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育みのエイチャー  作者: 壊れ始めたラジオ
開花!私!
11/23

第十一部「対決!恋人VS幼馴染み」

命視点のち新キャラ視点。最後にもう一度命視点。

第九部の数日後の話です。

「う、植薙先輩。こっちの設置、終わりました…………」


「あぁ…………ありがとう。じゃあ、(ゆかり)に一言伝えたら旅館に戻っていいよ。…………お疲れさま」


「は、はい。お疲れさまです…………」



後輩たちを横目で見送ってから、私は深いため息をついた。

どうして、あんな話し方しかできないんだろう…………。



「…………またぶっさいくな顔してるわね、(みこと)


「…………(ゆかり)



展示する植木鉢の前でうなだれていると、よく聞き慣れた少しトゲのある言葉がかけられた。

見上げると、ポニーテールの女の子がこちらを見下ろしている。

私の幼馴染みで、園芸部の部長である児玉因(こだまゆかり)

照明による逆光で表情はわからないけれど、あまりいい気分ではないということはわかる。



「そんな顔してるから、誰からも慕われないのよ」


「…………ごめん」


「私はあなたに謝ってほしいわけじゃないの。…………まったく。彼女の前ではあんなに鼻の下伸ばしてへらへらしてるのに、なんで周りの人には愛想良くできないのかしらね」


「そこまで言わなくても…………」


「こんなこと、幼馴染みの私以外に誰が言ってやれるのよ」


「…………」



私は、何も言い返せない。

すると、(ゆかり)は何かを言おうとして口を開いたけど、数秒硬直した後にそれは閉じられてしまった。代わりに、無理してつくったような笑顔と一緒にこれまた無理したような言葉が発せられた。



「ほら、明日は大会なんだから、できるだけ明るくしなさいよ?」



それが無理して言ったものだとわかったから、私も本当は言いたかったネガティブな言葉を飲み込んで、なるべく前向きに振る舞った。


「…………そうだね。私の、私たち園芸部の最後の大会だから、元気…出さないと」



(ゆかり)はその言葉を聞くと、ホッとしたような、でも少し残念そうな顔をして、「じゃあ、おやすみ」と言って旅館の個室へと戻っていった。



その背中には、私が汲み取りきれないくらいの感情が乗っかっているような気がして。

同じ部屋なのに、私は(ゆかり)と一緒に行くことができなかった。







真夜中。



私は、何か名状しがたいものに中てられて目を覚ました。

少し身を起こすと、今まさに私が一番問いただしたい人物がこの部屋から出て行こうとしているところだった。



「…………あなたはっ!」


「えっ、まさか起きちゃった!?」



相手もかなり驚いている様子だったが、すぐに体を翻して旅館の廊下へと走り去っていった。私も、着の身着のままでそいつを追う。



廊下の突き当たりに窓が見えた。そいつはまるで幽霊のように窓を、正確には窓とその下の壁を「すり抜けた」。

私はさすがにあんな芸当はできない。だから、窓を開けて文字通り外へ「飛び出した」。

三階の窓だったため、両脚に強い負荷がかかったが、今はそんなこと気にしていられない。

こいつには聞きたいことがたくさんある。

足は私の方が少々速かったおかげで、なんとか旅館近くの林に追い詰める。



「やっと見つけた…………桐代千鶴!」


「…………っ! こ、児玉さん!?」



やや動揺している桐代千鶴の襟元を引っ掴み、目線を合わせる。



「あんたのことだから、どうせまた変なこと企んでるんじゃないの?」


「…………児玉さんは知らなくてもいいことだよ」



私から目線をそらして、吐き捨てるように答えた。それに憤りを感じて、手の力を強める。



「なんですって…………?」


「だから、命ちゃんの幼馴染みでしかない児玉さんに教えるつもりはないよ」



桐代千鶴がわずかに視線を向けた瞬間、彼女の懐から何かが飛び出し、私に襲いかかった。

小さな襲撃者の攻撃をなんとか腕でガードし続ける。



「うっ! な、何…………?」



「これ以上私たちの邪魔をするなら、命ちゃんが許しても、私が許さないよ…………変身!」



そう叫ぶのと同時に、あの「小さな襲撃者」改め「小さな襲撃物」が彼女の手の中に収まり、まばゆい光を発した。

光が収まり、ようやく私は彼女が白い鎧武者のような姿になったことを視認した。



「…………やっぱり、そういう道具を使っていたのね。どうりで、ここ半年間命の周りで心霊現象みたいなことが頻繁に起こるはずだわ…………」


「…………クリートシードリング!?」



私は、彼女の言う「クリートシードリング」を浴衣のポケットから取り出した。

私の腰に植物のツルが巻きつき、乳白色のプランター型バックルとベルトに変化する。



「力を手に入れたのは、あんただけじゃないってことよ…………変身!」



“チェィンジ・エナジー!”

“遠慮! メイプルっ! トゥットゥ・メイプルっ! トゥットゥ・メイプルっ! トゥットゥ・メイプルっ! トゥットゥ!”



陽気な変身待機音声が流れると、私は右手を夜空に向けて高く突き上げ、すれ違うように左の拳を突き上げる。そして空いた右手の掌で、クリートシードリングとチェンジエナジーザイが装填されたバックルを押し込んだ。



“カエデ・ラァァァンド!”



