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育みのエイチャー  作者: 壊れ始めたラジオ
潤愛!少女達のせめぎ合い!
19/23

第十九部「立ち上がるM/植え過ぎ、生え過ぎ、重た過ぎ。」

因視点のあとに命視点。十七部からの続きです。

『承知。切捨御免!』


「死ね」



「風前の灯」とは、まさにこういう状況を指すのだと思う。



「さ、さすがにそれはやり過ぎよ! きり…」


「待って千鶴!」


「!」

「!」

「…!」

『…』


 眠っていたはずの命が発した言葉で、場の空気が一瞬にして凍りついた。それは、ムソーシャも例外ではなかった。



「ねぇ…千鶴なんでしょ…?」


「…」



 ムソーシャは黙り、うなだれていた。その刹那。

 部屋の窓を割って入ってきた二本の黒っぽい触手が、命を彼女の下にあったシーツごと連れ去った。



「あっ…」


「命!」


「!」



 ムソーシャは躊躇なく、その触手が出ていった先へ飛び出していった。




 ◆




 迫り来る女性達を振り切って追いかけた先は、屋敷の裏庭らしき場所だった。…にしても。



「あんた、なんて格好してるのよ…」


「仕方がありませんわ。これしか手元になかったんですもの」



 私についてきたのは、バスローブ姿の斎園路佳戀。そして、そんな私達の視線の先には、命を抱き抱えているさっきのスピリンテントと、それに対峙しているムソーシャが。



「クロユリノキョカモモラッタ。コイツヲエサニシテ、オマエヲタオス」


『できるものなら、やってみろ』



 奴に答えたのは、あいつではない別の声。たぶん、あいつが持っていたあのクリートシードリングの。



「フンッ!」


『尋常に、いざ勝負』



 ムソーシャは駆け出し、襲いかかる何本もの触手を見事な刀捌きで斬ってゆく。あっという間に奴の懐にたどり着き手を伸ばすも、その手はむなしく空振りした。奴がすんでのところで触手を使ってバックステップしたからだ。

 私も加勢しようとしてクリートシードリングを構えた時、ムソーシャは腰に巻き付けた鎖状の帯に取りついていた名称不明のクリートシードリングを外し、花弁を模した側面のダイヤルを回して上部のスイッチを押した。



 “コープ!”



 突然、光の玉がどこからともなく飛来した。それは私の変身を妨害するかのように私の周りを旋回してから、ムソーシャの手の中に収まった。


 それは、緑色のクリートシードリングだった。


 ムソーシャはそれを刀の柄のスロットに挿し込み、必殺技を発動させた。



 “ネペンテス、グローアップ!”



 ムソーシャが赤紫色に発光し始めた刀身を地面に突き刺すと、奴めがけて一直線に猛烈な波動が襲いかかった。奴は大きく吹き飛び、空中で奴の触手から命が解放された。


 命がシーツにくるまれたまま、空を舞う。


 けれど、このままだと。


 命が、落ちてしまう。



 “ストレングス!”



 ムソーシャはお得意の高速移動能力で、命を見事に受け止めた。さながら、姫を助ける王子のように。なんか癪だけど。



「命、大丈夫? ケガしてない?」



 私達が命の元に駆け寄ろうとしたその時。



『将軍と御台所の邪魔をしないでもらいたい』



 “リリー、グローアップ!”



