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燃焼少女  作者: まないた
停滞した少女
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みなさま、お久しぶりです。

最終投稿が2016/05/01から、およそ1年と少しぶりの投稿となります。

遅筆なので更新頻度についてはお約束は出来ませんが、最低遅くとも1月に1話は投稿していこうと思います。

 

どうぞよろしくお願いします。

 

 あーちゃんの姿を見つけて足を止めた私は、次にテスラの反応を改めて『技能共有』で確認しておく。

 

 良かった。あーちゃんの背にしている氷壁の向こう側で、弱々しくもちゃんと接続が感じられる。相変わらず反応は小さいままだけれども、あれから弱まった気配はないのでひとまず安心だろう。それに肌寒さを感じた原因も氷壁だと分かったので、ひとまずは懸念材料が消えた。

 これならあーちゃんとの話し合いにだけ、しっかりと集中出来そうだ。まずはテスラとの事を反省してもらって、その後にあーちゃんが何を思って行動をしたのかも教えてもらおう。

 

 そう考え、目の前のあーちゃんと視線をあわせる。

 

「え?」

 

 だが途端に頭が真っ白になった。色々と言おうと思っていたことがあったのに、あーちゃんの顔を見てすべて吹きとんでしまった。

 

 そこにあるのは、いつも見慣たあの笑顔。何度も暖かい気持ちにさせてもらい、また辛い時には慰めてくれた、私の大好きな表情。

 でも今はその笑顔を向けられて、私は戸惑っていた。

 

「エリスちゃん、どうかしたの?」

「……なんで、笑ってるのよ」

「うん? あーちゃんがエリスちゃんと会うときは、いつも笑顔だよ?」

 

 違う、そうじゃない。あーちゃんは、私がなぜここに駆けつけてきたのか分かっているはずだ。

 しかも『精神干渉』で私の感情も伝わっているはずなのに、あーちゃんは怒られると思って萎縮するどころか、まるで私が来るのを楽しみにまっていたかのような雰囲気で話しかけてくる。

 

 普段のあーちゃんからは考えられない行動だ。誰よりも私の感情を見ていてくれていただけに、とても異常だと感じてしまう。

 

「それよりエリスちゃん、その背中の炎……何かあったの?」

 

 あーちゃんは笑顔のまま、私の背中に灯った炎――『擬似心蝕 クァイエット・フレイム』を指して聞いてきた。

 この魔法は私が心蝕魔法を使わないためのストッパーであり、発動している間は常に、一定量を超えた感情を火力に変換する。

 

「えぇ、さっきとても痛い思いをしてね」

「ふーん、苦痛の方だったか」

 

 そういえば思い出すまで気づかなかったが、あれほど辛かった右手の痛みがいつのまにか無くなっていた。痣のようなものは残ってしまったものの、あの妙な黒い煙のようなものはもう見えない。

 

 ……あれ? でもそれなら少しおかしいような。『擬似心蝕 クァイエット・フレイム』は感情を変換する魔法であり、その燃料が無くなれば自然に消えるはずなのに、背にある炎は未だメラメラと燃え上がっている。

 

「てっきりさっきの女の人に、嫌な思いをさせられたんじゃないかなって思ったけど、違ったんだね」

「女の人……?」

「ほら、ヘルと一緒について行った、あの、えとなんだっけ?」

「あぁ、マルギットの事かしら。……そうね、別に嫌な事なんて――」

 

 ――無かった。

 そう続けようとしたのに、言葉が出ない。

 

 魔物から助け出したあとの、あの化物を見るような目。

 さきほどは右手の痛みでそれどころではなく、また感情を抑制する魔法も使っていたのであまり考えなかったのだが、再びあーちゃんに問われ思い出してしまった。

 

「……あったんだね?」

 

 あーちゃんの見つめる視線、静かな言葉で徐々にその時の感情が蘇ってくる。

 彼女とは仲良くなれたはずだった。一緒に食事を取って、楽しく会話をした。……なのに、彼女が危なくなり、少し力を使った途端に態度が変わってしまった。

 

 言葉は悪いのだけど、こうなってしまうのなら初めから関わらない方が良かった。そうすれば城を出る時に向けられた視線のように、不愉快ながらもここまで心を揺らされるなんて事はなかったと思う。

 

「やっぱり外の人って、今も昔もみーんな身勝手だよね」

「え……」

「だってそうだよ。悪い事なんてしてないのに、いつもみんな変な目で見てくるもん」

「……」

 

 ……確かにあーちゃんの言う通りかもしれない。

 私の持つ記憶はあまりに少ないが、それでも私の力を知った人がどういった行動をとるのかは、これまでの経験でもう分かったつもりだ。

 

「でもね、あーちゃんだけは違う。エリスちゃんの心をずっと見続けるし、嫌な事からも全部守ってあげられる」

「あーちゃん……」

 

 あーちゃんの優しい言葉に、先ほど広がった暗い感情が薄れていくのを感じた。とても暖かく、心地良い。私の心の中を占めるあーちゃんの割合が、急速に膨れ上がってくる。

 

「だからね、エリスちゃん。二人だけで一緒に逃げよ?」

「……わ、私は……――っ!?」

 

 だから続いたあーちゃんの言葉に、思わず頷きそうになってしまった。しかし背にした炎が突然勢いを増して燃え広がり、その音に気づいてハッと息を呑む。

 

 今のは何……?

