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燃焼少女  作者: まないた
焼失する少女
8/52

008

 

 カールを下した私は、そのまま固まっていた男達の所へ行き、全員へ聞こえるよう少し大きめな声量で口を開いた。

 

「さて、彼は来る事に納得した様だけど、アナタ達ははどうかしら?」

 

 男達は顔を一瞬見合わせるが、自分と同じように青い顔をしている仲間を見て、諦めたような表情をしてついていく事に了承を返した。

 

 それからすぐに拠点へ戻ることを告げ、存在感の薄かったゲロルドを先頭にすると、大所帯で歩き出す。

 その道中で私はカールを捕まえ、先の戦闘で気なったことを質問をしていた。

 

「少し聞きたいのだけれど、良いかしら。えーと……」

「カールだ」

 

 他の男がカールの事を呼んでいた為、名前については把握していたものの、自分の紹介も併せて行おうとわざわざ確認した。

 

「カールね、私はエリスよ。ところでさっきの獣化? だけど、獣人は皆使えるのかしら?」

「あぁ。お前も既に魔力を扱えるみたいだし、出来ると思うぞ」

「ふーん、やり方を聞いても?」

「俺たちの場合は、魔力枯渇を起こすと勝手に獣化する」

 

 その言葉に私は、カールへと疑う視線を向ける。

 お父さんの記憶にある常識に照らし合わせると、魔力枯渇をした場合には通常気絶するか、強い虚脱感に立っている事もままならなくなる。といった知識があるので、いまいち信じられない。

 

「それ、大丈夫なの?」

「俺自身大丈夫そうだろ? 確かに体力も一緒に消費するから、しばらく回復するまでは戦えなくなるが」

「普通なら気絶するか動けなくなるみたいだけど?」

「人間はそうみたいだな。だけど俺らは、魔力が枯渇したら獣の力に切り替わって、平時の倍以上の力が出せるんだ」

 

 種族によるものなのか。確かに獣人は魔力量が少なく、使っていればすぐに枯渇するのは目に見えている。

 つまりそれはスムーズに獣化をする為に、最初から少ない量だったのかと思えば、納得も出来る。

 ……もっとも、私の魔力量では難しそうであったが。

 

「はぁ、獣化についてはもういいわ。次は提案よ」

「ん? なんだ?」

 

 私自身が獣化をする事は、恐らく然う然うないであろう事に肩を落としつつ、次いでカールへと提案を持ちかける。

 

「これはまだ誰にも話ていないのだけれど、私は外にでたら、この国の体制を壊そうと思っているの」

「!?」

 

 私の言葉に、カールは目を見開いて私を凝視してきた。

 興味を持って貰えた様なので続けよう。

 

「出来ればアナタには、外に出た後もこの国にいて貰って協力して欲しいのだけど」

「……それは強制か?」

「いいえ。提案、もといお願いね。どうしても私だけでは情報収集をしても、一方向でしか見られないと思うのよ。だからアナタにも手伝って貰って、情報を集めて貰いたいのよ」

「……」

 

 そう言うと難しい顔をして少し考え、質問がくる。

 

「お前は外に出られれば良いんじゃないのか? 確かに出た後は暮らしにくいだろうが、それでもここよりはマシだと思う。そこまでする必要はないと思うが」

「そうね。だけど私にとっての目的は、この壁に囲まれたこの区画から出る事ではないの。あくまでそれは過程であって、国を崩すことが私の最初に立てた目的よ。その目的が無ければここから出ること自体考えなかったわ」

「なんでまた、そんな目的を?」

「家族がね。……まぁそれはいいじゃない。それでアナタはどうするの? アナタの目的は外に出たら国からも出て、平穏に暮らす事の様だし、そっちを否定する事はしないわ」

「……時間をくれ」

「えぇ、ここから出た時に聞かせてくれれば良いわ。さて、詳しい話はあっちに戻ってから改めてするわね」

 

 私はそう言って会話を終わらせると、カールの思考を邪魔しない様に、少し離れて無言で進んだ。カールは道中、眉に皺を寄せながらずっと考えている様子だった。

 

 

 そうしてしばらく歩き続け、私達が拠点に着いた頃にはもう日が暮れていた。

 やっと拠点の前まで来たのだが、中から聞きなれない声を捉えたので足を止める。

 

「ゲロルド、カール」

「どうかしたか? お嬢」

「なんだ?」

「中に誰かいるわ。ゲロルドはここで待機して、カールは私と入るわよ」

 

 ゲロルドはわかっていない顔をしていたが、指示には従う様なのでまかせる。そして私はカールを伴って、拠点へと入っていく。

 建物に入った頃にはカールの耳にも怒声が上がっているのを捉えた様で、私に視線で指示を促してきた。

 