 ムソーシャは刀を地面に突き立てて、砂埃を巻き上げた。



「くっ!」


「なんですの!?」



 視界が悪くなり、私達はムソーシャと命を見失った。




 ◆




 気がつくと、私はいつものように家で夕食を食べていた。



「命、ぼーっとしてどうしたの?」


「病院で、何かあったのか?」



 病院…。

 そうか。普段なら、千鶴のところに寄ってから帰っていた。

 でも、今日は。

 斎園路佳戀に連れ去られて、そして…。

 千鶴が、助けに来て。



「そういえば、夏休みも毎日千鶴ちゃんのお見舞いに行くの?」



 夏休み…。


 去年の、夏休みは…。



「っ! そうだ!」


「おぉ…。父さん、びっくりしたぞ…」


「お母さん、またバイク貸して!」


「珍しいわね。いいわよ?」




 ◆




 あの日と同じような青空が、水平線の彼方まで延々と続いている。私はバイクを適当な場所に停めて、岬までの坂道を登る。

 私が目指しているのは、この先に建っている灯台。


 ここが、私と千鶴との思い出の場所に違いない。


 あの時に咲いていたヒマワリの花達も、変わっていない。



「久しぶり、ヒマワリ。といっても、ここに来たのは一年前だから、あなた達はまだ咲いていなかったのかな」



 ヒマワリ達に挨拶をして、辺りを見回す。



 …この辺りだったかな、私が千鶴に言ったのは。

 暫しの間、私はあの時の風景を追想していた。



 突然、デニムのポケットの中でスマホが激しく鳴った。



「もしもし、(ゆかり)。急にどうしたの? ちょっと今いい気分だったんだけど」


『それはごめんなさい。それより命、あなた何かされてない?』


「何かって…何?」


『えっと…斎園路佳戀のことよ。ほら、あなたムソー…あいつに助けられたでしょ? あのあと、『まだ、諦めませんわ…』ってつぶやいてたのよ。それがずっと頭に引っ掛かってて…。でも私、今日バイトで手が離せないから、なんとか連絡だけでもと思ったんだけど…何も無いならよかったわ。…あなたのタンポポはどこかに飛んでいったけど。っていうかカモメの鳴き声が聞こえてくるけど、あなた今どこに…』


「…ごめん、忠告の通りになった」


『え!? ちょっとそれって…』



 私は画面の終話ボタンを押し、目の前を睨んだ。



「斎園路佳戀…」


「ごきげんよう、植薙命。昨日は邪魔が入ったせいで失敗しましたけれども、今度こそ、アナタをモノにしてみせますわ! …タッカさん」


「オレニ、メイレイスルナ」



 斎園路佳戀の後ろから現れたタッカ・シャントリエリスピリンテントが触手を地面に突き刺すと、大量のザッソウスピリンテントが出現した。さらにタッカ・シャントリエリはそのうちの二体にサクラとアサガオのクリートシードリングを手渡すと、触手でその肉体ごと貫いた。すると、その二体はサクラスピリンテントとアサガオスピリンテントへと変貌した。



「サクラ、アサガオ!」


「コレデ、オマエノミカタハイナクナッタ。オワリダ」


  「わたくしも、いきますわよ。…変身」



 “チェッンッジ・エナジー!”

 “チュッチュッチュ・チューベローズ! キ・ケ・ン・な、かいっらっくっ! チュッチュッチュ・チューベローズ! キ・ケ・ン・な、かいっらっくっ!”

 “シャイニン・イン・ザ・ブルーラァイト! チューベローズ・ラッンッドッ!”



 一対大勢。圧倒的に不利な状況だった。



 真っ先に突入してきたのはサクラスピリンテントだった。複雑に歪んだ槍を振るい、突っ込んでくる。私はそれをギリギリのところでかわしながら、少しずつ距離をとっていく。生身だと、これが精一杯で、反撃の隙はほぼ皆無だ。



「あぐっ!」


「ふふ、ゆっくり堕ちてゆきなさい…」



 タイミングを見計らって、斎園路佳戀が快楽攻撃を仕掛けてきた。途端に腰から下の力が抜けて、その間に左の脇腹を槍で打たれた。


 意図せず、身体が崩れ落ちてゆく。

 次を食らったら、もう終わり。

 意識はまだはっきりしているのに、身体がいうことを聞いてくれない。



 そのとき、甲高い鳴き声と共に、何かがサクラスピリンテントの槍を弾き飛ばした。

 初めはカモメかと思った。けれど、明らかにシルエットが違う。

 角張った輪郭。それは、前に因が見せてくれた「コトマリギ」だった。

 コトマリギは一直線にタッカ・シャントリエリへと向かい、本体とクリートシードリングに分離した。離れた本体がタッカ・シャントリエリにくっついた瞬間、か細い女性の声が聞こえてきた。