 急にすごく暗い気分になったり、嬉しくなったり……感情の動きが目まぐるしく、まるで自分のモノではないような感覚。

 それにあーちゃんの言葉で嫌な事ばかりを思い出してしまっていたが、マルギットの件では直後にヘルが怒ってくれたお陰で気持ちが沈まずに済んだし、他にもテスラやゼクスだってちゃんと私を分かってくれる。こうして考えてみると、自分がいかに冷静でなかったか良く分かる。

 

 提案自体はすごく魅力的だった。落ち着いた今でも、もしあーちゃんと私の他にも、テスラやゼクスが含まれていたのなら、じっくりと検討するところだ。

 

「ありがとう、心配してくれたのは嬉しいわ……でも悪いのだけれど、それは出来ないわ」

「……」

「さ、一旦話は終わりにするわよ。そろそろ後ろにある壁も解除してくれないかしら?」

 

 私は意識して軽い調子でそう話しかけ、あーちゃんのいる方へと足を進める。

 あーちゃんは私が提案を断ると、顔を伏して立ち尽くしてしまった。

 

 ……本当ならここでしっかりと話し合いを行って、お互いわだかまりなく脱出したいと思っていたのだけど、先ほどのやりとりによって状況は変わってしまった。

 

 流石にここまで露骨にされれば、嫌でも気づいてしまう。

 あーちゃんは私に、『精神干渉』を使っているのだろう。初めに動揺を誘い、その隙に会話のペースを握って感情を誘導する。途中からテスラの事すらも頭から離れてしまっていたので、完全にハマってしまっていた。

 だがそれもこの、『擬似心蝕 クァイエット・フレイム』によって感情を抑制していたお陰で何とか防ぐ事が出来た。……正直言って複雑な気分だ。あーちゃんに手伝って習得したこの魔法は、こんな事に使うつもりなんて無かったのに……。

 

 私は悲しい気持ちになりながらも、止めることなく足を動かし続ける。今はまず、テスラの安全確保を優先させなければならない。

 そうしてあーちゃんとの距離があと数歩分まで近づいた所で、彼女は顔を伏したまま、ぼそっと呟いた。

 

「……その炎、邪魔だね……『動くな止まれ 静止しろ』」

「な、なに!?」

 

 途端に、周りの温度が急激に下がる。

 あーちゃんを中心に地面が凍り付き、その範囲がどんどん広がっていく。

 

 近場にいた私の立っている地面も間を置かずに凍結したので、慌てて炎の羽で自分の周りを囲みこみ、噴出す冷気に耐える。

 幸か不幸か、ちょうど悲しみという燃料があったお陰で咄嗟に身を守る事が出来たが、継続して防ぐのは難しく感じたので、自らの魔力も使って火力をあげていく。

 

 これは一体どういう事?

 ただの呟きだけで一瞬にして世界が一変してしまった。

 もし魔法だとしても、一節すら紡がずにここまでの変化を起こすのは不可能だ。基本魔法であれば冷気を感じるのはおかしいし、最後まで詠唱を行っていない点から適正魔法という事も考えられない……他で考えられるものがあるとすれば――って、まさか!?

 

「あーちゃん、今すぐその魔法を止めなさいっ!」

「エリスちゃん、急におっきな声を出したら恐いよ……それに、怒ってる? もしかしてエリスちゃんも、あーちゃんのこと嫌いなの?」

「そんなワケないでしょう! それより早くとめて! 心蝕魔法は使っちゃダメなの……!」

 

 私が『心蝕魔法 フォルム・フレア』を使った時、発動の前段階として詠唱を一つ終えるたびに周りの温度が急上昇していたのを覚えている。そしてそれが今、熱気から冷気へと性質を変えて、この場で再現されようとしている事で確信した。

 

 絶対に使わせてはいけない!

 

 叫ぶと同時に身体強化をかけて、残りの数歩分を埋めてあーちゃんを止めようと足に力をこめる。

 が、私は一歩も動けなかった。

 

「うぅん、違うよ。止まるのはエリスちゃんのほう――止まれ」

「うっ!?」

 

 あーちゃんから強い魔力を感じた直後、持続して噴出す冷気よりもさらに強力なものがやってきた。

 何とか炎の熱で防げてるものの、炎は全身を囲めるほどには大きくなく、露出している部分に小さな氷が張り付いていく。溶かそうと炎を飛ばしたり動かしたりするが、周りの温度が低すぎて解けた氷が再びすぐに凍り付いてしまい、魔力ばかりが消費させられていく。

 

 このままではいずれ、氷の牢獄に捕まってしまうだろう。もしくは魔力切れで倒れるのが早いか……あーちゃんが心蝕魔法を使っているとすれば、心を犠牲にしていくらでも魔力を取り出せるので、消耗戦を強いられてしまえば打つ手が無い。

 

 どうする? どうすれば良い?

 近づくために守っている炎から足を出せば、きっとその場で出した足から氷付けにされてしまう。あとたった数歩分の距離が届かない。

 けどもし触れ合えるところまで行けたとして、何をすれば良い? あーちゃんに対して危害を加えたりなんて出来るわけがないし、かといって立ち止まっていれば何も出来ずに終わってしまう。

 

 何か、何でも良いから……何か無いの?

 

 打開策を探そうと周りに目を向けてみれば、見える範囲の地面は勿論のこと、洞窟内の壁や天井にも薄い氷の層が出来上がっていた。

 

 ふと、いつしか見た自分の部屋のありさまを思い出す。

 ベットも机も服も小物も何もかも凍てつき、静止したような世界。

 

 そしてその中心にいるのは、私の大事な人。

 彼女はあの時とは正反対に、無表情で感情の乗らない声で私を呼んだ。

 

「改めて……待ってたよ、エリスちゃん」

 

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