「私がいない間に誰か来ていた様ね、カールは誰も逃がさないようここで待ってなさい。私が様子を見てくるわ」

「わかった」

 

 カールが頷くのを見た私は、静かに歩き進める。

 そのまま中からギリギリ見えない所までくると、顔だけ覗かせて部屋の中の状況を確認する。

 

 出て行く前に捉えた男達は、同じ状態で転がっており意識はある様子。

 そして、ゲロルドとは別行動で奔走していた男三人も既に戻ってきており、残った男二人と共にマリーを守るようにして構えていた。

 

 そこへ対立していたのは見知らぬ男三人組。男達はそれぞれ錆びたナイフを手にとっており、マリーを守っている男達へ怒声を浴びせていた。

 

「いーからそこをどけって! 死にたくないだろう?」

「そうそう。女を渡せば見逃してやるから、さっさと道をあけろって」

「うるせぇ! こいつに何かあれば、あの悪魔に何されるかわからねぇんだよ! 悪いことは言わないから、早く帰るんだ!」

「そうだ! ここは危険なんだ!」

 

 男達はマリーを要求しており、戦闘になるのは時間の問題であろう事は見て取れた。

 ギリギリの所で間に合っていた様だ。けれど、悪魔というのがわからない。

 聞き慣れないワードに少し興味をもった私は、もう少しだけ様子を見てみることにする。

 

「もういいや、こいつら殺しちまおうぜ」

「そうだな。言ってる事も訳わからねーし、さっさと女を頂いちまうか」

「おい馬鹿やめろ! あの白髪悪魔に殺されるぞ! 多分食い殺されるんだぞ!? 本当にわかってるのか!?」

 

 私の集めた人達に白髪はいない。

 何の事だかわからなく首を傾げていると肩をたたかれ、振り向くとカールが私に向かって指をさしていた。

 あっ、なるほど……どうやら私の事だったらしい。

 

 一瞬このまま怪我するまで見ていてやろうとも考えるが、しかしそれではせっかく間に合った意味が無くなるし、何よりマリーまで危ない。

 益にならない考えを思いなおした私は、複雑な気持ちのまま早速行動を始めた。

 

 まずは今にも襲い掛かりそうなのを止めるため、私のマリーを奪おうとしている男達の後ろへ静かに立ち、声を掛ける。

 

「……ねぇちょっと、私の所で何をしているのかしら?」

 

 後ろ側に立たれたのを男は気づかなかったのだろう。私の声にビクっと驚いて振り向き、向かい合っていた他の男達やマリーの視線も私に集中する。

 マリーは表情を輝かせ、守っていた男達は助けに入った私を見ると、なぜか怯えた表情を見せる。

 

「エリスさん!」

「お嬢ッ!? あ、いや違うんだ。悪魔っていうのは表現のアヤでな? あ、いやお嬢が悪魔的なのは間違いねぇが……」

「はぁ。……いいから黙って。そこでその子を守ってなさい」

 

 男達へ簡単に指示を済ませ、拠点を荒らしてくれた男達に目を向けと、やはりそこには今までの例に漏れず、下卑た視線を向けてきていた。

 

「お前らの言う悪魔ってコイツか? 随分とかわいい悪魔ちゃんだなぁおい」

「あ! こいつだこいつ。俺が言ったとおりだっただろう?」

「なるほど、こいつは楽しめそうだな。なぁ悪魔ちゃん、俺たちと遊んでくれよ」

 

 ギャハハと男達の笑い声が部屋に響く中、私は表情を変えずに歩み寄っていく。

 

「えぇ、少し遊んであげるわ」

 

 

 

 

 

 鳥男とゲロルドを連れたエリスさんを見送った後、私と残った男で転がっている男達の手足を拘束し、見張る事にしました。

 そして間も無く出て行っていた三人の男達と、呼びに行った男も戻ってきて、拘束されている男達を見張りながらエリスさんが戻ってくるまでの時間を過ごしていました。

 

「お嬢出て行ったな、今の内なら逃げられるんじゃないか?」

「ばっか。お前逃げた後どこかアテがあるのかよ? 無けりゃ別のヤツらに殺されるだけだぞ」

「だなぁ、それにお嬢の恐い時は悪魔だけど、仲間でいれば守ってくれるだろうしなぁ」

 

 一応エリスさんからは男達を見張るように言われた私でしたが、逃げれると言い出した男についても冗談で言っている様子であり、否定したのも聞けて安心です。

 

