいっていうのもあるけど、今はおまえと千鶴ちゃんの結婚後の費用を稼ぐために働いてるんだよ』とは、お父さんの答弁。
うちの両親が寛容過ぎて怖い。
しかも私を含めて、みんな「事実婚」として進めているあたりが余計に現実味を帯びてくる。
っていうか、そんなの私が自分で稼ぐのに。なんかすごく申し訳ない。
早く就職して、私だけで千鶴を養っていけるようにならないとなあ…………。
ん?
「取り壊し予定地?」
そこは、通学路沿いに建っているとある民家だった。
九十代のお爺さんが住んでいたその家には、近所でも有名な立派な桜の木が生えていたのだけど、最近そのお爺さんが心不全で亡くなったらしいとは専らの噂だった。
「取り壊しってことは、この木も切り倒されるか抜かれるのかあ。」
自分も見慣れた木だったし、学校の帰りにもう一度あいさつしにいこう。と、そう思った。
◆
何、アレ……………………。
部活も終わったその帰り道。予定通りに例のお爺さんの家の前に向かっていたとき、既に先客がいたのは遠目からも見えた。
だけど、まさかそれが怪人だなんて、一体誰が予測できただろう。
全身緑色の…………そう、食虫植物のハエトリソウを擬人化したような感じのその怪人は、『取り壊し予定地』の看板の前に佇んで、ただじっとあの桜の木を見つめていた。目らしき部位なんて無いけど。
ふと私の存在に気がつくと、深々とお辞儀をしてきたので、私も会釈する。
律儀な怪人。って、そういうことじゃないか。
ポケットからクリートシードリングを取り出すと、私の闘う意志に呼応して腰にベルトとホルダーが地面から突如伸びてきたツルによって形成される。
変身しようと身構えると、その怪人は驚いた後で妙に納得したような動きをして、何処から出したのかよくわからないあの栄養剤みたいな道具……………………クリートシードリング・エナジーザイだっけ? を桜の木に刺した。
すると桜の木はほのかに白い光を放ち、クリートシードリングへと変貌した。
怪人はそれを私へ丁寧に手渡したあと、ツルのアーチを造ってその中に消えてしまった。
アーチから漏れているあの光、もしかしてあの場所に繋がっているんじゃ………!
アーチが消滅する前に、私はその光の先へと飛び込んだ。
千鶴:不定期開催あとがき企画!第一弾は『もしもレビュー』!
命:このコーナーは、もしも【育みのエイチャー】に登場するアイテムが玩具化されたら、というイメージでアイテムを紹介するものです。
千鶴:今回は《変身ベルトDXエイチャープランター》を紹介します!価格は税抜きで7460円です。早速開封しようよ命ちゃん!
命:オッケー。まずは、テープをカッターで切って……はい、中身はこんな感じです。
千鶴:エイチャープランター本体とベルトとベルト止めとクリートシードリング・エナジーザイを収納するホルダー、それにタンポポクリートシードリングとサクラクリートシードリング、クリートシードリング・エナジーザイが『チェンジ』『ストレングス』『デッドリー』の計3本入っています。
命:まずはホルダーを見ていきます。
ホルダーは茶色の成型色で、エナジーザイを収納する穴が上段に4本分、下段にも4本分空いています。
千鶴:第一部と今回のお話で出てきた『トランスフォーメーション』を含めてもあと4本は新しいのが出てくるってことかな?
命:今後に期待だね。
さて、次はエイチャープランター本体を見ていきます。
全体は赤茶色の成型色で、正面の一部にはメッキ加工が施されています。
形は…………薄いプランターって感じかな。上面中央にエナジーザイを挿す穴が空いてあって、その左にはクリートシードリングをはめるガイドレールが縦向きに取り付けられています。ここでクリートシードリングの個別認識をするんだろうね。
千鶴:試しに巻いてみたよ。
命:おぉー、かわいいー!(ベルトじゃなくて千鶴が。)
千鶴:次は、クリートシードリングとエナジーザイを見ていきます。
エナジーザイは正面に書いてある単語が違うくらいで、あとは全て同じだね。全部濃いオレンジ色。
命:クリートシードリングは全体的に箱っぽくて、下側が黒の成型色で上側が緑色の塗装。一言で言えば、デフォルメされた手のひらサイズの苗っていう雰囲気。ベルトに装填して変身シークエンスを行うと最上部の蓋が開いて花のイラストが現れ、内部のLEDがタンポポクリートシードリングは黄色に、サクラクリートシードリングはピンク色に光る仕組みです。
千鶴:ふたつのクリートシードリング、正面のイラストがタンポポは苗でサクラは樹っていうほかにも、ちょっと違うね。
命:うん。特にタンポポは側面に『Genre:Heaven』と刻印されているのに対して、サクラは『Genre:World』と刻印されているのが大きな違いだね。反対側のローマ字表記も『TANNPOPO』と『SAKURA』っていう違いがあるし。
千鶴:ヘヴンとワールド…………私たちはこの差の意味を知っているけど、読者のみなさんは気づいてるかな?
命:どうだろう。でも、いずれわかるはず。
あ、ごめん千鶴。私、そろそろ次回予告しないと…………。
千鶴:そっか、がんばってね…………。
命:うん。行ってくるよ。
以上、《変身ベルトDXエイチャープランター》のレビューでした!
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命母:次回予告よ!
命:えっ、お母さん⁉︎
命母:次回は過去編!千鶴ちゃんのダークな一面が垣間見えるかも!
命:そうなの⁉︎
命母:でも、もしかしたら見えないかも!
命:どっち⁉︎
命母:次回、『第4部:爆発する想い』で、君の青春スイッチを入れなさい!さぁ命、最後に千鶴ちゃんに一言!
命:えぇっ⁉︎えっと…………千鶴愛してるっ‼︎
命母:次回もお楽しみに〜!
命:疲れた…………。
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どうも、壊れ始めたラジオです。
今回初めて、あとがきを使って遊ばせていただきました。楽しかったです。
次のお話でみなさんにお会いできるのを楽しみにしております。
それでは。