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燃焼少女  作者: まないた
焼失する少女
9/52

009

 

 カールやゲロルド達を呼び戻して男達を招きいれていると、皆入ってすぐに死体へと目がいき驚かせてしまった。

 処理、忘れてた……

 

 途中で腰を抜かす人もいたが、男達の先導をゲロルドとカールに押し付け、マリーと部屋の隅の方で全員が入るのを待つ事にした。

 

 そしてその間、私は能力についてわかった事を纏める。

 

 これまでも感じていた事だが、力や記憶の吸収については、食べるとすぐに行われる。

 また、五口分の肉を食べれば吸収出来る事はわかっていたが、それ以上はいくら食べても変わらない様だった。

 つい先程能力についての見落としがあったので、他にも無いか考える。が、それよりも見落としがあった事自体が不愉快であり、しかも自分のせいである為に誰かにぶつける事も出来ず、悶々とする。

 

 だめだ。

 これ以上考えても苛々するだけで精神衛生上良くない。溜まった苛々を吐き出すように溜息を吐きつつ、マリーへ確認する。

 

「はぁ……。皆そろそろ入ってきたかしら」

「はい、全員入ってきましたよ。あと死体の方ですが、適当にエリスさんの指示だと言って、男達に処理させてます」

 

 いつの間に。

 やっぱり当初から睨んでいた通り、マリーは使える子だった。

 

「ありがとう。じゃこれから今後の話をするから、カールとゲロルドもあっちの部屋に連れて来てくれないかしら。マリーもね。あぁ、あと転がしている男達も、そろそろ縄をほどいておく様に指示しておいて」

「わかりました」

 

 マリーは嬉しそうに了承して、目的の人物を探しに行く。

 その後ろ姿を見送った私は先に別室へ行き、マリー達が来るのを待った。

 

 

 それから少しすると、カール、ゲロルド、マリーの順で部屋にやってきた。私が痛んでいるベットに腰掛けて待っていると、隣にマリーが腰掛けてきた。

 そして対面に椅子を用意したカールがそこへ座り、ゲロルドがなぜか部屋の入り口で突っ立ったままこちらへ来ない。

 

「さて、これからの事を話しておこうと思うわ。……ってゲロルド、どうしたのよ。話し辛いし、扉も閉めて欲しいからもっとこっちに来なさいよ」

「あ、あぁ……」

 

 ゲロルドは何かに耐える様な顔つきで扉を閉め、カールの隣の地面に腰を下ろした。

 行動の意図に理解が出来ないので首を傾げるが、カールはゲロルドへ同情的な視線を送っていた。

 

「それで、これからの事とは?」

「えぇ、知っていると思うけれど、私は今壁から出る為に仲間を集めているわ。だけどその前に、今の状況から話しておこうと思うの」

「今がいい時期、と言っていたしな。詳しく聞こう」

 

 ゲロルドの様子についてはこれ以上考えても仕方が無いと思い、話を進めていく。

 

「まず前提として、カールはここが実験区画である事は知っていたのかしら?」

「それは知っている。元々の認識では、ここで魔物の生態や弱点を知る為の区画だと思っていた……入って見れば全然違っていたけどな」

「へぇ、じゃあここの実態を知っているのは、外でも一部だけの人かしらね。アナタが区画に来たのはいつ頃?」

「今から二年前くらいだな」

 

 カールは当事を思い出しつつ、これまでの経緯を簡単に話し出した。

 お父さん達と同じ調査対象の件でこの区画に入ったが、任務の内容は調査ではなく討伐であった。

 討伐依頼の報酬は調査と比べてもとても高額であり、拘束期間も少なく定期的に上がる依頼であった為、当事は多少実力のあるもの達から見れば、かなりの人気な依頼であったと言う。

 しかし逆に、受けた依頼を失敗した場合は当然ペナルティがあり、討伐依頼でのペナルティは莫大な違約金であった。

 

 カールはその頃に四級に上がり、色々と調子に乗っていたらしい。

 当時失敗続きだったこの依頼だったが、成功出来るという根拠無き自負と、高額な報酬に目がいってしまって二つ返事で依頼を引き受けてしまう。

 そして討伐に失敗してしまい、払えない程の負債を抱えて関所で捕まるわけにも行かず、逃げ帰れなくなっていたとのこと。

 

「となると、同じ化物の討伐依頼だったのね。あ、ちなみにあの化物、前回調査に来た冒険者が討伐したわよ」

「なんだと!? 本当か!?」

 