「あー暇だな。こいつらいつまでこの状態にしとくんだ?」

「さぁな、お嬢次第だろ」

「そういえば仲間増やすって言ってたな。食料とかそんなに備蓄なかったろ? どうするつもりなんだ?」

 

 エリスさんがボスとしてちゃんと機能している様で、逃走の心配はいらなそうです。良かった。

 その後も男達の無駄な談笑は続きましたので、私はそれを隅の方で座って聞き耳をたてながらエリスさんを待っていると、外から足音と話し声が聞こえてきました。

 一瞬エリスさんかなと思い腰を浮かせかけましたが、少し違う様子でしたので、そのまま立ち上がりつつもそっちへ聞き耳を立ててみます。

 

「確かこの建物の中に女の子がいたんだよ」

「本当かよー? まぁいたら楽しめそうだな」

 

 話し声はここにいる男達にも聞こえたみたいで、男達は顔を強張らせて互いの顔を見つめると、すぐに視線は私を向きました。

 

「お、おい! 確かお嬢は、この女に何かあったら殺すって言ってなかったか?」

「いや、まて。変なことするなっていってただけだった様な気がするぞ」

「けどよ、多分何かあれば俺達もただじゃ済まないんじゃ……」

 

 男達は青い顔になって私を守るようにとり囲むと、決死の覚悟を持った表情で部屋の外を睨んでいました。

 

 

 招かれざる客が部屋に入ってくると、すぐに言い合いが始まりました。

 人数は同数だが相手は武器を持っていたので、このまま戦いが始まると危ないかもしれません。

 

 私が戦えれば良かったのですが、ここにいる誰よりも弱いので何も出来ません。

 そうして恐々しながら事の推移を見守り、いよいよ危ないと思ったとき、エリスさんが戻ってきていました。

 白く長い髪を棚引かせていつのまにか男の背後にいたので、声を掛けられるまでは気がつきませんでした。

 

「えぇ、少し遊んであげるわ」

 

 男達がなにやら言っていたようでしたが、言われたエリスさんはそれをつまらなそうにそう返します。

 そしてそのまま自然に歩き出して一番近かった男へと近づいたので、私は混乱しました。

 

 もしかして私の代わりに、男達の慰みものになるつもりでしょうか……そんのは絶対にいけません!

 そうして考えている間にも、歩み寄られている男はエリスさんに対して笑み浮かべ、と手を伸ばそうとしています。

 ダメです! エリスさん待って下さい!

 そう声を出そうと思った時、エリスさんの手が消えました。

 

 「ぐぁぁあああああああ!?」

 

 え? なにが……?

 気がついたときには、男の腕は肩より少し下で断たれており、無くなった腕は宙にありました。

 

 男の叫び声がこだまし、夥しい血の量が噴出しています。

 それを見た私は目を白黒にして呆然としていましたが、残った二人の男はその間に逃走ををしようと、出口へと駆け出してたみたいです。

 このままでは逃してしまいます! 私ははっとなってエリスさんへ目を向けましたが、そこには誰もいませんでした。

 焦りながら視線を戻すと、エリスさんは既に男達の逃走経路上に移動しており、男達の進行を妨害していました。

 

「……ねぇ、どこへ行くのかしら?」

「ひぃっ!?」

「ッ!? くそっ!」

 

 その疾さに驚きましたが、しかし止められたのは一人だけ。残った一人は止められた男を見捨てて逃げていこうとしています。

 凄いですエリスさん。一瞬で男達を引き退けるました! と、思っていたんですが、

 

「……カール」

「あぁ」

「ぐぁ!?」

 

 エリスさんの声と共に、私の知らない男の人が急に入り口に現れ、男の即頭部を殴りつけました。

 殴られた男はそのまま倒れ動きません。

 

「……カールはこいつを確保。アナタ達は誰か一人ゲロルドを呼んできてくれないかしら。他はマリーを連れて外にでて、外にいるやつらと待機よ」

 

 まさに一瞬の出来事。僅か数分で男達を引き退けさせるだけでなく、しっかりと捕らえています。

 制圧を終えたエリスさんは冷静に指示を出すと、まだぼうっとしていた私に近づいてきました。その様子を眺めていると、なんとなく既視感を覚えます。

 

 ……思えば最初に見た時もそうでした。しかし今はあの時とは違います。

 エリスさんの、あの蒼い宝石の様な瞳を見た私は、もうエリスさんを敵だとか、害あるものとしては捉えられません。それどころか――

 

「マリー、怪我は無いかしら?」

「はいっ、エリスさんもおかえりなさい」

「えぇ、ただいま。じゃあ悪いけどマリーも外で待っていてくれないかしら」

「わかりました」

 

