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燃焼少女  作者: まないた
焼失する少女
7/52

007

 

 鳥男の拠点に向かう道中、特に拘束をしている訳でなかったので、鳥男は腹部を殴られた痛みから復活すると私に飛び掛ってきた。

 

 しかし、速度も力も私から見れば足りず不意打ちにすらなっていなかったので、飛び掛ってくる度にどこかへ掌底をお見舞いしてあげる。

 繰り返す内に嗜好を変えたのか今度はどこかへ駆け出そうとし始めたので、一歩目で足を掛けて転がし、羽を使って飛び立とうとすれば腰を掴み地面へ打ち付ける。そして地面に倒れこむ度にゲロルドへ指示して、髪を掴んで立たせ案内を続けさせた。

 

 何度も同じような行動をしてくる鳥男に対し、「こういう遊びが好きなのかな?」と疑問を浮かべつつもその遊びに付き合っていると、しばらくして目的地に到着した。

 その頃には全身は傷だらけになっており痛そうだった。鳥男は最初の元気が嘘みたな様子で、怯えた表情で口を開く。

 

「こ、ここだ」

「少し遠かったわね。じゃアナタ、中の人たちを呼んできなさい」

「えっ?」

 

 鳥男は何の為にここまで来たのか忘れている様子で不思議そうな顔をしてきたので、私が思い出させてあげよう。

 

「あらそう? お仲間と私を犯して、刻むのではなかったのかしら?」

「あ、いや、仲間がいるっていうのは冗談だ。ここは俺の家なんだ」

「震えて覚悟しろって言うのは?」

「そ、それも冗だ……ッ!?」

 

 男は仲間を連れてくるのに抵抗があるのか、この期に及んで冗談だと言ってきた。

 ここまで来るのにも時間が掛かっていたので、これ以上煩わしい問答をしてあげる気持ちは無く、鳥男が再び口を開けた瞬間に頭を掴んだ。そしてそのまま力を篭めながら伝える。

 

「もうここまで来たのだから、最悪アナタはいなくても良いのだけど?」

「わ、悪かった! すぐに呼んでくる! からっ」

「えぇ、待ってるわ」

 

 私が手を離すと、鳥男は余程痛かったのか頭を抑えつつ廃墟へ駆け込んでいった。

 

 

 

 

 少しするとぞろぞろと男達が出てきて、最後に鳥男と一人の犬の獣人の男が出てくる。数えてみると、鳥男を含めて十五人もいた。

 男達の後ろへ視線をやっても、もう誰も出てこなさそうであったので、私は早速口を開く。

 

「もう聞いているかもしれないけど、私は壁の外へ出たいわ。手伝ってくれないかしら」

 

 私の言葉に男達は鼻を鳴らして笑って返し、最後に出てきた犬の獣人へ目を向ける。恐らくこの犬の獣人がここのリーダーなのだろう。

 リーダーの男は周りの視線に意を返さず、真剣な表情で口を開いた。

 

「俺も外に出たい」

「……へぇ」

 

 視線を向けていた男達が思っていた反応とは違っていたのか、男の言葉に驚いた表情をしていた。

 しかしそれ以上に私の方が驚いている。まさかこんな説明で通じるとは思っていなかったのだ。

 

「俺は元々壁の外にいて冒険者をしていたんだ。当事は四級に上がれたばかりで調子にのっていてな、国からの依頼でここの化物を討伐にきたのだが、俺を残して仲間は皆死んでしまった。それからは依頼を失敗して帰れず、ここで過ごしていたんだ」

「なるほどね。けれどそれじゃ、外へ出たとしてもアナタの居場所は無いと思うけど?」

 

 納得した。

 確かに元は壁の外にいた人であれば、ここの実情を正確に把握しているのだろう。

 

 しかし、依頼に失敗しているのであれば逆に壁の外へ戻るのは危険だ。お父さんの記憶を見て知っているが、冒険者の依頼失敗には罰則がある。そして国から出ている依頼は、通常の罰則よりもはるかに重い。

 恐らくこの区画から出るだけであれば、この男は関所を通って出ることは出来るだろう。しかし、そのまま依頼の失敗と処理されれば、この男は依頼未達の罰を受けることになる。

 

「確かに外に出て見つかれば、俺の手持ちでは罰則金の支払いが出来ないだろう。だから俺は正規の方法では外へ出られない」

「そう、それなら当面の目的は一致しているわけだし、私に協力してくれるって事でいいかしら?」

「それは無理だな」

 

 男は私の提案を拒絶すると、腰にさしていた錆びた長剣を抜いて構えた。

 纏まりそうな話をバッサリ断られた上に、なぜか急に武器を構えられて少し困惑する。

 

