第十四部「お泊まりと初夜と戦いの始まり」
千鶴視点。第十二部の数時間後のお話です。
今回から第二章が始まります。
『久しいな、我が主よ』
命ちゃんの命を狙った梶川くんにお仕置きしてちょっと疲れた私が畳の上で寝転がっていると、部屋の押し入れの中から懐かしい声が聞こえてきた。まだ少しだるいけど、せっかく話しかけてくれたんだから、ちゃんと答える。
「うん…久しぶりだね……」
『…ひとつ、気になることがある』
「うーん、何?」
『将軍の言っていた「命ちゃん」というのは、将軍とはどのような関係であるか』
「命ちゃんは私の恋人で、将来の奥さんだよ」
『奥さん…………つまり、将軍の御台所か』
「御台所? …あ、正室ってことだったよね、確か。うん、合ってるよ」
『将軍がよければ、その馴れ初めを話してもらえるか』
「いいけど……ごめん、今日はもう疲れたから、また今度話すよ……って、あー!」
『どうした』
「今日、命ちゃんが泊まりにくるの、すっかり忘れてた!」
『…夜這いか』
「そういうわけじゃないよ。ただ、明日から夏休みに入るから、お父さんとお母さんに命ちゃんを紹介しようって話になってたんだよ!」
『夏休み、とは、何であるか』
「その説明はあとで! どうしよう、早く部屋の片付けしないと!」
『…口を挟むようで悪いが、将軍の部屋は片付けなければならないほど家具があるのか?』
「…………無かった」
十畳間に和式机と押し入れが一つずつ…むしろ、これ以上どうしようもないよね……。
制服から部屋着に着替えてしばらくすると、玄関の方から来客を知らせるチャイムが鳴った。私は嬉しくて、駆け足でそこへ向かって、引き戸を開けた。
「いらっしゃい、命ちゃん」
◇
「あ、このフキの煮物美味しいです」
「ありがとうございます。なにせ、洒落たものなんて作れないので、お口に合うかどうか、心配だったのですよ」
「…お母さん、また敬語になってるよ。命ちゃんも、ちょっと遠慮し過ぎだよ?」
「あ…あらら…」
「…ごめん、千鶴」
と言っても、これから「娘さんとお付き合いをしております」っていう大事な話をするんだから、無理もないだろうけどね…。ついでに、命ちゃんには焦った勢いとかでもいいから、「千鶴さんを私にください」的なことも言って欲しいな。まあ、もし言えなくても、そのうち私が命ちゃんのご両親に「おたくの命ちゃん、私がお嫁にもらっていきますね」って伝えるけどね。…そして、将来は絶対に一緒のお墓に入るんだ。正面には「桐代家之墓」って彫って…あれ、もしかして「植薙家之墓」? どっちだろ…今度、相談しようかな……。
「…飯、おかわり」
「あ、はいっ、ただいま」
「…………」
…なんか…いくらなんでも、空気が冷た過ぎるなぁ…。会話が全然弾まないよ…。
◇
「「はぁ…結局言えなかったな…。…あ」」
あ、またハモった。やっぱり私たち、カラダの相性ぴったりだね。早く命ちゃんと…あ、替えのシーツ買ってないや。もう、家族に認めてもらうまではダメなんて、命ちゃんもずるいこと言うなぁ。そんなに焦らしたら、私、どうにかなっちゃいそうだよ。
「ごめんね、千鶴。本当は、さっきご飯食べてたときに言うべきだったのに…」
「だ…大丈夫だよ命ちゃん! 命ちゃんのペースで、言ってくれればいいから。ね?」
「…ありがと、千鶴」
う…。かわいいっ…!!
「んむっ!? ひ、ひふふ…?」
ごめんね。でも命ちゃんが悪いんだよ? その微笑みがかわい過ぎるから、ついついキスしたくなっちゃうんだよ? 命ちゃんの服を脱がせたくなっちゃうんだよ? シーツは…今度でいいや。
「ぷはっ! ち、千鶴…まだそれは…ダメ…」
私の唇から逃れた命ちゃんが反抗してきた。
「どうして? 私は、もっと命ちゃんと親密になりたいよぉ…」
「…この間ふたりで決めたでしょ? それぞれの親に認めてもらうまでは、キスより先のことはしないって。言わないでやって話がこじれるよりも、ちゃんと伝えて堂々と付き合いたいって。私は、いつでも千鶴を受け入れるから…さ」
「うん…わかった。じゃあ、今日はキスだけで我慢する…」
「ん…」
命ちゃんは曖昧な返事をして、ゆっくりと目を閉じた。命ちゃんの誘惑に快く乗った私は、その柔らかい頬を両手で包み込み、寄りかかるように唇を重ねた。
明日…明日しっかりと説明して、絶対に命ちゃんと桃色な生活を送るんだ!
どうも、壊れ始めたラジオです。
千鶴の両親が初登場しました。
ちなみに桐代家は、地元の旧家という設定です。作中ではっきりとそれを描写するかどうかは、未定ですが。
次回は命視点です。前回の予告で出ていた生粋のレズビアンキャラが登場する予定です。
それでは。