 ――守りたい。

 この愛らしく可愛いらしいエリスさんという少女は心も優しく、私を気遣ってくれます。最初に見た時は怖くて恐くて仕方がありませんでしだが、今となっては不思議な事ですね。

 あの瞳を見たとき、なぜだか私には、少女がとても寂しがっている様に思えました。しかしそんな少女が、自分の気持ちを初対面の私なんかに吐露してくれ、さらには信頼してくれると言ってくれました。

 

 私に出来る事は何でもして、この少女を守りたい。

 そんな想いを胸に秘め、私はエリスさんの指示に従い、外へと向かいました。

 

 

 

 

 

 本当は自分だけでも、この男をさっさと処理すれば抜けた一人は簡単に追うことが出来たのだが、検証にも使いたかったので無傷で確保する事を選んだ。

 それに仲間に加わったばかりのカールが、指示をしっかりと聞いてくれるかも知りたかったのもあったのだが、こちらは心配はいらなそうだ。

 

 無事に鎮圧できた私はマリーへ簡単に言葉を交わすと、マリー達が外に出るのを見送りながら考える。

 

 ……マリーの様子はおかしい。

 出て行く前も考えた事だったが、やはり私の瞳が何かしたのでは無いのだろうか。

 いや、慕ってくれる事は素直に嬉しいのだが、普通ではない様に感じる。

 

「お嬢、何があったんだ?」

 

 ゲロルドの声が聞こえて、私は我に返った。

 

「え? あぁ来たのね。じゃゲロルドはそこの寝ている男を起こして抑えておいて」

「? わかった。オラァ! 起きろコラ!」

 

 ゲロルドは一瞬私を見て不思議そうな顔をしたが、すぐに指示を聞き届け男をどついた。男はぼんやりしつつも目を覚ました様なので、最初に検証に使う男へ向き直る。

 その男というのは、最初に片腕を失くした男であり、既に息も絶え絶えな様子であった。

 

「はぁはぁ、ひっ!? た、助けてくれ!」

「残念だけれども、ダメよ。アナタは助けない」

 

 私はそう言って、近くに落ちていた男の腕を拾う。

 そして男へと近づきつつ、腕を口元に持っていった。

 

「はぁ、お、俺の……はぁ、はぁ、返してくれ」

「それも断るわ。アナタで少し検証をしたいのよ。あと仲間がいるなら教えて貰う必要もあるしね……はむっ」

 

 命乞いをする男だったが、私の行動に目を剥いた。

 また、驚愕したのはその男だけではなく、捕まっている男達や、転がっている四人の男、そしてカールやゲロルドも同様だった。

 

「ひっ!? お、俺のうでっ、腕ぇえええ!?」

「お、お嬢、何を?」

「あむっ。何をって、……あぁ、目の前で食事するのは初めてだったかしらね」

 

 さてこれで五口目、あれ? 力の吸収が出来ない。それに記憶も流れ込んでこない。

 

 ふむ。

 思い付く理由としては男から切り離れたものだからか、はたまたまだ本人が生きているからか。

 考えながらも確認する為に男へと触れる距離まで近づくと、男の残った腕を取った。

 

「それじゃ、ちょっと失礼するわね」

「く、くるな! 悪魔! 化物! やめっ、やめて、やめて助けてやめてくれぇえええ!」

「誰が悪魔よ。まぁ大丈夫よ安心して? 痛いだろうけど、そんなに長くは苦しませないわ。……はぐっ」

 

 男が何やら喚いているが、気にせずに歯を立てる。耳元が騒がしく感じるけれど、検証の為と我慢をした。

 そのまま食べ進めてみるが、やはり力や記憶が入って込こない。やはりこの能力は相手が死んで初めて使える様だった。

 

「お疲れ様。アナタはもう休んでもいいわ」

「あがっ……」

 

 検証をほとんど済ませた私は男に労いの言葉をかけ、胸元を強化した腕で一気に貫く。既に大半の血を失っていた男はその一撃に意識を失い、すぐに息を引き取った。

 

 男が生きていない事を確認した私は、切り離れた腕をまた手に取り食べ始める。すると今度はしっかりと力と記憶を吸収できた。なるほど、この能力は何でも吸収出来る訳ではなく、継承といった意味が強いのかもしれない。

 

 検証が出来て満足した私は、カールとゲロルドが抑えている男達へ向き直った。すると男達は怯えた表情で叫びだす。

 

「な、何でもします! だからっ! だから食べないで……」

「俺もだ! 頼む、頼む」

「カール、ゲロルド。ご苦労様。もうここはいいから、私が呼びに行くまでは外に出ていてくれないかしら」

「わ、わかった」

 