『誰か…助けて…』



 その場にいた全員が驚いた。特に、タッカ・シャントリエリが最も動揺しているように見えた。



「クソ、イケ!」



 向き直ったザッソウスピリンテント達が、再びその凶刃を向けてくる。私の前に立ちはだかったタンポポクリートシードリングが、私を光で包み込んだ。




 ◆




 そこは、柔らかな黄色い光に満ちていた。



『命…』



 声がした方へ振り返ると、そこにはタンポポクリートシードリングが浮いていた。



「どうして、いつも私を助けてくれるの?」



 私は、以前から疑問にしていたことを訊いてみた。数拍おいたあと、タンポポは重かったその沈黙を破った。



『…君は、私と同じような気がするから』


「同じ…?」


『…私の前世は、人間の女の子だった。そして私には、将来を誓い合った女の子がいた。…君には、私のように寂しい思いをさせたくない。だから、可能な限り手を貸したいんだ』


「寂しい思い…」



 私がその言葉を繰り返すと、タンポポの前で新たなエナジーザイが現れた。



「これは…?」


『エンマに無理言ってもらってきたんだ』


「スーパートランスフォーメーションのエナジーザイ…」


『さぁ行こう、命。君が聞いた、声の主と、君の仲間を助けに。君の望みに、私は応える。地球は…大きな大きな花束だから』




 ◆




 光の空間を抜けて、私は身構える。

 タンポポは、すっかり回復しているようだった。その鮮やかな色彩を取り戻し、エネルギーに満ちているのが感じ取れる。



「な、なんでしたの? 今の光は…」



 相手が怯んでいるところで、私は変身シークエンスを開始する。



 “チェィンジ・エナジー!”

 “愛の、神託! ダンダンダン・ダダン・ダン! ダン・デ・ライオォォォォォン! ダンダンダン・ダダン・ダン! ダン・デ・ライオォォォォォン!”



 待機音声が鳴り響く。ゆっくりと両腕を体の右前方で右腕が上になるように交差させて、素早く上下の腕を入れ替える。

 そして、バックルをスライドさせて、変身ポーズをとる。



「変身!」



 “タンポポ・ラァァァンド!”



 勢いよくツタが巻きつき、爆散。超人となった姿が露になる。

 右手の掌を上に向けて、渾身の思いをぶつける。



「私はブーケ、エイチャーブーケ! あなた達自身に手向ける花…私が選んであげる」



 私が言い終わるのと同時に、アサガオスピリンテントが駆け出した。私は足を踏み込んで跳び、カウンター気味に振り上げた右拳を打ち付けた。アサガオスピリンテントは狼狽し、背中から受け身もとらずに倒れこんだ。

 次に、槍を拾ったサクラスピリンテントが、槍投げの要領で刺突攻撃を仕掛けてきた。



「はぁっ!」



 両手を広げて胸を張り、力をこめる。すると、私よりも一回り大きなライオンの頭部を模したエネルギー体が、槍もろともサクラスピリンテントを弾き返した。



「ならわたくしは…『アマルダ』と名乗りますわ。アナタは忘れているかもしれませんけど、たとえどんなに抵抗しても、性の本能には…抗えませんのよ?」



 今度は斎園路佳戀。彼女は右手を前に伸ばし、私に快楽を送りつけようとしてくる。回し蹴りを当てようとした右足が、拘束された。



 “ジョウロマグナセイバー!”



 私はすぐにジョウロマグナセイバーを呼び出し、掴まれた右足をそのままに、銃口を彼女の顔面に突きつけて引き金を引いた。



「うぶ、うぐっ! い、痛い、ですわ…」



 足を解放された私は、必殺剣撃を発動させる準備を整える。



 “サップライ・エナジー!”

