第十六部「許されない関係」
千鶴視点。第十四部の続きです。
命ちゃんとの一晩が明けた今日。朝食を終えた私達は、長い木の机を隔てて、私の両親と向かい合っていた。
「大事な話とはなんだ」
お父さんから向かってくる大きな威圧感。命ちゃんはそれに負けじと、お父さんとお母さんを一心に見つめている。
そして、命ちゃんは試合開始の鐘を鳴らした。
「実は…実は、私は、千鶴…娘さんと付き合っています」
「ほ、本当だよ。私達、本気で愛し合っているの!」
「早苗」
「は、はい」
「電話を持ってこい」
「…わかりました」
「「え?」」
電話?
一体、何を考えているの?
私が命ちゃんの方を見ると、命ちゃんもおんなじ事を考えていたみたい。ふたりで見つめ合う形になった。きょとんとしている命ちゃんもかわいいな。
「もしもし。お前のところに通っている植薙命のことなんだがな…退学させてほしい。理由付けは、そっちで勝手にしてくれ」
「「「え!?」」」
「なんでか…。そうだな。我が家の大事な娘にセクハラ行為を働いた、とでも言っておこうか。それじゃあ、よろしく頼む」
うそ…。
私達、まだ付き合ってるとしか言ってないのに、ここまでするなんて…そんなの。
「そんなのあんまりだよお父さん!」
「何があんまりだ! お前に変なことを教えたこいつが悪いんだ! 女同士? 馬鹿か! 意味のわからないままごとはやめろ!」
ままごと!?
私達は、本気で…本気で好き合っているのに…!
「意味がわからないのはそっちだよ! 女の子同士で愛し合うことのどこがいけないの!?」
「全部だ! 人は皆、男と女が結ばれるものだ! 男がいて、女がいる。それで初めて、世界が回るんだ! 大体お前に恋愛は早い! そんなに結婚したいなら、私がちゃんとした男を連れてきてやる!」
「それじゃあダメに決まってるじゃん!」
「わ、私は、千鶴のことを一生大事に…」
「まだいたのか。お前はさっさと帰れ。そして二度とうちの娘に関わるな」
「そ、そんな…」
「もういいよ。こんな家、出ていってやるもん。行こ、命ちゃん!」
「え、ちょっと千鶴?」
「お父さんもお母さんも大っ嫌い! 今までお世話になりました、さようなら!」
「ま、待ちなさい千鶴! そいつを置いて戻ってきなさい!」
「ふんっ! 知らない!」
私は強引に命ちゃんの腕を引っ張って、着の身着のまま家を出ていった。
◆
…家出したはいいものの、向かう場所は一つしかなくて。
「千鶴、一緒に戻ろうよ。私は、ちゃんと千鶴の両親にも納得してほしいから。ね?」
私は命ちゃんの部屋で、熱烈なリターンアプローチを受けていた。
「もう…いいよ命ちゃん。私の大切な命ちゃんを退学させようとしているお父さんなんて、もう嫌いになったし。お母さんもなにも言ってくれなかったし」
「…」
「だからね、もういいんだよ。…そうだ、一緒に働こうよ!」
「え!?」
「そうだそれがいいよ! 私、学校辞める!」
「そ、それはやめた方が…」
「いいのいいの!」
「…」
あのとき、私は自分の身勝手な思いつきで命ちゃんを振り回していた。
命ちゃんが姿を消したのは、その日の夜のことだった。
どうも、壊れ始めたラジオです。
約一ヶ月ぶりの更新です。お待たせいたしました。
次回は現代編です。
それでは。