足元から生えてきた巨大な樹木が私の身体を呑み込んだかと思うと、それは光と共に散り散りになり、あとには木目調の超人となった私が立っていた。



私は木のようにどっしりと彼女を見据えて、自分を奮い立たせるためにたった今思いついた決め台詞を言う。



「さあ、深緑に埋もれなさい」







ん…………。



(ゆかり)…………?



ドアが開いた音に目が覚めて隣の布団を見ると、寝ているはずの(ゆかり)がいなくなっていた。



起き上がって部屋のトイレを覗いてみても、ただ真っ暗な空間が広がっていただけだった。そもそも鍵がかかっていない時点で無駄だとはわかったけど。



となると、廊下に出ていったとしか考えられない。

もしかしたら、エレベーターホールの自販機まで飲み物を買いにいったのかもしれない。



そう思って、念のためにタンポポクリートシードリングだけを持って行き、エレベーターホールに向かったが探し人の姿はなかった。



「ここにもいない…………」



引き返そうと思い振り返ったところ、窓の外に異形の生物が歩いているのを見つけてしまった。

スピリンテントだ。

旅館の駐車場を平然と通っていることにも驚いたが、私はなにより、それが向かっている行き先が一番気がかりだった。

ここの本館から少し離れた体育館サイズの建物。



大会の、会場。



まさか、会場に展示した植物達を…………?



それに気づいた瞬間、私は探していた相手のことなんかどうでもよくなり、外へ浴衣とサンダルのまま駆け出した。







「変身!」



“タンポポ・ラァァァンド!”



走りながら変身した私は、勢いをつけて怪人を殴りつけた。



怪人は気づくのが遅れ、私のパンチをもろに腹にくらった。

私は次の攻撃を繰り出そうと拳を引っ込め、引っ込め、引っ込め…………られない。



私の右手は、まるで接着剤でも塗られたかのように怪人の腹にくっついていた。

動揺して左脚でつっぱろうとしたが、今度は左脚まで怪人と繋がってしまった。



この疑問を解消するために、私は直立したままの怪人を見回してみた。



周りが暗くて今までは気がつかなかったが、怪人には全身にわたって短い毛のようなものがびっしりと生えていた。



まさか、この怪人の元は…………!



…………モウセンゴケ!?



モウセンゴケは、葉の粘毛と呼ばれる器官でおびき寄せた虫を絡めて捕食する食虫植物。

その特性によって、私は捕縛されているんだ。



まずい、このままじゃ養分を吸い取られる。はやく引き剥がさないと。



そのとき、まだ捕らえられていない左手になにかを感じた。

手元を見やると、あの変貌したジョウロが握られていた。



そうか、変身すると武器を呼び出せるんだ。



私は、先端が銃口のような形状に変形したジョウロを相手に向けて、持ち手にある引き金を引いた。

ドキュンドキュンという音が発生し、光弾が発射された。



モウセンゴケ・スピリンテントは痛みに悶え、私を解放した。



私はとどめを刺すために、持ち手の上側に備わっているソケットにタンポポクリートシードリングを装填した。



“ウエール・タンポポ!”

ガイダンス音声が流れる。



「食らえ!」



引き金を引いた。



しかし、てっきり必殺ビームかなにかが発射されるのかと思ったら、それは突如として発熱し始めた。



「熱っ!」



あまりの熱さに、私は思わずジョウロを手放した。タンポポクリートシードリングだけが、手元に戻る。



「なんで…………?」



落としたジョウロ型武器を恐る恐る観察してみると、底面にエナジーザイが挿せそうな穴が見受けられた。

これが足りなかったんだ。

けれど、その穴の形状は私が持っているどのエナジーザイとも合わない。例えば、マイナスの溝にプラスのドライバーが挿さらないのと同じように。



怪人は、なにかに驚いている様子だった。先ほどから直立の姿勢をほとんど崩していない。



(みこと)が部屋で寝てるのに、あんた達一体何やってんのよ!」



戦闘を続けようと態勢を整えていたその時、どこかで聞いたような声が聞こえてきた。



振り向くと、木目調の人らしき者が怪人に向かって駆けてきていた。



「有無も言わずに、深緑に埋もれなさい!」



“デッドリー・エナジー!”

“グローアップ! カ・エ・デ!”



木目調の超人はバックル操作を行い、必殺技を発動させようとしているらしい。

そしてそのルート上には、一輪のアジサイが咲いていた。



「踏んじゃダメ!」



反射的に、私は必殺技を発動させた。



“デッドリー・エナジー!”

“グローアップ! タ・ン・ポ・ポ!”



路端のアジサイを庇うように、超人の前に割って入った。

私の必殺パンチと、超人の必殺キックが激しい閃光を放ってぶつかる。

力負けした私は、会場近くの滝へと吹き飛ばされた。



「あっ………………………………」



背中に強烈な風圧を感じたのを最後に、私の記憶は途絶えた。

どうも、壊れ始めたラジオです。


高校生らしく部活ネタがやりたかったので、今回は園芸部が大会に参加するお話でした。まぁ、あんまり関係ないですけれどね。


ところで、今回初登場した新キャラ、児玉因(こだまゆかり)。元々のプロットには存在していなかった人物です。千鶴の良き好敵手になってくれると期待しています。


あと、千鶴の変身音声は今回意図的にカットしております。なるべく引っ張ろうと思います。


次回は過去編。梶川にはあのまま大人しくしておいてほしいですね。


今回はこの辺で。



それでは。

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