「どうしてよ」

「俺も外に出る為に仲間を集めていたが、この人数でも外に出ることは難しいんだ。お前はすぐにでも行動しそうに見えるが、俺はまだ仲間を集める時間が必要だと考えている。だからお前とは協力できない」

 

 なるほど、この男はもっとじっくりと時期を待ちたい様だった。

 さらには、ここで私を力で叩き伏せて人数を増やそうと考えているらしい。あれ? でも私に仲間がいるなんて……あぁ、鳥男が言ったのか。

 だが私の考えではそこまで時間はかけていられないので、お父さんのナイフを取り出しながらその案を却下する。

 

「今が一番良い時期なのよ。この機を逃す手は無いわ」

「いいだろう。もしお前が勝ったら俺たちは協力してやるが、お前が負けたら仲間ごと俺に協力しろ」

「えぇ、いいわよ? こっちも人の手が欲しくて来たのだし、減る人数は一人もいない方が都合が良いわ」

 

 男も自分の腕に自信があるのか、それとも私の事を大した強さでないと見ているのかはわからないが、圧倒的人数差がある中でわざわざ一人で来てくれるのは、とてもありがたい話だ。

 自分の力を把握出来ていないので私にも多少の危険はありそうなのだが、記憶から二級冒険者の動きは知っていた。

 だからそれよりも二つ下位の冒険者であれば、少しの不安はあるものの、恐らく油断なくいけば何とか出来ると思うのだが……。

  

 そうやって私達が互いに睨みあっている中、話に取り残されていた残りの男達は会話の流れを怪しく感じたのだろう。口を挟んできた。

 

「ちょっとカールさん! こんな子供なんか俺達二、三人でやれますよ!」

「というか壁? そんな話俺達は知らないんだが」

 

 だがカールと呼ばれたその犬の獣人の男は、呼ばれた声に返事をせず、それを合図にしたかのように私に向かって走り出した。

 カールの走る速さはこれまでみた男達の倍以上の速さであり、恐らく身体強化をしているのだろう。

 こうやって魔力を使う人を相手にしたのは初めてだったので、確認の意味も篭めてしっかりとカールの動きを見ていく。

 

「殺しはしないが、ちょっと痛い目は見て貰おう!」

「四級冒険者、ね。参考にはなりそうかしら」

 

 痛い目はもう間に合っているから遠慮したいところだ。

 身体強化を使った動きは確かに疾い。しかしそれでも、恐らくこの区画にいる男達の動きを三倍速にした位だろう。この程度であれば、私の目で追う事は難しくなかった。

 さらにカールは宣言通りに殺すつもりがないのか、律儀に腕や足を狙って切りつけてきたので避けるのも容易い。見てから半身になってかわし、長剣が足に向かったところでバックステップして後ろへ引いた。

 

「ッ!? お前も身体強化を使えるのか、面倒だ、な!」

 

 今の動きを身体強化だと思った様だ。実際はまだ魔力を使っておらず、身体能力だけで避けているのだが。

 

 カールは悪態をつきつつもすぐに追撃するべく、私へ向かって跳躍してすぐさま長剣を振る。その動きはこれまで見た男達のものとは違い、しっかりと次の攻撃へ繋げるものだった。

 

 これが四級冒険者の実力か。

 魔法を使えるのもそうだが、一つ一つの動きに隙を作らないよう立ち回り、自分の有利な状況へ持っていこうとする意思を感じる。身体能力の面で同等であれば、恐らく技術の差で完全に負けていただろう。

 心の中でその動きを感心して観察しながら、身体能力だけで避け続けた。

 

 ここまでハッキリとした戦闘をした事が無かった私は、カールの動きを見て戦い方というのを理解していく。

 時間をかければその分だけ動きがわかってきたので、避ける際に取っていた距離も徐々に詰めていき、紙一重で避けていく。

 そうして完全に動きを見切る頃には、長剣を振り続けたカールは肩で息をしていた。

 

「はぁ、はぁ、何で避けているだけなんだ。それにお前、なんでそんなに動けるんだよ!」

「ふふっ、そんなアナタの方は魔力切れかしら。獣人の魔力量には悲しくなるわよね」

「だったら何で、お前だけ動けるんだ!」

「簡単な事よ。私はまだ魔力を使ってないの」

 

 私は自分の魔力量については伏せてそう伝えると、カールは愕然とした表情で固まる。

 驚いているのは私も一緒だった。確かにこの男よりも強い冒険者だったお父さんやお母さん、その他にも何人かを食べてきて身体能力が上がっているとは思っていたが、こんなにまで差があるとは考えていなかった。

 そしてその差が私を安心させる。出来ればこの貴重な戦力であるカールを、あまり壊す事無く仲間へ引き入れたく思っていた。だから私からは全く手を出さず避け続けたのだ。

 