 “サップライ・タンポポ・ザ・ヒッサツ・エナジー!”

 “ウエール・タンポポ!”



 装填確認音声がジョウロマグナセイバーから鳴ったのを聞くと、ジョウロマグナセイバーの底面の穴に、サップライエナジーザイのバックル側ではない方の突起を挿し込んだ。エネルギー充填音が、次第に大きくなっていく。

 充分にエネルギー充填が完了したのを見計らって、剣の状態に変形させたジョウロマグナセイバーを構える。



 “スクスク・ソダーテ! スクスク・ソダーテ!”

 “ゲンキイッパーイ! タンポポ・ブレイド!”



 ジョウロマグナセイバーを薙いだ時の衝撃波によって、アサガオスピリンテント、サクラスピリンテント、エイチャーアマルダこと斎園路佳戀は大きく吹き飛んだ。斎園路佳戀は変身が解け、二体のスピリンテントからそれぞれのクリートシードリングが私の元に戻ってきた。



「おかえり。サクラ、アサガオ」


「オレノ、キリフダガ! クソ!」



 タッカ・シャントリエリスピリンテントが、何本もの触手で攻撃してきた。初めは振り払うことができたものの、徐々に四肢が自由を奪われていく。明らかに、今まで戦ってきた相手とは格が違う。

 すぐに、手の自由が利かなくなってしまった。身体が宙に浮き、完全に形勢が逆転した。



「くっ!」


「モウ、オマエ、テニオエナイ。クロユリニハワルイガ、ココデキエロ!」



 私が触手から逃れようともがいていると、スーパートランスフォーメーションエナジーザイが地面に落ち、刺さった。途端、ひび割れのようにエネルギーが地面を這い、咲いていたヒマワリ達に到達した。ヒマワリ達はクリートシードリングへと変化し、瞬時にタンポポと交代した。新たな変身待機音声が鳴り響き、バックルがスライド。



 “私は、あなただけを見つめる!サーンサーンサーン!サーンサーンサーン・サン・フラワー!”

 “ヒマワリ・ラァァァァァァンド!!”



 地面から伸びたツタが全身を覆い、換装が始まった。腕、脚、胴体、あらゆる箇所に装甲が増えてゆく。



「オ、オモイ…」



 急激に増加した体重…私自身じゃなくてアーマーの重量が増えただけだから。…のせいで保持できなくなったのか、タッカ・シャントリエリは触手から私を解放した。支えを失った私の身体が、強烈な重力加速度でもって地面にダイブし、その衝撃で一帯が大きく震動した。



『押忍! 姐さん、漢気見させてもらいやす!』



 ヒマワリ達の声が私の脳内に響く。…姐さん?



 “ヒマワリシードマシンガン!”



 ともかく私はサブマシンガン型の新たな武器「ヒマワリシードマシンガン」を召喚し、銃口をタッカ・シャントリエリに向けた。



「アイツヲトメロ!」



 大量のザッソウスピリンテントが私に襲いかかってきた。私はそれを気にせず、引き金を引く。圧倒的な弾幕により、軍勢はあっという間に縮小していった。



「次は、あなた…」


「ナ、ナンダト…。コノオンナハマズイ…」



 私が再び銃口を向けると、タッカ・シャントリエリは触手を駆使して瞬く間にこの場を去っていった。



「待って! って…あれ、なんでこれ動けないの」



 違和感を感じて足元の見やると、腰から下、ベルトを境とした脚部全体ががドレスのような形状のアーマーに包まれていて、両脚が完全に固定されていた。



『押忍! 十トンの存在感!』


「なにそれ重たっ!」



 どうりで一歩も歩けないわけだ…。

どうも、壊れ始めたラジオです。


安定の展開の早さ。まるでギャグ漫画のようです。


次回は過去編です。


それでは。

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