 男達の様子から逃げ出すことはないだろうと判断した私は、男を抑えさせていた

カールとゲロルドを下がる様に伝える。

 カールは何とか返事を返してきたが、ゲロルドは口を押さえて嘔吐を我慢している様子で、足早に出て行った。

 二人の反応からすると、あまり人前では人を食べないほうが良かったみたいだ。

 

「さて、待たせたわね。私が求めることは一つだけ。壁の外に出るから手伝って欲しいのだけど、どうかしら?」

「は、はいっ! 手伝います、手伝いますから……」

「協力する! だからっ」

 

 男達はカール達の拘束が解かれたというのに、立ち上がりもせずに返事をする。

 

「ありがとう。だけどアナタ達だけじゃ不足なのよ。仲間の場所を教えてくれないかしら?」

「え……」

 

 私の続く言葉に、即答した男達の言葉が詰まる。

 恐らく仲間を売れば、当然その仲間達からは敵対視される上に、仲間を売るものを別のグループで迎え入れて貰える筈がない。

 そうなってしまえば、この先無事に生きていられないと考えているのだろう。

 

「っく……」

「わ、わかりました! 案内させて下さい!」

「っおい!?」

 

 だが、それは次がある人だけが悩むべき問題であった。

 

「っち、仕方ない、俺も案内して……ッ!?」

「残念だけど、案内は一人で十分よ。判断の遅いアナタはいらないわ」

 

 私は男の頭を掴むと、そのままキリキリと力を加えていく。

 この男達は恐らくどこかで私の姿を見て、私を狙ってここまで入って来たのだろう。

 明確に敵対するつもりでここまで来た彼らを、本来であれば全員始末するつもりであったのだが、人数はいればいる分だけ良いので、従順な人だけは残すことにして先程の問いをしていた。

 

 そしてこの男は、その問いの答えに間違えた。

 

「ま、待て! 俺が悪かった! ボスにも口添えをしてやるから、だからっ!」

「まぁどっちにしても、検証にもう一人必要だったのよ。大丈夫よ安心して? しっかりと検証に役立ててあげるから」

 

 私が男へそう優しく告げると、締め付けていた手へ一気に力を加え、男の頭を握りつぶした。

 男の脳漿や体液、血液が撒き散り、隣で一緒に座っていた男にも付着する。

 

「ひ、ひぃぃいいい!?」

「大丈夫よ安心して。アナタは今殺さないし、食べないから」

 

 男は付着した色々なものを手で擦って拭い取ろうとしていたが、付いたものは擦れば擦るほど伸びて染み込む。だがそれでも、男は半狂乱になりながら擦り続けていた。

 私はその光景を不思議に思いながら、今しがた頭を潰した男の腕を取り、食べ始める。

 

「はむっ、食べながらで悪いわね。とりあえず場所を教えなさい」

「あ、あぁっ……落ちない、落ちない! おちなぃぃいいい!」

 

 声を掛けたのに気が付かないのか、男は繰り返し繰り返し擦っているだけで、期待している返事を返してくれない。

 

「もう一度言うわよ。んぐ。場所を早く教えなさ……あっ」

 

 催促する様に繰り返し聞こうとしたが、途中、気づいてしまった。

 

「ぁああああああ!! 何しているのよ私!」

「ッ!?」

 

 あまりにも単純な見落としに気づいた私が、思わず大きな声で叫んでしまう。

 その声に男はびっくりしたのか、泡を吹いて倒れてしまったが、今はそんな事などどうでも良い。

 

 私にはさっきまで検証していた通り、力を割合で吸収する能力がある。

 そして力と共に、記憶も吸収する。

 

 初めてお父さんを吸収した時は、力の確認は当然だが、記憶に対しても丁寧に思い返していた。しかしその後に吸収したクズ肉からは、微量な力や情報しかなかったので、大した関心も無く記憶も捨て置いていた。

 しかし、男の仲間がいる場所の情報となれば話は変わり、その記憶を辿るべきであったのだ。

 

 今やっと気がつけたのは、男に質問しながら食べていたので、吸収していた記憶の一部からその情報が拾われ、回答を聞く前にわかってしまったからだ。

 試しに以前、最初に食べた男の情報も引き出してみる。

 

「う、うわぁ……わかる。わかってしまう! あのクズ肉の仲間がいる場所も完全に思い出せる! うぅ、最初からこうしていれば良かったじゃないの……」

 

 私は「はぁ」と溜息を吐いて脱力し、気絶している男はそのまま放置して、外で待っているだろうカール達を呼びに行こうと、肩を落としつつ立ち上がった。

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