 カール自身が化物と向き合った経験があるようで、信じられないといった表情で声を上げ、私を見つめる。

 

「二級冒険者が二人いたのよ。けど監察員の邪魔が入って、重症を負った状態で討伐したの。それで帰る途中に区画の住人に追われて、私がいた所に逃げ込んてきたのよ」

「二級か、なるほどな。色々と納得した」

 

 私を見つめたまま頷くカール。恐らく私が身体強化など出来る事にも疑問があったのだろう。なんたってここの住人は魔法が使えない。

 しかし、二級冒険者と出会って魔法を師事して貰ったと考えれば納得するだろう。恐らく色々と納得したといのには、その辺も含まれていると思われる。

 

 そこで私が、「冒険者は食べちゃったら、なんか出来る様になりました!」なんて言える筈も無く、そのまま勝手に勘違いさせておこうと考えつつ、話を続ける。

 

「だから今は化物がいないこの区画は安全で、さらに調査した人達は中で全滅したみたいで、外にはまだこの事実が伝わっていないわ」

「そうか、だが外に伝わるのも時間の問題じゃないか? 次が移動出来る化物だと不味いと思うが」

 

 当然の疑問だと思う。

 だから私は考えていた計画を伝える。

 

「えぇ、だけど外の人はどうやって確認するのかしら?」

「そりゃ、いつかまた冒険者を使って」

「それよ」

 

 冒険者という言葉に反応して、言葉を遮って指摘する。

 

「私は逃げ込んだ冒険者に、調査で人が入ってくる間隔を大まかに聞いているの。だから次がいつになるかは大体だけど把握しているわ」

 

 まぁ本当はお父さんの記憶にあった情報なので、実際に聞いたわけではなかったのだが。

 

「ふむ、なら来る前に逃げてしまおうってことか」

「いいえ違うわ。私はその冒険者達を、こちらに引き込めないか考えているのよ」

「は? それはいくらなんでも無茶では……」

「もう一つ確認しておきたいわ、ゲロルド、次はアナタも答えなさい」

 

 私はカールの言葉を途中で遮って、話を進める為に話を変える。

 今度は全員に聞きたい内容であったので、あえて会話に入ってこないゲロルドも名指しで呼びかけた。

 

「ここにいる人で魔力を使って身体強化……いいえ、普通の魔法でもいいから、魔力を使った戦闘が出来る人って、どの位いるのかしら?」

「俺は冒険者だから使えるが、ここでは誰も使えないな」

「俺も見たことがあるのは、お嬢だけだ」

「私もありません」

 

 カール、ゲロルド、それに名指ししていないマリーまで答えてくれた。

 マリーへ顔を向けると、笑いかけられた。癒される。

 

 じゃなくて、やはりこれについては予想通り。

 そもそもここで戦闘という戦闘をした気がしない。

 構えも力の入れ方も、見た中ではカール以外の全員が、何かを考えている様には見えなかった為だ。

 

「そんな魔力も扱えない人たちが集まったところで、関所を守る戦力に勝てるかしら?」

「それは……難しいだろうな」

「関所ってなんだ?」

 

 ゲロルドは調子を戻してきたのか余計な口を挟んできたが、私はそれを無視して続ける。

 

「兵士相手も難しいし、何より相手の戦力がどの程度あるのかもわからないの。だからその情報を持っているだろう冒険者や、そこについてきている監察官と接触する必要があると思うのよ」

「確かに、その通りではあるが。……どちらが相手にせよ、俺達と遭遇すればすぐに武器を突きつけてきて、情報所では無いと思うのだが」

「アナタ達の場合はね。けど、私やマリーならどうかしら?」

 

 私の言葉に、カールやゲロルドは一瞬「何言ってるんだこいつ」という顔で見てきたが、すぐに納得したのか、含みを持たせる口調で口を開いた。

 

「腑に落ちないが、もしかしたら大丈夫かもしれないな」

「確かに外見だけなら油断するかもしれないな」

「エリスさんなら、絶対に大丈夫です」

「マリーありがと。……アナタ達、何か言いたいことでもあるのかしら?」

「「いや、別に……」」

 

 目を逸らすな目を。全く、失礼な人達だ。

 そしてゲロルド、最初に部屋に入った時と様子が違いすぎると思う。最後まで良くわからなかったが、自分で持ち直したのだろうか?