 いつの間にかカールは肩で息をしながらも、私を睨んでいた。

 しかし余裕のある私は涼しい顔でその視線を受け流し、そろそろ幕引きをしようと考える。

 

「さて、私の番かしら」

 

 私にその気は全く無いが、表面上はそういってナイフを構えを取った。

 するとカールは長剣を捨てて構えを解いたので、諦めたかと思いナイフを下げる。が――

 

「――いや、お前の出番は最後まで無い」

 

 

 カールが言葉を言い切った直後、その身体が大きく変化する。

 骨格などもかわり、体中の体毛が急成長していくとみるみるうちに先程の倍くらいの巨体となり、その姿は人というよりも、二足歩行する巨大な狼の様だった。

 見た目もそうだが、変身というだけでもなんだか凄く強そう見える。

 

「アナタは……ここの調査対象の化物かしら?」

「なんだ? 魔力を扱える獣人族なのに、お前は獣化を知らないのか」

 

 カールは犬の口でそう呟くと四速歩行で駆けだすと、さきほどよりも早いスピードで私へと迫ってきた。

 その速度は私の予想を遥かに超えており、さきほどまでとの違いに驚いて慌ててナイフを構え直す。

 そして身体能力についても先程の比では無いと感じて、すぐさま身体強化をかけた。

 

 私の体に二割程度の魔力が流れ、身体強化される。

 慣れた動作だったので時間をかけずに行えたが、カールは既に目前まで迫ってきており腕を振り下ろしてきていたの、私は身を屈めて避けると少し距離のある後ろの建物に一文字の傷がついていた。

 よく見てみるとその指には先程まで無かった鋭利な爪が生えており、切り裂かれればひとたまりもなさそうであった。

 

「これだと痛い目、どころじゃ済まないと思うのだけど?」

「過小評価をしていた事は謝るが、俺も負ける訳にはいかないから、なっ!」

 

 カールは語尾を強め、力いっぱい腕を振り切ってくる。私は迫る爪に対してナイフで受け、自ら後ろへと飛んでナイフへの衝撃を和らげつつカールから距離を取る。

 

 今の一撃でカールの性能は大体把握した。

 恐らく今の二割の魔力で身体強化している私と同等くらいであろう。それならば勝つことだけなら難しくないが、カールも含めて戦力として取り込みたい私には、あまり致死や四肢の欠損を伴うような攻撃は出来ない。

 

 強化率をもうすこし引き上げれば、避け続けることは可能になるとも思う。しかしカールの獣化に何かしらの制限があるのかもわからず、もしずっとこのままでいられるのであれば、悪手になる可能性がある。

 

 私がそう考えている間にカールがまた迫ってきており、何度も爪を繰り出してくる。それをナイフで受け止めつつ、何か良い手が無いか頭を働かせるが、受け止め続けているナイフを見ると刃が毀れ始めており、折れるのはもはや時間の問題であった。

 

 これでは受け続けることもままならない。

 もうこれは仕方が無いので、身体強化の強化率を上げて畳んでしまおうか? 身体強化……?

 

 

 私はカールからの攻撃を受け流しつつ、身体強化で体に流している魔力を感じる。そしてその魔力を、ナイフにも応用出来ないか思いついた。

 

「そろそろそのナイフも限界みたいだぞ?」

「ッ!」

 

 恐らくカールも私の武器破壊を狙っている様であった。受けるナイフを全体的に壊すのではなく、同じ箇所を執拗に狙って爪を当ててきている。嫌らしい男だ。

 私は舌打ちを返しつつ、出来るかどうかわからないが、ナイフにも魔力を通していく。これで耐久力が上がってくれれば良いと願いながら、今にも折れそうなナイフでカールの爪を向かい打つ。

 そして打ち合った瞬間――

 

 ―――キィイン

 

 

 

 

 音ともに何かが弾けた音がして、私の後方の地面に突き刺さったのを感じた。

 

 視線をナイフへ向けると、そこには刃毀れしているものの、しっかりと体裁を保っているナイフが握られていた。

 

 つまり、折れたのはカールの爪の方であった。

 

「…………は?」

 

 爪を折られたカールは、何があったのかわからないという表情で大きな口を開けて固まっていた。私はすぐに我に返り、ナイフを自失しているカールの首元へと突きつける。

 

「私の勝ち。いいわね?」

「あ、あぁ……」

 

 カールは信じられないといった表情で呟くのがやっとの様子であり、獣化を解いて犬男に戻ると、すぐにひざを突いて肩を落とした。

 

 それと同時に持っていたナイフはボロボロと崩れ落ちていき、柄の部分すらも崩れてしまった。咄嗟の事だったので五割ほど魔力を通したのだが、身体強化と一緒で強化に耐えられなかったのだろう。

 

 私は崩れたナイフを捨てると、新たな魔力の使い方に喜びを感じつつ、残った男達へ向き直った。

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