 まぁいい。一応全員から太鼓判を押してもらったので、先に進める。

 

「……とにかく私が表立って冒険者達へお願いをするから、しばらく子供らしい振る舞いをするわ。その間にアナタ達は、観察員を捕縛しておきなさい。情報を引き出すわ」

「あぁわかった。確かに観察員はそのまま放置できないし、個人的にお礼もしてやりたいからな」

 

 カールは私の言葉に頷きつつ、瞳に憎悪の影をチラつかせる。

 恐らくカールもお父さんと同様で、観察員のせいでなにかしらの酷い目にあったのだろうと考えるが、それほど興味の無かった私は深く追求をしなかった。

 

「恐らくあと五日ほどはあると思うわ。その間、今日捕まえた男の仲間、それともう一箇所回ってこちら側へ吸収し、万全を期しておきたいわね」

「そうだな、それなら食料も、俺がいた所から取ってくればなんとか持ちそうだ。しかしそうなると、作戦中にお穣は孤立するわけだから、何かしらの連絡手段が欲しいな」

「それも考えてあるわ。……マリー、前に話していたこと、お願いね」

「わかりました」

「え? おい」

 

 私が言うと、マリーはゲロルドの横へ行き、腕を組む。そこでカールはピンと来たようで、頷きながら口を開いた。

 

「なるほど、夫婦を装うのだな」

「えぇ、彼らには無害で世話焼きな夫婦を演じてもらうわ。そこで私がお世話をしてもらっているという設定ね」

「ちょっとまて! 俺は聞いてないぞ!」

「当然よ、アナタには今言ったもの」

 

 マリーには事前にした二つのお願いの内、二つ目のお願いはこの事であった。

 マリーからは「それがエリスさんの為になるのであれば!」と快諾を得ており、ゲロルドには事後承認としていた。

 

「いや別に、俺でなくても……」

「私が嫌よ。正直マリーをアナタに託すのも結構嫌なのよ? けれどアナタは、この中ではまだしっかりと働いてくれているからね。これで私も渋々なのよ」

「渋々なのかよ……」

「カールには別の仕事があるの。それにこの役割も結構重要なのだから、他の人ではなくてアナタに任せているのよ」

「そ、そういうものか?」

 

 私が少し持ち上げてやると、ゲロルドは少し嬉しそうにしつつ、渋々といった体面を取り繕って了承をした。

 それぞれの役割が無事に決まったので、私は最終確認として内容を纏める。

 

「さて、それじゃゲロルドとマリーは連絡役兼ここの纏め役。カールも纏めるのを手伝いつつ、観察員の捕縛に加えて当日の配置を考えておきなさい。人員は必要だと思ったら、全滅しなければ使ってもらって構わないわ。これから四日間は人数集めに集中して、五日目からはこの配置で行くわ。何か質問はあるかしら?」

 

「問題ない」

「エリスさんの為に頑張ります」

「大丈夫だ」

 

 説明下手な自覚はあるのでわかってくれるかを少し心配していたが、問題無く会議を纏めることが出来たので、安堵した。

 

 それから各自身体を休めるように伝え、カールとゲロルドが出て行くのを見送る。

 マリーは私の隣から動かないので、ここで一緒に休む様だ。

 

「エリスさん、口元と服が汚れてますよ。私が替えと、何か拭くものを取ってきますね」

「え? いやマリーも疲れたでしょう? 私はいいから、休んでいて良いわよ」

「まだ大丈夫です! ここで待っていて下さいね?」

 

 そう言ってマリーも部屋から出て行った。

 

 私はマリーの行動を見る度に疑問が沸く。

 今日初めて出会い、しかもその出会いは敵対そのものだったはずだ。

 自分から仕向けたとはいえ、なぜこんなにまで慕われ、あまつさえ世話まで買って出るのか。

 

 しかしそんな疑問とは別に、愛情を向けられてとても喜んでいる自分もいた。

 ここまで関心を持って接してもらった事が無い私は、マリーといるだけで心が温かくなる。

 

 

「戻りました……って、どうかしましたか!?」

「えっ? あ……」

 

 私はいつの間にか泣いてしまっていた様だった。

 マリーの指摘によって自覚した私は、形容し難い気持ちに心が一杯になりマリーへ抱きついた。

 

「どこか痛いのですか? 大丈夫ですか?」

「大丈夫よ。えぇ、私はまだ大丈夫」

 

 私はそのままマリーに抱きかかえられたまま、いつの間にか寝てしまった。

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